違法民泊事件、2年前から苦情 外国人=悪いとの「単純化」に懸念も
東京都荒川区にある民泊が28日、住宅宿泊事業法(通称・民泊新法)に違反した疑いで家宅捜索を受けた。条例に違反した状態で営業を続けていた疑いがあるといい、警視庁には騒音などの苦情が寄せられていた。同様のトラブルは各地であり、外国人排除の風潮につながった一因となったとされるが、識者は行政の対応の不備も指摘する。 【写真】違法民泊容疑で警視庁が家宅捜索に着手 この民泊はJR山手線の西日暮里駅から徒歩6分の住宅街にあり、2019年築の木造3階建て。近くに住む80代男性によると、利用客とみられる外国人が出入りし、中には子ども連れもいた。送迎車が頻繁に乗り付ける様子を見た人もいた。 捜査関係者によると、警視庁には2年ほど前から「男女の騒ぎ声がしてうるさい」「複数の騒ぎ声がする」「ゴミの不法投棄がある」といった苦情が寄せられていたという。 訪日客や民泊をめぐる同様のトラブルは各地で問題視されている。 外国人に対する日本人の意識を調査してきた早稲田大学文学学術院の田辺俊介教授(政治社会学)は、こうした問題の背景について「国や行政の対応が後手に回った」と分析。訪日客受け入れのためのシミュレーションが不足していたとして、行政側が今までの施策の失敗を認めた上で、適切に修正することが重要だという。 「失敗を認めずに外国人をスケープゴートにしていると、排外主義という火に油を注ぐ形になる」 田辺教授が懸念するのは、個別の迷惑事案が、訪日客や外国人全体の問題として印象づけられることだ。 観光業に従事していない人にとって、訪日客が増えることによる経済的なメリットは見えにくい。電車内などで訪日客と接する機会が増える中、SNSなどで共有されるネガティブな情報の方が目につき、納得されやすい傾向が強まっている。 田辺教授は、「多くの人にとって『見かける』程度の接点は増えたが、偏見がなくなるような交流は限定的」とみる。 そうしたなかで今回のような民泊の不正に捜査のメスが入ったことについて、「違法行為があれば取り締まるのは当然だが、『民泊が全部ダメ』『外国人が悪い』といった単純化は避けるべきだ。落ち着いて考えることが重要」と話す。(山本知佳、小川聡仁)
朝日新聞社