一旦澄輝坪に帰り、照達に状況を報告した、ベンジャミンを含めた一行。
彼らは再びラマニアンホロウに戻ってきたがしかし、シェルターにイドリーはいなかった。
シェルターには置手紙があり、そこには町へ行くと書かれていた。
「マネモブも、イドリーも……どうして町にこだわるんだろう」
「それを確かめに行くっスよ」
町へたどり着く。
住民達も、町の景色も全く変わっていない。
一行は分かれて町を調べることにした。
一行が町を歩く。
この町では貨幣経済が成立しており、ギアコインとディニーが通貨のようだ。具体的なレートは不明だが。
廃屋らしき場所もあったが、どこもかしこも綺麗な家だ。一体、どのようにしてホロウにこんな家を建てたのだろうか。
「ん? 待って、あの小さなシルエットは……?」
『ランタンベアラー!? どうしてこんなところに』
歩いていると、町を一人練り歩くランタンベアラーがいた。
このリュシアそっくりなエーテリアスが、ワンダリングハンター抜きで活動しているなど何事か。
「あ、君は……」
最初に話しかけたのはリュシアだ。
こうして見ると、年の離れた生き別れの双子の姉妹にしか見えない。
「ほんとにあたしとそっくりだぁ。ねぇ、生き別れの姉妹だったりしない?」
「うーん、しないかな。だってあたしもリュシアだもん」
「ううん、どういうことだ」
「つまり、あたしの名前は“リュシアちゃん”になるの」
「ふうん、そういうことか」
疑問を抱いていた盤岳も、ランタンベアラー改めリュシアちゃんという名称に速攻で納得した。
だが、彼女の護衛っぽくもあるワンダリングハンターはどこへ行ったのだろうか。盤岳のセンサーにも反応がなかった。
「付近にワンダリングハンターの気配なし。姿を隠したか……」
「おじちゃんも“おとう”を探してるの?」
「“おとう”!?」
その言葉に驚愕したのはリュシアだった。
「おとう? お父さんってことかな? もしかして君もこの町の住人なの?」
「ちがうよ? この町が面白いから遊びに来ただけ! 最初はもっとボロボロだったんだけど、白い服の作業員さん達がいっぱい来てから綺麗になったんだ!」
「白い服の……?」
「クマさんがいっぱいいたよ」
「も、もしかして白祇重工? どうしてこんなとこで」
もしや白祇重工もこの町に絡んでいるのか。
謎が謎を呼ぶ奇妙な事態にリンは困惑した。
「なんか、変な言葉づかいのお兄さんが呼んだらしいよ」
「へ、変な言葉遣いのお兄さんて、ま……まさか」
「でもそのお兄さん、おとうを叩いていじめるんだぁ」
「人の親父をいじめるなんてひどい奴もいるんスね、忌憚のない意見ってやつっス」
「一人しか思い当たる人物いないんだけど……」
その場の全員がマネモブのことを思い浮かべた。
“おとう”とは恐らくワンダリングハンターのこと。そんな屈強過ぎる父親を叩けるのはマネモブくらいしかいないので仕方ない。本当に仕方ない。
しかし、噂をすれば何とやら。闘気を放ちながらそいつはやってきた。
『いやーついに来たのォ』『ですねぇ』
「ま、マネモブ!」
やってきたのはマネモブだった。
『さあ楽しもうぜっ』『リンゴのように皮をむいて一口サイズに肉をカットしてやるよ』
「あうっ、い……いきなり始まるのかあっ」
「下がっていろ! 我輩が相手だ」
『お――っ』『それは
盤岳とマネモブがそれぞれ構え、激突する――というまさにその時だった。
「これは一体何の騒ぎだ!」
「む?」
『お――っ』
騒ぎを聞きつけたのか、モスがやってきた。
さらに、町の住民達もゾロゾロと集まってくる。
モスは、騒ぎの中心である一行とマネモブに気づく。
「君達は……」
「ねぇ、モス。この町に入ってからマネモブに襲われっぱなしなんだけど! 何かイドリーを快く送り出してたけど、本当は取り戻すためにマネモブをけしかけたんじゃないの?」
「えぇ!? バカな、そんなことするわけないだろう!」
「……ってことはマネモブの独断専行ってワケになるんだけど」
『そうですけど何か?』
「マネモブさん!?」
あっさり白状したマネモブだった。
「その、どうか落ち着いて聞いて欲しい。我々と彼との間には、どうにも認識の齟齬があったようだ。だがこれは我々の責任でもある。彼はこの町や、俺達を思ってのことなんだ。だからどうか……」
「あぁーっ? 妙な町に人の妹勝手に連れ込んで利用してる時点で信用なんてねぇんだよ蛆虫野郎ーっ」
「おおおお、落ち着いてててて」
『ヒャハハハ』『こいつらの試合メチャクチャおもろいでエ』
「お前も笑ってんじゃねーよっ」
『アイッ』
モスの胸倉をつかむベンジャミンの怒りはもっともなものである。
「妹さんのことは申し訳ないと思っている。しかし、彼女は自分からこの町に協力を――」
「それが信用なんねぇっつってんだよ――」
片や妹、片や町。
相容れず、もはや激突し片方の主張を滅ぼすしかなくなったかと思われたその時だった。
「も、モスさん。もうやめにしませんか……?」
「え?」
住民の一人が、そう言いだしたのは。
「何を言って――」
「私達はもう十分夢を見させてもらいました。これもモスさんとマネモブさんのおかげです」
「確かにマネモブさんの指導は厳しかったけど、おかげで本物の漫画が描けるようになりました!」
「モスさんが町の皆の指揮を執って、マネモブさんが業者を呼んで町を再建してくれた」
「マネモブさんはワンダリングハンターが出た時は真っ先に立ち向かってくれたし、モスさんは町の周囲を調査して安全を確かめてくれてるじゃないか」
「俺なんて手を使わずに金玉を動かす芸を教えてくれたよ。モスも笑ってくれたしな」
住民達から、そんな声が口々にあがった。
どれもモスとマネモブへの感謝である。
「だから、もういいんじゃないか。今度は私達がイドリーに夢を見せる番だ」
「皆……」
確かにモスは、夢縋りとなった住民達により良い暮らしをしてもらいたいと思って行動してきた。
今までの苦労が報われた気分だ、その声は確かにモスの心に深く響いた。しかし、彼はもう一つ目的を……どうしようもない個人的な悲願を持っていた。
「うぅ、そ……そうだ、その通りだ……か、彼女は……イドリーは自由になるべきだ。で、でも……お、俺は……」
モスは、膝から崩れ落ち、慟哭するように叫んだ。
「お、俺はまだ死にたくないんだああああっ」
「えっ」
「なにっ」
「な……なんだあっ」
「ううん、どういうことだ」
恥も外聞もなく泣き崩れるモスは言った。
「も、もしあなた達がこの町の真実を知ったら、き、きっと俺達を消すだろう。そうすれば俺は死んでしまう。だ、だから言いたくない……」
「待ってよ! いきなり死ぬって何!?」
「モスよ、何が何だか分からぬが、この盤岳がおぬしらを死なせんと誓おう!」
「あ、あうう……信用できない……確約されるほど俺達に信用はないだろうし、逆に迷惑をかけ続けてる……」
ミアズマのゆりかごに眠る本体達。
一行は、侵蝕により死にかけている彼らを救おうとするだろう。
しかし、そのためにゆりかごが破壊されると夢縋り達は死ぬ。モスにはそれは認められなかった。
だが、平行線の会話を断ち切る者がいた。
「マネモブ!?」
『あなたを必要以上に傷つけてしまいました』『どうか許してください』『この通りです』
それはマネモブだった。
綺麗な90度のお辞儀をして見せると、マネモブは語り出した。
『死人のように生きてるクズども』『助ケテクレーッ』
「仮にも庇いたい奴らのことをクズって……もうめちゃくちゃだな」
「つまり、夢縋りの人達を助けたいってこと?」
『そうですけど何か?』
マネモブは、未だかつて死人のように生きてるクズどもという言葉がこれほど似合う人々に出会ったことがない。
それ以前に、理性を持った完全に人に見えるエーテリアス仲間として、彼らを何とかして救いたかったのだ。
「分かった。顔を上げてマネモブ」
『ハイデース』『あざーす』
「やっぱ永遠に頭下げっぱにさせとかないスか?」
マネモブの変わり身が早いのはいつものことだ。
そんなマネモブに呆れながら、リンはモスに質問した。
「モス、夢縋りについて詳しく教えてくれない? 今の情報じゃちょっと判断がつかないよ」
「分かった……詳しく説明しよう」
モスは夢縋りについてを語った。
死に瀕した本体がいること、本体が目覚めれば自分達も消えること、この町自体がイドリーの夢縋りであること。
それを聞かされたリンは考え込んだ。
「うーん、町に関してはもう解決してるんだね?」
「ああ。マネモブさんが白祇重工の人達を呼んでくれたおかげで、廃墟だった町は生まれ変わった。住む場所は問題ない」
「じゃあ本体が目覚めたら消えるってとこか……」
これは如何ともし難い問題だ。
ミアズマの造物である夢縋りを消さない方法を考えるなど、日夜ホロウと戦う者達にはむしろ厳しい問題である。
しかし、三人寄れば文殊の知恵、何十人も集まれば全知全能。ここに異常(支援キャラ)エーテリアス愛者が存在した。
「そうだ!」
「リュシア、何か思いついたの?」
リュシアだ。
ことエーテリアスの問題に関して、これほど頼もしい味方はほとんどいないだろう。
そんな彼女は妙案を思いついたようだ。
「うん。夢縋りの皆とエーテリアスの違いを考えてたんだけど、両者には決定的な違いがあるんだ」
「その違いって……?」
「コアだよ、エーテルコア! 夢縋りの皆は、核と呼べるものがないからそのまま消えちゃうんだ。じゃあ核を持って来ればいいんだ!」
「なるほど……エーテルコア! 我々に存在しないものだ」
そう、夢縋りを感覚の術で見ても、ミアズマ派生物と同じ反応なだけでコアはない。
ならば、コアが存在すれば? 本体は消えても、彼らは存在できるかもしれない。
「賭けてみる価値はある」
「だが、問題はそのコアをどうやって持ってくるかだが……」
まさかエーテリアスから持ってくるわけにもいかない。ではどうするのか。
――その時だった。マネモブに“天啓”が舞い降りたのは。
『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』『!』
「えっ」
「なにっ」
「な……なんだあっ」
まるで電流が走ったかのように痺れる感覚。
稲妻の如き閃きを忘れないため、マネモブはすぐにそれを実行に移した。
『クククク待ってろよ』
「あ、マネモブどこ行くの!?」
マネモブは走り出した。
その先は、民家に装飾ですと言わんばかりに根を張っているミアズマ。
民家の屋根に上ったマネモブは強引にミアズマを引きちぎり、まるで粘土のようにこねた。
やがて出来上がったのは、等身大ミアズマ人形というべきもの。
まるでマネキンのようなそれは、ちょうどモスと同じくらいの大きさだった。
「へぇ、上手だね。マネモブって結構芸術センスある? でもこれどうするの?」
「物凄く嫌な予感がするんだが……」
『あざーす』
「なにっ」
モスが感じた嫌な予感は的中したようだ。
マネモブはモスをガシッと掴むと持ち上げた。
そして……
『風当身―――ッ』
「う あ あ あ あ」
モスをミアズマ人形へブチ込んだ。
すると、モスとミアズマ人形が融合し――
「あ あ あ あ ……おお?」
「大丈夫モス? 気分は?」
「何だか……身体が重くなったみたいだ」
「え、それ大丈夫なの?」
「いや、悪い意味ではなくてね……むしろ、身体に安定感を得たような気がする」
リンがモスを感覚の術で見てみると……相変わらずミアズマ造物の反応だったが、以前より存在が安定している感じがした。
それはまさに、身体を得たと言っても過言ではないだろう。
「まさかミアズマで身体を作るなんて……で、これは大丈夫なんです?」
『マイ・ペンライ!(大丈夫)』『…と思う』
「……信じよう!」
モスはヤケクソ気味にマネモブを信じた。
「皆さん、ここからは我々でやります。ご協力ありがとうございました」
「大したお礼はできないかもしれませんが……皆が身体を得た暁には、宴会に参加してもらえたらと思います」
「宴会?」
夢縋り達が言う宴会とは……?
Now Loading......
「うぅん……」
イドリーは再び、講堂で目覚めた。
周りにはリンやベンジャミンの一行。
「あ、起きた!」
「ドリィ、今度こそ迎えに来たぜ」
「皆……」
一行は、目覚めたイドリーを見て笑顔を浮かべている。
その様子に、何だか違和感を感じる。それに、講堂の外が何やら騒がしい。
「さ、行こう! お祭りが始まってるよ!」
「お祭り……?」
リンに連れられて、扉の方へ向かう。
扉の前には、ミアズマで薄汚れたマネモブが立っていた。
「あなたは……」
イドリーはマネモブのことを知っていた。
それもそのはず。マネモブは度々、異様に濃い“残気”を残すので、彼女にとっては印象深かったのだ。
そんなマネモブは、イドリーに対してほほ笑んだ……ような気がした。
『負けたよ達人…』『勝者はキミだっキー坊…』
マネモブが扉を開ける。
そこでは――
「イドリー! イドリー!」
「イドリー万歳! イドリー万歳!」
「俺達の女神イドリー!」
「町の守護女神様ーッ!」
「素敵! 抱いて!」
夢縋り達が熱狂の渦を作り出していた。
横断幕には大きくI LOVE イドリーの文字が書かれており、ペンライトがまぶしく光っている。
「ど、どういうことかしら……?」
「町の連中が、ドリィに迷惑かけた礼にだってよ」
「気恥ずかしいわ……でも、不思議と悪い感じはしない……」
確かに悪い感じはしないが、問題は多くあった。
「何故なら俺はイドリーを信じている!! 俺達は選ばれし死人のように生きてるクズども!! 夢縋りだ!!」
「う お お お お お お お お」
「あれは何?」
「イドリーの……黄金像!」
ハンマーをポール代わりに、ポールダンスじみたポーズを取るイドリーの黄金像(純金製)が中央広場に堂々と置かれている。
「なんちゅうもんを見せてくれたんや……イドリー様に比べるとマネモブと雅の旗はカスや。ついでに山岡さんの鮎はカスや」
講堂や民家に立てられていたマネモブや雅の旗は撤去され、全てイドリーのものに替えられた。
「今度イドリー様の映画をやります!」
「タイトルは?」
「“いつまでも夢を覚えていますか”です!!!」
勝手に映画も作られている。
どこもかしこも、イドリーに熱狂していた。
「凄まじい熱気だ……兄として誇らしいよ」
「ベンジャミンさんそれ本気で思ってる?」
「いや……正直引いてるよ」
あまりの熱気に逆に冷静になる一行。
そんな中、夢縋りのリーダー格であるモスが壇上に上がった。
マイクを傾け、彼は語った。
「俺達は確か死人のように生きてるクズかもしれない。人に迷惑をかけて存在してるかもしれない。もしかしたら明日死ぬかもしれない」
静かな語り。
しかし、そこには確かな熱が籠っている。
「だが俺達は生きている! イドリーのおかげ、マネモブさんのおかげ、この町に来てくれた皆のおかげだ! だから、俺は感謝を表してここに町を打ち立てたい!」
横断幕が降りる。
そこに書いていたのは……
「新エリー都ならぬ“異ドリィ町”御設立だあっ」
「お お お お お お お お」
かくして、この町は異ドリィ町となったのだ。
町長兼知事はもちろんイドリーだが不祥事の責任はモスが取る。
「イドリーの町ができちゃったね……」
「こ、こんなことになるんなんて……でも、彼らの想いには応えてあげなくちゃね」
「ドリィ……」
「兄さん、ちょっと行ってくるわ」
「ああ、行っておいで」
イドリーは、壇上へ向かった。
「おおっと、主役のご登場かな?」
「ええ、主役の登場よ」
「では俺は退散しよう。何か一言、言ってやってくれ。それだけで十分だ」
「そうね……じゃあ――」
マイクを片手に、イドリーは語った。
「皆さん。私は――」
その後のことは、多く語ることではない。
ただ、宴会は大いに盛り上がった。それだけだ。
新エリー都は今日も平和である。
『いやちょっと待てよ』
しかし、まだ忘れ物があった。
マネモブを含めた一行は、ランタンベアラー・リュシアちゃんを追い、ホロウの奥地へと向かう。
そこで、衝撃の闘いが幕を開ける。
次回『死闘』
全ては大団円のために――