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ミタマタケハヤ ─ 玄慈霊域伝 ─

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5分

ランキング一桁台に乗る割には全然いいねもスタンプもなく、「そんなにつまんないのか」と結構揺さぶりを受けています。 自分が楽しいと思えるものを描いた結果なんですが、ここまで打てども響かずとなると続けていても苦しいので、この弐ノ章を投稿し終えたら一旦、更新をやめます。 ひたすらに自分のために執筆することにします。すみません。

鬼と天狗 壱

   六  戦廻暦五十七年の秋月季、その二十六日。  今日は雨だった。  荒神と呼ばれ、その荒々しさから天嵐の化身とされる天慈颶雅之毘売(あまじくがのひめ)様も、流石に己の可愛い民を虐殺されれば嘆かれるのが道理か。  特に、天候を司る神はその特性から地母神、豊穣神の慈愛を持つ神としての側面も持つ。  常日頃気を張っているように見え、その豪華絢爛な衣装と傲慢とも思える態度の女神とて、まさか己の臣民を思わぬということがあろうか。  真に己を慕う者を愛するからこそ、天嵐神社には多くの神使が集い、山岳郷にはそれを拠り所とする妖怪が集まるのだ。  この雨は、女神の涙なのだと、多くの者はそう思っている。  そしてそれは、事実であった。  総本社でさめざめと泣く天慈颶雅之毘売様は、いたわしい姿でくずおれ、そして復讐心をたぎらせればそれは雷雲となって、怒り呻くような雷豪を唸らせる。 「雨降って地固まる……玄慈、今朝のなつめの話をどう思う?」  玄慈はこの大事な時に風邪をひかぬよう、外での鍛錬はせず、屋内で筋力を落とさぬように逆立ちで腕立てをしたり、腹筋運動をしたりしていた。  和真も和真で片腕で逆立ち腕立てを、左右合わせて五百ずつ。まるで息をあげず平然と行っていた。  鉄鋼糸を撚ったような豪烈な和真の背筋は、鬼の顔の如く流動していた。その顔は、悲哀と、怒りに捻れている。それが、和真自身の答えであった。  ──私は鬼賊村を守る。旅の途中で、突然ごめんなさい。私は自分に嘘をつけない。  今朝、朝餉(あさげ)の席でなつめがそう言った。  玄慈は生まれて初めて経験した戦を思い出す。  城郭内の──そこに撒き散らされた無数の「死」。  正直どちらに正義があるのか、玄慈にはわからない。多分、どちらにもあるのだろう。  勝てば官軍負ければ賊軍。今の世はそれだ。  ならば、ここで負ければ──多くの命が賊として処理される。  出城の城兵も、百人組の連中も、厨村の者も、母も──。 「俺も戦うよ。……天慈颶雅之毘売様が悲しんでおられるのに。……俺だけ、のうのうと旅なんぞできないだろう」 「……良いのか。お前が死ぬ、その可能性は十に一……いや、二つに一つくらいはありうるぞ」 「それはみんな同じだろう。敵にはまだ超越者がいる。それに、退魔師もついてきているっていうぞ」  火蓑を含む偵察隊が探ったところによると、井筒国は北から攻めてきているという。すでに郷境のいくつかの城が落ち、山岳郷は戦火に飲まれていた。  山々で戦が起きており、戦局は、  ──かなり悪い。  らしい。  非戦闘員は西へ逃れ、妖神(あやかしがみ)の一つ、海鳴水凪喪毘売(うなりみなもひめ)様が治める天海郷へ疎開することとなっている。  すでに天慈颶雅之毘売様も「負け戦」と腹を括り、民の離脱が完了したら──己の死をもって敵を道連れにする算段だった。  このとき、首は残さないのだろう。首級を取られれば、すなわち、敵の勝利宣言に実効性を与えることになるからだ。  一矢報いる。ひょっとしたらなつめと和真は──。 「なあ、和真」 「なんだ」 「俺は自殺願望はない。あんたたちが壮大な討ち死にを望むのは勝手だが、巻き込まれるのはごめんだ」 「……俺だって死にたかねえさ。けど、なつめがどう思うかはわからん」  和真は胡座をかいた。 「止めたい。なつめを」  ぽつりと和真がそう言った。 「……あんたとなつめは、長いのか?」  和真は雨が降る外に目をやる。 「思い出すよ。……俺は、疎まれた忌子だった。双子は、忌まれる」  ざあざあと雨が降る。  和真が語り始めた。  その、決して平坦とはいえない半生を。    〓  戦廻暦三十二年の繁茂季──春が濃くなり、雨の降る梅雨が来た頃、和平丸はこの世に生を受けた。  産号は弓張子(ゆみはりのこ)、姓は桜之丞(さくらのじょう)。幼名、和平丸(かずひらまる)。  兎賓天狗の父・岩斬子(いわぎりのこの)桜之丞和成(かずなり)と、鬼の母・森舞子(もりまいのこの)滝比良喜世(たきひらきよ)の間に生まれた。  ──双子として。  和深(かずみ)において双子は凶兆の忌子。片方を間引かねばならぬ。そういう決まりである。  片割れの子は、谷から落とされたという──母と共に。  我が子を殺せなかった母・喜世は、共に冥土を行くことを決めて、片割れを抱いて谷へ身を投げたらしい。  父は「意気地のない女だ」と、その時吐き捨てたらしい。  こうして和平丸の不遇の半生が幕を開ける。父は桜岳の山庭師──つまり、己は高貴な生まれであるが、その出自は双子。も一つおまけに母は妾。  故に己は一族の末席も末席であった。  暴力、暴言──虐待などというそれを超えて無体とすら言える扱いの日々。  泣けば「鬼は首をもがれても泣かぬ! 黙れ糞餓鬼!」と、父から激しく折檻された。  和平丸はそれでもめげなかった。  別に、兄や姉、父を見返そうとか、そういう汚い野心ではない。  彼は鍛錬の中で己が強くなることに純粋な喜びを感じていたし、山に出て狩りをする暮らしが好きだった。  十になる頃には洞穴に家を作り、実家に帰らず、そこで暮らすようになった。  罠を張ってトビウサギやツボヘビを獲って喰らい、その皮や、採取してきたものを使って弓を作り、十二の頃にはオオヅツヘビを狩るほどの腕前になっていた。  そんなとき。  十四の冬、和平丸は山で血に塗れて倒れる女天狗と出会った。  かついで洞穴に連れて行き、治療した。  腹の肉が裂けている──見たことがない傷だった。多分、矢の類だろう。高速で鉄の飛翔体がぶち当たったと見える。  傷はまず、病の気を纏う。和平丸は水をかけて洗い、それから酒精の強い酒を浴びせた。  女が苦しげな声を漏らす中、和平丸は「許せ」と言って、熱した鉄を押し当てて、傷を焼いて塞いだ。  あとでその傷が銃創であることと、女が鉄砲に撃たれたことを知る。そして、焼いて塞ぐという原始的な治療法のおかげで、結果的に血を失わずに助かったことも。  和平丸は消化にいい粥を作り始めた。山の下の田畑で取れる米を干した、干飯を入れた味噌粥である。  それをさらに細かく潰して、布で濾して味噌味の重湯にして、女の口に運ぶ。意識はあるが、相当消耗している。  一寸ずつ飲ませて、しかし、女はうめくばかりでなかなか飲み込まない。  和平丸は己の口に含んだ重湯を口移しで飲ませることにした。親鳥が雛にそうするように。  これを、和平丸は数日ずっと繰り返した。  その間、ずっと外では雨が降っていた。

初回投稿日時:2025年11月23日 10:07

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