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健康保険証が廃止 マイナ保険証の現状とこれから
2025年11月28日 08:20
健康保険証の新規発行が2024年12月1日に終了したのに伴い、その1年後となる2025年12月1日をもって、既存の発行済みの健康保険証も有効期限を迎える。これにより、12月2日からはマイナ保険証を基本とする仕組みになる。マイナ保険証に登録していない人には資格確認書が送付され、すべての人が健康保険証から移行することになる。
厚生労働省やデジタル庁ではマイナ保険証の利用をアピールしており、11月26日にはデジタル庁が新たな動画を公開し、マイナ保険証への移行をアピール。実際の医療現場の状況について、国立病院機構東京医療センターに話を聞いた。
健康保険証の原則廃止の背景
日本の健康保険制度では現在、保険資格をオンラインで確認する「オンライン資格確認」へと移行している。原則として、日本国民はすべて何らかの健康保険の資格を持つ被保険者であり、国民健康保険や後期高齢者医療制度であれば自治体、企業などの健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ)といった保険者がその資格を管理している。
社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会がオンライン資格確認等システムを運用しており、保険者は最新の資格情報を送信して、病院側はシステムからその最新情報を引き出すことで、患者の最新の資格を確認するというのがオンライン資格確認となる。
オンライン経由で患者の個人情報である資格情報を引き出すため、受付に来た人が本人かどうかを確認する必要がある。そのため、オンライン資格確認ではマイナンバーカードを使った本人確認(当人認証)が必要とされた。これがいわゆる「マイナ保険証」だ。
従来の健康保険証は顔写真がないので当人認証ができず、偽造が容易であるため、情報の正確性や信頼性の担保に課題があった。他人の情報を引き出せてしまうリスクも否定できない。病院側にとっても、受付時に患者の情報を手入力しなければならないため誤りが多くなり、最新情報が取得できずに保険資格が確認できないといった課題もあった。健康保険証でも記載のデータを手入力してオンライン資格確認にアクセスして保険資格を確認できるが、本人確認ができていないことや手入力が課題とされてきた。
それに対してマイナンバーカードはICチップを備えており、情報の偽造はできない。マイナ保険証利用では、顔認証または暗証番号でしかICチップから情報を引き出せず、得られた氏名・住所・生年月日・性別といった情報の正確性も担保される。
マイナンバーカードは資格情報を引き出すための鍵として利用されるため、カード自体に資格情報や医療情報は保管されておらず、暗証番号さえ知られなければ、他人が情報を引き出すこともできない。キャッシュカードだけではATMから現金を引き出せないのと同様だ。
マイナンバーカードによって厳格に当人認証ができるため、患者本人の過去の医療情報や薬剤の情報を、医療機関に提供することも可能になった。
こうしたデータは支払基金や国保中央会が管理しているデータから取得しており、情報自体は1~2カ月遅れとなるが、将来的には電子処方箋や電子カルテといったリアルタイムの情報を共有できるようになれば、より効率的、効果的な医療が提供できるようになると期待されている。国は、こうした取り組みで医療費の削減も狙う。
よりセンシティブな個人情報を共有することになるため、厳格な当人認証と有効な同意が必須であり、そうした機能を持たない健康保険証は廃止せざるをえない、というのが現状の政府の立場だ。
とはいえマイナンバーカードの保有は任意であり、国民に強制することはできない。そのため、「健康保険証は廃止するが過渡期の対応として資格を確認できるための証明書を発行する」という位置づけによって資格確認書を交付することで対処することにした。そのため、資格確認書の有効期限は5年以内(保険者によって異なる)となっており、その後の発行は決まっていない。
いずれにしても2024年12月1日で健康保険証の新規発行を停止。既存の健康保険証については最長1年間の有効期限に限定し、その後は「原則としてマイナ保険証を基本とする」ことになった。それ以外の人には資格確認書への移行を促すこととなり、それが2025年12月2日から始まる、というのが現状だ。
既存の健康保険証の有効期限が「最長1年」というのは、企業などの従業員が加入する社会保険のみ。国民健康保険や後期高齢者医療制度は、これまでも基本的に有効期限が1年(または2年)で更新されており、その期限が多くは7月末に設定されていた。新規発行が停止されたため、2025年12月1日を待たずに新規の保険証が必要となり、この段階でマイナ保険証か資格確認書へと移行している。
2024年9月末時点で、国民健康保険の加入者は2,525万人、後期高齢者医療制度では2,009万人となっており、合わせて4,500万人程度がすでに移行している状態だ(有効期限は自治体によって異なる場合がある)。今回、12月1日で有効期限を迎えるのは、協会けんぽ・組合健保・共済組合の各被保険者で、その数は7,700万人とされている。
このうち、すでに転職した人、定年を含む退職した人、75歳になった人、結婚で姓が変わった人など、今までも新たな保険証の発行が必要な状況になった人は、すでにマイナ保険証か資格確認書に移行している。残るそれ以外の人も、12月1日をもって健康保険証の有効期限が切れ、自動的に移行することになる。
資格確認書は、マイナ保険証を登録していない人全員に、各保険者から自動的に送付されているため、現時点で「健康保険証が廃止になって保険証がなくなった人」は存在しないというのが前提だ。
資格確認書が送付されていないという人は、マイナポータルにアクセスして、マイナ保険証に登録されているかどうかをチェックするといいだろう。なお、マイナ保険証に登録している人には「資格情報のお知らせ」が保険者から送付されている。
大病院でのスマートフォンのマイナ保険証利用数は?
さて、すでに国民健康保険と後期高齢者医療制度という大規模な移行はあったが、東京医療センターの担当者は「特に窓口での混乱はなかった」と説明する。
2026年3月末までは、既存の健康保険証でも受診可能とする暫定措置の影響もあるかもしれないが、いずれにしても特に混乱が発生していないため、12月2日以降も特段の混乱は想定していないという。
マイナ保険証の利用率も上昇している。同センターでは、9月末時点でのマイナ保険証の利用率は46%に達した。8月は45%だったので、伸び率はわずかではあるものの、国全体の平均は9月時点で35.6%(10月は37.14%)だったので、それよりも高い数値となっていた。
こうしたことから、健康保険証をそのまま使い続けている人、資格確認書に移行した人に加えて、マイナ保険証に移行した人が着実に増加していると考えられる。
同センターでは、再来受付機で受診票をプリントアウトすると、保険資格の確認が必要かどうかも印字されるという。確認が必要な人は、受付に行って健康保険証や資格確認書を提出するか、マイナ保険証リーダーを利用して資格確認を行なう。事務員が対応しない「セルフ」のマイナ保険証リーダーも設置しており、慣れている人は自分でサッと資格確認ができるそうだ。
受診票の記載に気付かなかった場合も、精算窓口にリーダーがあり、未確認であれば支払の際に資格確認を行なう。入院窓口や救急外来にもリーダーを設置しているそうで、様々な動線で確認できるようにしているそうだ。
マイナ保険証への移行でのトラブルは発生していないというが、保険証リーダーのハードウェア的なトラブルは発生しているそうで、リーダーに接続したPC端末を再起動しないと復旧しないことがあるという。ただ、それ以外、例えばオンライン資格確認システムなどでの問題は特にないとのこと。
それ以上に担当者は、マイナ保険証を使うことによる保険情報の自動入力について大きな効果を認めている。これまでは手入力していた情報が医事会計システムに自動入力されるため、業務負担の軽減に加えて、診療報酬明細書(レセプト)が差し戻される返戻が減少する効果が出ているという。
スマホのマイナ保険証利用は「まだ限定的」
このマイナ保険証利用率向上に寄与すると期待されているのが、スマートフォンのマイナンバーカードを使った保険証利用だ。Android、iPhoneをタッチすることで、マイナンバーカードと同様にオンライン資格確認システムにアクセスして資格情報を取得できる。
マイナンバーカードを持ち歩く必要もなく、物理カードを持ち歩くよりもスマートフォンを持ち歩くという人が多いだろうことから、マイナ保険証の拡大に繋がる可能性がある。
ただ、同センターでのスマホによるマイナ保険証利用は「1日1~2件程度」ということで、かなり限定的だ。デジタル庁によれば、スマートフォンのマイナンバーカードの搭載件数は、9月末時点でiPhoneでは約250万件、Androidでは約35万件だったが、最新(11月時点)の数字だとこれが約301万件、約36万件に拡大しているという。iPhoneが特に急増しているが、それでもまだまだ数が少ない。
加えて、同センターの受付ではスマートフォンのマイナンバーカードの説明ができる人員を確保できておらず、「受付でスマートフォンを使いたいと思っても設定できない人」には対応できていないそうだ。
逆に言えば、自ら設定して利用できる患者が1日1~2人程度、ということだろう。担当者も、この利用者が拡大することで、マイナ保険証の利用率が増えるとみており、期待感を示していた。
逆に、マイナ保険証のメリットの1つとしてあげられる医療・薬剤情報の共有については、1~2カ月遅れの情報になることから、医療従事者からも情報の古さを指摘する声があるそうだ。ただ、継続して治療している人の薬剤情報が得られるのはメリットという声もあり、リアルタイムの情報共有が進むことで必要性を感じる医療従事者も増えそうだ。
いずれにしても東京医療センターの担当者は、「マイナ保険証の利用率が100%に近づくとありがたい」と話しており、現在の46%がさらに向上していくことを期待。まだマイナンバーカードを持ち歩くことに不安を持つ人もいるほか、スマートフォンのマイナ保険証の使い方の認知が進んでいないといった課題を挙げつつも、マイナ保険証がなくなったら困ると、その重要性を訴えていた。