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アナウンサー赤平大「発達障害と子育てを考える」

医療・健康・介護のコラム

思考が拡散しやすい発達障害にスマホは天敵 アルゴリズムに導かれて、気になる記事や動画がエンドレスに

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 発達障害の子育てをする中で、私が「発達障害の天敵」と感じているのが「スマホ」です。発達障害の特性によるのかもしれませんが、とにかく相性が悪い。

触らせたくないが、避けて生きるリスクも

 中学生になった発達障害の息子には「可能な限りスマホを触らせたくない」と思いつつ、友人とのメッセージのやり取りや、学校からの情報、クラスでの話題についていくための情報獲得など、スマホを避けて生きるリスクの方が大きいのも現実です。

 発達障害とスマホの相性の悪さをわかりやすくするため、ここで一度、子供・大人を問わず、ADHD傾向がある人の「思考の拡散」を説明します。代表例としてよく言われるのが「ゴミ屋敷化」です。以下は「朝食のあとのアクション」の事例です。

①テーブルの上にある食器類を洗うためキッチンに持っていく
②すると、シンクの中は、朝食を作る際に使用した調理器具が占拠しているため、食器類を置けない
③そこでシンクの横に食器を仮置き
④ふと、Amazonで購入した食材の段ボールがキッチンの床に置きっぱなしなことに気づく
⑤片付けるために中身を取り出して冷蔵庫に入れようとするも、冷蔵庫は満杯
⑥賞味期限が切れている食材や調味料を捨てようと、段ボールから取り出した食材を床に仮置きして、冷蔵庫整理を始める
⑦すると、ゴミ箱がゴミであふれているため、冷蔵庫から取り出した食材を冷蔵庫の横に仮置きして、ゴミ箱のゴミをマンション共用部のゴミ捨て場へ持っていく
⑧玄関に、脱ぎ捨てられた靴がいっぱいなことに気づき、ゴミ袋を玄関に仮置きして、靴の整理を始める
⑨ふと、家の中がぐちゃぐちゃなことに気づき、途方にくれるうちに、出社の時間となり、すべてを放置してあわてて家を出る

 日々この繰り返しで、家はゴミ屋敷になります。

 これらの一連のアクションは、ADHD傾向のある人にとっては決して珍しくありません。周囲の発達障害の知見がない方からすると「なんで片付けられないんだ」「もっとしっかりしろ」とイライラするでしょう。一方で、発達障害の知見がある人なら「あるある」「しょうがないよね」と思うでしょう。

気になることが次々に移り変わるADHD

 ADHDはまず、段取りや予定を組むことが苦手です。その上で「気になること」があったら段取りや効率も関係なく、ポンポンと違うことをします。上記の朝食後のアクションは「気になること」が次から次に移り変わり、「仮置き」が連続することで、結果的に何も片付かない状況です。

 それでは、この傾向をスマホに置き換えてみるとどうなるか? 「旅行先の天気をスマホで調べる」を事例に説明します。

①週末に岩手県に旅行に行くので、天気を調べようとスマホで確認
②すると「岩手県花巻市でクマが出没」の記事があったのでタップ
③隣に「ドジャース大谷3ホーマー(動画)」の文字を見つけ、タップ
④「来シーズン、メジャー挑戦する日本選手たち」の文字を見つけ、タップ

 ……と、天気を調べることを「仮置き」して、アルゴリズムに導かれ、どんどん関連記事に興味を引っ張られます。このアルゴリズムは本当に厄介で、見事に興味関心の芯を食ってきます。その結果、時間が溶けてゆく。これは誰でも経験しますが、発達障害の場合「切り替えが苦手」な特性があるため、エンドレスになりがち。

 我が子がこのような状況だと、どの親も「天気を早く調べなさい」「もうスマホはやめなさい」と注意すると思うのですが、「決まった行動を変えられたくない」「こだわりが強い」というASDの特性も加わると、時には強烈に反発することも。

 ADHDは「過去の失敗を繰り返してしまう」という特性もあるので、これが1度や2度ではなく、毎回発生してしまいます。

 発達特性上の問題行動を改善する方法に「発生源を回避する」「仕組み化する」「代替手段を選択する」がありますが、悔しいことに、スマホに関して私は今のところ妙案がありません。

 そんな「天敵・スマホ」と戦う私が、発達障害にとって最も脅威に感じるのが「スマホゲーム」です。

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赤平 大(あかひら・まさる)

 元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」、ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」、NTTドコモLemino BOXING「井上尚弥世界戦」など実況、各種番組ナレーターを担当。

 2015年から千代田区立麹町中学校でアドバイザーとして学校改革をサポート。2022年から横浜創英中学・高等学校講師。2024年から代々木アニメーション学院講師。発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を持つ。早稲田大学ビジネススクール(MBA)2017年卒優秀修了生。

 発達障害と高IQの息子の子育てをきっかけに発達障害動画メディア「インクルボックス」運営。

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