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Press Releases

DATE2025.11.26 #Press Releases

暗黒物質がついに見えた!?

ー天の川銀河のハローから高エネルギーガンマ線放射を発見ー

発表のポイント

  • 天の川銀河の中心方向に、ハロー状にぼんやりと広がるガンマ線の放射を発見しました。
  • その性質は、長年探し求められてきた、暗黒物質が放つと予想されるガンマ線放射によく合致しており、暗黒物質からの放射を初めて捉えた可能性があります。
  • 今後の検証で、本当に暗黒物質からのガンマ線であることが確定すれば、天文学・物理学における最大の難問の一つがついに解明されることになります。


天の川銀河の中心方向に広がるハロー状のガンマ線放射  
(中央の灰色のバーは銀河面に対応する領域で、解析から除かれた領域。詳細は図1参照。)


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則教授は、フェルミガンマ線観測衛星(注1)の最新データを解析し、我々が住む天の川銀河(銀河系)の中心方向から、約20ギガ電子ボルト(GeV)のガンマ線(注2)が、角度にして30度以上にぼんやりと広がって放射されていることを発見しました。その性質は長年探し求められてきた暗黒物質(注3)のシグナルとよく合致しており、天の川銀河を球状に取り囲んでいるとされる暗黒物質の「ハロー」(注4)において、2つの暗黒物質粒子が対消滅(注5)してガンマ線に転化していることを示唆します。これが事実であれば、人類は初めて暗黒物質を「見た」ことになり、天文学・物理学における最大の問題の一つがついに解決されることになります。今後は、さらなる研究や検証により、これが本当に暗黒物質からのガンマ線であることを立証することが重要です。

発表内容

100年近くに渡り、宇宙の最大の謎の一つとして君臨する暗黒物質。様々な候補や仮説が提案されていますが、なかでも有力とされるのがWIMP(注6)と呼ばれる新種の素粒子です。2つのWIMP粒子が稀に衝突して対消滅する際に、GeV以上の高エネルギーガンマ線を放射すると期待され、天の川銀河の中心方向など、暗黒物質が密集している領域からのガンマ線が長年探索されてきました。しかしガンマ線で空を見ると、銀河面(注7)などから、宇宙線や天体起源の強烈なガンマ線放射が観測されるため、そうした成分を丁寧に取り除き、微弱なシグナルを慎重に探す必要があります。

今回の研究では、天の川銀河の中心方向から60度の範囲で、銀河面に沿った領域を取り除いて解析が行われました。暗黒物質ハローからの放射が比較的強く、また銀河面からの強烈な天体起源の放射を避けることができます。フェルミ衛星は2008年に打ち上げられましたが、この領域の暗黒物質探査は、最初の2年分のデータを使用した結果が2012年に報告されたあとは、あまり注目されていませんでした。今回の研究では、最新の15年分のデータを利用し、天体起源の放射を慎重に除いたうえで、ハロー状の放射成分の有無を調べました。

その結果、20 GeV付近で、球対称にぼんやり広がった放射成分があり、暗黒物質ハローが放射している場合に予想される形状とよく一致していることがわかりました(図1)。さらにこの放射は20 GeV 付近で特に強く、それより低エネルギー、および高エネルギー帯域では急激に弱くなります。一般に、天体起源のガンマ線は様々なエネルギーで比較的均等に放射され、このような強いエネルギー依存性は示しません。一方、陽子の500倍程度の質量をもつWIMPの対消滅から予想される依存性とはよく合致しています(図2)。放射強度から見積もられる対消滅の頻度も、理論予想と概ね合致します。これらの理由から、今回発見されたハロー状の放射成分は、暗黒物質由来のガンマ線の有力な候補と言えます。

図1:ハロー状に光るガンマ線放射の強度マップ
天の川銀河を中心とする銀河座標で表示。銀経は銀河面方向に測った経度、銀緯は銀河面から測った緯度。観測されたガンマ線強度マップから、ハロー以外の成分を除去したもの。銀緯±10度の銀河面領域は、天体起源の放射を避けるために解析から除かれた(中央灰色のバー)。

 

図2:ハロー状放射のエネルギースペクトル
ハロー状放射の強度をガンマ線のエネルギーごとに示したもの(スペクトル)。20 GeV 付近でハロー状放射が特に強くなっている。500 GeV 程度の質量(陽子の約500倍)の暗黒物質粒子が対消滅し、最初にb(ボトムクォーク)とその反粒子、あるいはWボソンのペアが生じた場合に予想されるガンマ線スペクトル(赤線・青線)が、データとよく合致している。ボトムクォーク、Wボソンは素粒子標準理論に含まれる既知の素粒子。

これが事実ならば、暗黒物質の正体がWIMPであることが判明すると同時に、現在の素粒子物理学の標準理論に存在しない新粒子が発見されたことになります。まさに天文学・物理学史上の重大な進展といえます。しかし最終的に確立するまでには、まだまだ様々な検証や研究が必要です。他の研究者の独立解析による検証や、天の川銀河のハロー中の矮小銀河など、他の領域からの対消滅ガンマ線の検出などが次のステップとなります。今回の研究が、暗黒物質の正体解明の最初の突破口となることが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院理学系研究科 天文学専攻 戸谷 友則 教授

論文情報

雑誌名 Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (IOPscience)
論文タイトル
20 GeV halo-like excess of the Galactic diffuse emission and implications for dark matter annihilation
著者 Tomonori Totani
DOI番号 https://doi.org/10.1088/1475-7516/2025/11/080

研究助成

科研費「基盤研究(C)(課題番号:18K03692)」の支援により実施されました。

用語解説

注1  フェルミガンマ線観測衛星
2008年に米国NASAによって打ち上げられ、現在も稼働中のガンマ線天文観測衛星。米国を中心とする複数の国の共同プロジェクトで、日本も参加している。今回使用したのはそれに搭載されたLATと呼ばれる観測装置のデータで、約0.1 GeV から1000 GeV のエネルギー帯域で観測を行っている。

注2  ガンマ線
X線よりさらに光子エネルギーが高い電磁波の総称。ギガ電子ボルト(GeV)はガンマ線光子のエネルギーの単位で、1電子ボルト(eV)の10億倍。

注3  暗黒物質
天体の動きと重力の法則から、星として光っている物質の約10倍もの量の暗い物質があることが1930年代から指摘され、暗黒物質と呼ばれる。すべての銀河は暗黒物質のハローに囲まれて存在し、宇宙全体でも、元素など通常物質の約5倍の密度であまねく存在しているとされる。

注4  ハロー
我々が住む天の川銀河の中の恒星は中心部のバルジと、その周りの銀河円盤に沿って分布しているが、そのおよそ10倍にもわたる大きさの、暗黒物質でできた球状のハローが存在するとされる。以下の図3参照。

図3:天の川銀河の模式図(日本天文学辞典 https://astro-dic.jp/galactic-halo/ より)
ハローの物質密度はどこでも同じではなく、天の川銀河の中心部に向かって高くなっていく。したがって、ハローがガンマ線で輝いているとすれば、天の川銀河の中心方向にむかってぼんやりと広がった放射が見えると予想される。

注5  対消滅
2つの同種の粒子(粒子とその反粒子)が衝突して、光子など他の粒子に変化する素粒子反応の総称。例えば、電子と陽電子が対消滅して光子に変わる、など。

注6  WIMP
Weakly interacting massive particle (弱く相互作用する重粒子)の略。質量が陽子の10倍から10万倍程度の範囲にあり、他の素粒子と弱い相互作用しかしない仮説上の素粒子。現在の素粒子標準理論を拡張したときに現れる素粒子で、暗黒物質の存在量を自然に説明できるため、暗黒物質の最有力候補の一つとされている。

注7  銀河面
太陽系は天の川銀河の円盤(銀河面)上に存在するため、空を見ると円盤の中の恒星が集まって一筋に見える(天の川)。