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日中対立に火を点けた「高市発言」で蘇る「ウェデマイヤー報告書」。すべての問題はアメリカがつくった!

山田順作家、ジャーナリスト
こんな人物を信用していいのか(日中首脳会談で)写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■トランプに「理解している」と言わせた習近平

 11月24日、電話による米中首脳会談が行われ、習近平主席がトランプ大統領に「高市発言」にくさびを打ち込むかたちで、「台湾問題における中国の原則的立場」を強調したことで、国内の反中言論がヒートアップしている。

 習近平が「台湾返還は戦後国際秩序の核心」と強調したのに対し、トランプは「理解している」と返答したという。そして、会談後、SNSに米中関係は「極めて強固だ」と投稿した。そして、高市首相に電話を入れ、これらのことを伝えてきた。

 これまでの言動から見ると、トランプは中国に対しては、まったく甘い。自由、人権、民主主義などという価値観を持たないから、押されれば簡単に引く。まさに「TACO」そのものだ。関税交渉の1年間休戦の妥結も、5500億ドルを巻き上げた日本に対して見せた強硬姿勢と違って、“腰砕け”と言っていい。

 なにしろ、来年は習近平を国賓として招くというのだから、高市首相はよくよく気をつけなければならない。対中強硬姿勢が日本を窮地に追い込みかねないからだ。

 そこで、歴史の教訓として想起されるのが「ウェデマイヤー報告書」である。

■共産勢力の拡大阻止のために国民党を援助せよ

 1947年9月、国共内戦の最中、トルーマン大統領の特使として中国と朝鮮の状況を調査したアルバート・ウェデマイヤー将軍は、「ウェデマイヤー報告書」を提出した。

 

 その主旨は、「中国は、ソ連の手先になっている中国共産党によって危機にさらされている」「国民党政府は腐敗しているが、共産主義勢力の拡大を阻止するために、アメリカは国民党軍に大規模な軍事・経済援助をすべきだ」というものだった。

 しかし、この報告書はその後2年間にわたって封印された。その結果、毛沢東の八路軍(その後の人民解放軍)が大陸全土を手中に収め、中華人民共和国が成立した。つまり、「ウェデマイヤー報告書」を受け入れ、アメリカが国民党軍(蒋介石)を援助すれば、現在の中国(北京政府)はなかったのである。

■報告書を機密扱いにしたのはマーシャル国務長官

 なぜ、日中戦争、太平洋戦争を通して、日本と戦う蒋介石を援助し続けたというのに、アメリカは最後に国民党を見捨てたのか?

 その理由は、いくつか挙げられている。

 まずは、報告書が提言するような大規模な支援には膨大なコストがかかるため、欧州の復興援助が優先のアメリカにそんな余裕がないということ。また、国民党軍は劣勢だったため、援助をしても無駄になるということ。さらに、これ以上中国援助につぎ込めば世論の反論を招くということなどだ。

 しかし、トルーマン政権は、この報告書の内容を公表せず、機密扱いとしたのである。そうさせたのは、この年の2月に国務長官に就任したジョージ・マーシャルだったと言われている。

■マッカーシズムで糾弾されるもノーベル賞受賞

 

 第2次大戦中、陸軍参謀総長、元帥だったマーシャルは、1945年11月にトルーマンから、国共内戦調停の全権特使に任命され、中国に赴いた。マーシャルは中国国民から「平和の使者」として歓迎され、停戦協定の締結と国共連合政府の樹立に奔走した。

 

 しかし、最終的にこれに失敗して帰国。そのために「ウェデマイヤー報告書」を握りつぶしたとされる。議会が国民党への支援を決定すると、その実行を遅延させるなど、共産党に有利な行動を取ったため、ジョセフ・マッカーシー上院議員らの反共強硬派による「マッカーシズム」(赤狩り)が起こると、激しく糾弾された。

「国務省内部に共産主義者が巣喰っている」と、マッカーシーは主張した。

 マーシャルはその後、国防長官となり、1951年に退任。1953年には、ノーベル平和賞を授与されている。受賞理由は、欧州復興の「マーシャル・プラン」の立案・実行である。

 欧米は極東の平和には関心が薄いのだ。

■ウェデマイヤーは中国の内情を熟知していた

 ウェデマイヤーは、太平洋戦争中は、蒋介石の国民党軍の参謀総長でもあった。そのため、中国の内情を熟知していた。国民党軍と共産党軍が犬猿の仲であることを知り、「国共統一政府をつくれば大きな問題が起こる」と、書簡でマーシャルに警告したが、無視されたという。

 スターリン・ソ連は、徹底的に毛沢東を援助した。1946年3月、ソ連軍は日本から奪った満州から撤退を始めるが、その後を共産党軍に託して、国民党軍を満州から追いやった。国民党軍はどんどん追い詰められていった。マーシャルは、この戦況を見て、国民党と共産党が中国を分断統治する休戦案を提案するが、共産党はこれを拒否した。

 その結果、1946年11月、アメリカと国民党は、「米華友好通商航海条約」を結び、1947年1月、マーシャルは帰国した。中国共産党は、この条約は中国に大きな損失もたらす売国条約であるとして非難した。

 1949年、国民党軍は敗走して台湾に逃げ込み、そこで中華民国を存続させた。1950年1月、トルーマンは台湾不干渉声明を発表し、朝鮮戦争が起きるまで台湾海峡への介入を拒否した。

■ファシズムより共産主義のほうが脅威

 「ウェデマイヤー報告書」が無視され、国民党が見捨てられたのは、トルーマンが「ヤルタ協定」(秘密協定)を知らなかったからとも言われている。ルーズベルト大統領は、なぜかスターリンを買っていて、日本が持っていた満州の港湾や南満洲鉄道の権益をソ連が引き継ぐことに同意していた。蒋介石はこれを知って言葉を失ったとされる。

 トルーマンはこうした経緯を知らず、共産党政権が誕生する直前まで、毛沢東を中国の真の改革者として賞賛していたという。フーバー大統領の回顧録は、アメリカが国民党を見捨てたことを「政治的野心を持った国務省の陰謀だった」としている。

 また、1958年11月に公刊された「Wedemeyer Reports!」(ウェデマイヤー回想録)で、ウェデマイヤー自身は、トルーマン、マーシャルが第2次大戦後に蒋介石を裏切り、結果的に毛沢東を助けてしまったことを間違いだと非難している。

 ウェデマイヤーは、第2次世界大戦そのものが、なんのための戦いだったか不明であったともしている。アメリカがモンロー主義を守り、英国が大陸に干渉をしなければ戦争はなかったという。また、ファシズムより共産主義のほうがはるかに脅威であるとしている。

■米中の覇権交代が起これば台湾問題は一変する

 このような歴史をふり返れば、アメリカは自ら紛争、戦争をつくり出し、状況によっては同盟国でさえ見捨てる国だと言えるのではなかろうか。かつて国民党(台湾)を見捨てたのだから、また見捨てることは大いにありえるだろう。

 国民党を見捨てた当時、アメリカは中国共産党の軍事力、経済力などをはるかにしのぐ力を持っていた。第2次世界大戦の文字通り唯一の勝者であり、世界の覇権を握る「覇権国」だった。

 しかし、いまはどうだろうか。その力は衰え、軍事力においても経済力においても、中国に差を縮められている。トランプがG2などと言い出すように、もしかしたら中国に並ばれ逆転する可能性すらある。

 もしそうなれば、現在の台湾有事問題は一変する。

 中国は、現在、不況に見舞われているとはいえ、着々と力を蓄え、アメリカに代わる世界覇権国になろうとしている。習近平は「中国の夢」(中華民族の偉大なる復興)を掲げ、台湾併合はその実現のためのワンステップとしている。

■トランプのような大統領では日本の危機は続く

 今回の高市首相の発言は、文脈からいえば、アメリカが参戦した場合という前提で発せられている。したがって、間違ったことは言っていないと、高市支持派は言う。しかし、問題はそんなところにあるのではない。

 なぜなら、アメリカが台湾防衛に必ず参戦するとは限らないからだ。高市発言の前提は、米中のパワーバランスが変われば、つまり、覇権交代が起これば成り立たない、実に“危うい”ものだ。その意味で、首相の立場では言うべきではなかったのではなかろうか。

 トランプほど、愚かなアメリカ大統領はこれまでいなかった。なんといっても口先だけで、中国の覇権挑戦に真剣に向き合っていない。目先の利益、すなわち「MAGA」だけで対処しようとしている。専制強権国家が次の世界覇権を握る。そんな世界がきたとき、民主国家はどうすればいいのか? この日本はどうすればいいのか? 私たちは、それを考えなければいけない岐路に立たされている。

 アメリカに、中国を本気で封じ込め、覇権交代を達成させない。そのためには、同盟国に制裁関税を課すようなバカな真似をしない大統領が出現しない限り、日本の危機は続く。高市首相の懸命な判断を願いたい。

 

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ありがとうございます。
作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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