「クルド人がいないと解体業が成り立たない」への意外な反論 危険な現場でクルド人の死亡事故も
「クルド系業者がいなくても困らない」
クルド系の解体業者がいなくなれば、困るのは地域経済との主張に対しては、大橋さんはこう反論する。 「過疎化している地方で、市内に業者が1、2社しかないのなら、解体業者が不足しているからクルド人が助けている、と主張できるだろう。しかし、関東の場合、業者も働き手もたくさんある」 「わが社の場合は、普通の民家の解体は、今は値段で全く太刀打ちできないのでやらず、高度な技術がいる大きな公共建築物の解体などに集中しているが、普通の民家の解体も、建物の構造や周辺環境にもよるが、一般的には坪4万円くらいならできる。クルド系業者がいなくても困らない。ダンピングの業者が排除されれば、僕らも不当な競争にさらされなくて済む」 「解体業界はここ数年で急速に法整備が進んでいて、それなりに立派になってきたのを、こうした業者が広がれば今までの努力が全部無駄になってしまう。これがまかり通っていたら、もう会社を閉めるしかない」
取り締まりに立ちはだかるカベ
仮放免の状態でも、居住を証明する電気料金とか水道料金の請求書を提出することで、普通運転免許証は取得できるという。ただ、工事現場の重機の免許まで取っているのかどうか、大橋さんはいぶかしがる。 もっと監督官庁が取り締まりを強化して、不正常な解体現場を是正できないのか。問題は監督官庁が多岐にわたることだという。 「クルド人の就労は入管庁、解体工事は市町村の環境課や建築指導課、アスベスト除去工事は労基署が管轄。それぞれ分野が違うので、例えば警察が現場に行っても何が悪いのか理解できない。騒音の苦情が来ているので、気を付けてやってください、くらいしか言えない」 「取り締まりも段階がある。とりあえず注意するが、当然従わないから、そうこうしている間に解体工事は終わってしまう。口頭注意、是正命令を行っても、罰則があるのは最後。解決には、今は届け出制の解体工事を全部許可制にするしかないのではないか。ただそれをこなすだけの能力は市町村にはないだろう」 法規順守によって社会的弱者の権利と利益が守られる。法規無視の状況を許容することは、多くのクルド人の利益を拡大しているようだが、危険な現場と低賃金が野放しになり、クルド人の中の弱者に対する人権侵害の横行を許すことになる。 *** 著者の三好氏は川口市など国内のみならず、トルコにも取材に出向いている。迫害よりも経済的な理由で日本に渡っている人が多数派だという証言は多い。三好氏は日本国内の問題としては、関係当局の連携がとれていない点を挙げ、次のように提言している。 「市、県、警察、入管庁に、労働基準監督署、税務署や、地元商工会、民間組織なども加え、定期的に連絡会議を開催してはどうだろうか。 不法残留者の送還を進めると同時に、外国人にはまず、日本の法律、規則を守った生活、仕事をしてもらい、違法行為は厳しく取り締まる。それを徹底できれば、川口、蕨市民の安全・安心は高まるし、日本の法秩序の下で日本に居るメリットがないと考えるのであれば、クルド人は自ずと帰国する道を選ぶだろう」 イメージ先行の議論ではなく、関係者たちの緊密な情報交換に基づいた冷静で現実的な議論が望まれるところである。
三好範英(ミヨシ・ノリヒデ) 1959(昭和34)年、東京都生まれ。ジャーナリスト。東京大学教養学部卒。読売新聞社でバンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『ウクライナ・ショック』など。 デイリー新潮編集部
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