憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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これにて、過去編(便利屋68との)完結です!
次回から現在に時間軸が戻りますよー。
帰ってくる……! 俺達のアビドスが帰ってくる……!!!


17.便利屋68との出会い(後編)

 

 

 

 

 ゲヘナにある、とあるビルのフロア。

 アルのクライアントである、猫の獣人はここを貸し切って自分達のアジトにしていた。

 

 

「……はい。よろしくお願いします。もう騒がしくて仕方ない」

 

 

 猫の獣人は自分の部屋で、通話を終えて受話器を置く。

 これは念のための『保険』だ。だがそれは即効性があるわけではないので、安心できない。

 

 邪魔者を消し去ったかと思えば、その人物は生きていて、さらにこちらに来るとまで言ったのだ。企てた者からすれば、恐怖でしかない。

 

 

「ボス! 総員、配置に付きました!」

 

「よ、よし! 鼠一匹通さないように、しっかり目を光らせてくださいね!」

 

「承知しました!!」

 

 

 部下が出ていった後、自分の部屋の扉を固く閉め、さらに鍵をかける。

 一番ベストなのは、アジトを捨てずにこの場で便利屋68と『顔無し(ノーネーム)』を倒すことだ。

 

 だがそれが叶わない場合もある。なので部屋の鍵を掛けた。部下が全員倒されたら一目散に自分が逃げる。その時間を稼ぐためのものだ。

 

 

「き、来たっ! ……おや?」

 

 

 席に着きパソコンのモニターを見て、便利屋68が映っていることを確認する。

 つい物理的に距離をとってしまうが、あることに気付き、再度顔をモニターに近付けた。

 

 そして猫の獣人は首を傾げる。映っているのが便利屋68だけなのだ。

 『顔無し』の姿は見当たらない。

 

 

「な、何を企んでる……!?」

 

 

 本来なら安心すべきことだろう。一番の恐怖の対象がいないのだから。

 だが、猫の獣人の不安は強まる一方だった。

 

 こちらに向かうと発言したのは『顔無し』だ。

 なのに当の本人がいない。この矛盾が猫の獣人を気持ち悪くさせた。

 

 

「お、落ち着くのです。ゲヘナの風紀委員会には『この近辺でゲヘナの学生が暴れている』と、既に通報済み。彼女達がくれば、今日は確実に生きられる……!」

 

 

 先程、猫の獣人が電話した相手はゲヘナの風紀委員会だ。

 

 これで騒ぎが起きれば、彼女達は間違いなくやってくる。部下が全員倒されたとして、この密室に閉じこもり、風紀委員会が来るまで耐えれば自分の勝ちなのだ。

 

 流石に大人数との戦闘で消耗した後に、ゲヘナの風紀委員会と連戦しようだなんて便利屋68も考えない。

 『顔無し』も彼女達の強さは知っており、今日自分を襲撃することは諦める。

 

 猫の獣人はそう考え、自分の部屋の机の下に隠れた。

 

 

「ぜっったいに、ここから離れませんよォ!!!」

 

 

 部屋の外から聞こえる耳障りな音を掻き消すように、そう叫んだ。嵐のような銃撃が鳴り響いており、それが中々終わらない。

 

 爆発音や部下であるアンドロイドが破壊される音が聞こえるたび、猫の獣人は身体を震わせた。

 

 やがて、外が静かになる。

 残ったのは自分の部下か、便利屋68か。その答えは早く出た。

 散弾が放たれる音が数回響き、ドアに無数の穴が開く。

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」

 

「ひ、ひぃぃぃい!!!」

 

 

 蹴り開けられると同時に見えたのは、散弾銃をこちらに向けて、目を赤く光らせるハルカの姿だった。

 じりじりと歩み寄る彼女を先頭に、ムツキ、カヨコが部屋に足を踏み入れると。

 

 

「……随分、舐めた真似してくれたじゃない」

 

「り、陸八魔様……」

 

「やめて頂戴。今更貴方にそう呼ばれても、嬉しくも何ともないわ」

 

 

 コートを揺らしながら、最後にアルが現れた。四人の目に冷たく見下ろされ、猫の獣人は身体を震わせる。

 そして口から出たのは、謝罪ではなかった。

 

 

「な、何故! 風紀委員会が来ない!? ゲヘナの生徒が暴れていれば、来るんじゃなかったのかっ? 既に連絡して、着いてる筈なのに!!」

 

「! ……ふ、ふふふ」

 

 

 アルはビクリと身体を震わせ、そして笑い始める。

 それをムツキはニヤニヤしながら、カヨコは溜息を吐きながら見守った。

 

 

「バカね。貴方の考えなんて、お見通しよ」

 

「何ですと!?」

 

「一人足りないと思わなかったの? 私達を見て」

 

 

 猫の獣人の脳内に浮かんだのは、『顔無し』の姿だ。

 確かに足りないと思ったが、不安を抱くだけで彼がいない具体的な理由は考えなかった。

 

 だが今、点と点が繋がる。アル達との会話で明かされた、『顔無し』がここにいない理由。それはとても信じられるものではない。

 まさか……と猫の獣人は呟き、叫んだ。

 

 

 

「たった一人で、風紀委員会を足止めしているのですか!? 『顔無し』は!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し前に遡る。

 『顔無し』はぴたりと足を止めた。アル達は不思議そうに顔を見合わせる。

 

 

「……突然悪いけどよ、猫のところにはお前達だけで行ってくれるか? 俺は別行動することにした」

 

「えー!? 何でー! ネムネムいないと寂しいのに〜!」

 

「肩が外れるからやめろ。これからするの、一応真剣な話だぞ」

 

 

 その言葉に、駄々っ子のように腕を掴んで前後に引っ張っていたムツキの表情が変わった。『顔無し』の腕を解放すると、頷いて続きを促す。

 『顔無し』は自身の推測を述べ始めた。

 

 

「あの猫、多分、何か仕組んでると思うんだ。だから万が一を考えて、纏まるより二手に分かれた方がいい」

 

「……確かに。実際、屋敷の私達も仕組まれたものだったしね」

 

 

 カヨコの相槌でつい先程の苦い記憶が蘇り、『顔無し』を除く全員が少しだけ顔を歪める。

 それを見て、軽い笑い声を上げる『顔無し』。

 

 

「ははっ。気にすんなよ、生きてんだから」

 

「あ、あの。私が言うのもあれなんですけど、その、軽くないですか?」

 

「んー。まあ、そう簡単に死ぬ気がないからな。軽くもなるだろ」

 

 

 ハルカの質問に対して曖昧な答えを返した『顔無し』は、それはともかく、と話を切り替える。

 

 

「あの猫のことだ。何かしらの罠や待ち伏せはあるかもな。既に風紀委員会とやらを呼んでて、俺達が襲撃すると同時に鉢合わせる。その隙に猫の野郎は逃げるとか」

 

「うげぇ……やりそ〜」

 

「そ、それは結構厄介ね……(ひぃぃぃぃ!!!)」

 

 

 ムツキは苦いものを吐き出すように舌を出し、アルはそのシチュエーションを想像し、懸命に身体の震えを止めている。

 

 

「だろ? だから二手に分かれようって話だ。何かあったらすぐに駆けつけられる距離に俺は待機してるから、安心して襲撃しちまえ」

 

「……私達にとっては有り難い話だけど、いいの?」

 

「お前達の方が痛い思いしたろ?」

 

 

 カヨコの問いに、『顔無し』は簡潔に返す。

 その瞬間、便利屋68は彼に救われた気分になった。

 

 人を殺してしまった罪悪感。それに仲間を巻き込んでしまったこと。もう二度と元の生活に戻れないと思った恐怖。

 その時の感情全てが、便利屋68の中を駆け巡る。それを被害者でありながら、理解を示してくれた『顔無し』に、涙が溢れそうになった。

 

 

「……ええ、ええ! それはもうそうよ!! 存分にやってやるわ!!」

 

 

 それを誤魔化すように、腕で目元を拭うとアルは吠える。

 ムツキは何か面白いことを、手で口を隠して笑い出した。

 

 

「うんうんっ。じゃあ大きく爆破して合図しようよ、ネムネムに。終わったよ〜って!」

 

「……限度があるからな? 気を付けろよ?」

 

 

 自分達を吹き飛ばすことがないよう、『顔無し』はムツキに忠告するのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして現在。アル達のいるビル付近にて。

 大勢の風紀委員を地面に転がし、立つ『顔無し』がいた。

 

 この光景を作り出したのは簡単だ。集団でアル達のいる方向に向かう者達を、腕に付けたシンボルから風紀委員会と断定し、奇襲しただけである。

 

 街にある物、気絶させた風紀委員、その武器。

 腐るほど手段はあった。『顔無し』が有利な立地で、遅れをとるわけがない。

 

 

「今のところ大したことないな。まあ、構成員なんてこんなもんか」

 

 

 手を叩きながら、周りを見渡す。

 すると、こちらに向かって走ってくる影を見つけた。

 

 同時に、その姿が消える。

 

 

「ッ!?」

 

「何だ。ようやく、骨のありそうなやつが来たな」

 

 

 『顔無し』は捉えた残像から、来るであろう位置を特定し、向けられた銃口を掴んだ。

 信じられないといった表情でこちらを睨む、銀髪ツインテールの少女。

 

 

(嘘だろ! 初見で何で反応できるんだ……!?)

 

 

 それに、と少女……イオリは腕に力を込める。

 

 

(外れない! どんな力してんだ、こいつ……!!)

 

「一旦、仕切り直すか?」

 

 

 そう言って、パッと手を離す『顔無し』。

 イオリは舌打ちしつつ、すぐさま攻撃に出た。

 

 

「舐めんな!」

 

 

 ふらつき後ろに下がると見せかけての、回し蹴り。それを『顔無し』の側頭部に向けて放った。

 それを『顔無し』が片腕で防ぐ。イオリが確認したのはそこまでだった。

 

 

「……っは?」

 

 

 気付けば、仰向けの状態で宙に浮いている。『顔無し』は低い姿勢で、何かを振り切ったようだ。イオリが片足だけで立つ瞬間を狙ったのだろう。

 その手に握られていたのは、風紀委員の片足だった。

 

 

「お前……!!」

 

 

 仲間を道具のように扱われ、歯を噛み締めるイオリ。

 怒りの表情は、すぐに苦痛な表情に変わる。

 

 

「ガッ!!?」

 

 

 『顔無し』は下から掬うように、風紀委員とイオリの身体をぶつける。

 自分の身長を超える高さに打ち上げられたイオリに向け、風紀委員を投げて当てた。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 二人は絡み合うように転がると、動かなくなった。

 イオリは近付いてくる『顔無し』を見上げ、睨む。

 

 

「大したもんだ。やっぱりお前、他とは違うよ」

 

「ぐくっ……くそっ」

 

「悪いな。恨みはないが、ここを通すわけにはいかないんだよ。あいつらの決着に、水を差さないでくれるか?」

 

 

 

 

 

「私からも言わせてもらう。業務に水を差さないで」

 

 

 鈴が鳴るような声がした。

 

 『顔無し』は咄嗟に伏せる。頭上に大きな物体と共に、鼓膜を激しく揺らすような風切り音が鳴った。

 目の前に映る小さな膝が、確実に頭を狙いに来ていることを悟り、腕をクロスする。

 

 

「ッ(重い。この小さな身体でよく出せるな)」

 

 

 仰け反った『顔無し』の腹に向けられる、両手持ちの機関銃。連射されればひとたまりもないことは理解できた。

 『顔無し』は回し蹴りで、その照準をずらすと一気に彼女との距離を詰め、その顔面に肘を叩き込み、後ろ蹴りを腹に放って距離を取らせた。

 

 だが、効果は今ひとつのようだ。

 

 

「武器を使わないなんて、珍しいわね」

 

「そっちの頑丈さの方が珍しいんじゃないか?」

 

 

 倒れもしないし、まるで痛みを感じていないようにも見える。

 今迄出会った奴らでも別格だ。『顔無し』は彼女が、風紀委員会が恐れられる所以だと理解した。

 

 

「……お前、名前は」

 

「空崎ヒナ。……貴方は?」

 

「『顔無し』だ」

 

 

 そう、と頷きヒナは淡々と告げる。

 

 

「……なら『顔無し』。そこを退いて。ゲヘナの生徒が騒ぎを起こしているらしいから」

 

「それは出来ない相談だな」

 

「残念ね……じゃあ、押し通る」

 

 

 機関銃を構えるヒナ。そして、彼の頭にヘイローがないことに気付いた。

 

 

(冗談でしょ? ヘイローがないのに、この強さなの……?)

 

 

 ヒナは最大限の警戒をしつつ、今後の動きを考える。

 

 

(肘打ちされた時、人間の感触だった。だとすると、油断は出来ないけど発砲も無理。それじゃ殺してしまうから。手加減しつつ、本気でいかなければならない……)

 

 

 矛盾していることは自分でも分かった。ヒナは苦い顔を浮かべる。

 それは『顔無し』も同様だった。

 

 

(大体が2〜3回の連撃で気絶するのに、このお嬢ちゃんは全く堪えてないな。頑丈にも程がある。多分、先天的なものか? それに加えて、身長が低くて攻撃を当てにくい。なのにお嬢ちゃんの攻撃の速度は凄まじい、か……)

 

 

 相手に聞こえないよう、二人は呟いた。

 

 

「「面倒だ(くさい)……」」

 

 

 とはいえ、やるしかない。

 

 先に仕掛けたのは、『顔無し』だった。

 一気に距離を詰める。ヒナは攻撃が来ると思い、身構えた。

 

 

「ッ……!」

 

 

 『顔無し』は蹴りを放つ。拳より、確実に当てやすいと考えたからだ。ヒナは自身の愛銃でそれを防ぐと、『顔無し』のネクタイを掴んだ。

 彼は巴投げの要領で、その拘束から逃れると同時に距離を離す。

 

 

「邪魔だな、これ」

 

 

 弱点となりうるネクタイを解き、『顔無し』はそれを何となくポケットに入れた。

 その隙にヒナは、『顔無し』との距離を詰める。反射的に繰り出された彼の前蹴りを掴み、地面に押さえる。

 

 

「お返し」

 

 

 それによって体勢を崩し、上半身を曲げた『顔無し』の顔面に本気の肘打ちを叩き込む。

 『顔無し』が数メートルは飛んだ。仮面と鼻が強く当たり、物凄い出血が起こっている。それだけでなく、仮面もひび割れ壊れるのは時間の問題だった。

 

 

「くそ……っと、いいのがあるな」

 

 

 『顔無し』は倒れている風紀委員の帽子を手に取り、深めに被る。

 これで目は確実に見られない。実際、風紀委員の目も帽子に隠れて、取るまで見えなかった。

 

 なので『顔無し』は、鼻から流れる血が止まる感覚と同時に、仮面ごと顔を腕で拭って地面に落とす。

 その素顔を見て、ヒナが動きを止めた。

 

 

「……貴方、どこかで会った?」

 

「? ……いーや、初対面の筈だ」

 

 

 ヒナの問いに、『顔無し』は少し考えてから答えを出す。さらにポケットにしまったネクタイを鼻から下に巻いて、口元を隠した。

 この身体(斑目ユウ)を知る人物の可能性がある以上、下手なことは言えないし、要素は隠さなければならない。

 

 実際その判断は正しかった。

 もし、アビドスの関係者か、と『顔無し』が発言した場合、アビドスと関連付けて、ヒナが既視感の出所に気付く可能性があったのだ。

 

 

(いずれにせよ、このまま考えさせるのは良くないよな……)

 

 

 気を紛らわせるべく、『顔無し』が攻撃を仕掛けようとする。ヒナもそれに気付き、警戒を露わにした。

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 ドカァァーーーン!!!! と近くのビルの窓ガラスが、爆破音と共に割れた。二人は動きを止め、その方角を見る。

 大蛇のような黒い煙が発生していることから、結構な規模の爆破だったようだ。

 その主は容易に想像できた。『顔無し』は呆れたように、小さく呟く。

 

 

 

「あいつら……限度があるって言ったろ……」

 

 

 しかし、やることはやってくれたみたいだ。

 

 なら『顔無し』が、ここに留まる意味はない。ヒナを除いた風紀委員は全滅している。見たところ、起き上がってくる気配もなさそうだ。

 ヒナも呆気に取られたように、そのビルを見ていた。今がチャンスだ、と『顔無し』は駆け出す。

 

 近くにあった車を拝借し、ブレーキを踏みながら鍵を回し、エンジンをかける。

 

 

「あっ、待ちなさい……!!」

 

「悪いな。あと四人しか乗れないんだ」

 

 

 エンジン音に気付いたヒナだが、発砲するわけにはいかなかった。『顔無し』が、制止の声を応じるわけもなく。

 

 彼は素早くフットブレーキを外し、ドライブに切り替えアクセルを全開にして、その場を走り去った。 

 ぽつん、と残されたヒナ。彼女の口から溜息が漏れる。

 

 

「……はぁ。頭が痛い」

 

 

 目の前で行われた盗難。恐らくゲヘナの生徒が行った、ビルの爆破。それらの事後処理を想像し、ヒナは頭を押さえるのだった。

 

 

 

 

 

 

 『顔無し』が車で向かった先は、爆破があったビルである。

 そこでアル達を回収し、車を走らせていた。助手席に座るアルが、まじまじと運転する『顔無し』を見る。

 

 

「それにしても驚いたわ……。『顔無し』、車の運転が出来るのね」

 

「まあな。といっても、AT限定だ」

 

「いや、アルちゃんそこ? 普通、一人で風紀委員会止めたとこじゃないの?」

 

「くっ……! 凄いけど、アウトロー過ぎるけど! 差を直視したくないから、目を背けてるの!!」

 

「いや、お前らも大概だよ」

 

 

 ビル爆破の目撃者である『顔無し』からしたら、あっちの方がアウトローだ。

 そう言っても、アルが唸るのをやめないので、『顔無し』は話を切り替えることにした。

 

 

「……さてと。お前達の事務所まで送るから、道を教えてくれ。今日は色々あったし、早く風呂入って寝たいだろ」

 

 

 それに異を唱えたのは、ムツキだ。

 何かを思いついたのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

 そして、後部座席から身を乗り出した。その腕を『顔無し』の首に絡ませて。

 

 

「えー! このままドライブしようよー! ねえ、いいでしょパパ!!」

 

「誰がパパだ。運転中だから、首に腕を回すなムツキ」

 

「ブー。ママー、パパが冷たーい」

 

 

 唇を尖らせて、こちらを見るムツキにアルは身体を反応させた。

 シートベルトで強調された胸も小さく揺れる。

 

 

「ママ!? 私が!? あ、えっと、その……貴方。私もドライブしたいなぁ」

 

 

 上目遣いで囁くように、アルが言った。無意識なのか、その姿勢は自分の胸を強調しているようだ。

 

 車内が静まり、しばらくしてその空気に耐えられなかったアルは、顔を紅潮させて吠えた。

 

 

「せめて何か反応してよ!? 凄い恥ずかしいじゃない!!!」

 

 

「いやぁ、アルちゃんって結構、あざといママになるのかなーって」

 

「前しか見てなかった」

 

「アル様、大丈夫ですっ、凄い綺麗でした……!!!」

 

「ノーコメント」

 

 

 ムツキ、『顔無し』、ハルカ、カヨコの感想がこれだ。唯一の救いは、異性である『顔無し』が運転に集中していたことだろう。

 見られていたら、多分雰囲気が気まずいものになっていた。

 

 カヨコは溜息を吐き、シートに体重を預ける。

 

 

「……ムツキじゃないけど、私もまだ帰らなくていいかな。この揺れ心地、少し寝たくなる」

 

「あぅ……そう言われると、私も、瞼が……」

 

「無理して起きてようとしなくていいよハルカ。事務所にお風呂はないし、今休んだ方がきっと気持ち良い」

 

 

 カヨコはそう言ってハルカを引き寄せ、自分の肩に頭を置かせ優しく撫でる。ハルカは目をトロンとさせて、瞼を狭めていった。

 

 『顔無し』が後部ミラーを見ると、二人寄り添ってうとうとするカヨコとハルカの姿が見えた。多分、あと少しも経たないうちに眠るだろう。

 

 

「仕方ねぇな……。いいぞ寝て、ムツキとアルもだ。俺も目的地があるからな、そこまでは走っといてやるから」

 

 

 溜息を吐いてから、二人を起こさないよう小声で『顔無し』が言った。

 それに倣い、ムツキとアルの声量も小さくなる。

 

 

「わーい。それじゃおやすみーっ」

 

「え、ええ? 本当にいいのかしら?」

 

「いいんだよ。厚意は素直に受け取っとけ」

 

「……なら、お言葉に甘えるわ」

 

 

 そして、ムツキとアルも瞳を閉じた。しばらくして、『顔無し』以外の全員の頭から、ヘイローが消える。

 それを『顔無し』が確認したのは、目的地に着いてからだった。

 

 

「『ヘイローって寝ると消える』んだな……」

 

 

 車から降りて、『顔無し』はそう呟くと目の前にある目的地……アル達と出会った屋敷へと歩を進める。

 皆疲れて眠っていたため、屋敷ごと『機能を失った四肢』を燃やし尽くしても問題なかった。

 

 その後、場所を移しアル達が目覚めると、事務所まで送る。

 これをきっかけに、『顔無し』と便利屋68の交流は行われるようになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つのイベントにつき、話数を使い過ぎ? 文字数とか内容を削った方がいい?

  • 使い過ぎ
  • 丁度良い
  • 寧ろ少ない!!
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