首相、台湾有事答弁で釈明に終始 政治とカネには「そんなことより」

小木雄太 笹山大志 国吉美香

 高市早苗首相は初の党首討論に臨んだ。台湾有事に関する自身の国会答弁をめぐっては釈明に終始する一方、自民派閥の裏金問題を受けて企業・団体献金を見直すよう迫る質問には「そんなことより」と切り出し、話題を変える強引な一面も見せた。討論を通じ、首相と主要4野党との距離感の違いも明確になった。

立憲・野田氏「答弁、独断専行ではないか」

 「まずはとても今、心配している日中関係から討論をさせていただきたい」。高市早苗首相が初めて臨んだ26日の党首討論。トップバッターとなった立憲民主党の野田佳彦代表はこう切り出した。

 野田氏は、7日の台湾有事をめぐる首相答弁を機に「日中関係は極めて冷えた関係になった。経済でも人的交流でも影響が出ている。お互いに激しくののしり合うような感情が生まれている」と懸念。米国が台湾防衛を明言しない「あいまい戦略」を取る中、「日本だけ具体的に姿勢を明らかにすることは国益を損なう。(答弁は)独断専行ではないか」と首相の責任を問うた。

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高市早苗首相との党首討論に臨む立憲民主党の野田佳彦代表=2025年11月26日午後3時30分、岩下毅撮影

 首相は、手元の原稿に目を落としながら「(首脳間の)対話を通じてより包括的な良い関係を作り、国益を最大化する。それが私の責任だ」と淡々と答えたが、野田氏はさらに問題を追及。政権トップが台湾有事のシミュレーションをすることは重要としつつ、「自衛隊の最高指揮官として言葉にしていいかどうかは別問題だ」と迫った。

 首相はこれに対し、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」の認定について「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即し、政府が全ての情報を総合して判断する」という政府の公式見解を述べ、「私も(7日の国会の場で)具体的なことに言及したいとは思わなかった」と釈明。政府見解を踏み越えた理由として「政府のこれまでの答弁をただ繰り返すだけでは、予算委員会を止められてしまう可能性もある」とし「具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で誠実に答えた」と主張した。まるで質問した立憲の岡田克也氏に非があるかのような言いぶりに、委員会室にはどよめきの声もあがった。

 首相はこの日、党首討論の準備のため当初の予定を2時間早め午前9時過ぎに官邸入り。従来方針を丁寧に説明する方針で臨んだ。

 だが、あくまでも答弁の撤回を求める中国は、日本への批判とともに経済的圧力を強める一方だ。前日には、米中首脳の協議を終えたばかりのトランプ米大統領から首相に対し、電話協議の申し出があり、台湾問題も協議。日中関係のみならず、米国を巻き込む形で首相答弁の国内外への影響は広がっており、政権は厳しい立場に立たされつつある。

 首相側近は、首相答弁を「余計な発言だった」と認めつつ「日本の立場を変えたわけではないと地道に説明するしかない」と語り、こんな懸念も漏らした。「台湾問題は中国にとって核心に触れること。しばらくはこの状態が続くと思う」

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党首討論の主なやりとり、台湾有事に関する党首答弁

非核三原則「明示的に見直しを指示した事実はない」

 首相に非核三原則を堅持するのか問うたのは、「平和の党」を掲げる公明党の斉藤鉄夫代表だった。「唯一の戦争被爆国の日本が非核三原則を見直すことがあっては、核廃絶は夢のまた夢だ」

 首相は「政策上の方針としては堅持している」と述べる一方、来年中をめざす安全保障関連3文書の前倒し改定では「明示的に非核三原則の見直しを指示した事実はない」とし、含みを持たせた。今の臨時国会の衆院予算委員会などでも、明言していない。

 非核三原則の「核を持たず、作らず、持ち込ませず」は1967年の佐藤栄作首相の国会答弁がもととなり、国会決議を経て「国是」とされてきた。2022年に閣議決定した国家安全保障戦略では「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」としている。

 ただ、「持ち込ませず」をめぐっては民主党政権時の10年、岡田克也外相が国会で、米国の核搭載艦の寄港を認めないと日本の安全が守れない事態が生じた場合に「時の政権が命運をかけて決断し、国民に説明する」と答弁した。

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党首討論に臨む公明党の斉藤鉄夫代表(右)と高市早苗首相=2025年11月26日午後3時43分、岩下毅撮影

 首相は「岡田氏の答弁を引き継いでいる」と強調。従来の政府方針を踏襲している姿勢を強く打ち出した。

 だが斉藤氏は、岡田氏の答弁は「非核三原則は堅持するという立場のうえで、究極的な有事に判断するということだ」と指摘し、「平時に、前のめりに非核三原則を見直すことがあってはならない」とクギを刺した。これに対し、首相は「総合的に検討しながら3文書の改定も細心の注意をもって行いたい」と述べるにとどめた。

 斉藤氏は終了後、記者団に「3文書(改定)で(非核三原則を)変える可能性が残っている。しっかり監視していきたい」と語った。

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党首討論の主なやりとり、非核三原則

国民民主や参政には「近さ」アピール

 一方、高市首相が野党と向き合う姿勢には、党によって距離の違いが表れた。

 立憲民主党の野田佳彦代表は「政治とカネの問題に決着をつけることだ」と迫り、企業・団体献金の受け皿となっている政党支部について、自民が石破茂前首相(総裁)下で始めた実態調査の結果を回答するように求めた。

 これに対し、首相は「御党にお示しするという約束であるとは思っていない」と回答を拒否。「そんなことよりも、ぜひ、定数の削減やりましょうよ」と訴えた。野田氏が民主党政権で首相だった2012年、党首討論で当時の自民の安倍晋三総裁との間で議員定数削減を約束したことに触れ、「約束が果たされていない。定数の削減、賛成してください、やりましょう」。政治とカネから定数削減に話題を変えたところで、野田氏との討論時間は終わった。野田氏は討論後、記者団に「『そんなこと』ではなくて、政治改革のセンターピンは政治資金規正法(改正)だ」と批判した。

 対照的に、首相は国民民主党の玉木雄一郎代表との討論では、「一緒に関所を乗り越えて参りましょう。政治の安定、とても大事です。お力もお借りしとうございます」と連携への期待を示した。玉木氏も「一緒に関所を越えたい」と3回繰り返して応じた。

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高市早苗首相との党首討論に臨む国民民主党の玉木雄一郎代表=2025年11月26日午後3時32分、岩下毅撮影

 首相は国民民主の看板政策である課税最低ライン「年収の壁」の引き上げをめぐり、昨年12月に自民、公明、国民民主の3党が結んだ合意を踏まえ、「3党の約束だ。しっかりその目標に向けて共に歩んでまいりたい」と強調。「国民民主さんのビラに基づくと」と、国民民主の公約にもあえて言及した。

 首相が国民民主との距離の近さをアピールするのは、自民、維新両党だけでは衆参ともに過半数に届かない少数与党としての政権運営を強いられているためだ。首相周辺は「維新とだけ連立を続けると(維新から)足元を見られ続ける。国民民主も加えることでバランスの取れた政権運営が可能になる」と説明する。

 首相はまた、持論が重なる参政党の神谷宗幣代表にも協調姿勢で向き合った。スパイ防止法案について、参政はこの日の討論に備え、前日に提出。首相も自民総裁選で制定に言及していた。首相は討論で、神谷氏に「スパイ防止関連の法制を作ることは自民党の参院(選)の公約にも書いた。基本法的なものは今年、検討を開始して、速やかに法案を策定する」と同調してみせた。

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小木雄太
政治部
専門・関心分野
国内政治、外交
国吉美香
政治部
専門・関心分野
国内政治、沖縄など

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