憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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14.便利屋との再会

 

 

 定例会議を終えたアビドスの面々と先生、そして彼女に半ば強引に連れられる形で、『顔無し(ノーネーム)』は柴関ラーメンに訪れていた。

 

 

「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

 

「怒ってません……」

 

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

 

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

 

 アヤネを挟むように座るのは、ホシノとノノミだ。

 流石におふざけが過ぎたと反省しているのか、二人はアヤネの機嫌を直そうとスキンシップを取っている。

 

 とはいえ、この調子だともう少し時間が掛かりそうだ。

 

 

「……何でもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

 

「あ、あはは」

 

 

 他にお客さんがいないのもあるのだろう。腰に手を当てて、呆れたようにセリカはテーブルにいる先生達を見下ろした。

 それに苦笑いを浮かべたのは、ホシノ達の対面に座る先生のみだ。

 

 その隣に当たり前のようにいるシロコは、後輩の視線を気にする様子も見せず、アヤネにチャーシューを差し出す。

 

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「……ふぁい」

 

 

 セリカはその様子を見て溜息を吐きつつ、カウンター席に目を向ける。

 

 

「あいつもあいつで、何で一人カウンター席?」

 

「……私も分からない。無理矢理連れてきて、悪いことしちゃったかなぁ」

 

 

 少し残念そうな様子で、先生もセリカと同じ方向を見た。

 そこにはこちらに背を向けて、ラーメンを啜る『顔無し』の姿がある。身体で隠れているのか、身に付けたままなのか、仮面は見当たらなかった。

 

 セリカは首を振る。

 

 

「そんなことないわよ。ラーメンを食べる勢いは凄いし、見た感じ結構喜んでるんじゃない?」

 

「そうなの? ……だとしたら嬉しいな。『顔無し』が喜んでるの、あまり見たことないからさ。贅沢言うなら、その顔も見れればいいんだけどね……見るのは呆れ顔が殆どな気がするし」

 

 

 それに耳を動かし、先生を覗き込んできたのはシロコだ。

 

 

「その言い方。先生、『顔無し』の顔見たことあるの?」

 

「うん。私と二人でいる時は仮面外してくれるからね。自分の顔気にしているようだけど。私は良いと思うんだけどな……」

 

「へぇ〜。どんな顔なんですか?」

 

 

 ノノミも興味を抱いたのか、前のめりになって話に参加してきた。その拍子に、たわわに実った果実がテーブルに乗って形を変える。

 

 

「どちらかというと、可愛らしい顔立ちかな?」

 

「そうなんですか? ……何というか、普段の『顔無し』さんを見てるとギャップを感じますね」

 

 

 アヤネは、『顔無し』の素顔が男らしい顔だと思っていたらしい。

 少し驚きで目を見開いた後、自分を励ます『顔無し』の姿を思い出したのか、恥ずかしそうにして黙り込んだ。

 

 

「……それ、顔を隠す必要ある?」

 

 

 セリカの問いに、先生は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

「……多分、目を気にしてるんじゃないかな」

 

「目?」

 

「うん……光をね、灯してないの。全てを諦めて、心を擦り減らしたかのような目をしてるんだ。『顔無し』は」

 

 

 そこまで言うと、一転。先生の目は少し吊り上がる。

 怒っているのだ。重く響くような声と、拳を強く握っていることがそれを証明している。

 

 

「あれは、子供がしていい目じゃない」

 

 

 その対象は、彼の目から光を奪った者だ。そして長い期間共に過ごしているものの、一向に『顔無し』を変えられない自分自身にも腹が立つ。

 その場が静寂に包まれる。先生がそれに気付き、明るく振る舞おうとした時だった。

 

 ガラガラガラ、と扉が開く音がする。誰かが入店したようだ。

 セリカが接客モードに切り替え、店の入り口に行く。

 

 

「あ…あのぅ……」

 

 

 そこにいたのは、着ている軍服のような服に似合わない、気弱そうで小柄な紫髪の少女だった。そう、ハルカである。

 

 

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

 

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、御幾らですか?」

 

 

 予想外の質問にセリカは一瞬、目を瞬かせる。しかしすぐに笑顔を向け、返答した。

 

 

「えっと、一番安いのは……580円の柴関ラーメンです! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ん?」

 

 

 ハルカは表情を明るくさせると、そのまま店を出ていく。セリカは少女の行動の意図が分からず、首を傾げた。

 だが、その答えはすぐに現れる。

 

 

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

 

「ふふふ、ほら、何事にも解決策はあるのよ。全て想定内だわ」

 

「そ、そうでしたか、流石社長、何でもご存知ですね……」

 

「はぁ……」

 

 

 再び扉が開くと、ハルカがムツキ、アル、カヨコを引き連れて再度入ってきた。便利屋68である。

 彼女達は予算内で食事ができる飲食店を探していたようだ。

 

 

「4名様ですか? お席にご案内しますね」

 

「んーん、どうせ1杯しか頼まないし大丈夫」

 

「一杯だけ?でも……どうせならゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いている席も多いですし」

 

「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃお言葉に甘えて。あ、わがままついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

 

「えっ? 4膳ですか? ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

 

 

 ムツキの言葉にセリカが驚きの声を上げた。ラーメン一杯を四人で分けることを非難されたと思ったのか、ハルカは頭を下げて謝り始める。

 

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!」

 

「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」

 

「いいえ! お金がないのは首が無いのも同じ! 生きる資格なんてないんです。虫けらにも劣る存在なのです! 虫けら以下ですみません……」

 

「はぁ……ちょっと声でかいよハルカ、周りに迷惑」

 

 

 カヨコはハルカに対して、そう静かに注意した。

 とはいえ、店内は先生達の他に客がいない。それに先生達は顔を顰めるタイプではなく、賑やかなお客さんだね、と見守るタイプだ。

 

 

「……あいつら、また金欠なのか」

 

 

 『顔無し』は仮面を付け直し、入り口の方を見ると呆れたような声を出す。道理で、聞き覚えのある声だと思った。

 

 便利屋68に気付いたものの、食事中というのもあり自分から話し掛けるつもりはない。『顔無し』はラーメンに向き直り、仮面をずらしスープを飲み干しにかかる。

 

 入り口の方では、申し訳なさそうに背を丸めるハルカに対し、お金が無い者同士、何か通じるものを感じたのかセリカが励ましていた。

 

 

「そんな! お金が無いのは罪じゃないよ! 胸を張ってッ!」

 

「へ? ……はい!?」

 

「お金は天下の回りもの……ってね。そもそもまだ学生だし! それでも小銭を搔き集めて食べに来てくれたんでしょ!? そういうのが大事なんだよ! もう少し待っていてね。直ぐに持ってくるから!」

 

 

 何かやる気で満ち溢れたように、厨房に向かっていくセリカを見て、カヨコは微妙な表情を浮かべた。

 

 

「……何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

 

「まぁ、私達もいつもそんなに貧乏って訳じゃないんだけどね、強いて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

 

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

 

 

 適当な席に四人は座る。

 

 

「ん? だってもう仕事終わった後じゃん? ところで、社長の癖に社員にラーメン一杯奢れないなんてどうなの?」

 

「……うっ」

 

「今日の襲撃任務に投入する人員雇う為に、ほぼ全財産使っちゃったし……」

 

 

 ムツキとカヨコの遠慮のない言葉に、アルが見せている余裕な笑みが崩れていく。

 だがすぐに切り替え、またカリスマがある雰囲気を出した。

 

 

「ふふふ。でもこうして実際ラーメンは口にできるわけでしょう? これも想定内よ」

 

「たった一杯分じゃん。せめて4杯分のお金は確保しておこうよ……」

 

「ぶっちゃけ、忘れていたんでしょ? ねぇ、アルちゃん、夕食代取っておくの忘れていたんでしょ?」

 

「……ふふふ」

 

 

 アルは間を開けて笑うことしかできなかった。

 つまりそういうことなのだ。因みに、彼女の内心はこんな感じである。

 

 

(だってカヨコが怖いこと言うから! あんな話されたら、傭兵沢山雇いたくなるでしょうよー!!)

 

 

「……確かに『舐めていると足元を掬われる』とは言ったけど、全財産叩いて傭兵を雇うのは、流石にやり過ぎなんじゃない?」

 

「ビビっていっぱい雇ったんだよ、きっと。アルちゃん素直で可愛いからっ」

 

 

 そういうムツキの言葉に反応して、アルはテーブルを手でたたきながら立ち上がって宣言する。

 

 

「誰がビビっているって!? 全部私の想定内! 失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。それが我が便利屋68のモットーよ!」

 

「初耳だね、そんなモットー」

 

「今思いついたに決まっているよ」

 

「うるさい!」

 

「はい、お待たせしました! お熱いのでお気をつけて!」 

 

 

 セリカが持ってきたラーメンに、便利屋68の面々は驚きを露わにする。

 

 

「ひぇ、何これ!? ラーメン超大盛じゃん!」

 

「ざっと、10人前はあるね……」

 

「こ、これはオーダーミスなのでは? こんなの食べるお金、ありませんよぅ……」

 

 

 テーブルの中央に置かれたのは、大盛りのラーメンだった。特盛といってもいいかもしれない。

 注文した品と間違っていることを心配する彼女達に、セリカは力強く言った。

 

 

「いやいや、これで合っていますって。580円の柴関ラーメン並! ですよね、大将!」

 

「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ、気にしないでくれ」

 

「大将もああ云っているんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」

 

 

 厨房を振り返り、調理をした者の証言も得たから安心したのだろう。

 笑顔でその場を後にしたセリカが、横目で見ると便利屋68の面々は表情を輝かせていた。

 

 

「う、うわぁ……」 

 

「良く分からないけど、ラッキー! いっただきまーす!」

 

「……ふふふ、さすがにこれは想定外だったけれど、厚意に甘えて、有難く頂きましょう」

 

「食べよっ!」

 

 

 全員が小皿にとりわけ、ラーメンを口に運ぶ。

 

 

「!!」

 

「お、おいしいっ!」

 

「なかなかイケるじゃん? こんな辺鄙な場所なのに、こんなクオリティなんて!」

 

 

 どうやらお気に召したようだ。声には出さないものの、カヨコまでもが少しだけ口角を上げ、満足感を表している。

 それ程、この柴関ラーメンは美味い。

 

 

「でしょう、でしょう? 美味しいでしょう?」

 

「あれ……? 隣の席の……」

 

 

 ノノミが身を乗り出し、隣の席のムツキに話しかけていった。

 

 

「うんうん、此処のラーメンは本当に最高なんです。遠くから態々来るお客さんもいるんですよ」

 

「えぇ、分かるわ。色々な場所で色んなのを食べたけれど、このレベルのラーメンは中々お目に掛かれないもの」

 

 

 ノノミの言葉にアルも賛同する。それに続き、アヤネとシロコも会話に混ざりにいった。

 

 

「えへへ……私達、此処の常連なんです、他の学校の生徒さんに食べて頂けるなんて、何だか嬉しいです……」

 

「その制服、ゲヘナ? 遠くから来たんだね」

 

「私、こういう光景を見た事があります、一杯のラーメン、でしたっけ……」

 

「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

「うふふふっ!良いわ。こんな所で気の合う人達に会えるなんて、これは想定外だけれど、こういう予測できない出来事こそ、人生の醍醐味じゃないかしら!」

 

 

(……打ち解けるの早いな)

 

 

 あっという間に和気藹々となるテーブルを見る。流石にあの場に混ざろうとは思わず、『顔無し』は変わらず傍観者でいるつもりだった。

 だが、少しでもあちらに顔を向けたのが悪かったのだろう。

 

 

「……あ」

 

「あはっ」

 

 

 観察するようにアビドスの面々を見ていた、カヨコとムツキと目が合った気がした。

 すぐさまラーメンの器に顔を向ける。だがそれは当然、無意味であった。

 

 

「ネムネムじゃん! 奇遇だねー!」

 

「えっ!? ノノノ、『顔無し』!?」

 

「うわっと……お前なムツキ、毎回乗っかってくるなよ……」

 

 

 背後からムツキが背中に飛び乗ってきたのだ。アルは彼の存在に気付き、驚きを露わにした。

 

 ムツキは『顔無し』の首の前にしっかり手を回し、自分より広い背中に身体を押し付けるように密着させる。

 そして魅惑的な笑みを浮かべ、『顔無し』の胸を摩る。

 

 

「うーん? な〜に。もしかして、ここがドキドキしてる?」

 

「バカ言え、平常だ。ほら」

 

「きゃっ。ネムネムったら大胆〜!……うわ、本当に固い」

 

 

 手の甲は『顔無し』の掌に、掌は固い胸筋に包まれ、ムツキは声を上げた。それから、感触を確かめるように何度も彼の胸を摩っている。

 アビドスの面々や先生から向けられる視線に、『顔無し』は溜息を吐いた。

 

 

(こういう目を向けられるからなんだけど……直しはしないんだろうな、こいつの場合)

 

 

 ムツキの年齢は16歳だが、身体はそれに見合わない幼さだ。

 そのため飛び乗られると、こちらは何もしてないのに苦笑いだったりとか、中には軽蔑するような目で見られるのである。

 

 『顔無し』はアル達の席に着くと、親指で後ろにいるムツキを指す。

 

 

「おい社長。早くこのボマーを回収してくれ」

 

「そ、そうね……じゃないわよ! 生きてるなら、連絡くらい寄越しなさいバカ! 心配したじゃない!!!」

 

「こっちもバタバタしてたんだ。しょうがないだろ」

 

 

 アルに詰め寄られる『顔無し』を見て、先生が後ろから控えめに声を掛けた。

 

 

「随分仲が良さそうだけど、友達?」

 

「いや、同業者。まあでも、知り合って短くはない関係か」

 

「ふっ……そうね。私達は良きライバルにして、お互い切磋琢磨し合う仲なのよ」

 

「どうだか……。どちらかというと、一方的に社長が追い掛けてる感じじゃない?」

 

「そこ! シー!!」

 

 

 慌てて、口の前に人差し指を持ってくるアル。

 『顔無し』は仮面の中で苦笑した。彼女が全く誤魔化せてないので、どんな顔をすればいいのか分からない。

 

 先生はアルに向けて、表情を輝かせる。

 

 

「一体どんな経緯でライバルになったの? 私、気になるな!」

 

「ん。あまり『顔無し』を知らないから、私も気になる」

 

「わ、私も少し……」

 

「私も〜☆ 聞かせてくれませんか?」

 

「おやおや、皆乗り気だねぇ。それじゃあ折角だし、おじさんも聞かせてもらおうかなぁ〜」

 

「……マジか」

 

 

 乗り気ではない『顔無し』は、アルを止めようとするが、調子に乗りやすい彼女を止めることは不可能だった。

 

 

「ええ! ええ!! 教えてあげるわ、私達のアウトローな出会いをね!!!」

 

 

 仕方なく諦めて、自分の席に戻る。

 憂鬱な気分だ。『顔無し』は溜息を吐いた。

 

 

「残念だったわね。恥ずかしい黒歴史でも気にしてる?」

 

「ニヤニヤすんなよ店員さん。早く食わせて、あいつら纏めて追い出してくれると助かるんだけど?」

 

「私も聞きたいから、ダーメ。恨むなら、あまり私達に自分のことを話さない普段の自分を恨むのね」

 

 

 ニヤリとするセリカに、『顔無し』はもう一度溜息を吐いた。

 後はもう祈るしかない。『あの光景』を見ていないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんせ、あいつらが『初めて』だったからなぁ。俺の四肢潰したの。上手く隠し通せてるといいんだが……)




次回は『顔無し』と便利屋68の出会い。つまり過去編ですね。
1話完結の予定ですので、よろしくお願いいたします。

一つのイベントにつき、話数を使い過ぎ? 文字数とか内容を削った方がいい?

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