2026年労基法改正のポイント|中小企業への影響と今からの準備

2026年には会社と従業員を守る重要な法律である労働基準法の大改正が予定されています。
近年の働き方改革の動きを反映した内容となるため、「何もしないまま施行日を迎える」 と、中小企業・小さな会社ほどダメージを受けやすい内容になっていく可能性があります。

たとえば、

  • 「名ばかり管理職」のまま放置していた結果、
    月80時間の残業 × 2年分の場合、300万円前後の残業代請求につながる
  • シフト制の職場で、気づいたら「ほぼ14連勤」に近い働き方が続き、労基署から是正指導を受ける
  • 上司からの深夜や休日のチャット・LINE連絡が積み重なり、若手社員が静かに退職していく

こうしたリスクが、これから数年かけて 一気に“表に出てくる”可能性 があります。

なお、本記事でご紹介する内容は、執筆時点(2025年)で公表されている審議会報告・検討案などにもとづくものです。
現時点ではあくまで「議論中の内容」であり、今後の厚生労働省での検討や国会審議の過程で、具体的な条文や施行時期・運用は変更される可能性があります。

そのうえで、「今見えている方向性」を前提に、中小企業・小さな会社としてどこを押さえ、どう備えていくかを整理していきます。

目次

まず押さえたい:2026年労基法改正で何が変わるのか

背景にある3つの流れ

今回の改正は、これまで積み残されてきた課題をまとめて整理し直すような位置付けで、背景には次の3つの流れがあります。

  1. 人手不足と長時間労働の深刻化
    • 人が足りない分、一部の社員に仕事が集中
    • 忙しい部署ほど「残業ありき」「休日出勤前提」になりやすい
    • 過労・メンタル不調・離職という形で、問題が表面化しています
  2. 働き方の多様化(副業・テレワーク・フリーランスの増加)
    • 正社員だけでなく、副業・兼業・個人事業主として働く人が増加
    • 「フリーランスと言いつつ、実態はほぼ社員」というケースもあり、
      どこまでを労働者として守るのか、線引きの見直しが求められています。2026年労働基準法改正の状況
  3. 健康と生活時間を守る流れの強まり
    • 勤務間インターバルや「つながらない権利」など、“休ませ方” の議論が世界的に進展
    • 日本でも、過労死やメンタル不調をきっかけに、「働かせ方」を見直す機運が高まっています

こうした流れの中で、研究会・労働政策審議会での議論が進み、
2026年の通常国会で改正案を提出し、主要な項目は2027年以降に施行していく方向 で検討が進められています。2026年労働基準法改正の状況

ここで大事なのは、まだ最終決定ではなく、

「この方向で法案がまとまっていきそうだ」

という“現在地”だということです。

中小企業が押さえたい5つのポイント

ここからは、条文レベルの細かい話はいったん置いて、
中小企業に特に影響が大きそうなポイントを5つ に絞って整理します。

ポイント① 勤務間インターバル義務化の方向(原則11時間)

検討の方向として、勤務間インターバル制度の義務化(原則11時間) が挙がっています。

勤務間インターバルとは、

「今日の退勤時刻」から「明日の始業時刻」まで、一定の休息時間(原則11時間)を空けましょう、という考え方です。

なぜ11時間なのか。
大まかには、

  • 通勤
  • 食事・入浴・家事
  • 家族との時間
  • 7〜8時間の睡眠

といった、人として普通に生活するために必要な時間 を確保するラインとされています。

たとえば、

  • 夜23時に退勤
  • 翌朝8時に出勤

という働き方は、インターバルが9時間しか空いていません。
今後、こうした働かせ方を前提にしたシフトは、見直しが必要になる可能性が高い と考えられます。

シフト制・交代制の職場(小売・飲食・介護・運送など)では、このインターバルの確保が、シフト設計の前提条件になっていきます。

ポイント② 休日・連続勤務の上限見直し(“14連勤”問題など)

休日や連続勤務に関するルールについても、見直しの方向性が示されています。

  • これまで認められてきた「4週4休」の特例を見直すこと
  • 「2週2休」を基本とする形を検討していること
  • 14日以上の連続勤務を禁止する案 が出ていること などです。

これにより、

  • 「繁忙期は3週間ほぼ休みなし」
  • 「誰がいつ法定休日なのか、会社として明示していない」

といった運用は、ますます危険なゾーンに入ってきます。

特に、

  • 建設
  • 製造
  • サービス
  • 小売・飲食

など、人手不足の業界では、

「今の営業日・営業時間のまま、本当に回るのか」

という根本的な問いかけが必要になっていきます。

ポイント③ 「つながらない権利」と退勤後・休日の連絡ルール

欧州などで先行しているのが、「つながらない権利」 の議論です。2026年労働基準法改正の状況

日本でも、

勤務時間外のメール・チャット・電話に対して労働者が応答を拒否できる権利について、ガイドラインを整備する方向で検討が進められています。

中小企業では、

  • 社長や店長から、退勤後・休日にLINEや業務チャットが飛んでくる
  • 従業員は「既読を付けたら返さないと悪い気がする」
  • 結果として、24時間“心が仕事モード”になってしまう

という状況が珍しくありません。

一方、社長・店長側から見ると、

「これは緊急だから仕方ない」
「今日だけはどうしても連絡しないと」

と思っているうちに、毎日が“緊急” になってしまっていることも多いものです。

今後は、

  • 何時以降は業務連絡を原則控えるのか
  • どうしても必要な「緊急連絡」とは何か

といったルールを、会社として決めておく必要性が高まっていくと考えられます。
このあたりは、第2回の記事で、チャットツールの在席管理など具体策も交えて掘り下げる予定です。

ポイント④ 管理職・裁量労働の線引きがより重要に

検討項目の中には、管理監督者や裁量労働制に関する見直し も含まれています。2026年労働基準法改正の状況

中小企業に関係しそうなのは、主に次の2点です。

  1. 管理監督者を含めた労働時間管理の厳格化
    • 「管理職だからタイムカード不要」という運用は、今後ますます危険になります
    • 管理職の長時間労働・健康確保も「会社の責任」として問われやすくなっていきます
  2. 管理職の判断基準の明確化(名ばかり管理職対策)
    • 役職名ではなく、「権限」「年収水準」「勤務の自由度」といった実態で判断する方向
    • 責任と待遇のバランスが取れていない場合、見直しを迫られる可能性

ここは、残業代請求リスクと直結する部分ですので、第4回の記事で「フリーランス新法」との関係も含めて詳しく扱う予定です。

ポイント⑤ フレックス制・時間単位有休など柔軟な働き方の拡大

最後に、柔軟な働き方を広げる方向の見直し についても触れておきます。2026年労働基準法改正の状況

たとえば、

  • テレワークと通常勤務を組み合わせやすいフレックスタイム制
  • 時間単位有給休暇の上限を広げる方向の検討

などが挙がっています。

「制度としてよく分からないから全部スルー」という会社も少なくありませんが、
実際には、

「1時間だけ抜けて病院へ行けるようになった」
「子どもの学校行事に参加しやすくなった」

といった形で、時間単位有休を導入したことで従業員満足度が上がった事例もあります。

中小企業の場合、全面導入ではなく「特定部署・特定メンバーから試す」

といった段階的な導入も十分に選択肢になります。

何もしないとどうなるのか?中小企業が抱える3つのリスク

リスク① 残業代請求・労基署対応の負担が一気に増える

検討の方向性として、

管理監督者(いわゆる管理職)を含めたすべての労働者の労働時間について、客観的な把握を徹底すること

が求められていくとされています。

ここで浮かび上がるのが、「名ばかり管理職」 の問題です。

  • 役職名は「課長」「店長」
  • 出退勤は自由ではなく、残業も指示される
  • 年収も、管理職として特別高いとは言えない

このような場合、裁判や行政の場では
「実態としては一般社員と同じ」 と判断されることがあります。

その結果として起こりうるのが、

  • 過去2年分の未払い残業代の請求
  • それに加え、裁判所の判断次第では 同額の「付加金」(最大2倍) を支払う義務が生じる可能性

という、かなり重たい負担です。

長時間労働が常態化している管理職ほど金額も大きくなり、
中小企業にとっては、経営を揺るがすレベルのリスク になりかねません。

リスク② 採用・定着で「選ばれにくい会社」になる

もう一つ見逃せないのが、採用・定着への影響 です。

若い世代ほど、給料だけでなく、「休み」や「働きやすさ」、勤務時間外の連絡に対するスタンスを厳しく見ています。

さらに今は、Googleマップのクチコミ、転職会議やOpenWorkのようなサイトなどで「休みが取りづらい」「休日にLINEが来る」と書かれてしまえば、それだけで 応募が激減する時代 です。

今回の改正に関連して、

  • 勤務間インターバル
  • つながらない権利

といったキーワードが世の中に広がれば、

「ちゃんと休ませてくれる会社」と
「いつでも連絡が来る会社」

の差は、今まで以上にはっきりと見えるようになります。

リスク③ 現場の“自己流運用”が固定化してしまう

規模の小さい会社ほど、

  • 部署ごとに残業・休日の扱いがバラバラ
  • 店長・所長の「さじ加減」で運用されている

という状況になりがちです。

改正の方向性をきちんと確認しないまま、この状態を放置してしまうと、

  • 問題が表面化したとき、会社として説明できるルールや記録がない
  • 「その場しのぎ」の対応に追われ、社員の不信感も募る

という悪循環に陥ります。

「今の運用を一度立ち止まって見直す」 ことが、むしろ被害を小さくする近道です。

準備を4つのステップで整理します

「ここまで読んでも、正直どこから手をつければいいか分からない」という方も多いと思いますので、
準備の進め方を 4つのステップ に整理します。

ステップ① 自社の“現状”をざっくり棚卸しする

いきなり就業規則を書き換える必要はありません。まずは次のようなものを確認します。

  • 就業規則(労働時間・休日・休憩・残業・管理職の扱い)
  • 36協定(特別条項の有無・上限時間)
  • シフト表・タイムカード・勤怠データ
  • 管理職(店長・リーダーなど)の働き方の実態

この時点では、「どこが法令とズレているか」を完璧に把握する必要はありません。
「なんとなくここが危なそうだ」 と感じる箇所に目星を付けるだけで十分です。

ステップ② 危なそうなポイントにあたりを付ける

棚卸しをしてみると、おそらく次のような気づきが出てきます。

  • 「この部署、インターバルがほとんど空いていないのでは?」
  • 「繁忙期には10連勤以上になりがちだ」
  • 「管理職の残業時間が、一般社員より長い」

重要なのは、ここで 無理に結論を出そうとしないこと です。
まずは「危険そうな場所の地図」をつくるイメージで十分です。

ステップ③ ルールと運用を“少しだけ”変える案を考える

次に考えたいのは、いきなり完璧な制度設計ではなく、ミニ改善のアイデア です。

たとえば、

  • 22時以降の業務チャットは原則送らない・見ない
  • 月に1回、連続勤務日数をチェックする時間を設ける
  • 管理職にもタイムカードを打刻してもらう
  • 時間単位有休を、一部部署に試験導入してみる

といった小さな一歩です。

3か月だけ試してみて、

  • 回るところ
  • 回らないところ

を見極めてから、広げるかどうかを判断する方が現実的です。

ステップ④ 本格的な見直しは、専門家と一緒に“設計”する

インターバル・休日・管理職・フレックス・フリーランス…。
ここまでくると、どうしても 労務・法令・経営 が絡み合ってきます。

  • 社労士:労働時間・残業・社会保険など「労務の専門家」
  • 行政書士:規程や契約書、許認可との関係など「法令文書の専門家」
  • 中小企業診断士:ビジネスモデルや人員配置など「経営の専門家」

それぞれ得意分野が違います。

中小企業の場合、

「労務リスクを減らしながら、
会社としても無理のない働き方をどう設計するか」

という視点が欠かせません。
本格的な見直しは、こうした専門家と一緒に “自社に合った形” を考えるのが一番効率的です。

まだ時間がある今こそ、落ち着いて準備できます

2026年の労基法改正は、ニュースだけ見ると

  • 「またルールが厳しくなるのか」
  • 「中小企業いじめでは?」

と感じてしまう面もあるかもしれません。

しかし視点を変えれば、

  • いつまでも“根性頼み”の働かせ方から卒業するチャンス
  • 社長も社員も、長く続けられる働き方に変えていくきっかけ

とも言えます。

特に、中小企業・小さな会社は、大企業ほどルールがガチガチではない分社長の決断ひとつで働き方を柔軟に変えられる という強みがあります。

つむぎ行政書士事務所では、
・労働法制・労基法改正の動向整理や、自社への影響の「見える化」
・働き方やシフト体制を、経営全体のバランスから考えるご相談
・法改正を踏まえた事業計画・人員計画の見直し

といったサポートを、行政書士 × 中小企業診断士 の視点から行っています。

具体的な労務管理の運用や、就業規則そのものの作成・変更、個別のトラブル対応などについては、提携する社会保険労務士と連携のうえでサポート いたしますので、安心してご相談ください。

「うちの場合、どこから手をつけたらいい?」
「この働かせ方、改正後も大丈夫そう?」

といった、ふわっとした段階からで大丈夫です。
2027年以降の本格施行を見据えつつ、今からできる一歩 を一緒に考えていきましょう。

※本記事は、執筆時点(2025年)で公表されている審議会報告・検討状況にもとづいています。
今後の法改正の内容・スケジュールによっては、記載内容が変更となる場合があります。

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