「苦しみに満ちた人生を、いかに生きるべきか」ーーこの問題に真剣に取り組んだのが、19世紀の哲学者・ショーペンハウアー。
哲学者の梅田孝太氏が、「人生の悩みに効く哲学」をわかりやすく解説します。
※本記事は梅田孝太『ショーペンハウアー』(講談社現代新書、2022年)から抜粋・編集したものです。
幸せになるための「3つの財宝」
ここからはさらに、『幸福について』の内容を詳しく見ていこう。
「第1章 根本規定」では、先述したとおり、幸福の礎となる「3つの財宝」について規定されている。要は、それらを持っているかどうかで、幸福な人生になるかどうかが決まってしまうのだというのだ。
第1に、「そのひとは何者であるか」。すなわち、人柄や個性、人間性などの内面的性質が第一の財宝とされる。そこには健康や力、美、気質、徳性、知性、そしてそれらを磨いていくことも含まれるのだという。
第2に、「そのひとは何を持っているか」。これは、金銭や土地といった財産、そのひとが外面的に所有するものだ。
第3に、「そのひとはいかなるイメージ、表象・印象を与えるか」。これは、端的に言って他者からの評価であり、名誉や地位、名声である。
わたしたちはたいてい、第2のものや第3のものを追い求めてしまう。まさにこれらは、「~がほしい」、「~されたい」という欲望の対象で、どれほど多くを手に入れても、決して満足できないものである。
したがって、何かを手に入れさえすれば幸福になれるという考えは、取り去るべき臆見だといえる。
もちろん、こうした第2、第3の財宝がまったく価値がないものだということではない。生きていくためにはこれらが必要であることは言うまでもないし、それらを手に入れることをよいことだとわたしたちは当然考えているし、社会生活もまたそれらの価値を中心に出来上がっている。
そうしたものを一切捨て去るべきだというのが主著の〈求道の哲学〉だとするならば、『幸福について』で力点が置かれているのは、第2、第3の財宝よりも第1の財宝のほうが価値あるものだという優先順位を「あきらかにする」ことである。
結局のところ、「~がほしい」、「~されたい」という欲望を節制し、コントロールできるような、穏やかな内面的性質を備えているひとこそが幸福な人生を送るのではないだろうか。