第36回安倍氏メッセージに「絶望と危機感」 山上被告「教団が認められる」
安倍晋三元首相銃撃事件の第11回公判が25日、奈良地裁であった。山上徹也被告(45)=殺人などの罪で起訴=が前回に続く被告人質問で語ったのは、兄の死をきっかけに噴き出した教団への恨みと、支援する政治家への感情だった。
山上被告は2005年に自殺を図り、海上自衛隊をやめて自宅に戻った。母親が多額の献金をした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)からの返金が始まったのはこの頃で、妹の大学進学の資金にするよう勧めたという。「一番犠牲を強いられている」と感じていたからだ。
「食べていく」ためにそれから何年かで、宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー2級の資格を取った。受験勉強の一環で昔の自宅や祖父の会社の登記を調べるうち、母親は、自宅を売ったのは祖父の借金返済ではなく「献金のため」だったと打ち明けた。
弁護人「どう思いましたか」
被告「それまで理由もわからず右往左往してきた。苦しい原因の根底には母のうそがあったとわかり、気が楽になった」
それから一人暮らしを始め、家族とは疎遠になった。信仰に反対していた兄が自殺したのは15年のことだ。「兄を突き放したこともあった。非常にショックだった」
通夜には教団関係者が2人現れ、突然、棺(ひつぎ)の前で教団の儀式を始めたという。「やめてくれ、帰ってくれ」と伝えたが、儀式を続けた。「びっくりした。黙って見ているしかなかったが、なんてことをするんだと」
その年、教団の名称が「統一教会」から世界平和統一家庭連合に変わった。「何の問題もない団体」と宣言しているように映った。自分が兄の死を悔やんでいるとき、母と話すと、兄が苦しんだのは教団に返金させたからと考えているように感じた。
自身の自殺未遂に、通夜での教団の振るまい。負の記憶が「一気にフラッシュバック」したという。
18年7月、ナイフと催涙スプレーを持って岡山のイベント会場に行ったが、幹部を前にためらった。翌年は火炎瓶を持って愛知の会場へ。ここでも襲撃できず、火炎瓶は海に捨てた。
相手から距離を取りつつ、確実に――。そう考えて銃を作り始めた。手を動かしながら思い出していたのは、兄のことだったという。
被告「電気式の銃もあったので、配線をつけたりラジコンの仕組みを使ってみたり。兄は小学生のときラジコンやミニ四駆、エアガンが好きで、はんだごても使っていたので」
弁護人の質問は、安倍氏を狙った経緯にも及んだ。
被告は06年の出来事を挙げた。福岡であった教団友好団体の集会で、官房長官だった安倍氏の祝電が読み上げられた。
被告「その頃、奈良教会の幹部は『安倍さんはうちの教義を知っている、我々の味方だ』と言っていた」
弁護人「教団がそういう風に宣伝していた」
被告「そうかと思います」
多くの国会議員が集会に参加してきたことにも触れ、「非常に良くない」と語った。
安倍氏が21年に友好団体の集会に送ったビデオメッセージを見たときは「教団が社会的に認められてしまう。色んな被害を被った側からすると非常に悔しい、受け入れられない気持ち」になったという。
弁護人「感情を言語化すると?」
被告「絶望と、危機感だと思う」
弁護人「怒りは?」
被告「安倍元首相に対してではないですが、その状態になっている怒り。怒りというか……困るという感情ですね」
銃「逃走用に追加で2丁は必要だと思っていた」
押収された7丁のパイプ銃や火薬は、どれほどの準備をして作られたのか。検察官との質疑は、主にその詳細を明かすことに費やされた。
被告が初めて教団幹部を襲おうとしたのは2006年ごろ、幹部が大阪に来たときだったという。「ナイフと催涙スプレーを持って行ったが、襲撃はできなかった」。19年に愛知でも襲撃に失敗すると「確実に仕留めながらも他に被害がない」手段として、銃の製造を始めたという。
検察官「製造方法をどうやって調べたのか」
被告「銃や火薬を作る海外の動画がネットにあった。ゲームも参考にした」
検察官「作った銃を使って敵を倒すゲーム?」
被告「そうです」
平日は仕事をし、休日は銃と火薬の製造に明け暮れる生活だったという。何丁も作ったのは「威力が心もとなかったから」。襲撃のために1丁、逃走用に追加で2丁は必要だと思っていた、と証言した。
火薬を作る際は、海外のサイトなどを参考に、12時間以上かけて材料を混ぜていたという。
検察官「どこで混ぜていましたか」
被告「人気のない広い駐車場で夜中にしていました」
検察官「なぜ」
被告「万が一爆発しても被害が出ないように」
銃と火薬がある程度完成すると、グーグルマップの航空写真で見つけた山中の空き地で試し撃ちをした。「10回以上は行った」という。
火薬を作るために借りたガレージは、22年3月に解約した。この頃には「できることは大体やった」と思ったという。
事件8日前の同年6月30日、教団のイベントが埼玉であると知り、教団に内容を問い合わせたという。検察官に「安倍氏を襲撃対象と決めたのはこの後か」と聞かれ、「確定したのはその後です」と答えた。
被告人質問は来月2日も続く。
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報道では、安倍元首相を狙ったのは、「偶然」という意見がありましたが、このやりとりを見る限り、2006年には山上被告がつながりを認識し(それは根拠のないことではないと思われます)2021年のビデオメッセージに強い危機感を抱いたことが分かります。山上被告のものとされるXのポストでも、最初は自民党や安倍元首相を支持し擁護するものが多かったですが、この頃から、信じていたものに裏切られた、というような書き込みが増えています。 確かに、「保守」「日本を取り戻す」と言い、「家庭」を重視すると主張している政治家たちが、集票のために、人々の家庭が崩壊し子どもたちが自死したり重い後遺症を生じるような教団を利用し、協力しているなどというのは、「裏切り」であると感じられても仕方がないだろうと、山上容疑者の立場を考えると、思います。 問題は、やはり、容疑者の情状酌量に関わる部分だと思いますが、自民党が集票し権力を得るために統一教会と協力をしてきたこと、その罪の軽重と責任を考えなくてはならないのではないでしょうか。いったい何人がどれほどの苦しみを経験し、それはどのように正当化され贖われるというのでしょうか。
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- #安倍元首相銃撃
安倍晋三元首相銃撃事件
2022年の安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告の裁判が始まりました。旧統一教会の影響をめぐる検察と弁護団の対立などから公判前整理手続きが長期化し、初公判まで3年余りを要しました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]