もがみ型を建造する豪造船所の筆頭株主問題について豪政府関係者は「Hanwhaが筆頭株主になっても知的財産権保護について保証できるが日本は神経を尖らせている」と、Austalも「会社の20%を所有したところで三菱重工業の企業秘密に何もリスクをもたらさない」と述べた。
参考:WA defence: Japan lodges formal concerns with Defence over South Korean takeover bid for Austal
参考:Austal ‘understands’ Japanese nervousness about South Korean push into Henderson
独自の防衛装備を売る(共有する)ということはリスクとのトレードオフであり、他国はそのリスクを管理しながら防衛装備品を進めている
日本はオーストラリア海軍向けのフリゲート艦入札で勝利し、三菱重工業は100億豪ドル規模とも言われるフリゲート艦調達の優先交渉者に選べれ、正式に契約を締結出来れば1番~3番を日本国内で、4番艦~11番艦を西豪パースにあるヘンダーソン造船所で建造する予定だが、Hanwhaは以前から造船所を所有するAustalの買収に動いており、ナショナルプレス・クラブの講演会に出席した鈴木大使は「もしHanwhaがAustalの筆頭株主になれば日本政府から何らかの反応があるだろう」と述べた。

出典:Defence Australia
鈴木大使の発言は「日本政府がもがみ型護衛艦を建造するAustal株の持分比率を注視している」という意味で、日本側が豪州の外国投資審査委員会が行っている審査に何らかの意見を表明したのかという質問に「まだ何も表明していないと思う」「我々はオーストラリアを信頼している」と述べるに留まり、これ以上本件について掘り下げていないが、韓国メディアは「HanwhaがAustalの筆頭株主になれば韓国資本が統制する造船所で日本の護衛艦を建造する状況が生まれる。この状況を日本は懸念しており、鈴木大使も『信頼している』と言いながら日本政府が何らかの立場を表明する可能性を示唆した」と報じた。
この話をシンプルを説明すると「バイデン政権時代のデル・トロ米海軍長官が日本企業や韓国企業に米造船業界への投資を呼びかけた」「Hanwhaは米国防総省のプログラムに元請けとして参加する資格をもつAustal USAを手に入れるため豪Austal買収に動いた」「これを拒否されためた発行済のAustal株を9.9%取得した」「さらにトータル・リターン・スワップを通じた株取得(9.9%)で筆頭株主の地位を手に入れようとしている」「米国の外国投資審査委員会はHanwhaに対して最大100%の持分保有を承認した」「豪州の外国投資審査委員会は5ヶ月以上も結論を先延ばしにしている」となる。

出典:Photo courtesy of US Navy
要するにHanwhaのAustal買収や株取得はフリゲート艦入札結果が出る以前から動いていた案件で、その意図も「元請け資格をもつAustal USAを手にいれるため」であり、仮にHanwhaが筆頭株主になったところでAustalの技術データやシステムにアクセスできる訳では無いため、鈴木大使の発言=懸念は日韓関係に根ざした感情的なもの、つまり「日本の護衛艦を韓国企業が筆頭株主の造船所で建造している」「日本の技術が韓国に盗まれる」という風評被害に直面することを恐れているという意味だ。
The West Australianは16日「韓国企業がパース郊外で日本の護衛艦を建造するAustal買収に動いていることに日本政府が非公式な懸念を表明した」「そのためAustalは外交上の嵐の中心に立たされた」「日本の政府高官はHanwhaの動きに驚き、防衛装備庁は豪国防省に対して『Austal株の持分比率引き上げへの懸念』を少なくとも2回伝えてきた」「豪政府関係者は『HanwhaがAustalの筆頭株主になっても知的財産権保護について保証できるが日本は神経を尖らせている』と述べた」と報じた。

出典:Commander, U.S. Naval Forces Europe-Africa/U.S. 6th Fleet
Austalのグレッグ最高経営責任者もWAの取材に「Austal株の持分比率引き上げに関する日豪間の協議については一切関与していない。企業視点で三菱重工業が自社の知的財産保護に神経を尖らせるのは当然だと理解しているが、同じプライムとして当社にも高度な情報保護システムがあり、三菱重工業の知的財産にリスクが生じないとことを確信している」「そもそも会社の20%を所有したところでAustalの技術データや社内システムへのアクセス権は得られない」「Austalと三菱重工業の提携は三菱重工業の企業秘密に何もリスクをもたらさない」と述べている。
韓国メディアもグレッグ最高経営責任者の発言を受けて「HanwhaはAustal買収に社運を懸けて挑戦している」「米フィリー造船所に加えてAustal USAまで確保できれば東海岸と西海岸の両方に建造拠点を構築することができる」「Hanwhaは既に米国から承認を取り付けている」「韓国とオーストラリアも防衛・産業協力で緊密な関係を構築してきたため持分比率引き上げ案が承認されると期待している」「Hanwhaの動きに巻き込まれて日本初の大規模な艦艇輸出は複雑な状況に直面している」と報じており、日本の護衛艦輸出を妨害するという小さな目的のためにAustal買収に動いている訳では無いという意味だ。

出典:Hanwha
日本政府や三菱重工業の懸念は十分理解できるし、日本初の大規模な艦艇輸出が「韓国企業が筆頭株主の造船所で建造されている」と報じられれば「世論の反応がどういうものになるのか」も予想がつくものの、もう「黙って完成品を買えばいい」という防衛装備品の取引方法は通用せず、日本が今後も国際市場に出ていくなら現地企業との提携や共同生産が求められるのもほぼ確実で、独自の防衛装備を売る(共有する)ということはリスクとのトレードオフであり、他国はリスクを管理しながら防衛装備品を進めている。
そのため「日本の防衛装備品を輸出したいけどリスクは背負いたくない」では国際市場に出ていくのは難しく、豪州への艦艇輸出は様々な面で「防衛装備品の輸出に関する認識」を見直すきっかけになるなればいいと思っているが、日本の防衛装備品輸出に韓国という名前がちらつくの嫌だと考える人々の気持ちも分からなくない。
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※アイキャッチ画像の出典:海上自衛隊
















>Hanwhaが筆頭株主になっても知的財産権保護について保証できる
本当にそうであってほしいが…
ただ韓国には過去の実績があるし、その実績を自慢話にしてるお国柄だからなぁ
手段を択ばずの傾向はいまだ強いし、その辺り尾で認識の齟齬が生じてなければいいが…
あと日本人の価値観では信用や信頼は積み重ねの結果付いてくるものだという考えや価値観があるが、向こうはそうではないしなぁ
やっぱり不安ではある
経営する上はわかっていてもわかってない営業のセールストークがガチ目で怖いんだよなー
日本は今、ここで実積を作らないと永遠に、世界の軍事産業市場から閉め出される。国も企業も覚悟を決めるしかない。
情報流失やリスク云々を考えるなら、最初から武器や装備品の輸出をやるべきでは無いと思いますけどね
武器や装備品の輸出をする以上ある程度の情報流失などは避けられませんでしょうし。
そもそも韓国が造船所の買収に乗り出していたのは分かっていたはずなのに、今更文句を言うのはお門違いでしょう。
新鋭のASEV建造なら確かに機密流出が怖いが、量産艦のもがみ型の技術を盗まれて困るものなんてあるのか。あのくらいの船、韓国ならちょちょいのちょいっと作れるだろうに。向こうは腐っても西側で、自由民主主義陣営では最大の造船大国で、下手すりゃこっちより技術上なんだから、余計な心配しないで輸出してりゃいいのだ
ノウハウは決して成り上がりの規模に比例するものではなく。
長年の時間的実績と努力の積み上げ、そして国家方針の上に蓄積されるものです。造船においても日本のハード(物理的)ものづくり技術は世界最高峰ですし、そもそも日本でも韓国でも他国が持っていないその国独自のノウハウがあるのは自明です。信頼に対する考えの違いも、韓国の前科も事実。根拠なき懸念が溢れるのも仕方ないですから、Austalがどれだけ信用を勝ち取れるかでしょう。
確か韓国案の選定からの脱落理由は、艦艇建造の技術的なレベルだったと記憶していますが?
Hanwhaが20%の株式を握れば、当然経営に関与することを主張するでしょうし、人も送り込んで社内でそれなりのポジションを要求してくるでしょう。知財関連やセキュリティ、人事、技術を所管する役員ポジションを掌握すれば、情報へのアクセスの閾は一気に下がります。
日本企業が韓国企業を警戒するのは、合法非合法を問わず、商倫理無視のあらゆる手段で情報の窃取を試みることを知悉しているからです。盗まれる奴が間抜けと嘯く連中相手に、信用もへったくれもありません。(と、過去に被害にあった企業の当事者の一人が言ってみる。)
安全保障委員会が政府にNavantia、現代重工業、Hanwha Oceaの入札除外を勧告したとしか明かされておらず、韓国案の脱落理由が艦艇建造の技術的なレベルとは何処情報ですか? 今後の記事作りに活かしたいので教えていただけると助かります。
日本案とドイツ案に絞り込まれたという報道の中で、それぞれの脱落理由が記載されていた報道記事で見た様に記憶しています。
ただどこの報道記事で、誰によるコメントであったかまでは、記事の日時も含めて記憶していません。
ただ過去スレでも、韓国案になっていたフリゲートの艦首乾舷が海象の激しい海域での戦闘には不向きなのでは無いかと指摘していたくらい、韓国の艦艇設計には知見の不足を感じていたので、成程なと印象に残っていました。
もしそういう事実が無いのであれば、お詫びして訂正します。
韓国の沿岸で使用する用途のフリゲートをそのまま持ってきたのが問題ではないですか?韓国は大型戦闘艦も建造してますし、船の技術問題というよりやる気のなさ、或いはオーストラリア海域の分析不足の問題でしょう。
結局ソースもなし、印象操作しようとしてたとこをバレちゃいましたね。
韓国海軍の蔚山級護衛艦3番艦の「全南」が11月25日に進水したとの記事に添付されている写真をみると、船体全体に、いわゆる「やせ馬現象」が見てとれる。やせ馬は、船体外販にかかる圧力が不均一のために骨格のない場所がへこむためとされているけれど、新造船でこれほどの規模でのやせ馬現象は信じがたい。韓国造船技術の一端が見られる事象です。
ここで聞かれてるのは「韓国の技術レベル」やそれについての私見じゃなくて「『韓国の脱落理由が艦艇建造の技術的なレベルだった』ことのソース」なのでは。
日本はオーストラリアから情報流出する懸念をする暇があるなら自分から漏れているものを先になんとかするべきだと思うの。
造船は特に仲悪いし、致し方ない。オーストラリアの軍需企業だし、韓国の金で情報垂れ流すほどゴミではないのは分かるし、韓国も現状はアメリカへの踏み台で日本に関心はないのも分かるが、誰かの少しの悪意で均衡が崩れ去るような危うい仕組みを放置して良いものではない。
日本としても韓国と同等の権利を得るために出費を惜しむべきではないし、豪州側も韓国に技術が流れるなら相応のペナルティがあるように契約しておくべきだ
こういうゴネ方はいつも韓国がする側だったから新鮮だなw。
勝手に第三国のパンフレットに改もがみ型いれそうだから普通に懸念していいと思うな
それが販売用のセールストークだろうともあとで問題引き起こすかねないし。
向こうが「そんな心配はない」と言ってるんだからそれでも心配なら契約内で明文化しとけばいいだけじゃないかな。懸念は理解する、とも言ってくれてるんだし。
まあ産業政策でもある以上、当然現地に技術は落ちるし、その内いくらかは株主を含む関係国に流れるでしょうが、もがみ型の技術が多少流れるくらいは輸出の当然の代償として容認すべきでしょう。
相手が韓国なのがどうしても嫌なら口出したいなら金を出せ、というだけの話で豪政府に口利いてもらってオフセットとしてシブメックの株でもがっつり取得してプライム引き受けさせればいいんじゃないですかね。
何にしてもあんまり騒ぐ様な話じゃない様な。
現実的な落とし所はどうするのが良いのでしょうか?
豪州及びAustralには流出時のペナルティを課すとして、立証は困難な部分があります。韓国に代わってAustralを日本側が買収するとかでしょうか。それとも流出を許容するのか気になります。
韓国の代わりに日本が買収する。
日本の造船業界にそんな余力ないよ
造船所や必要な人材を両政府の持ち株会社に売却あたりじゃあないですかねー
>豪州及びAustralには流出時のペナルティを課す
買ってもらう側にそんなことできないでしょ。客にペナルティを課す??
世論の反発を覚悟してもがみ級の受注を放棄するか、Austalが技術流出しないように注視するしかないと思います。
契約外の技術流出には当然ペナルティあるでしょ。
防衛機密の話なので、政府間及び企業間で機密保護について具体的な契約を結ぶのは、基本中の基本です。
三菱重工とAustalとの間では、情報保護について詳細な契約がなされるはずです。
具体的には、Austal社員のうち、機密情報にアクセスできる人の範囲が契約で定められるでしょう。
これは一般社会でもよくあることで、例えば市長でも市役所が持っている市民の個人情報を勝手に閲覧できないのと同じです。
また、契約では、内部統制システムや機密漏洩発覚時の調査、賠償金についても、詳細な取り決めがあるでしょう。
機密保持契約書だけでも分厚いものになると思いますよ。
韓国側にFFMの全情報が渡るリスクを甘受してでもFFMを売るかどうかですね
これが潜水艦だったら止めとけと言いたいですが
FFMに関して言えば漏れたとして日本の防衛環境にとって致命的にはならないかなと
とはいえ日本にとって今後数十年使っていくであろう最新鋭艦であることには違いないので
韓国側に機密が渡らないよう出来る限りの対策は取ってほしいです
むしろ勝手に第三国にセールス(韓国側のやつをすすめために改もがみを持ち出して)相手国が勘違いするケースとかそれに日本政府が巻き込まれるとか
相手国が悪意なく自国が有利になるために巻き込んでくる可能性は十分あるから
出来るだけトラブル源になりそうなところとは離れられるんなら離れた方がいいっていうのはあるから日本側の対応も当然なんだよね。
まあ筆頭株主になったからって造船所の中を好き放題見て回れる訳じゃないし
そもそも豪州だって機密が第三国に漏れるの嫌でしょ
詳しく知らないんですが
筆頭株主でも見て回れないものなんですか?
上場企業である三菱重工業の筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(=株式信託口, 15.6%)ですが、「彼らやその資金を提供している機関投資家に機密情報へのアクセス権がある」とは考えないし言わないですよね。
それと同じことかと思います。
アクセス権を得るには経営権を完全に掌握するだけの株式所有が必要ですが、そのレベルはオーストラリア政府が止めるかと思います。
株主は出資割合に応じて利益を得る権利がありますので。
筆頭株主だけが秘密を得て利益を得る行為は、他の株主に損害を与えることになるのでダメです。
本業の発電用ガスタービンで調子良い三菱が買っちゃえば
20%の株式取得、かなり重いですからね。
3分の1追加の株式取得、他社の株式取得、資産売却などを含めて、経営に関することに、何らかの優先条項がついてるのか確認する必要があるでしょうね。
時価総額3000億円くらい(27.98億豪ドル(ASX: ASB)×101.5円)ですから。
(3分の1)13.4%なら400億
(過半数)30.1%なら900億円の追加投資になります。
日本有利な条件闘争するのは。多少なら間違っていないですが、最終的には政治判断でしょうね。
船舶のキーデバイスは、現地生産分も急に全部現地調達できないでしょうし、そもそも日本生産と思ってたのですが合ってますかね(スクリュー・バルブ・タービンなど)?
直近分だけで100億豪ドルの契約を左右する話なんだから、本当に嫌なら数十億豪ドルなら出すんじゃないですかね。
株買うだけなんだから別に損失じゃないし、それどころか(その必要があるということは)大きい仕事が確定してる訳で。
仰る通りと思います。
三菱重工が、過半数出資=1500億円・3分の1=1000億円ならば、普通に出せる範囲ですし。
国防案件ですから、ODAに金使うくらいなら、政府が買収資金に低利融資しても効率いいわけで。
大きい仕事なうえに、NZ案件など今後の飛躍も見込めるわけですから、上手にやって欲しいものですね。
技術流出というよりは日豪の取引で第三国(企業)にお金が流れるのが面白くないってのはありそう
造船分野で日韓は競合してるし、次の世代のセールスで「うちの豪州子会社(現時点では違うが)は、もがみ型を〇〇隻作った実績があります!」とかやられたら敵に塩を送るようなものだし
たぶん元記事はそうなってるよ、って解説してくれてるんだろうけど、Austalが「もがみ改型」を建造することは確定事項なんだろうか?
そもそもアルミ船体が専門で鋼船体は哨戒艇クラスくらいしか作った事のない所がいきなり満載排水量6,200tの大型艦を作れる気がしない。
「ヘンダーソン造船所」=Austal という解説も余所で確かに見た事あるけれど、ヘンダーソン地区にはシブメック(Civmec)、BAEシステムズ・オーストラリア・マリタイム(旧ASC造船部門)も隣接してあるわけで、シブメックがやる気満々だという記事は結構見かける。
まあ、Austalがシブメックを買収する前提ならあり得るかもしれないけど。
世界の艦船から引用
>現地建造を担当する主体として,オースタルの傘下にオースタル・ディフェンス・シップビルディング(Austal Defence Shipbuilding Pty Ltd.)を新たに設立,豪政府も一部を出資することになった。
なるほど、別会社を作るよ、って話だったんですね。勉強になりました。