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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
虚塔の宴

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神奈水樹の日常

この話はTwitterで本の事に反応してくれた蝉丸Pに捧げます。

https://twitter.com/semimaruP/status/1329039054424326151?s=20

 神奈水樹の靴箱は基本空である。

 ついでに言うと、ロッカーや机の中にも何も置いていないのは、爛れた関係の逆恨みを避けるためだそうだ。

 じゃあ、荷物はどこにおいているのかというのと、彼女の庇護者となっている桂華院瑠奈が建てた神社の社務所である。


「おはよー」


 気だるそうに授業を受けるが、それが身に入っている訳もなく。

 とはいえ、成績が悪くもないのは地頭と要領の良さゆえだろう。

 神奈水樹の人生は既に固定されている。

 それを受け入れ、それを楽しむからこそ、彼女は学校という小さな社会において孤立せざるを得ない。


「神奈さん。ちょっといい?」

「いいわよ。

 占いね」


 爛れた恋愛関係に対する報復の対処をしている彼女だが、乙女に必須な恋を占うこともあって当事者以外からは決定的には嫌われない。

 爛れた関係から嫌悪する女子がいるのも事実だが、そもそも華族や財閥一族あたりの人間は自由恋愛ができない連中であり、血の継承から妾や愛人を容認せざるを得ない人間たちでもある。

 明確なライバルにならない分、彼女の立ち位置は物凄く都合が良いのだ。


「ふむ……うん。

 なるほどね……」


 占い師は基本聞き上手だ。

 相手は占いたい事を話すと同時に、望んでいる未来を無意識に出す。

 それを読み取る事をコールド・リーディングと言うらしいが、多くの人の話を聞き多くの人を占えば自然と身につく技術でもある。

 そうして得た情報を集積し分析して、未来をクライアントの望む方向に誘導する事で神奈一門はここまでの地位を得た。

 そんな神奈一門の正当後継者が神奈水樹だ。


「『法王』の正位置。

 悪くないわね。

 貴方の周りにはちゃんと助言者がいる。

 その言葉を吟味して……」


 占いというのは基本賭けである。

 人というのは何かを賭けないと真剣になれない生き物なのだと、彼女の師である神奈世羅は苦笑しながら彼女に諭してくれたものだ。

 だからこそ、彼女の報酬は相手の自由と言っているのに、その金額は一般相場よりはるかに高い。

 相手が華族や財閥一族の占いだけあって、彼女の経済的独立はすでに達成されていた。


「神奈さん。

 ちょっといいかしら?」


「あら。

 橘さんに華月さん。

 恋占いという訳じゃなさそうね」


 なお、桂華院瑠奈を頂点とする学内派閥において、橘由香および華月詩織の二人と神奈水樹の不仲は有名である。

 とはいえ、桂華院瑠奈がオカルト事件に巻き込まれた際には必然的に彼女に頼る事になるので無視する訳にも行かず、最近は華月詩織自身もオカルト事件に巻き込まれたこともあって歩み寄りをしようとしていたり。


「聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

「私で答えられる事でしたら。橘さん」

「貴方の技術や才能を私たちが身につける事はできるのかしら?」

「できないとは言えないけど、それ相応の代償は払うわよ」


 まだ言葉にとげがある橘由香の質問にそう答えた神奈水樹に、華月詩織が続きを口にする。

 どうやら、彼女たちの質問の本命はこっちらしい。


「じゃあ、その技術や才能を桂華院さんが習得する可能性は?」

「お二人より可能性は高いけど、それを桂華院さんがする可能性は低いわよ」


 互いに距離を探りながらの会話。

 住む世界が異なる三者は、桂華院瑠奈によって繋がっている。

 少なくとも橘由香と華月詩織は神奈水樹を理解しようとし、神奈水樹もその手を振り払うことはない。


「理由を聞かせていただいても?」

「あの手の話の最強の防御策ってご存じ?」


 神奈水樹の質問に首を横に振る二人。

 それを見て神奈水樹はにっこりと微笑む。


「何も知らない事。

 呪いや祟りって知る事で発動するの。

 だから、変に知ってしまうと泥沼に落ちるわよ。

 桂華院さんにはそう忠告しておいたわ」


 なお、その理論で行くと七不思議はつまる所桂華院瑠奈を祟りや呪いに染めやすくする過程だったりするのだが、あえてそれをこの二人には言わない。

 知った所で、祟りの被害者が増えるだけである。


「それでも、高橋さんには何かお手伝いを頼んだのでしょう?」


 わざと不機嫌っぽく橘由香が追及すると、神奈水樹が両手をあげた。


「ええ。

 ご神木でできた木刀を手に入れたからってはしゃいじゃって……あー。それでか」


「高橋さんに頼んで、私たちにできない事は何かしら?神奈さん」


「一つは、七不思議の該当者って事。

 そういう意味では華月さんは資格があるけど、じゃあ、お願いというには華月さんは身分が高すぎるのよ」


 当人も思い当たる所があるらしく黙り込む華月詩織に対して、橘由香はなおも粘る。

 事、この件については何もできない焦りみたいなものが彼女の顔に浮かぶ。


「だったら私が……」


「七不思議は桂華院さんの周囲の人間を狙っているわ。

 下手にお願いして、橘さんが巻き込まれた際に桂華院さんになんて言い訳すれば?」


「むしろ、お嬢様への被害が避けられるのならば、それぐらいは……」


 意を決した橘由香が黙る。

 というか、華月詩織共々顔が真っ青である。

 そりゃそうだろう。

 急にその話題の桂華院瑠奈が笑顔で神奈水樹の後ろに現れたのだ。

 なお、こんな手品をかましてくれた開法院蛍が場違いなVサインを二人に見せているのだが、もちろん二人にそれを見る余裕がある訳もなく。


「どうしたの?

 遠慮せずに続きを言って頂戴な。

 私たちはただかくれんぼをしていた一般女学生その一とその二ですので」


「いえっ!お嬢様。違うんです!!」

「そうです!これは……」


 完全にパニックになって言い訳をする二人に対して桂華院瑠奈は笑顔のままである。

 とはいえ、この主君にてこの腹心ありの典型例なので強く出られる訳もなく。

 ついでにいうと、なんでここに桂華院瑠奈が来たのかというと、彼女がそれとなく三者の手打ちを提示したからである。

 で、隠れてこっそりと見ていたら話が変な方向にという訳で。

 校内派閥のトップは大変なのである。

 結局、桂華院瑠奈は橘由香と華月詩織の謝罪を受け入れ、神奈水樹との手打ちは桂華院瑠奈の見ている中で行われた。


「で、今日も男漁り?」 

 

「違うわよ。

 男が勝手に群がってくるだけ」


 放課後。乙女の会話にしては実に生々しい。

 橘由香と華月詩織は桂華院瑠奈の後ろで赤くなっているが、先の失態から口を挟めず、開法院蛍はよくわかっていない感じで首を斜めに傾けた。

 帰りは桂華院瑠奈以下は車での下校だが、神奈水樹と開法院蛍は徒歩なのだ。

 そして、開法院蛍は帰る前に神社に寄るとの事で、ここで神奈水樹は一人となる。



「ケセラセラ

 なるようになる……か。

 さてと、今日はどんな男なんでしょうねぇ……」



 みんなの前では見せないような自虐的な笑みを浮かべて神奈水樹も夜の東京に消える。

 彼女とてすべての未来が見渡せる訳ではない。

 その歌が何の映画で歌われていたかなんて、その時まで思い出すことなく彼女の一日は終わる。

オカルトあれこれ


 丁度リメイクで話題になっている『東京BABYLON』あたりでそっち系列にはまったけど、方向性に大きく影響を与えてくれたのは実は島田ひろかず先生のマンガだったりする。


『完全版記憶オーバーラップ』 (白夜書房 1991年)

『ネオ・マジシャンロード』 (白夜書房 1991年)

『密教恋愛術』 (桐山靖雄原作 徳間書店 1989年)

『リル・リーン奇譚』 (ノーラコミックス 1991年)


 このあたりの影響は本当に大きかったなぁ。

 具体的に言うと、うちのやばいおねーさんことゼラニウムの形成のバックボーンはこれらの本から神道とケルトに触れていったのだから。

 で、ここから新興宗教の爛熟と95年のオウムテロ事件から始まった弾圧、世紀末を過ぎたことによるブームの終焉とある訳で。

 蝉丸P向けに話を作ろうとしたら己のオカルト背景を振り返っていた。



ケセラセラ

 歌はすごく有名なんだけど、これを書くにあたって調べたらなんとまぁ……という訳で。

 期せずして先の導入になるとは……



昔書いた『昨日宰相今日JK明日悪役令嬢』で派手に暴れる神奈水樹2014バージョンを公開。

イラストの左側である。

挿絵(By みてみん)

イラスト

 春日木雅人様

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― 新着の感想 ―
東京BABYLON見たこと無いんだけど、そのはずなんだけど… 星史郎とか昴流とか何処かで見てる名前なんだよなあ…。 聖伝とXくらいしか知らない、化石人間なんですよね…。 でもまあ、面白いと思って読んで…
[良い点] なるほど…。でも、神奈さんはどちらかというと「歩き巫女」や「アメノウズメ」の系譜ではとも思えますね。歩き巫女九尾とか…。まさか子孫って事は無いよな。 [気になる点] 問題の木刀に「洞爺湖」…
[一言] 島田ひろかず作品は、紛失したのものばかりなので、アマゾンで電子書籍版をまとめ買いして読み返し・・・(^^; まさか、この作品の後書きで作品名を目にするとは思いませんでした。
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