やきうの時間外だぁ!!!!
帝西鉄道総会屋事件は、私の前世とは違う、この世界の常識によって闇に葬られた。
不逮捕特権である。
「罪を問わない代わりに創業者一族が表から去るか。
まぁ、落としどころよねー」
私のぼやきに裕次郎くんが続く。
「あそこの一族は、衆議院議長についていたからね。
華族の叙爵条件を満たして伯爵になった後、他所の華族の爵位を継承して華族として振舞えた訳で、永田町では絶対に使うだろうなと言われていた不逮捕特権のネタの一つだよ」
どれだけの悪さをしていたんだよそれと突っ込みたくなったが、裕次郎君に勧められた戦前戦後あたりの疑獄関連を見たらまぁ……うん。
私が悪かった。
放課後の図書室。
宿題を片づけながらの雑談で、いつものカルテットの面子がそろっている。
私たちの会話に、栄一くんが割り込んだ。
「だが、創業者が引っ込んだおかげであそこ揉めているんだよな。
具体的に言うと、お家争い」
「うわぁ……華族あるあるだな。
素直に司法の裁きを受ければいいものを、不逮捕特権で逃れた結果が更なる闇ってTVのサスペンスドラマじゃあるまいし」
その手の家あるあるで、正妻と愛人たくさんにその子供たちで一族間のバトルがという訳だ。
なお、企業を営む華族では当主と代表取締役が大体同じなので、家の争い=社長の椅子ととれなくもない。
光也くんのぼやきに、その華族の頂点たる私が胸を張って言い放とう。
「そんな私は小学生の時に誘拐されかけました!」
「知ってる」
「というか助けたし」
「桂華院は別枠」
「よーし。ちょっと表出ろ」
小粋なジョークで場を和ませた後、栄一くんがぼやくぼやく。
帝亜グループは私の口車に乗って穂波銀行をグループの中に入れたので、やばい話がかなりというかダイレクトに栄一くんに伝わっているらしい。
裕次郎くんが後で教えてくれたが、私みたいな感じで栄一くんは穂波銀行の管理を任されているとか。
「帝西鉄道なんだが、バブル期の過剰投資で不良債権が無担保で六千億円ほどあるらしいんだが……銀行側は誰も把握してなくてな」
はい?
「政治案件だしね。帝西鉄道。
元々スポーツとレジャーって密接な絡みがあって、文教族系に食い込んでいたんだよ。
長野五輪の成功は帝西鉄道なしには語れないし」
裕次郎くんの解説に思わず頭を抱える私。
私の最初のギャンブルですら邸宅を担保にしたというのに、無担保な上に銀行側がそれを把握していなかっただと!?
なんてうらやま……けしからん。
「けど、おかしくないか?
立憲政友党文教族のドンと言えば、恋住総理の兄貴分の林前総理だろう?
華族の不逮捕特権に対して改革で切り込んでいるのに、この処理はダブルスタンダードと叩かれかねんぞ?」
光也くんの指摘に手を止めて考える一同。
栄一くんがぽつりとつぶやいた。
「つまり、政権内部も一枚岩ではない」
「多分、帝西鉄道側も一枚岩じゃないでしょうね。
こんな話が表に出る時点で、内部告発者の存在を疑わないと駄目でしょう」
私が続くと、光也くんが新聞を広げる。
そこのスポーツ面は帝西鉄道が所有する球団の去就が見開きで記事になっていた。
「これで、プロ野球の再編問題は完全に止めようがなくなったな。
誰が絵図面を書いたのか知らんが、どうするんだろうな?」
何しろ、関西電鉄とスーパー太永に続いて帝西鉄道である。
おまけに、これらの会社が保有する球団が同一リーグにある事がまた球界再編、つまり一リーグ化の動きに説得力を与えていた。
「瑠奈。
お前買うのか?」
「多分買わない。どうして?」
栄一くんの心配そうな声に、私は否定的響きで返事をする。
多分、私と同じ感覚なのだろう。
「絵図面が綺麗に整い過ぎてる。
瑠奈に有利なように」
「同感ね。私もよ」
ここの三人にも話せないが、町下ファンドはプロ野球球団を飛び越えて、TV局そのものを狙っている。
それすらも実は盤外の第三者であり、スカベンジャーたちはさらに大きなマネーロンダリングシステムという獲物を狙っている訳で。
私は手を止めて推理小説の棚を漁りだす。
ついてきた三人の内栄一くんが私を見ながら声をかけた。
「何をやっているんだ?瑠奈?」
「前に推理小説で読んだトリックが思い出せなくて。
犯人にとって都合が良い状況が整い過ぎている本ってどれだったかなぁと」
「で、探している訳だ。
せめて探偵の名前ぐらい言ってくれ。
手伝うから」
私は手を止めて、探偵の名前を告げる。
日本人探偵で、たしか映画にもなったやつで、死体が凄く特徴のあるやつを。
見つけたのは裕次郎くんだった。
「これでしょ?
横溝正史『犬神家の一族』」
「それ!
死体のインパクトに持っていかれて、トリックを忘れていたのよ」
裕次郎くんから受け取って、パラパラとページをめくる。
栄一くんがトリックをばらす。
「たしか、犯人の知らない第三者が死体処理をする事でアリバイが成立するだっけ?
今回の件に当てはめると、その第三者が居ると瑠奈が感じたんだろうが、それにしては手が杜撰だろうに」
「杜撰?」
私がページをめくる手を止めると、栄一君が本棚を眺めて言う。
ある意味推理小説全否定の一言を。
「ある意味、この手の犯罪はばれたらダメなんだよ。
にも関わらず、ばれた上で瑠奈に疑われるって、俺が犯人役なら絶対にしないね」
「たしかに」
「まったくだ」
おい。
なんで裕次郎くんと光也くんも首を縦に振る。
怒らないから言ってみ?
そんな私の内心なんて無視した光也くんが、本棚に手を置いて、その解決策を言う。
「だったら簡単なのが、第三者の第三者が居たって所だろうな」
「第三者の第三者」
私がオウム返しに呟くと、光也くんが私の持っていた本を奪って本棚に戻す。
それが説明の演出らしい。
「泉川が見つけた本を桂華院が手にした訳だが、泉川視点だと俺が桂華院から本を奪って戻した所が見えない場合、泉川は確認しなければ桂華院が本を返したと思うだろう?」
「たしかに」
「で、帝亜。
この本を取って、桂華院に渡してくれ」
「あー。
俺がこの場合、第三者の第三者になるのか」
そう言って、栄一くんがまた本を私に手渡す。
かくして、私の手にまた本が戻ってきた。
「泉川視点だと、桂華院の手から本が動いていない」
「一方で光也視点だと、返したはずの本が戻っている。そうなれば裕次郎を疑うよな」
光也くんの説明に栄一くんが乗っかる。
私の頭の中のもやもやが晴れてゆく。
「小説だとどうしても登場人物に制約がある。
だけど、現実では認識しない第三者が遠慮なく状況を動かすからな」
光也くんの言葉に、やっと私はこの状況の俯瞰するための糸口を掴んだのだった。
叙爵がらみはゆるーく設定してゆく予定。
とりあえず、矛盾とかが出たら、後に書いたものを優先して前を修正してゆく方向で。
これで昭和の今大公の逮捕絡みのうんぬんは狂わんだろう。多分。
ロジックとしては、一代叙爵で華族になって、伯爵格で華族結婚した上で、相手華族の家を継ぐ形で新家を興す感じかなあ。
窮乏する青い血のみの華族の救済と、新興財閥の箔着けの手段としてそのあたりは戦後法改正がされたという事にしよう。
帝西鉄道
ここは先代がとにかく色々あり過ぎてなぁ……
衆議員議長という三権の長についているなら、叙爵されるよなぁと。
しくじり企業でも取り上げられていたので、紹介しておこう。
堤康次郎【経営者列伝】~前半~西武グループ創業者
https://www.youtube.com/watch?v=GmbhmnY51-Q
堤康次郎【経営者列伝】~後半~西武王国の成立
https://www.youtube.com/watch?v=CR2aeITlF-E
オーナーは世界一の大富豪!?【しくじり企業】コクド
https://www.youtube.com/watch?v=X40hWRdtUmY&t=930s
横溝正史『犬神家の一族』
角川映画でスケキヨの死に方が実に衝撃的だった。
なお、私はこんなつぶやきを残している。
何故、犯人は自殺しなければならなかったか -金田一耕助の時代と『けじめ』- - Togetter https://togetter.com/li/725831 @togetter_jpより