自宅玄関に「立入禁止」、部屋に蓄光テープ……ライター・んちゅたぐいさん「これが私の当たり前」
んちゅたぐいさんは、「デイリーポータルZ」デビューからわずか1年あまりだが、鮮烈な印象を残している20代の女性ライターだ。
自宅には至るところに蓄光テープが貼ってあり、電気を消すと緑色に光るサイバー空間が現れる。来た人を歓迎する「スタンプラリー」も設置。風呂やトイレでスタンプを押して楽しめる。「営業中」と書かれたのぼりも「どうしても欲しかった」から買って部屋に置いている。
制作過程を「デイリーポータルZ」で記事にしているが、記事のためにわざわざ作ったのではない。「作りたかったものが、たまたま記事になってラッキー」。奇行が先にあり、「たまたま」記事になっただけなのだ。
Webマスター・林雄司も認める“ナチュラル奇人”の彼女は、どのように暮らし、育ってきたのか。(取材:林雄司/岡田有花 構成/岡田有花)
これが私の当たり前
林 んちゅたぐいさんの文章はスカッとしてるよね。
岡田 「ナスビと一週間過ごして初夢に出す」「悪魔と死神の武器を安全に持ち歩けるカバーを作る」とか、明らかにおかしなことをやっている記事でも、「面白いことするぞ!」という気負いがなく、当たり前のようにおかしなことしてますよね。
んちゅたぐい 当然のように思ってほしいんですよね。私が当然のようにおかしなことをやっていれば、周りも「まあそんなもんかな」ってなる。その状態が一番面白いなと思って。「この人が言ってることは正しいのかもしれない」くらいに。
私の偏った発想を当然のように伝えれば、皆当然のように受け入れてくれるじゃないですか。皆がこっちに来る、みたいな。だから「どうだい? 面白いだろう」みたいな感じじゃなくて、普通に平然とやりたい。
例えば「悪魔が持っている武器って危ないし、カバーをつけた方がいいんだろうな」って皆が平然と思ってほしい。「カバーつけるって発想、すごい、面白い!」って思われるのも嬉しいんですけど、「確かにあれ、危ないからカバーつけた方がいいよね」って皆が思ってた方が、面白いかなと思って。
林 「んちゅたぐいランド」だ!
(※「んちゅたぐいランド」:テーマパークで、キャラの耳のカチューシャを着けていると、そのキャラが「ぼくの耳だ!」と反応してくれる。それを逆手に取り、んちゅたぐいさんが自ら、自分の耳を再現したカチューシャを配り、自分に会いに来てもらった企画で登場した架空の遊園地。)
林 面白いを“目指す”人って、「本当はこうですけど、あえてこうしちゃったりして!」みたいに、常識との落差を自分で説明しちゃう。それが野暮で「狙ってるんだな」って分かっちゃう。我々世代(40代以上)はそれをやりがちだけれど、んちゅたぐいさんはそういう言い訳をしないところに、本物感、粋を感じます。
玄関に「立入禁止」、部屋には蓄光テープ
林 偏見なんですが、今って、自分のエモーショナルな内面を文章にして読んで欲しい、という若者が多い気がしています。「毎日の仕事が辛いんですが、その生活の上で、こうやってネタツイートしてます」みたいな……。でも、んちゅたぐいさんにはそれがない。
んちゅたぐい “あんな部屋”に住んでる以上は、弱くなることはないかもしれない。部屋に蓄光テープが貼ってあって電気を消すと光るし、自宅スタンプラリーがあるし、「営業中」ののぼりも、誘導灯も買いました。
電気が消える瞬間、良い https://t.co/sS3FmE2OMn pic.twitter.com/pCSzfE4dEj
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) September 18, 2025
岡田 ちょっと常人には理解できないんですが、部屋を蓄光テープやのぼりで飾るのって、どういう気持ちなんですかね? インテリア感覚?
んちゅたぐい 家をおしゃれにしようという気はさらさらなくて。家具へのこだわりをとか一切なく、究極コンクリート張りのスペースで、最低限のベッドとテレビとかあれば。
でも家に、ありえないものがあってほしいんですよね。帰ってドアをガチャって開けると「立入禁止」がガンって立ってるんですけど、「帰った時に、ありえないものがうちにあってほしいな」と思って、ずっと欲しかった。
る。
岡田 例えば、帰ったらペットに出迎えてほしいとか、そういう感覚に似たものなのだろうか。どう理解すればいいのか……好きな空間にしたいということ?
んちゅたぐい そうですね。好きなものに囲まれたいという気持ちはあります。
林 「おしゃれな部屋」をいろんなメディアが洗脳しようとするんだけど、それが全然届かない人がここにいる。でも「好きな空間にしたい」っていうベースは一緒ですもんね。
んちゅたぐい それは一緒ですね。本当にそれだけで、「好き」から枝分かれしてるだけです。
林 そうですよね。同じ脊椎動物でちょっと好みが……食べるものが違うぐらい。脊椎はあった上で、好みは三角コーンなのねって。
コーヒーを飲みながら、誘導灯を振る幸せ
んちゅたぐい 先日、オレンジに光る誘導灯を買ったんですけど、本当に嬉しかったです。工事現場のおじさんが腰に差してる誘導灯。
夜、部屋の電気を消して誘導灯をつけて振って、コーヒーを飲んで、「うわ、これ、この光景がうちで見れるなんて」ってめちゃくちゃ興奮しています。他に絶対いないじゃないですか。
誘導灯を振っていると、赤地に白い文字で書かれた文字が見えなくなるんです。だから、のぼりに書かれた「営業中」の文字が消える。
つまり、赤で覚えるべきところを書いた暗記帳は、誘導灯をつければ全部消えるから、効率よく勉強できるはずです。
それから、誘導灯の赤い光って蓄光テープにあまり効かないんですよ。蓄光テープが散々ある部屋で誘導灯を振り回して電気を消しても、そんなに光を溜めてなくて。
岡田 へえ……。
林 そのノウハウはいつか使えるといいね。
んちゅたぐい そうなんですよ。「立入禁止」の立て看板も黄色い文字なので、誘導灯をつけると文字が消えます。
岡田 誰も発見してない新しいことを日々発見しちゃってますね。探しに行ってるわけじゃなくて、見かっている。
日常の奇行がたまたま記事にできてラッキー
林 この前、デイリーポータルの撮影で、んちゅたぐいさんの家に行った時に「あ、この人は本物なんだな」って思って。記事のために変わったことをするんじゃなくて、部屋がおかしなもので詰まっていて、そこからあふれたものが記事になってるんだなと。
んちゅたぐい 確かに「記事になってラッキー」ぐらいの感じではあります。
林 ナチュラルボーン記事向きの人。“ビジネス奇人”じゃない。記事のために変なことをするとどこかで息切れするけれど、そうじゃない。
んちゅたぐい それは思います。 うちのトイレに、「立入禁止」って書かれた三角コーンが入った透明なドームを置いてあるんですが、林さんはあれを見て「記事でもないのに」って言ったんです。
林 「記事でもないのに何やってんの?」って。記事にしないの?って。
岡田 どういうものですか?
んちゅたぐい 100均で見つけたプラスチックのドームケースと、別の場所にあった三角コーンのフィギュア+立ち入り禁止のシールのセットを何も考えずに買って、組み合わせて三角コーンのスノードームにしてトイレに置いてます。記事にするとかは、まったく考えずに買いました。
林 記事のために無理していないのが安心ですね。
そういえば、「蓄光シートにスマホの画面が映る」っていう発見もすごい。
んちゅたぐい あれも偶然の発見で。蓄光テープの上に、スマホの画面がついたまま少し伏せておいたら、画面がそのまま蓄光テープに映ってたんです。あれ? これひょっとしたらと思って、がっつり当てたらがっつり映って、林さんにすぐLINEして。
林 「すごい発明だ。記事にしましょう!」と。
んちゅたぐい 記事にすることになったので、大きな蓄光シートを買って、シートを貼るためのでっかい段ボールを会社でもらって、抱えて帰って使いました。
岡田 いまも自宅に、蓄光シートと蓄光テープがまだ貼ってあるってことですよね。
んちゅたぐい はい。終わったら剥がそうというつもりは全くなかったので、最初からなるべく綺麗に貼ろうとしてるし、ちゃんと長持ちさせる前提でしっかり貼っています。
今はそろそろ貼り替え時。座椅子に貼ったテープが剥がれちゃったんで、貼り替えようかなと。記事で使った蓄光シートはハンズで買ったんですが、ダイソーの蓄光テープがすっごい光るんで、近々全部貼り替えて、長持ちするようにしようと思ってます。
林 記事で自宅のスタンプラリーを作った後、「スタンプを押す順番が、右からになってたのが分かりにくいので、左からに作り変え直しました」って言ってて。記事を掲載した後に作品をブラッシュアップしている。
んちゅたぐい 気になっちゃって……。スタンプ台紙の右上がスタートだったんですけど、友達が来るたびにみんな左から押そうとするんです。気になっちゃって。デイリーの撮影が入る予定もあったし、ちゃんと作り直しました。
林 安心ですね。記事のために全然無理してない。
んちゅたぐい 全く無理してない。全部そのまんまやってるんで。
岡田 ネタに困ることもなさそう。
んちゅたぐい なくはなくて..…会議でネタの赤ちゃんみたいな状態で出して、これをなんとかネタにしたいんですけどとかいうことも全然ありますし、べつやくさんとか林さんとかの助言で助かることもあります。
林 みんな、人のネタを適当にふくらますのが大好きですから。こうしたらいいよって、机上の空論みたいなこと、すごい言いますもんね。
んちゅたぐい 蓄光テープで部屋を拡張する、も最初は机上の空論だったでした。部屋に蓄光テープを貼りたいっていうだけ話してて。「部屋の拡張も、できますかね」みたいな。
林 できるんじゃない、って言ってました。私は「きっとできないだろう」って思ってたんですよけど、できてた。
蓄光テープがあれば天井だって高くできる pic.twitter.com/ZAFIiYxBbd
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) September 15, 2025
んちゅたぐい そういうこともあるので、会議の場は本当にありがたいなと思います。
“蓄光テープ”は万バズを予感していた
岡田 「蓄光テープで作るサイバー空間は天井も高くなってお得」の記事はすごい反響でしたね。
蓄光テープで部屋をサイバー空間にした pic.twitter.com/2SqSZAT3Yu
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) September 15, 2025
んちゅたぐい 蓄光テープは出す前から「SNSで伸びるかもな」と思っていました。Xに投稿したら1万いいねはいくとして、そこからはどうだろう……と思ってたんですけど(11月現在、26万いいねを獲得している)。
投稿する前に「これはいって数百」とか「これは1万は超える」とか感覚があります。
林 最近俺、そういう予想は全部外れる。
岡田 私も……20年前は、我々の感覚が当たってましたよね(苦笑)。蓄光テープが絶対バズるって思った根拠みたいなのってあるんですか?
んちゅたぐい ツイートする前に、フォロワー0の下書き専用の鍵アカで1回ツイートするんです。そこで1回ツイートすると、印象が変わるっていうか。
画像の見え方とか、文章を読んで画像を見た時の印象とか、「これ、ちょっと違う意味にとらえられるかも」とかを下書きアカウントで確認してるんですが、何回か書き直していくうちに、バズってるツイートが回ってきたように見える瞬間があって。「これ、いけるな」って。
もとは、画像の見せたい部分が見切れていないかだけをチェックしてたんですけど、最近は文章をちゃんと書いて、で、ツイートすると、だいぶ印象が変わるっていうのに気づいてやっています。下書きは本当におすすめです。誤解を招きそうな言い回しにも気づけるので。
バズる技術と奇行のバランス
岡田 表現やバズに対してストイックですね。XやTikTokのフォロワーも多いし、んちゅたぐいさんがSNSで発信したネタが、外部のメディアで記事になっているのもよく見ます。
林 んちゅたぐいさんは、SNSの作法や縦動画作法が身についてる。ネットの分析と、おかしな発想を両立してるのがすごい。あまりいないタイプだと思うんですよ。SEOに詳しい人だけの人も、ネタツイートだけの人もいるけれど、両立できていてすごい。
岡田 そういった構造は体感で覚えていったってことですか?
んちゅたぐい 体感はあります。興味を持っているせいか、SEOっぽい投稿が回ってくるので、そこから得た情報もありますが、自分でやってく中で感じることの方が大きいですね。伸びない時は本当に伸びないし。伸びても伸びなくてもいいんですけど。
林 「滑ったら悔しい」という気持ちもないんですか?
んちゅたぐい 昔は、一緒にネタツイートをしている仲間がいて、その人たちと競い合うようなコミュニティがありました。「このツイートが伸びる」とか「何時が伸びる」とか情報交換していました。
岡田 ストイックにやってた時期があったんですね。
んちゅたぐい 部活みたいな時期もあるにはありました。1回バズると嬉しいから、バズるツイートしたいなという思いはありました。
でも今は、別に何だっていいというか……デイリーに入れたから、もうなんでもいいみたいな。デイリーに載って、そこから読んでもらえれば。
デイリーポータルで書きたいっていうのは目標の1つだったんで、今書いてるのが嬉しいからいいかな。いっそう緊張はするようになりましたけど。
林 うれしいですが、デイリーに入って燃え尽きちゃうと困るな。
んちゅたぐい いえ、いまは記事を作ることに完全にベクトルを向けられるのでありがたいです。記事の関連ツイートは伸ばしたい、という気持ちはありますが、画像加工をしてまで伸ばそうとかは、今あんまり思わなくなりました。
パワポをどうしても細くしたかった
林 んちゅたぐいさんの記事は、奇行だけじゃない。レトルトカレーを口でくわえて、箸を使って最後まで出すとか、パワポを細長くしてみるとか、日常への観察、視線もちゃんとある。世間、世界への興味あって、バランスがいいですね。
んちゅたぐい パワポは本職でも使うんですが、どうしても細くしたくて。細くできるって知っちゃったら、それを使わない手はないじゃないですか。絶対これでプレゼンしたやつはいないだろうと思って。どうしてもやりたいなって思って、でも会社でやったら怒られるし……と思って、デイリーの会議でやらせてもらおうと。
林 余計なことなのに義務みたいな気持ちが発生するのはなんでなんでしょうね。
んちゅたぐい そうなんですよね。本当に「やらなきゃ!」って思う。
この間、「営業中」ていうでっかいのぼりを買ったんですよ。「買わなきゃ」って思って。ずっと欲しくて。街を歩くたびに、のぼりあるな、かわいいいな、欲しいなって。布の部分をいっぱい買ったら着せ替えができるし。
いろんなのぼりに気分で変えられて、今日は「うどん」にしよう、きょうは「営業中」……「休業」でもいなとか考えながら、気づいたらホームセンターに行ってて、意外と安くて、トータルで1300円とか1500円とかでした。
15歳でデイリーに出合う 「私がやりたいことをやってていいなあ」
岡田 デイリーを初めて読んだのはいつですか?
んちゅたぐい 一番古いデイリーポータルの記憶は、2015年にきだてたくさんが、ペン立ての盆栽「ペン栽」の写真を募集していて、応募したいな、と思った記憶が一番古くて。地味ハロウィンの初回も覚えてるんです。当時15歳。2000年の下2桁が年齢です。
当時から「こういうことをやりたい」って思っていて、「この人たち、私がやりたいことをやってて、いいなあ」と。でもそれを発信する場所も当時はなかったし、スマホも持ってなかった。
小学生の時、暇すぎて、校庭を1周何歩で歩くかっていうのを1週間やって平均を取ろうとしたんですよ。2日やったらぴったり同じ歩数で、怖くなってやめたんですけど。デイリーってそういう感じのことだから。日常でちょっと気になったことを本気でやってみている。
林 そういう小学生がいたと思うと胸が締め付けられますね。今もいたら「デイリーポータルに来なよ!」って言いたいですね。
んちゅたぐい まさにそういう子でした。小学生のころからけっこうそういうことをしていて。 学校で「晴れの日に傘をさして1人で校庭を歩こう」と思ってた時があって。晴れてるのに傘を差して歩いてたら、周りの人が「え?」って空を見るかな、みたいなのをやりたかったんですが、できずに卒業しました。
林 やりたい。今やりたいですね。 ビルの上を見ていたり、川をのぞいているだけで、周りの人も一緒に見てくれるし。
んちゅたぐい やりたい! 私は小学生のころからそういうことをずっとやってて、で、2015年ぐらいにデイリーを見て「この人たち、私がやってることのレベル100みたいなことやってる!こりゃいい!」と思って見ていて、その時から入りたかったんですけど、デイリーには。
林 今もそういう子がいたら入れたい。
人類はいかにして「んちゅたぐい」になったか
岡田 んちゅたぐいさん、変わったペンネームですよね。
んちゅたぐい 「人類」っていうTwitterアカウントを作ったのがきっかけです。2020年、大学生の時に、お風呂で「Twitterアカウント作ろ」って思って。一番広い範囲をカバーできる名前にしようと思って「人類」にしたんですよね。
その後、「人」って書いて「んちゅ」って読むのがTwitterで流行った時があり、偶然名前に「人」が入っていた私は、「じゃあ私は『んちゅ』(人)『たぐい』(類)ってことか」みたいなツイートをして。アカウント名は「人類」のまま、プロフィールを「んちゅたぐい」に変えたんです。
すると、フォロワーからだんだん「んちゅたぐいさん」って呼ばれ始めて、「もう名前ごと、んちゅたぐいに変えてしまおう」と思ったのが、Twitterアカウントを開設して1年ぐらいの時です。最初に「地味ハロウィン」に出たころでした。
初めて万バズしたのもその地味ハロウィンで。ネタは「袋断っちゃったけど入らなかった人」。その時まだ「人類」ってアカウント名だったんですが、ニュースに掲載された時「画像:人類さん提供」って出てたのを覚えています。「どの写真もそうだろ」って思ったから。
林 人類提供。主語がでかいにも程がある。
袋断っちゃったけど入らなかった人
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) October 22, 2020
#地味ハロウィン #DPZ#地味ハロウィン2020 pic.twitter.com/HNfKJZGyiC
んちゅたぐい 元はと言えば2020年、大学生のころ「Yahoo!知恵袋」の大喜利場みたいなのがあって。面白そうだからそこにいようと思ったんですよね。
「人類」っていう名前でアカウント作って、いくつか大喜利を出したんですが鳴かず飛ばずというか、あんまりしっくりこなくて。大喜利やるよりは、自分で思いついたようなことを適当に言えるアカウントを作ろうと。
当時、Twitterで面白いことを言ってバズらせるネタツイが流行ってて、バズってる人の投稿が自分の手元に来るたびに、「こういうこと私も言いたい。私ならもっともっと言えそう」って思っていて。なんとなくやらずにいたまま、とりあえずアカウント作ろうと思ったのが2020年、5年前ですね。
その前……中学生、高校生のころは、知り合いとのちっちゃいコミュニティでしか使わないTwitterアカウントを作って鍵を付けてやり取りしていました。日常のしょうもないこと言って、知り合い2人がいいねしてくれるみたいなのを。
林 人類になって陸に上がってくる前に、Twitter自体はやっていたんですね。友達とやり取りする。その後、人類が生まれた。
んちゅたぐい 人類の誕生ですね。
林 そこで人類になって、フォロワーが1万人ぐらいになった時にんちゅたぐいになった。
地味ハロウィンで初の万バズ
林 何をやっていたらフォロワーを1万人も獲得できたんですか?
んちゅたぐい たびたびバズっていて。初めての万バズ(1万いいね超え)は2020年の地味ハロウィンでしたが、それ以前にも数千いいねもらえることはたびたびあって、そのたびにフォロワーがガッと増えて。序盤はサクサクフォロワーが増えましたね。例えば「環境が悪すぎる保育園」の動画で、1日で3000人フォロワーが増えました。
岡田 絵本を持った保育士が「ゆうちゃんダメ、そこ溶解炉! 溶ける溶ける溶ける」って子どもを追いかけるネタ。これ、面白すぎたんですが、どうやって思いつくんですか?
んちゅたぐい 保育園に溶解炉があって、それを保育士が普通に「あ、あそこ行かないで、溶けるから」とか、それぐらいのテンションで止めてたら面白いかなと思って。本当にただ、それだけです。
なるべく現実からかけ離れてた方がいいじゃないですか。あり得ると不謹慎になるから。 「絶対にないことを、普通にしてる人たちがいいな」と。
林 大きな溶解炉があるというあり得ない設定だけれど、「子供が行っちゃ危ない」みたいな、常識的な線は残しとく。
んちゅたぐい そうです。「あ、そっち行っちゃダメだよ、溶けるからね」みたいなテンションの方が。
岡田 動画もたくさん出していますよね。
んちゅたぐい そうですね。動画は初めて出した時からバズって。めっちゃ後出しする「後出しすぎじゃんけん」の動画です。それで「ショート動画、いいかも」と思って続けています。数秒の動画ってめちゃくちゃ楽なんですよ。撮って編集して出して、が一瞬でできるので。
笑いへの感覚は、デイリーポータルに学んだ
林 スタートダッシュしている。悩んだ期間はないんですね。
んちゅたぐい 適当に思いついた通りにやってるんで。「絶対バズらせたい」とかはそこまで 意識はしてなかったです。ウケたら「だよね、私もそれ面白いと思った!」ぐらいで。
林 “笑いへの感覚”が鋭いですよね。「なるべく突拍子もない方が不謹慎じゃなくていい」とかそういう勘がすごい。何かを見て学んだんですか? 漫画なり、小説、本なり……。
んちゅたぐい 多分それがデイリーなんですよね。本当に。
林 おお!
んちゅたぐい 色々考えたんですけど……影響を受けた漫画とか作品がないなと思って。活字は好きなんですが、小説は全く読まなかった。大学の時も日本語学が専攻でしたが、日本語学コースと日本文学コースがあり、文学の方に行く気は一切なくて。
林 日本語学ってどんなことやるんですか?
んちゅたぐい 現代文の文法の授業のレベルマックスみたいなやつみたいな感じで。小説を言葉として細分化してみていくとかはすごい好きだったんですけど、その小説を、面白いものとして受け入れるのがどうも苦手で。面白さはわからないでもないけど、自分から読まない。若干のコンプレックスはありますね。本は全く読まないし、漫画も読まない、ドラマも見ない、映画も見ない。
“生身の人間による奇行”が好き
岡田: でもデイリーは面白い。
んちゅたぐい はい。生身の人間のほうが面白いんだと思います。デイリーの記事って、生身の人間がやってる奇行じゃないですか。それがすごく大好きで。生身の人間がやってるノンフィクション、普通に日常を過ごしてる人たちを面白く見るのは好きで。
小説とか漫画とかドラマとか映画とかって。作者を挟んで、その作者が見てる世界ってなると、ちょっと受け入れがたくなってしまう気がしていて。
林 お笑いはどうですか?
んちゅたぐい お笑いもあんまり知らなくて。「ラーメンズがすごい好きそう」って、よく言われるんで、そう聞いて初めて見てみたぐらいで。
林 デイリーポータルが好きな人はラーメンズと水曜どうでしょうが好きですから。
んちゅたぐい 水曜どうでしょうは好きです。
林 好きな芸人さんは?
んちゅたぐい 芸人さんもあまり知らず……。やってれば見るし面白いし、で、YouTubeで流れてきたら見るし。賞レースに興味がない。でもM-1は出ました。去年。
岡田 出たんだ。
んちゅたぐい はい。友達と「出ようよ」「いいよ」って。記念受験みたいな感じで
でも、本気でやりました。2人で漫才を作って、本番にむけて練習して、めちゃくちゃいい経験でした。「女の子たちがおしゃべりしてる」でとどまるのは嫌だし、命をかけて出ている人もいる。そんな人たちに並んで出る以上はと、スタジオを借りて練習しました。
小学生のころ、匿名チャットでネットに浸る
林 ネットはいつから?
んちゅたぐい ネットに入り浸り始めたのは小学5年生ぐらいの時でした。家のパソコンで匿名掲示板とかランダムチャットみたいなとこに入り浸ってて、ずっと知らない人たちとずっとチャットしてました。ランダムでマッチングするみたいな、ちょっと危なめの1対1チャットとかも入り浸って。
岡田: 親が心配するやつだ。
んちゅたぐい: 親からは最低限の注意はされましたけど、「まあ大丈夫だろう」みたいな感じで。知らない人たちとずっと喋りまくってた時期があります。適当な会話をするだけ。私も怖かったし、住所や本名は言わないようにしていました。でもそれでタイピングが早くなりましたね。
小5で書いた作文出てきたけど怖い pic.twitter.com/Fex64gEyuJ
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) November 12, 2022
林 見知らぬ人と、どういう話を?
んちゅたぐい 普通に日常会話を。「どこ住み?」みたいな。答えるのは都道府県名ぐらいまででしたけど。「東京だよ」とか。
林 相手も誰と話しているのか分からないんだ。
んちゅたぐい 分からない掲示板もありますし、特定のハンドルネームを使い続けて友達ができるタイプの掲示板もありました。
当時「パソコン通信探偵団事件ノート」っていう児童文学にドハマりしていて。小学生の探偵5人が出て「電子探偵団」を組んでいろんな事件を解決する小説シリーズなんですが。
ネットに、小学生が集まる“電子探偵団のなりきり掲示版”みたいなのがあり、私は「ミズキ」っていう運動が得意な女の子になりきってチャットしていました。
掲示版で待ち合わせ時間を決めて。「明日も3時から電子捜査会議ね」ってみんなで決めて、帰ってランドセルを置いて手を洗って、パソコンの前に座って、「ヤッホー、ミズキだよ」とか言って。掲示板に集まって謎解きのようなクイズを出し合ったり。それがネットの入り口です。
作中で仲良しの子になりきってた子とはその後も交流が続いて、LINEを交換するところまでは行きました。でも連絡できないうちにアカウントが消えてて、もう連絡する術がなくなっちゃった。学校の友達とももちろん遊んだんですけど、土日は学校の友達よりも掲示板の人とずっと話してました。
岡田 知らない世界すぎた。……圧倒されました。
林 僕も岡田さんも大人になってからネットの世界に入っているから、そのころのサービスに、若い人たちがそんな思いを持って対峙していたことを完全に見逃していた。
危ない目にもあいそうに
岡田 当時、同世代間の携帯SNSみたいなのはあったと思うんですけど、そっちではなくて掲示版なんですね。
んちゅたぐい 私はスマホを持ったのがすごく遅くて、高校の最後の最後だったので。タブレットでLINEだけはできる状態でしたしたが。
林 先にパソコンがあった。
んちゅたぐい そうです。ずっと家でパソコンで、知らない人と話していました。
林 危ないねえ。変態とかいませんでした?
んちゅたぐい いましたね。「新体操をやってる」って言ったら「レオタード売ってくれ」って、おじさんにすっごい言われたことがあります。その時は「この人は本当にレオタードが必要なんだ」って信じちゃったんですが、「ごめん、でも売れなくて、送る手段もないし」とか言ってめちゃくちゃ謝ってた。今から考えたら、すっごい適当にあしらえばいいのに。
林 その話を聞くと、やっぱ子供にネットをやらしちゃダメですね。
んちゅたぐい ダメです、ダメです。やめた方がいい。でも、危ない目に遭うことはなくて、ただタイピングが早くなりました。なりきりチャットで。
両親も読者、父は「5ちゃんねる」をよく見ている
岡田 記事にはお母さんも時々出てきますね。
実家の母に勧めたらもうやってた https://t.co/hmVnVJeyM7 pic.twitter.com/Dm1YE02XVq
— んちゅたぐい (@iwanttobeJinrui) September 21, 2025
んちゅたぐい 普通の主婦です。母に「これ面白いよ」って見せられたサイトの1つがデイリーだった……と私は思ってたんですけど、母に改めて聞いたら「あなたから勧められた気がする」と。お互いに、お互いが勧めたと思ってる。当時のいろんなポータルサイトで見て「これがいい」とかやり合ってる中にあって。
父もデイリーポータルを知っていました。父親は「マークシートが鉛筆以外でも反応するのか」がきっかけって言ってました。
林 ご両親もデイリーを知ってるんだ。緊張しますね。デイリーの記事がきっかけで嫌な目に会ってたりしたら。「あのサイトで仕事したら、そんな嫌な目に会うの」みたいに思われる。
岡田 お嬢さんを預かってる感じ。
林 ちょっとその感じが、あるんですよね。
岡田 お母さんもお父さんも面白記事が好きなんだ。
んちゅたぐい 好きなんだと思います。父は特にサブカル気質というか、「5ちゃんねる」ばっかり見てたりとか。
林 お父さん、匿名掲示板見てたんだ。ハムスター速報見たりとか?
んちゅたぐい ハム速とかも見てる。「ニュースは5ちゃんねるが一番早い」って言ってました。インターネットに関してすごく間口が広いというか、私がチャットやってようが「危ないことはするなよ」ぐらい。父はインターネットに詳しくて理解があって。そういう環境で育ったから、両親ともに「変なサイト見ないの!」って怒られるようなことはなく。
林 お父様は「ネットはフリーダムだ」という思想がある世代かもしれないですね。
んちゅたぐい はい、そういうところは親譲りかもしれない。
国語辞典が好きになったのも親の影響です。母親が「新明解の第4版が面白い」というネットの噂を聞いて、買ってきて本棚に置いていたのを、私が偶然見たのがきっかけです。
パラパラ見ていたら父親に「それで『動物園』を引いてみて」って言われて見てみたら、「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設」って書いてあって。「こんな辞書あるのか!」と思ったのが入り口でした。
父は「ビックリハウス」っていうサブカル雑誌が好きだったみたいです。
林 ビックリハウス好きなんだ! デイリーポータルZはビックリハウスを意識して作ってるんで。お父さんからサブカルの英才教育を受けてる感じがしますね。
んちゅたぐい そうですね。小さい時、父にボカロを聞かされたんですよ。「これは人造の声なんだぞ」って言いながらヘッドホンを被せてきて。その時、ボカロが最先端だったころです。
岡田 初音ミク発売が2007年だから……んちゅたぐいさんが小学1~2年生ぐらいですね。
んちゅたぐい はい。それぐらいの時に聞かされたのを覚えていて。父は「人造の声」って言ったんですけど、私は「腎臓の声なんだ」って結構ずっと、思ってました。「腎臓でこんな声ができんるんだ」って、本気で。割と大きくなって「人が造る人造か!」って気づきました。
林 あの時の子が……ありがたいですね、そうやって育ってくいれて。
岡田 ここで出会えて。
デイリーは“周りを巻き込んだ一人遊び”
岡田 んちゅたぐいさんは、SNSのフォロワーも多いし、1人でできる企画でバズっているから、1人で発信を続けることもできると思うんですよね。でもデイリーの会議とか、デイリーで発表するっていうのは大事なんですね。
んちゅたぐい 大事です。1人でもできなくはないと思うんですが、環境が全然違いますから。デイリーは締め切りがあって撮影日も決めて。撮影も、1人だからできなかったものが全然できる。すごく幅が広がったと思います。
1人遊びは、ずっと得意だったんですけど、周りを巻き込んだ1人遊びができるようになったからありがたいですね。デイリーの方々はみんな分かってるというか、当然のように受け入れてくださるから。
それって結構貴重で、こないだ会社の全然関係ない人にどうでもいい冗談を言ったら「こいつ何言ってんだ」みたいな顔をされて。「あ、そっか、外ってこうなんだな」って思いました。
デイリー内ですごく甘えさせてもらっているんですよね。私がいくら変なことを言っても、べつやくさんとかが「うん、そうだよね、でもこうなんじゃない?」って普通に言ってくださるから。デイリーに参加できて、とても助かってます。


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