「や、やばい!今日の空崎ヒナはいつもよりヤバいぞ!」
「さんだあああああああああ!!!」
「デストロイヤーに撃たれて死ぬんだよぉ!!!」
「我々が駄目でも次の者が空崎ヒナを倒す!我々は勝利の礎となる!」
「ここは本当にキヴォトスなのか!?」
「私達の悪運も尽きたってわけだ……」
「ゲヘナは空崎ヒナに支配されている!私達は生かされているだけに過ぎないんだ!」
「風紀委員会に捕まった者を代表し、空崎ヒナに一発食らわせ……主砲がきかにゃい!?」
「ゲヘナの不良は仲間を見捨てない!だが何事にも例外はある!」
「熱い!熱い!」
「聞いてください……私は神を探しています……(現実逃避)」
「呪われてる!私達は呪われてるんだぁ!!!」
「恐怖でおかしくなった奴がいる、誰か寄越してくれ」
「ばかな、ばかな、ばかな。」
「なんだこれ……なんだこれ……」
この日、折川酒泉は思った
〝地獄って人の手で作れるんだ〟と
ヒナが銃口を向ければその正面が吹き飛び、また別の方向に銃口を向ければそちらも同様に吹き飛ぶ、そこらに阿鼻叫喚が転がっているこの光景こそ正に血のバレンタイン
これは戦いなのか?────否、これは戦いではない。彼女にとっては害虫駆除と何ら変わらない
しかしこれはヒナにとって必要な掃除だった、全ての不良を掃討し、この日一日中を穏やかに過ごす為なのだから
「酒泉、何を呆けているの?」
「……え?あの……敵は?」
「もう片付いたわよ」
辺り一面を見渡してみればそこら中に亡骸(と見間違えてもおかしくない程ボロボロな状態の不良達)が、地獄の様な光景は地獄そのものに
その光景を生み出した張本人は涼しげな表情で〝次〟とだけ呟き、風紀委員会の車に乗って次の現場に向かおうとするヒナの背中を酒泉は追いかけた
「その……今日は随分と気合い入ってますね……?」
「……ええ、入りまくってるわ」
「そ、そっすか……」
可哀想な不良達、ひとえにてめェらが悪さをするせいだが……
心の中でボコされた不良達とこれからボコされる予定の不良達に同情していると、ヒナにちょいちょいと指で招かれて早く運転席に乗るように急かされる
本日の運転手は折川酒泉、彼もまさか未成年のうちから運転するようになるとは思ってもみなかっただろう
免許を取ったら両親を乗せてドライブに行ってみたいというちょっとした目標を果たせなかった事に若干落ち込みつつも、隣でピリピリしたオーラを放ち続けるヒナの機嫌を損なわない為に車を発進させる
「……」
(ずっとこの調子なんだけど……羽沼さんがなんかやったか?)
とりあえずマコトのせいだろうと真っ先に疑う酒泉、今回に関してはただヒナの目の前で手作りチョコをプレゼントして脳破壊する作戦しか企んでいないのに酷い風評被害である
ちなみにその作戦は小腹を空かせたイブキにチョコを渡してしまったので失敗に終わったとか、現在プランBの〝チョコレートと思わせてそこら辺で買ったキャンディーを渡してガッカリさせる作戦〟を計画中である
「……酒泉」
「は、はい?なんですか?」
「……何個貰えた?」
「……え?」
「その……チョコを……」
ずっと黙りっぱなしだったヒナに声を掛けられ、咄嗟に返事をする酒泉。その声は先程までの緊張感か若干上擦ってしまう
「あ、ああ!チョコですね……えっと、まずは登校中に銀鏡さんと火宮さんに貰ったでしょ?その後クラスメイトにも貰って……あ、昼食の時に愛清さんと牛牧さんからも貰いましたよ……案の定動くチョコレートと戦闘になりましたけど。それから誰からか分かりませんけど執務室の俺の席にも置いてありましたね」
「……あの子からは?酒泉に告白した正実の……」
「ああ、あの人とは後で交換する予定ですよ」
「……他には?」
「え?」
「他にこの後貰う予定はないの?」
「予定……シロコさんやプラナと一緒にプレナパテスの分のチョコレートを作るぐらいですかね?」
「……本当に?他に誘いとかきてない?」
「それも無いはずかと……あっ」
この時、折川酒泉はある事を思い出した
それはミカが送ってきた朝のモモトークに返信した後、その返信に対しての文句を仕事中にごちゃごちゃと送りまくってきていたので咄嗟にモモトークをミュートにした事だった
更に酒泉はモモトークというアプリその物をミュートにしており、なんとミカ以外からのメッセージにも反応しなくなってしまっていた
(……まあ、仕事が終わってからでいいか)
トリニティで会う約束をしたのも互いに仕事が終わってからだしすぐに確認しなくてもいいか、そう考えた酒泉は次の現場での仕事を終えてからミュート機能を解除しようと決めた
……彼は知らない、そのモモトークの中に色んな女性から大量のメッセージが送られてきている事を
ミレニアムの理解者も、ロマンの求道者も、栗みてーな口してやがる少女も、勇者を夢見る少女も、勇者を支える侍女も
トリニティの元予言者も、スーパースターも、今朝撃沈したばかりの賢者も
アリウスのリーダーも、厚かましそうな少女も、お姫様も、道具も
厄災も暁も何でも屋もグルメテロリストも温泉狂いもえとせとらえとせとら
多くの女性が様々な理由でチョコを贈ろうとしている、それは恋愛だったり友愛だったりはたまた酒泉を丸め込もうとしているだけだったり
「……酒泉?今の〝あっ〟ていうのは何?」
「気にしないでください、些細な事ですから」
「……そう」
そんな事も知らず運転にだけ注意を払う酒泉、彼は事故だけは絶対に起こすまいと運転時には己の目をフルで活かすのだった
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「これで全部よ、回収しておいて……私と酒泉は残党が居ないか確認してから行くから」
「り、了解です……」
引いた様な反応をしながら気絶した不良集団を回収していく風紀委員達、幾度の戦闘を終えてもその威圧感が収まる気配は無し
実力の低い者なら味方ですら怯えさせてしまうほどのそのオーラは本日の戦闘に置いて大きな効力を発揮した
その効果は全ての戦闘で、時には三度の戦闘に掛かった時間を合計しても十分も経たない内に終わらせてしまう程であった
「……」
「……」
「……こ、ここに残党が居なければとりあえず今日はもう終わりですね」
「そうね」
「……」
「……」
特に何も無い道を無言で歩くだけの二人、互いに残党の気配が無いかしっかり気配は探っているもののどこかぎこちない様子だった
主にぎこちないのはヒナの方、酒泉はそれが気になって釣られているだけだが
「……酒泉、今日は随分と沢山のチョコレートを貰ったのね」
「はい、友チョコだったとしても嬉しい限りっすね」
「……そうね、皆優しい〝お友達〟で良かったわね」
ほんの僅かでも他の女性を意識させない為に〝お友達〟の部分を強調して言うヒナ、そんな姑息な手段を使ったところで自分の〝遅れ〟を取り戻せる訳ではないと彼女自身理解していた
ヒナが悔いている事、それはモタモタしている間に他の女性に遅れを取ってしまった自分の不甲斐なさだった
手作りチョコと市販のマカロンのどちらを渡すか迷っている間に、結局マカロンを買いに行ってしまった間に、他の女性が我先にとチョコを渡しに行ったというのに
空崎ヒナは大胆に成り切れない、酒泉がちょっとでも浮気(別に付き合ってはいない)をすればすぐ病みモードに入るが、その状態でもイマイチ押し切れないという照れ屋な女の子なのだ
時折大胆な告白とも取れる発言をしておきながらこの有り様である
「……その、皆から貰った分だけで十分お腹一杯だと思うけど……私のもついでに受け取ってくれないかしら」
「ん?それは?」
「手作りチョコレートよ……酒泉用の」
「……え?」
ヒナがポケットから取り出したのは紫色の包装紙に包まれた小さなハート型の箱、紫色のリボンにまで丁寧にハートの絵がプリントされている
「手作りって……空崎さんの?」
「うん」
「……俺の為に?」
「…………うん」
こくり、と小さく頷くヒナ
その事実は酒泉にとって何より衝撃的であり、何より嬉しくもあった
前世で画面越しから触れる事しかできなかったとしても、今世で直接触れ合えるようになったとしても、どちらにせよ折川酒泉にとって空崎ヒナは永遠に大切な存在で在り続けるのだから
「本当はもっと早く渡したかったけど……その……他の子と一括りにされたくなくて……」
「そんな……一括りになんて────」
「勿論分かってるわ、酒泉はそんな事はしないって……これは私の我儘だから」
我儘、あの空崎ヒナが、自分だけに意識を向けてほしくてチョコレートを渡すタイミングをずらした
卒業後も支えてほしいという我儘を二度も受けた酒泉は自分が多少なりとも空崎ヒナにとっての〝特別〟であると自覚している
恋愛的な意味で好かれていると自惚れこそしていないが、そこまで行かなくとも今回の件はヒナにとって相当無念だっただろうと酒泉は考えた
「……あ、あの!ホワイトデー、二人でどっか行きませんか!?」
だからこそ、その無念を晴らしてあげる為に自ら歩み寄った
「誰も呼ばず、俺と空崎さんだけで!ホワイトデーのお返しもそこでしますから!」
「……二人だけで?」
「はい!絶対に楽しませてみせますんで!」
「それは……デートのお誘い?」
「え?いや、ただ遊びに行こうかと────」
「じゃあ行かない」
「デートです!!!」
酒泉個人の価値観としては付き合ってもいない異性にデートに誘われるのは流石に嫌がられるかもしれないと考えて敢えてその可能性を否定したのだが、直後にわざとらしく不貞腐れた様なヒナの表情を見て即座に肯定した
彼の鈍感っぷりでもヒナの機嫌が露骨に悪くなったかどうかは流石に理解できるらしく、この場に置いてはヒナのイエスマンに徹する事に決めた
「ふふっ……それじゃあ楽しみに待ってるわね」
「は、はい……」
「ホワイトデー当日はエスコートお願いね?酒泉」
「了解です、なんとか楽しませられる様なデートコースを考えてみます」
「デート……ふふふ……デート……♪」
数分前までの雰囲気から一転、容姿も相まって幼子の様にご機嫌に車に乗り込むヒナ
自分なんかがデートの相手を勤めてしまってもいいのだろうかと歓喜と罪悪感を同時に覚えつつ、助手席側で足をパタパタと小さく揺らしているヒナの元へと酒泉も急いだ
「……あ、そうだ。モモトークのミュート解除しなんだこの量!?(驚愕)」
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以下オマケ
「えへ……えへへへへ……」
「……あの子、どうしてあんなにニヤついてるの?」
「なんかねーゲヘナの彼とチョコレート手作りして交換したんだってー」
「え!?本当!?」
「う、うん!……えへへへへへへ」
「もーこの子ったらこんなに顔緩めちゃってー……それで?どこまでいったの?」
「えへへへ……え?」
「だって……ねえ?」
「バレンタインにチョコレート贈りあってそれだけで終わりなわけないもんねー?」
「えっと……それは……な、内緒です!」
「なんだとー!?」
「囲え囲えー!」
「吐かせろー!」
「こちょこちょこちょー!」
「あはっ!?あはははは!?ぜ、絶対に言わない!あのあと二人で食べさせ合うのもお願いしちゃったなんて絶対に言わないもん!」
「言ってる……」
──────────
「むふふ」
「ちょっとアンター、またそのチョコレート眺めてんのー?」
「むふふふ」
「それ昨日も眺めてたでしょ?何が楽しいんだか……」
「姉貴には分からなくていいんだ、これの良さが分かるのは私だけだからな」
「何?高級チョコとかそんな感じ?」
「違う、そんなのよりもっと良いチョコだ」
「はぁ?……なに?もしかして誰かからの贈り物とか?そんな美味しかったの?」
「うん」
「へぇ……私にも一つ────」
「やだ」バッ
「……一つくらい良くない?」
「駄目だ、アイツがくれた物は一つもやらん。チョコもチョコに込められた愛情も構ってもらう権利も一つもやらんぞ」
「最後のに関しては要らないわよ、アンタじゃあるまいし…………ていうかアンタが個人をそこまで気に入るなんて珍しいわね、どんな奴なの?」
「……姉貴には紹介しない」
「ええ!?なんで!?独り暮らしの様子を見にきてあげた姉に対して冷たくない!?」
「ていうか他の女に紹介したくない」
「……アンタ、それって────」
「むふふ……にへへへへへ……」
「はぁー……女の子の成長は早いなー……」
「~~~♪」
「じゃあ私ハイランダーに戻るから、次来るまでにはちゃんと自炊できるようになっときなよー」
「これからもずっと構ってもらうからな……」
「聞いてないし……」
マカロンを渡す勇気はまだ無い模様