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日本版DOGE始動:本家との決定的な違いと「見守りたいが不安も大きい」理由

2025年11月25日、高市政権が「租税特別措置・補助金見直し担当室」を設置しました。いわゆる日本版DOGEです。片山さつき財務大臣が担当相となり、SNSで国民から意見を募集するという意気込みを見せています。

ただ、本家アメリカのDOGEはすでに実質的に解体されています。任期を8ヶ月も残して終了という短命ぶりでした。では日本版は本家と何が違うのか、そして民主党政権時代の「事業仕分け」とは何が異なるのか。整理してみました。

本家DOGEは10ヶ月で実質解体

まず押さえておきたいのは、本家DOGEがすでに終わっているという事実です。

当初2026年7月4日(米国独立宣言250周年)まで存続する予定でしたが、2025年11月に人事管理局長が「もはや中央集権的な組織として運営されていない」と発言。実質的な解散が明らかになりました。

発足からわずか10ヶ月での終了。イーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの対立、トランプ大統領との関係悪化、そして何より「測定可能な削減効果はほとんどなかった」という批判が相次いでいました。

本家DOGEの短い歴史

2024年11月 トランプ次期大統領がDOGE構想を発表。イーロン・マスクとラマスワミが共同委員長に

2025年1月20日 トランプ大統領の就任と同時にDOGE発足。大統領令により米国デジタルサービス局(USDS)を再編

2025年1月〜3月 大規模な人員削減を実施。28万人の連邦政府職員が削減対象となり、政府職員の10人に1人が失職する計算

2025年1月末 ラマスワミがDOGEを離脱。オハイオ州知事選出馬とマスクとの方針対立が理由とされる

2025年5月 マスク氏が政権を離脱。トランプ大統領との対立が表面化

2025年11月 人事管理局長が「DOGEは存在しない」と発言。実質的に解散

2兆ドル(約313兆円)の歳出削減を掲げながら、達成できたのは疑義の残る計算に基づく数値のみ。その過程で政府機能に大きな混乱をもたらしました。

削減対象になりそうな租税特別措置・補助金の具体例

では、日本版DOGEが見直すという「租税特別措置」と「補助金」とは、具体的にどんなものでしょうか。

租税特別措置の代表例

租税特別措置法には多岐にわたる優遇措置が含まれます。主なものは以下の通りです。

研究開発税制
企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から試験研究費の額に税額控除割合(1%〜14%)を乗じた金額を控除できる制度です。大企業から中小企業まで幅広く利用されており、日本の研究開発投資を支える重要な制度とされています。

中小企業投資促進税制
青色申告書を提出する中小企業者等が機械装置やソフトウェア等を新しく取得または制作する際に、取得価額の30%に相当する特別償却、または7%の税額控除を選択適用できる制度です。中小企業の設備投資を後押しする目的があります。

環境関連投資促進税制
省エネルギーや再生可能エネルギー関連の設備投資に対する税制優遇です。

住宅ローン控除
個人向けですが、住宅購入時のローン利用者に対して一定期間、所得税や住民税が軽減される制度です。

これらの制度は特定の政策目的を達成するために、条件や期限付きで税の軽減措置を行うもので、多くは時限立法として延長を繰り返してきました。

問題点:既得権益化と効果の不透明性

租税特別措置の問題は、一度導入されると既得権益化しやすいことです。業界団体や企業は制度の維持を強く要望し、政治家もその声に応えてきました。

本当に政策効果があるのか、費用対効果は適切かという検証が不十分なまま、慣例的に延長されてきたケースも少なくありません。

年間の減税規模は数兆円とも言われ、その分だけ税収が減っています。片山担当相が見直しの対象とするのは、まさにこの部分です。

補助金の例

補助金も多岐にわたります。農業、中小企業支援、地域振興、科学技術、医療、教育など、あらゆる分野に補助金制度があります。

医療分野でも、地域医療支援のための補助金、医師確保対策の補助金、医療機器整備への補助金など多数。これらの中には確かに効果が不明確なものもありますが、地方の医療を支えている側面もあります。

一律的な削減は医療崩壊を招くリスクがあり、慎重な判断が求められます。

民主党の「事業仕分け」とは何が違うのか

日本でも過去に似た試みがありました。2009年から2011年にかけて民主党政権が実施した「事業仕分け」です。

事業仕分けの特徴

「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、公共事業を中心に削減を進めました。外部有識者が仕分け人となり、事業の必要性を公開の場で査定。透明性は高かったものの、結果的にスーパーコンピューター予算などの科学研究費や治水事業まで削減してしまい、批判を浴びました。

削減額は数千億円レベルにとどまり、削減した財源は財政再建に充てるという方針でした。

今回の租特・補助金見直しの特徴

一方、今回の取り組みは企業向け税制優遇(租税特別措置)と補助金がターゲットです。規模も年間数兆円と、事業仕分けより野心的。

そして最大の違いは、削減した財源を戦略的投資に振り向けるという点です。単なる節約ではなく、無駄を省いて成長分野に再配分する。高市政権の「責任ある積極財政」という理念と一致しています。

自民・維新連立という「保守+改革」の組み合わせで進める点も、民主党単独だった事業仕分けとは異なります。

本家DOGEと日本版DOGEの7つの違い

では本家と日本版は何が違うのか。構造的な差異を整理します。

1. 法的位置づけが明確

本家DOGEは「省」という名前がついていますが、実際には諮問委員会という曖昧な立場でした。トランプ大統領が大統領令で設置しただけで、議会の承認を経ていません。

日本版は内閣官房の行政改革推進本部の下に正式に設置されています。関係省庁から30人程度を併任で配置し、財務省や総務省と連携する体制。組織としての正統性は日本版の方が高いでしょう。

2. リーダーシップの違い

本家はイーロン・マスクという民間人が主導しました。「特別政府職員」という肩書で、正式な公務員ではありません。セキュリティチェックや資産開示義務も緩い立場でした。

しかも設立から1ヶ月以上、誰がトップなのか明確にされない状態が続きました。

日本版は現役の財務大臣(片山さつき)が担当します。責任の所在が明確で、官僚機構との連携も前提となっています。

3. 権限と実行力

本家は憲法上、予算削減の権限を持っていませんでした。あくまで議会への勧告権限のみ。それでも実際には大統領の政治力を背景に、各省庁に踏み込んで事業停止を命じるという強権的な手法を取りました。訴訟も多数起こされています。

日本版は勧告・提言が中心になる見込みです。最終決定は予算編成プロセス、つまり財務省と国会が握っています。「公開討論」やSNSでの意見募集で世論を味方につける戦略ですが、本家ほどの強制力はありません。

4. 目標の野心度

本家は2兆ドルの歳出削減という破壊的な目標を掲げました。米国国際開発庁(USAID)では83%の事業が廃止されるなど、過激な改革が進められました。

日本版は年間数兆円規模の見直しにとどまります。租税特別措置と補助金に特化し、削減した財源を戦略投資に振り向けるという漸進的なアプローチです。2026年度から本格適用という段階的な実施方針も示されています。

5. 政治的文脈

本家はトランプの「官僚機構の解体」という反エスタブリッシュメント路線の象徴でした。民主党議員からは「クーデター」とまで批判され、法学者は「憲政上の危機」を警告しました。

マスク個人の利益相反問題も常につきまといました。自動運転の規制緩和など、彼の経営する企業に有利な政策が進められたからです。

日本版は自民・維新連立合意に基づく体制内改革です。経済団体(経団連など)との調整が前提となっており、既存の政治システム内での改革を目指しています。

6. 透明性への姿勢

皮肉なことに、本家は透明性を欠いていました。トランプ政権はDOGEを情報公開法(FOIA)の義務から免除しようとしたほどです。誰が働いているのか、どう意思決定されているのかさえ不明でした。

日本版はSNSでの意見募集、プロセスの公開、公開討論を明言しています。透明性を重視する姿勢は評価できます。ただし、実際に実現できるかは別問題です。

7. 手法の違い

本家は強権的・トップダウン。大量解雇も辞さない破壊的手法でした。

日本版は合意形成・ボトムアップ的。来週の連絡会議から始まり、各省庁の副大臣を集めて議論するという段階的なアプローチです。

日本版の方が「まとも」だが、それゆえの弱点も

構造的に見れば、日本版の方が制度的に安定しており、説明責任も明確で、暴走のリスクも低いでしょう。

しかし逆に言えば、既得権益に阻まれやすく、骨抜きになりやすいという弱点があります。

租税特別措置や補助金は、特定業界や地域経済と直結しています。経団連などの経済団体は長年、これらの維持を強く要望してきました。自民党との関係も深い。

片山担当相は「各省庁はしがみついて持っている」「公開討論あり」と意気込みを見せていますが、選挙への影響を考えれば、どこまで踏み込めるでしょうか。

医療分野から見える懸念

私は脳外科医として、この政策を特に注視しています。

医療分野にも多くの補助金があります。地域医療支援、医師確保対策、医療機器整備など。確かに効果が不明確なものもありますが、地方の医療を支えている側面も無視できません。

事業仕分けの教訓を思い出します。当時、一律的な削減が進められ、本当に必要な予算まで削られました。

医療で例えるなら、「この患者は太りすぎだから体重を30kg落とそう」と急激な減量を進めた結果、筋肉も骨密度も落ちて健康を害するようなものです。

政府も同じ。確かに無駄はあります。しかし何が無駄で何が必要かの判断は極めて難しい。SNSの声だけで判断すれば、声の大きい意見に流されるリスクがあります。

削減後の影響評価を事前に行い、医療・教育・安全保障など削れない領域を見極め、専門家の意見を尊重する仕組みが必要です。

本家の「失敗」から何を学ぶか

本家DOGEを「失敗」と断じていいのか。評価は分かれます。

支持者は「政府効率化への問題提起はできた」「官僚主義への挑戦という象徴的意義がある」と擁護します。トランプ支持層には「やってくれた感」があるでしょう。

しかし客観的に見れば、短命に終わり、混乱を招き、具体的成果は限定的でした。

日本が学ぶべきは、拙速な削減の危険性です。

時間をかけた精査が必要であり、削減後の影響評価を怠ってはいけません。専門家の意見を尊重し、何より「削減した財源が本当に戦略投資に回るのか」を監視する必要があります。

財務省が別の穴埋めに使ってしまえば、元も子もありません。

今後の注目点

短期的には、来週予定の第1回連絡会議の内容、SNS意見募集の具体的方法、専門家委員会の構成(利害関係者を排除できるか)に注目です。

中期的には、2026年度予算編成で具体的にどの租特・補助金が削減されるか、そして削減財源が本当に戦略投資に回るか。

長期的には、組織が本家DOGEのように短命に終わらないか、実質的な成果が出るか、社会的混乱を最小限に抑えられるかが問われます。

見守りたいが、不安も大きい

理念は評価できます。透明性の向上、既得権益への挑戦、国民参加型のアプローチ。どれも必要なことです。

しかし実現可能性と副作用への懸念は大きい。本家DOGEと事業仕分け、両方の失敗から学ぶ必要があります。

「やってる感」だけで終わらせず、慎重かつ継続的に進めてほしい。それが率直な思いです。

日本の官僚機構と政治システムの中で、どこまで本気で切り込めるのか。片山担当相の手腕が試されます。



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