先端半導体の製造に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置が、日本国内に本格的に導入される。露光装置は、回路パターンを焼き付けるための装置。開発以前は「実現不可能」ともされていた同装置は、実際にどう動作するのか。世界で唯一開発するオランダASMLの日本法人に聞いた。

 半導体デバイス微細化のカギとなるのが、波長13.5nmの極端紫外線を使うEUV露光装置だ。フォトリソグラフィー工程において、フォトマスクのパターンをウエハー上に転写する露光を担う。7nm世代以降のロジック半導体や最先端メモリーの製造で不可欠な同装置は、世界でオランダASMLだけが供給している(図1注1)

図1 ASMLのEUV露光装置
図1 ASMLのEUV露光装置
質量は180t。輸送にはジャンボジェットの貨物機3機分が必要という(出所:ASML)
注1)近年の先端半導体デバイスでは、トランジスタがプレーナー(平面)FET(Field Effect Transistor)からGAA(Gate All Around)FETと呼ばれる3次元構造になるのに伴い、半導体プロセスノードを表現する数字が、実際の加工寸法とは必ずしも一致しなくなっている。

 米Intel(インテル)や韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、台湾積体電路製造(TSMC)といった大手半導体メーカーはASMLのEUV露光装置を導入して先端半導体デバイスを量産している。一方、大手3社のような先端半導体デバイスの製造拠点を持たない日本では、これまで同装置による本格的な量産はなかった注2)

注2)ASMLによると、過去に日本国内で同社のEUV露光装置を運用した実績はある。

 ところが近年、風向きが変わり始めた。国内企業の支援を受けて設立された半導体企業Rapidus(ラピダス、東京・千代田) は、北海道の半導体工場にEUV露光装置を導入すると表明した。米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー) も広島工場に、同装置を導入する見込みだ。

 いよいよ国内にも本格的に導入されるEUV露光装置。技術的な特長はどこにあるのか。ASMLの日本法人であるエーエスエムエル・ジャパン テクニカルマーケティングディレクターの森崎健史氏によると、同装置を構成する高精度な「ミラーレンズ」と、出力25kWの炭酸ガス(CO2)レーザーを用いた「EUV光源」の実現が、同装置を開発する上で壁だったという。

ミラーレンズでEUV光を届ける

 半導体デバイスの製造に必要なフォトリソグラフィー工程は、エッチング工程の前段階に当たる工程で、大まかに(1)フォトレジスト塗布(2)露光(3)現像の3段階を経る(図2)。

図2 フォトリソグラフィー工程のイメージ
図2 フォトリソグラフィー工程のイメージ
大まかに(1)フォトレジスト塗布(2)露光(3)現像の3段階を経る(出所:日経クロステック)

 まず、ウエハー上の薄膜にフォトレジストを塗布し、パターンが描かれたフォトマスクを用いて露光する。このときウエハー上に投影されるのは、フォトマスクのパターンを縮小したパターンだ。現像すると、露光したパターンに従ってフォトマスクが取り除かれ、薄膜が露出した部分が現れる。そして、その露出部分だけを後のエッチング工程で削り取るという流れだ。

 一連のフォトリソグラフィー工程の中で、露光装置はその名称の通り、フォトマスクを使った露光作業を担う。一般に、短い波長の光源を使う露光装置ほど、微細なパターンを露光できる。EUV光による露光技術は現時点で最先端とされ、前述の通り世界ではASMLだけが同装置の量産に成功している。

 同社のEUV露光装置では、光源から出力したEUV光をミラーレンズで反射させながらフォトマスクに届け、フォトマスクで反射したEUV光を、さらにウエハーに届ける(図3)。露光を終えたらステージ上のウエハーを動かし、次々と同じパターンを照射していく。

ミラーレンズ=鏡を使って光を集めるレンズ。
図3 EUV露光装置の内部
図3 EUV露光装置の内部
光源や複数のミラーレンズ、フォトマスク、ウエハーなどは真空チャンバー内にある(出所:ASML)

 EUV光はさまざまな物質に吸収されやすく、空気にも吸収されるため、前述した一連の機能は真空チャンバー内にある。

 光の反射を多用しているのも特長だ。従来の露光装置では、光源からの光がフォトマスクとレンズを通過した後、ウエハー上のフォトレジストに届く。写真機と似た仕組みだ。

 一方、EUV露光装置では、EUV光源からの光をフォトマスクに当てた反射光を利用する。反射を多用するのは、透過させるとそこでEUV光が吸収されてしまうため。フォトマスクのパターンを縮小投影するのに使うレンズも、反射を利用するミラーレンズだ。

 ミラーレンズの製造元は独Carl Zeiss(カール・ツァイス)の子会社。微細なパターンを投影するために、同レンズの表面加工には高い精度が必要となる。具体的には、表面粗さ50pm(ピコメートル、ピコは10-12)以下の精度で磨かれており、「ドイツの国土面積に対して高さのばらつきを1mm以下に抑えるようなもの」(森崎氏)という。

スズの液滴に25kWのレーザーを照射

 EUV光源の開発も、技術的に難易度の高い挑戦だった。ASMLのEUV露光装置では、まずスズ(Sn)を溶かした微小な液滴を出力し、その液滴に炭酸ガスレーザーを照射することで、プラズマ発光を得る。その光をコレクター(集光器)で集めて送り出し、EUV光源とする仕組みだ(図4)。

図4 EUV光源のイメージ
図4 EUV光源のイメージ
スズの液滴1個当たり、炭酸ガスレーザーを2回照射する(出所:(a)はASML、(b)は日経クロステック)

 より強力なEUV光を得るには、レーザーの出力を大きくしたり、液滴の数を増やしたりする必要がある。そこで、「レーザー兵器にも匹敵する」(森崎氏)という出力25kWの炭酸ガスレーザーを採用した注3)

注3)EUV露光装置の消費電力が大きいのは、主にこのレーザーによるという。

 スズの液滴の直径は約25µm。「ドロップレットジェネレーター」と呼ぶ装置で、毎秒5万個を打ち出す。ここで発光効率を高めるため、毎秒5万個の液滴に対して、それぞれ2回ずつレーザーを正確に照射する。「1回目の照射でスズの液滴をふわっとした雲状にしてから、さらにもう1度照射する」(森崎氏)

 ただし、レーザー出力25kWのうちEUV光として変換されるエネルギーはわずか数%。残りのエネルギーは主に熱に変わるため、コレクターをはじめとする光源の周辺には、水冷機構を配置している。

 ASMLが世界で独占供給するEUV露光装置は、こうした要素技術に支えられているというわけだ。

高NAで大型化するEUV露光装置

 2nm世代以降のさらなる微細化に向けて、EUV露光装置の技術動向として注目されるのが、開口数(NA)の向上だ。開口数はレンズの集光効率を表す指標で、その数値が大きい露光装置ほど、微細な露光が可能とされる。

 現在のEUV露光装置は開口数0.33が主流で、ASMLは開口数を0.55に高めた装置を開発している。2023年12月、同社は高NA装置の第1号機をIntelへ出荷したことを明かした。Intelは1.4nm世代の製造プロセス「Intel 14A」で同装置を利用し、2027年ごろに量産を開始するとみられる。

 高NAへの対応によって、露光装置やフォトリソグラフィー工程は何が変わるのか─。森崎氏によると、高NAのEUV露光装置でも波長13.5nmの極端紫外線を使う点は変わらないものの、まずは装置サイズが大型化する。

 例えば、前述のミラーレンズは、従来よりも加工精度を高めた上で大型化する必要があり、それを複数収める真空チャンバーも大きくなる。「従来は装置1台を分解して客先へ運ぶのにジャンボジェットの貨物機3機分で済んだが、高NAでは6機分になる」(同氏)

 加えて、機械的な動作速度を高める必要もある。開口数の向上は微細化につながる一方、1度の露光面積が半分になるからだ(図5)。

図5 1度に露光できるウエハー面積のイメージ
図5 1度に露光できるウエハー面積のイメージ
高NAによるEUV露光は微細化に貢献する一方、1度に露光できるウエハー面積が半分になる(出所:日経クロステック)

 現行のEUV露光装置では、フォトマスクのパターンを縦方向と横方向の両方で4分の1に縮小してウエハー上に投影する。それに対して、高NAでは光学上の都合から縦と横で縮小率が異なり、縦は4分の1、横は8分の1になる。すると、同じ動作速度のままでは、ウエハー単位で生産性が半分になる。

 そこで同社は、ウエハーを載せるステージなどの機械部分について、位置決め精度を高めるのと同時に、動作速度の向上を図っている。「仮に、現行装置の処理能力が1時間当たりウエハー200枚であれば、顧客は高NAでも同じ処理能力を求めてくる」(森崎氏)からだ。

 半導体デバイスの微細化に欠かせない最先端技術という意味で、高NAを含むEUV露光技術には注目が集まる。一方、ASMLはEUV露光が登場する前の世代に当たる液浸露光装置の開発も続けている。「使える技術は共通化しながら開発効率を高め、コストを下げていく」(森崎氏)考えだ。

液浸露光装置=レンズとウエハーの間に水を満たして解像度を高める方式の露光装置。

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EUV露光技術を支える測長SEMと電子ビーム描画...

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