内閣府などは日本の宇宙産業を育成・強化するため、2024年3月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に「宇宙戦略基金」を設置した。宇宙産業に最大10年間で総額1兆円規模というこれまでにない大規模な資金を企業や大学に投じ、日本の競争力を強化するための技術開発を支援する。同基金のプログラムディレクター(PD)として運営全体を統括する、一般社団法人SPACETIDE(スペースタイド)代表理事兼最高経営責任者(CEO)の石田真康氏に聞いた。

日本の宇宙政策の目玉とされる「宇宙戦略基金」が始動しました。宇宙産業における日本の競争力強化に、この基金はどのような貢献をするのでしょうか。

 日本では過去10年にわたり、民間による技術開発や事業活動のための法整備、技術実証プログラムなど様々な政策が行われてきました。宇宙戦略基金はその切り札とも言える政策だと思います。技術開発支援を起点とし、その先に事業化や商業化を見据え、最終的には宇宙市場の拡大や社会課題の解決を目指す大型の取り組みです。日本の宇宙産業エコシステムを強化するための取り組みとも言えます。

 民間企業の視点では、日本の宇宙企業を世界と比較した時、大きな違いはビジネスの「最初のひと転がし」が早いか遅いかにあると思います。世界のフロントランナーの場合は最初のひと転がしが早いので、プロダクトやサービスをつくった後に、企業としてどう成長していくか攻めの戦略の構築に注力できます。一方、日本の場合は、まずつくり、生き残ることが重要で、成長戦略まで十分に手が回っていません。

SPACETIDE代表理事兼CEOの石田真康氏。宇宙戦略基金のプログラムディレクター(PD)を務めている
SPACETIDE代表理事兼CEOの石田真康氏。宇宙戦略基金のプログラムディレクター(PD)を務めている
(写真: 日経クロステック)

 その背景には2つの苦しさがあります。投資と初期需要です。投資については、宇宙分野では太くて長い投資が必要ですが、政府の補助金は単年度ですし、民間のリスクマネーは限られています。このため、最初のひと転がしで苦労してしまい、成長戦略の構築までたどり着けない状況でした。宇宙戦略基金は投資に関して、課題の一部を解決すると考えています。総額1兆円を個別の多数案件に振り分けるので、資金の課題をすべて解決するものではないですが、期間については要望に応えられていると思います。

 世界では初期需要は政府系の宇宙機関か、安全保障機関が担います。日本の場合は歴史的な背景から、これまで後者は存在しませんでした。ようやく最近になって宇宙安全保障が動き出した状態です。つまり、初期需要がかなり限られているというのは引き続きの課題となっています。

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「ほぼ全員が宇宙戦略基金を知っていた」

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