PTAの資金1200万円「食い物」に 法廷で語られた元役員の手口

小林未来 杉原里美

 保護者から集めたPTAの会費の一部が「食い物」にされていた。ほとんどの学校にあるPTAの全国組織「公益社団法人日本PTA全国協議会」(日P)の資金約1200万円が、めぐりめぐって1人の幹部の懐に入っていた。どんなカラクリだったのか。法廷の証言からたどる。

 2022年8月9日。日Pの参与という役職だった青羽章仁被告(55)は、さいたま市内のファミリーレストランにいた。

 待ち合わせ相手は、工務店の社長。日Pのビルの修繕工事を任せようとしていた。

判決「不合理な弁解に終始」

 被告「750万円の見積もりを作ってほしい」

 見積もりは本来、業者から提示するもの。だが、金額まで指定してこう要求した。

 正しい額より100万円以上も高かったが、社長は「(差額は被告が)どうにかするのだろう」と、正しいものとは別に、言われたままに見積書を作った。

 翌10日、日Pから工務店に70万円が「手付金」として振り込まれた。

 だが、被告から、その金を別口座に送金するよう電話があり、同日、全額を移した。工務店社長は「(工事の)紹介料のようなものだと思った」。口座は被告が管理する会社のものだった。

 その後も追加工事分などとして、水増しされた工事代金が日Pから支払われた。

 工務店は水増し分を被告指定の口座へ横流し。こうして計11回の送金で約1200万円にふくれあがった。

 工務店はその後、被告から言われるまま、支払われた金額にあわせる形で、事後的に工事単価を水増しするなどした請求書を作成したという。

 この金を生活費などに充てていたという被告。法廷でこう弁明した。「工務店からは借り入れのつもりだった」

日Pの事務 被告任せ

 さいたま地裁は10月、「不合理な弁解に終始」などと断じ、背任罪などに問われた被告に、懲役3年の実刑判決を言い渡した。被告は翌日控訴した。

 なぜ、こんなことが起き得たのか。朝日新聞が入手した内部資料からその答えが浮かび上がる。

 それは「役員が原則1~2年の任期ごとに替わっていく」というPTA組織が根っこに抱える課題だ。再任はあるものの、業務に不慣れのまま、幹部になる場合も多い。

 一方の青羽被告は、日Pや地元のさいたま市PTA協議会で合計10年近く幹部を続け、内部で幅をきかせることとなった。

 今回の事件を受けて日Pがつくった第三者委員会の非公開の意見書に、当時の幹部たちの証言が記録されている。

 「仕事は青羽氏に教えてもらいながらやっていくものと思っていた」

 「運営に詳しい青羽氏に事務を任せきりにしていた」

内部の混乱が招いた退会ドミノ

 意見書は、被告のおかげで事務が回っているという役員らの「勘違い」が不正行為の隙を与えた、と結論づけた。

 日Pの会員団体に所属する保護者は、24年度から100万人以上減っている。事件そのものの衝撃に加え、その後の内部の混乱が退会ドミノを決定づけた。

 たとえば、日P執行部は工事への疑念が浮上してもなお、被告の言い分を信じ続け、23年9月の記者会見では架空の見積書を示して「工事は問題なかった」と主張。

 支出の問題点を調査すると表明した当時の会長には、本人への聞き取りを一度もしないまま一方的にパワハラを認定して解職した。

 内部対立は深刻化し、24年末には内閣府の公益認定等委員会から組織運営の是正勧告まで受けることになった。

 日Pは25年10月、損害を回復するため、被告らに損害賠償を提訴。金銭支出への電子手続きの導入や役員へのガバナンス研修など改善策を講じてはいるが、問題発覚後も赤字は続いており、立て直しは道半ばだ。

 同志社大学の太田肇名誉教授(組織学)は、「日P内部で誰にどんな権限があるのか明確ではなく、『集団無責任体制』といえる状態が続いていた」「ルールよりも仲間の利益を優先し、閉鎖的で外部から目が届かないという非営利の共同体型組織の悪い面が表れた」と指摘。日Pを頂点とするピラミッド構造を変えて地方組織や保護者も対等な関係に移行し、そこから専門人材を登用することも提案する。

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この記事を書いた人
小林未来
さいたま総局
専門・関心分野
消費生活、食生活、教育
杉原里美
さいたま総局|県政・教育担当
専門・関心分野
家族政策、司法のジェンダー、少子社会、教育