「差別は人を殺す」安田浩一さん講演 質疑で「藤沢モスク問題」も
外国人への漠然とした不安や不満を背景に、排外主義をあおるような言説が広がるなか、日本に暮らす外国人の人権について考える講演会が横浜市であった。神奈川県藤沢市のモスク建設を巡って過熱気味のネット言論について、やりとりを交わす一幕もあった。
14日、横浜市中区で「在日外国人と人権」をテーマに講演会が開かれた。講師は、外国人差別を長く取材してきたノンフィクションライターの安田浩一さん。市成人教育講座運営委員会主催の成人教育講座の第1回で、約50人が耳を傾けた。
関東大震災(1923年)の朝鮮人虐殺などを取材してきた安田さんは「差別や偏見は人を殺します」と力を込めた。
「デモに遭わないように……」祈り帰路につく
安田さんは現在、埼玉県川口市で暮らす在日クルド人の取材を続けている。同市や近隣には母国での差別や迫害を理由に難民認定を求めるトルコ国籍のクルド人が集まり、2千人ほどが暮らしているとされる。
クルド人の存在は近年にわかにネットなどで注目を集め、クルド人ら在日外国人への「移民反対」デモが度々行われている。SNSではヘイトスピーチやデマが日々飛び交う。
デモに遭わないよう祈りながら毎日帰路につく学生や、SNSの差別的な投稿を日々追ってしまう中学生――。そうしたクルド人たちの姿を安田さんは紹介した。「独特のクルド人像」がSNSで独り歩きしており、「実際に接したり会話したりしたことがある人がどれだけいるのか」と疑問を投げかけた。
講演の最後、安田さんは訴えた。「ヘイトスピーチは対等な議論ではない。大事なのは、いま言葉を奪われ、沈黙を強いられている人たちの『表現の自由』。対等な関係性を守り、一緒に生きていくために、差別は許されない」
ネットでは「藤沢の巨大モスク建設反対」
質疑応答では、藤沢市に計画されているモスク建設について、「市外の人も加わり、住民も巻き込んだ対立が起きている」と悩む声が上がった。
ネットでは最近、「藤沢市に巨大なモスクが建設される」などと訴える投稿が拡散。建設見直しを求めるネット署名は3万筆を超えた。
市によると、モスクを建設する計画は実際にあり、敷地面積約980平方メートルに鉄骨2階建てで、市の担当者は「全国的にみれば一般的な大きさのモスク」と話す。現在は更地の状態で、完成は2028年末の予定だ。
内外からの問い合わせを受け市は10月に見解を公表。法律や基準に適合し許可や確認を受けた計画を恣意(しい)的に取り消すのは「不法行為で、行えない」とした。
安田さんは「地域の分断を招く懸念はあり、難しい問題」としつつ、「自分と異なる人々が来るという恐怖心や誤解に基づいた差別が反対運動に結びついてしまう」と危惧。「『これって差別にならないか?』と地域で議論する義務がある」とした。
さらに「外国人の労働力に依存しつつ『彼らの施設は要らない』と追い出す権利が私たちにあるのか」と問いかけた。
次回の「成人教育講座」は
講座は全2回で、次回は来年1月23日の午後6時半~8時、かながわ労働プラザで開かれる。横浜ユーラシア文化館の伊藤泉美副館長が「横浜中華街の歴史」について語る。参加無料。申し込みは名前と連絡先、「成人教育講座参加希望」を記入の上、NPO法人「在日外国人教育生活相談センター・信愛塾」のメール(shinaijuku@gmail.com)かFAX(045・252・7862)へ。
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