神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
《extension》
○○の腰元に装着された、多機能型神秘増幅ユニット『ミスティック・ドライバー』。
その天面のボタンが押し込まれ、待機状態から稼働状態へと移行する。
体内の奥深くまで接続が果たされた神秘増幅機関の稼働ラインが青白く発光。
体表に毛細血管のように張り巡らされた青白の光が浮かび上がり、一瞬の間を置いて神秘の増幅が果たされる。
ひび割れたヘイローの輝きが最高潮にまで達し、今にも割れんばかりに震え出す。
それと同時に、身に纏っていた衣服が粒子に変換され、露わとなった躯体に黒々としたインナースーツと白い装甲が重なり、装着されていく。
前腕に纏わり、脚を包み、肩部に被さり、胸元を隠すように、寸分違わず、位置に狂いもなく○○の体に装甲が取り付けられていく。
その装甲の表面に、幾何学的な紋様───装甲の素材に用いたデカグラマトンの預言者達のヘイローを押し重ねたような、歪な光───が舐めるように浮かび上がり、絡み付く。
両肩部の装甲に折り畳まれ収納されていた一対のサブアームが展開され、稼働を始める。
最後にバイザーが目元を覆い、電子的な音と共に稼働。その場に居る全員の凡ゆるステータスを拾い上げ、蒐集を行っていく。
一秒にも満たない時間。瞬きで見逃してしまいそうな程の高速で身に纏われた装甲が、噴煙を散らすように青白い神秘の粒子を巻き上げ、装着が完了したことを周囲に示した。
純白のパワードスーツ、白い装甲を纏い終えた○○がその感触を確かめるように両手を握り、開く。
それから改めて先生の方へと向き直り……悩ましげに眉間を寄せて、小さく頭を抱えた。喉に小骨が引っかかったような、咄嗟に言いたい言葉が出てこないような。
「……あぁ、えぇと、何でしたっけ……こういう時にピッタリの言葉があった気が…………ぁ、そうそう」
思い出した。
それからぱちん、と指を鳴らして緩く微笑んだ。
「変身、完了致しました」
こういうの、お好きでしょう?
得意気に○○は指先を向けて、身に纏うパワードスーツがよく見えるようにポーズまで決めて、自分の姿を見せびらかした。
が、○○が予想していた反応とは異なり、対面する生徒らと先生は戦いて、固唾を飲むようにして○○を見つめているばかり。
事前の予想では、エンジニア部の皆はスタンディングオベーション。変身ヒーロー物を始めとした特撮系が好みの先生からも好反応を得られるといった感じだったが……どうにも反応が乏しい。
ウケが悪い様子に、あちゃ〜、なんて軽い調子で頭を抱えた。
○○は自分の失敗を嘆く。
変身の掛け声やタイミング、決めポーズはもっと良く練っておくべきだったか。
それともシステマチックな音声だけでなく派手な音楽でも鳴らしておくべきだったか。それかビカビカと発光するエフェクトも追加するべきだったか。
課題は尽きないが、まぁ、それは次の機会で挽回するとしよう。
思考を切り替え、失敗は乗り越えよう。
「テメェ、その格好……」
ネルが○○の姿を鋭く睨み付ける。以前の戦いの記憶。セミナーの会長、調月リオが造り上げた要塞都市エリドゥにて対峙したトキの纏っていた『アビ・エシュフ』。
それを想起させるような装甲を装着した○○に、嫌な予感が背を伝うようだった。
「あぁ、こちらのパワードスーツ……名付けて、『サイエンス・フィクションアーマー』。私の神秘を増幅させ、高純度となった神秘を装甲と全身に循環させる事で耐久性を確保した、私謹製のパワードスーツです」
恭しく、ブーツ状の脚部装甲で床を鳴らし、軽やかにステップ、その場でターン。
白髪をたなびかせながら、自らが纏うパワードスーツの外見をアピールするように立ち振る舞う。
「その性能は……これから確かめて頂ければ」
《Gevurah Buster》
短いコール音。読み上げられる名前と共に○○の片手に青い粒子が寄り集まり、銃の形を形成する。
片手にアサルトライフル程の全長を有した、白い銃型武装。重厚な重みを見せるそれを握り締めれば今日一番の満面の笑みを浮かべた。
「さぁ、張り切って参りましょう!」
意気揚々とした声と共に銃口が突き出され、重厚な炸裂音が神秘の弾丸を吐き出していく。
「うぁ゛っ!? 痛、ぁ……!」
放たれた弾丸は青い残光を大気に残しながら、生徒の元へと飛来、着弾。
銃弾に強い耐性を持つ生徒の体。ただの一発だけで青痣を作り出すほどの威力を叩き込まれた事により、意識が一気に切り替わっていく。
○○は、本気だ。
本気で死に体のような体を動かし、戦おうとしているのだと。
「───いいぜ、やってやろうじゃねぇか」
『……ネル。こうなった以上、早急に戦闘を済ませる他無いわ』
「わーってるよ。……さっさとふん縛って、反省室にぶち込んでやる。それで良いな、先生?」
溜息と共にネルが一歩踏み出し、ギラつく瞳と銃口を○○へと差し向ける。
○○の誘いに乗った上で、最小限の時間で戦闘を終わらせる。
そうした作戦で良いだろうと、横目で先生を見やった。
"……ごめん、○○。今の君の状態は、どうしても見逃せない。"
数度の逡巡を経て、先生は言葉を吐き出した。
○○という、大切な生徒が陥っている状態。テクスチャの剥がれた、命の危機を強く予見させる状況。
人の形を外れようとしている者を、命をかなぐり捨てようとしている者を、留める為に。
○○と戦う事を、決意した。
"もう一度、君と話をするために……此処で止めるよ。"
その言葉を合図に、生徒達は各々武器を構えた。
迷いと躊躇い。喉につっかえるように残るそれを今は無理矢理飲み下して、○○を止める為にと、立ち向かう決意を目に灯して。
「……○○ちゃん……」
ユメは、どうするべきか、その場で選べなかった。
○○のやりたい事を、やらせてあげたい気持ちはある。実験や研究をする○○の姿は楽しそうで、何かに悩み、生まれた課題に向き合う事さえも、実に嬉しそうにしていた。
それを阻む事は、なるべくしたくはなかった。
……けれど、今は、それで良いのだろうか。
テクスチャが剥がれ、ヘイローは壊れる寸前で、痛々しい。このまま戦えば、もしかしたら……と、最悪な想定は絶えない。
……けれど、○○がしたいことを止めるのは……
答えを出すことはできないまま、ミメシスに手を引かれ、戦闘の領域から離れた箇所へと移されていく。
「……ホシノちゃん」
虚ろな目で俯いて、自分の手を握ったまま茫然自失となってしまった後輩を伴って。
「良い動きですね! 素晴らしいです!」
戦闘が始まり、一番槍を務めたのはネル。
特に狙いを付けず神秘の弾丸を乱射する○○の射線に入らぬように小柄な体躯を活かした機動力で撹乱し、○○の元へと近付き……二丁のサブマシンガンが、火を噴いた。
放たれた弾丸の雨が○○の元へと飛来し……そのまま吸い込まれるように着弾していく。
(当たりはする、が……!)
流石に大都市レベルの電力を供給し、膨大な演算処理にて圧倒的な機動力を発揮していた『アビ・エシュフ』程の無法な動きはしていない。
それ故に懐へ踏み込み、至近距離での攻撃もまだ可能な範囲。
が、攻撃が当たっても全く手応えが無く、相手は何も意に介した様子は無し。
またこういうヤツか、とネルは舌打ちを盛大に零しながら○○の懐から飛び退き、前線に戻りつつ悪態を吐いた。
「無敵モードたぁ趣きがねぇなぁ……!」
「……いや、違う。○○のアレは単に硬いだけ」
ふるり、と小さく首を振ってネルの言葉を否定するのは、油断なく銃を構えたままのシロコと、それに同意するアビドス高校の面々。
『……私達は、あのパワードスーツを装着した○○さんと訓練という形で何度か戦った事があるのですが……』
アヤネがシロコの言葉を受け継ぎ、説明を補足する。
オーパーツに端を発した交流によって○○から話してくれたパワードスーツへの言及と、○○側から提案した戦闘訓練での経験を交えて。
○○が纏うパワードスーツは、○○の言う通り増幅させた神秘を基に、全身へ強力な防御壁を貼り上げる機能を有した鉄壁の装甲。
故に装甲の無い露出した肌部分にも防御壁は適応され、かつ向上した身体能力によって機動性も確保された○○との戦闘では、未だに膝を着かせた事が無いのだと語った。
……戦闘訓練は全てホシノ抜きで行われた。何かと理由を付けて訓練に参加しないホシノを見て、○○は少し悲しげにしていた。
「その通りですよ。攻撃を無効化する、なんて機能の実装はまだできそうにないので……増幅した神秘と装甲、そして溢れた余剰神秘をシールドとして運用する事で、高耐久のアーマーとなっております」
恥ずかしい限りですが、などと返しながら、続く追撃を体の真正面で平然と受け止める。
「なので本当に、ただ単純に硬いのみ、なんですよ」
……そっちの方が余計に質が悪い。とネルは苦い顔で内心毒付いた。
今だってパワードスーツの装甲を装着していない下腹部を狙った銃撃も、何の苦もなく受け止められていた。
単純に、一撃で○○の防御を撃ち抜く火力が無い。
ならば、次にどうするべきか……
「さてと。神名文字にはこんな使い途もあったりしまして、ね」
苦悶する生徒に構わず、お次のステップ! と宣言した○○が手元に呼び出したのは生徒の神秘を閉じ込めた神名文字が複数。
《Set》
「ほいっと」
その内の1つ、ユウカの神秘が封入された神名文字を装着腰部に増設された複数のスロットの中に嵌め込み、その上からより深く押し込むようにカケラを叩いた。
バチリ、神秘が迸り、駆動が始まる。
カケラに篭められた神秘の力とその記憶。それ等をドライバーが読み取り、神秘の粒子によって象られていく。
《『ロジック&リーズン』/EXTEND》
「なっ……!?」
冷たい水色のラインが走った、二丁のサブマシンガン。ユウカの持つ銃と瓜二つのそれを、○○のサブアームが掴み取り、躊躇いなくその引き金を引いた。
「きゃあぁあっ!?」
「ユウカっ!?」
大量に吐き出された神秘の弾丸が向かう先はユウカの元。
先生の指示により、攻撃に備え貼っていたシールドすら容易く貫通され、強かに全身を打ち据えられる。
「威力は十分、ですけど燃費が悪いのが難点。ここは要改善です」
サブアームが握っていた二丁の銃が、淡い粒子に解けて消えていく。
マガジンに備え付けられていた分の弾丸を吐き出し終えた為に、限界を迎えたのだ。
○○本人の言う通り、高い威力は備えていれど短期間で手元から消えてしまうのは明確なデメリットである。
とはいえ、○○の顔は暗くない。まだまだ紹介し切れていない物はたくさんあるのだし、神名文字だってまだたくさん残っているのだから。
ホシノとシロコ。その2つの神名文字をスロットに挿し込み、深く押し込んだ。
《『Eye of Horus』/EXTEND》
《『WHITE FANG 465』/EXTEND》
「さぁ、まだまだ行きます、よ!」
(うーん……何だか、違和感?)
戦闘が進む。銃弾が飛び交い、銃声が高鳴り、硝煙の焦げ臭い香りが室内に満ち満ちてくる。光で形成された弾丸が撃ち返され、床や壁を抉り飛ばしていく。
先生の指揮が飛び、生徒達が動き回り、戦術を繰り広げて○○に対抗しようと立ち回る。
そんな最中、自身の開発品を披露しながら立ち回る中で、○○はほんのりと違和感を感じていた。
その違和感の正体を突き止めるために、神秘の弾丸を乱射する。
(今の攻撃も……避けられはしないけど、ダメージを最小限にされた。……いや、防御力のようなものが上がってる?)
(というよりも……全体的に、皆の能力が上がっているのかな)
今までの交戦データと、現在のデータ。それ等を照らし合わせて、見比べる。
そうすると、違和感の正体がなんとはなしに浮かび上がってくる。
(さっき取ってたデータとも、以前の皆のデータとを比べても……うん、やっぱり……色んなステータスが向上してる)
バイザーの端に映した戦闘データの比較。これまで収集していたデータと、現在の戦闘データでは、如実な変化が起こっていた。
○○が何度か交戦を重ねていたアビドスの面々には、よりはっきりとその結果が現れていた。
反射速度、攻撃から防御へ移る反応、陣形の動き。……果てには、物理的な攻撃力や耐久性まで。今対面している生徒達は、それ等全てのステータスが向上しているのだと、示されている。
(戦闘時の興奮による、神秘の上振れ……では説明しにくい。ここまで来ると、まぁ要因は断定して良いかな)
その結果を前にして、口元を緩めた笑みを浮かべ、断定的な言葉を選んで吐き出した。
「……なるほど、これが先生の力ですか」
先生が生徒を指揮する事によって、生徒達にあらゆるステータスの向上が齎されている。
もちろん、生徒の動きの良さは巧みな戦闘指揮にも拠るものだろう。
しかしそれだけでは説明の付かない、絶対的なルールともいうべき力が働いているかのような、そういった事象の発生。
先生の指揮は、特段戦いやすくて、動きやすい。
そうした噂は、ミレニアムの中だけでもちらほらと聞こえていたが、なるほど。これなら確かに。
○○は更なる未知との遭遇と邂逅に喜んだ。そしてそれが何処まで、どれ程に適用されているのかを解明したい好奇心が溢れ出していく。
先生と対面して、先生と戦う事で新たに見つけることの出来た未知の事象に、色々と試したくなってきた。
「じゃあこれならどうでしょう?」
《『ファンシーライト』/EXTEND》
ヒビキの神名文字がスロットに装填され、神秘が励起する。
象られた迫撃砲をサブアームが掴み取り、躊躇無く神秘の砲弾を撃ち放つ。
狙いは特に付けず、それでいて発射までゆったりと時間をかけた、それこそ一発当たれば御の字の牽制のような砲撃。
"───っ! 避けて、皆! "
「っ、来るぞ!」
先生の声が飛び、複数の生徒が咄嗟のそれに従い、素早くその場から駆け出し……
複数の砲弾が降り注ぎ、着弾。
神秘が多分に含まれた故の高威力の爆発が巻き起こるも……今の爆撃でダメージを負った生徒はゼロ。
それぞれの回避先も被らず、立ち位置の変化による混乱も最小限な、見事な立ち回り。
それに感心した吐息を零しながら、手を動かし続ける。
《『ボトムレス』/EXTEND》
ゲヘナで出会った素晴らしき人材、美食研究会。その内の1人であるアカリの神名文字を励起し、神秘に象られたアサルトライフルを掴み取る。
「もう一丁!」
立ち込める煙の中目掛けて、威勢よく引き金を引く。今から撃ちますよ、なんて意識して声を出しながら。
セミオートの間隔で銃口から弾丸が吐き出され、その隙間を埋めるようにグレネードが弧を描く軌道で飛び込んで、次々に爆発を引き起こす。
その攻撃の結果を、バイザーから素早く読み取り、解析を進めていく。
(うーん……グレネードの爆発範囲から相変わらず避けるような動きが徹底されてる……対して、アサルトライフルからの攻撃は回避挙動は取ってない……。溜めがあるような行動とその範囲は読み切られちゃうのかな……?)
先生の指示により、グレネードによる被害は皆無と言って差し支えない。
先程の迫撃砲等に対する動きを見るに、まるで攻撃の範囲と着弾までの時間が分かり切っているかのようにすいすいと避けられている。
それ等の結果は、先生が持つ卓越した技術が故? それとも……先生に与えられた、特別な何かが作用しているのか、そうではない、また別の何かなのか。
「……ふふ、なるほど、なるほど」
○○は不思議な魔法を見せられているような、熱を帯びた高揚感と好奇心が湧き上がる心地に浸っていた。
未知を解明しよう、詳らかにしよう、その正体を見極めよう。
沸き立つ思いが、止められない。
「それじゃあこういうのは如何でしょう?」
次に手元に呼び出したのは、神名文字ではなく○○が作成した謹製の装置。
……とはいえ、当初想定していたような機能を搭載できず、改良を重ねても満足する出来には至らなかったものではあるため、正直この場で披露するには恥じらいが残る物。
それでも、コレを前にして、先生がどう対応するのだろうか。○○は好奇心が抑え切れなかった。
蒼い粒子の塊が寄り集まり、形成されたその装置を見て、先生の顔が驚愕に強張った。
"それは……!? "
○○は手の内に収まる大きさのそれを指で弄びながら、これみよがしにと見せ付けた。異様な雰囲気を溢れさせるそれに、威圧されたように生徒の足が止まる。
「ご存知なんですね、先生。けれど安心してください。コレは『ヘイロー破壊爆弾』……の、劣化版、下位互換といいますか。先生の知るような、いわゆるヘイローを一撃で破壊する殺傷力はありません。所詮は形だけの模造品です」
先生の反応を眺めてから、○○はつらつらと語り出す。
『ヘイロー破壊爆弾』の技術を完全に再現できなかったが故の、自分への落胆を思い出して、ほんのりと苦い顔を浮かべる。
その機能を応用して、効率の良いテクスチャの剥離を実現したかったけれど……まだまだ未熟なのは否めない。と自戒を零しながら。
「なのでさしづめ、『神秘破損爆弾』とでも言いましょうか。威力の方は……まぁ、こういう場面で使うにはちょうど良いかと」
当初は『ヘイロー破壊爆弾』のデッドコピーを目指したものの、そこには至らず……それから改修を進め、元の物より取り回しやすく、使いやすく改良したのだと語りながら、○○の指が『神秘破損爆弾』の起動ボタンを押し込み、独特な機械音が響く。
禍々しささえ感じさせる、脈動を起こすような奇怪な神秘の輝きを見せるそれに、先生の思考が総毛立つかのように危険信号を叩き出す。
『───せ、先生!! とてもいやな予感がします!』
シッテムの箱から、絹を裂く悲鳴が聞こえる。
"っ、皆───! "
それを認識して、生徒達に指示を飛ばすために声を上げると同時に、○○が手の内の物を、気軽に足元へと放った。
爆弾が床に触れ、接地した箇所から殻が割れるようにひび割れ、ガラス玉のように破砕して。
「がっ────!?」
「うぁあっ!!?」
「ひ、ぁ゛っ!?」
生徒達が一斉に膝から崩れ落ちる。
爆弾内部に封じ込められていた神秘が急速に反応し、瞬時に膨張。
衝撃波を伴った神秘の波が指向性をもって大気を伝播し、○○を起点とした周囲の生徒に膨大な神秘が強制的に流し込まれた。
身体に宿る神秘。それを無理矢理に膨れ上がらせる程の刺激を与え、呼吸することさえ意識から吹き飛ぶような激痛が一瞬で全身を駆け巡り、思考もままならない状態に落とし込まれる。
「過剰な神秘の供給を強制的に行わせた結果、意識を朦朧とさせる程度の威力ですが……この通り、広範囲の対象の身動きを一時的に取れなくするくらい、訳は無いという事ですね」
言いながらちらりと、視界の端を見やる。
起動直前に、ミメシスの手によって爆弾の効果範囲から逃されたユメ。そしてユメの手を握ったまま虚ろな目をしているホシノの姿。
それからヘイローを激しく明滅させて身動きすらままならない他生徒達の姿に目を移し、問題なく作動した爆弾の効果に満足気に頷く。
○○の目測では、たっぷり1分程はまともに動けない程に調整した威力ではあるが……先生によって齎される加護のようなものの影響は今の所計り知れない。もしかしたら生徒達は遥かに早く復帰するかもしれない。
邪魔が入らないうちに準備を進めようと、手元に新たな装置を呼び出していく。
《Keter Crown》
《Chesed Actuator》
《Binah Punisher》
サブアームと空いた片手に、白く荘厳な銃型武装が粒子の塊から具現化される。
既に○○が手にしていた、ゲブラの名を冠したアサルトライフルと同じく、預言者の名を冠したそれ等。
○○が片手に持ったケテルの名を記した武装を起点に、4種の武装が機械的な合着を始めていく。
「こちらの武装は、このパワードスーツと同様に、私が入手したデカグラマトンの預言者達のデータや素材をたっぷり活用して造り上げたものです」
変形。分離。接合。
硬質なパーツが重なり合い、エネルギーラインが噛み合い、1つの形となっていく。
《Quad Docking》
「このように、変形合体機構も搭載してみました。どうです? カッコいいですか? ロマン感じちゃいます?」
合体と合着を経た其れを、自ら造り出した成果物を両手に抱えて大きく見せ付けた。
携帯式の大砲とも呼ぶべきサイズとなった、雄々しい砲身を携えた、預言者の力の塊。
無邪気に笑って、愉しげに振る舞いながら、○○はその武装の矛先を生徒達に向けた。
「ロマンの塊、その真髄、その威力───」
サブアームが駆動し、武装の下部から伸びるスロット部位を弄り、開いて。
「その目に焼き付けて下さいね、皆さん」
その中へと青輝石をざらざらと無造作に流し込み、充填。
《Full Loading》
バチリ、と青い稲妻が武装各部に迸り、硬質的なうなりを上げる。
圧縮、収縮、縮退、膨張、増幅。
青輝石に封じられていた純粋な神秘のエネルギーが、攻撃的な光となって銃身に収束していく。
『先生!! とてつもないエネルギーを観測、なおも膨れ上がっていきます!! あ、あんなものを撃たれてしまえば……!!』
『○○! 止まりなさい! そんなものを撃つつもりですか!?』
シッテムの箱から、辛うじて爆弾の余波を逃れたドローンから観測する声が悲鳴を上げる。
なおも増幅していく神秘のエネルギー。その矛先が、武器すら取り落とし防御や回避行動も起こせない生徒達に向けられている。
予測される結果は、最悪のもの。
○○すら望んでいない結果を齎すだろうそれに、○○は些かの迷いも躊躇の色も見せていなかった。
あるのは、ある種の信頼と、期待。確信めいた予感。
それ等を瞳に宿しながら、○○は、真っ直ぐに構えながら引き金を引いた。
《OVER EXPLOSION!!!!!!》
臨界点に極限まで到達した神秘の収束帯が、トリガーと共に解放。
轟音が、極光が、撃ち放たれる。
「アロナと!」
「プラナの」
「「アロプラ解説、出張版!」」
「先生!こんにちは!アロナです!」
「こんにちは、先生。プラナです。……アロナ先輩、本日はいつもより元気ですね?」
「えっへへー、今回のこのコーナー、いつもとは違った形式でお届けしますからね。気合いをばっちり入れてきました!」
「確かに、今回は何時もと勝手が違いますからね。共に頑張りましょう、先輩」
「はい!先生にしっかり情報をお伝えしましょう!」
「ところで、今回は何について解説を?」
「おっとと、肝心な所が抜けてました……では今回解説するのは…………総力戦『名も無き歓喜』です!」
「新たに開催されることになった総力戦ですね。『名も無き歓喜』が持つギミックやスキルについて、詳しく見ていきましょう」
「それでは、解説を始めていきますね!先生!」
「『名も無き歓喜』の防御タイプは特殊装甲。難易度Insaneからは、攻撃タイプが神秘に変化します」
「『名も無き歓喜』の最大の特徴は、高い防御力です。とっても硬いので、このままではHPを削るのは至難の技です……」
「このままでは……と、言いますと。何か対抗策があるのですね?」
「その通りです!そのためにはまず、EXスキルの発動回数と、CCが肝心になってきます!」
「ボスのHPバー下に、数字のカウントがありますね。生徒の方々がEXスキルを発動する度に、この数字のカウントが進んでいきます」
「この数字が5になると……つまり、EXスキルを5回使うと、『名も無き歓喜』の防御力が減少!カウントがリセットされます!更に、『名も無き歓喜』の攻撃行動を中断する事ができます!」
「CC……恐怖、混乱、気絶、挑発の状態異常を付与する事でも、同じ効果が得られるようになっています」
「『名も無き歓喜』の持つ強力なスキル……生徒さん達を一定時間行動不能にして、その間スキルコストを一切回復しない状態にしてしまう『神秘破損爆弾』、生徒さん全員に超強力な攻撃と防御力減少効果を与える『OVER EXPLOSION!!!!』など、予兆が長い攻撃行動を防いで、有利に立ち回りましょう!」
「スキルをより多く使えば使うほど、勝ち筋を見い出せる……という事ですね?」
「その通りです!相手に与えた防御力減少効果は、戦闘中は恒常的に付与されるので、やればやるだけお得です!第一形態を突破した後は───」
「あ、アロナ先輩。今回はここまでのようです。所定の時間になってしまいました」
「あれ、もうそんな時間に!?」
「はい。続きの解説はまた次回、ですね」
「うぅ……もう少し先生にお話したいところでしたけど、仕方ないですね。それでは先生!」
「「また次回、お会いしましょう!」」