神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

36 / 38


「……?あれっ戦闘始まってるなんで?」

「まぁいいかぁ!(戦闘データ取れるし)よろしくなぁ!!」





FEVER FLOW!

 

 

 

 

 

 

 

 廃墟の街並みで、銃声と爆発音、破裂音が響き渡る。

 銃撃戦の音。

 学園都市キヴォトスにおける、そこらの自治区の道を歩けばよく遭遇し、聴くことになる、日常の音。

 

 

 

 機械の重苦しい駆動音。

 瓦礫を踏み散らす無人兵器の軍勢。

 神秘によって象られた鉄の塊は、青白い残光を周囲に散らしながら、敵対者へ向けてその砲門を開き、銃弾を撃ち放っていく。

 

 

 

 無限の破壊を齎す無慈悲な銃撃の嵐を吐き出している機械の兵隊達。

 それ等に遮られるようにして盾を構え、その背に○○のミメシスを守る為に立ち塞がるユメの顔に、安堵の色は一つもない。

 

 

「うぅ……っ!」

《Calling》

 

 

 銃型武装に換装されたケセドアタッチメントのスイッチを押し込み、神秘を原料に機械兵を周囲に造り出し、前進させる。

 

 立ち並ぶ機械兵達。背後を守る防護壁。少しでも相手を食い止める為の壁を呼び出すのは、これで3度目。

 

 

 倒される機械兵の速度が、ユメの想定よりもずっと早い。

 

 

 "───ユウカ! カバーお願い!"

 "アスナも続いて!"

 

「了解、ですっ!」

 

「はーいっ!」

 

 

 流れ弾が当たらないように後ろに控えた大人……先生から生徒に向けて指揮が飛ぶ。

 先生が持つタブレット、シッテムの箱により戦場を俯瞰しながら行う指揮は、数居る生徒達を的確に動かし、適切な行動を示していく。

 

 シールドを張った生徒を前に立たせ、ヘイトを向かせると共に弾幕を一時的に遮り、一部の隙が生じた所への反撃の銃弾が機械兵を撃ち抜き、神秘の粒子に還していく。

 

 

 "シロコ、トキ、右手側の方をお願い!"

 

「ん、分かった」

 

「了解、迎撃します」

 

 

 機械兵側の統率に縺れが生じた所に、追い打ちの銃弾とミサイルが飛び込み、爆発の炎が巻き上がる。

 機械兵が神秘の粒子に戻り、解けていく。

 

 機械兵の銃撃で被害や負傷を伴った生徒も、後方に控えた生徒の支援ドローン等の援護やカバーにより、その綻びもすぐさま埋められ、攻め立てる事が難しい。

 

 圧倒的な数量で決着させるつもりであった戦闘が、拮抗を起こされ、少しずつ押し返されつつある。

 

 ユメ自身も武装を構え、中空に向かって引き金を引く。装着したケセドアタッチメントの力により、誘導弾へと変化した神秘エネルギーの塊が弾丸の形となって、相手の元へと向かっていく。

 焦りに任せて何度も撃ち放つ。盾から供給される神秘が撃った傍からすぐさま武装に充填され、弾切れを起こす事なく弾丸が放たれていく。

 

 

「っ、また来た!」

 

「焦るな! 撃ち落とせるだけ撃ち落とせ!」

 

 "ノノミ、お願い!"

 

「はーいっ! 掃射しますよ〜♣︎」

 

 

 その誘導弾も、空中で撃ち抜かれ、当たる直前に瓦礫で防がれ、更にはミニガンの掃射によってまとめて薙ぎ払われて諸共爆発させられ、大した有効打にもならないまま迎撃されていく。

 

 

「まただ……。うぅ……全然足止めになってない……」

 

 

 C&C。セミナー。エンジニア部。ヴェリタス。特異現象捜査部。そしてアビドス対策委員会。

 

 他校の生徒が混合された部隊。生徒同士の個性を潰す事なく連携を通し、滑らかに動かす指揮によって、圧倒的な数の兵力差を埋め、それ所か押し返しつつもある。

 

 油断すれば、綻びが出来れば、すぐさまに戦局をひっくり返されてしまうという確信が、ユメの胸を締め付けていく。

 

 

「……っ!」

 

 

 思った様に進まない戦局にユメが歯噛みする最中も、呼び出した機械兵達の一部が早々に撃破され、神秘の粒子に解けて守りの壁が薄くなっていく。

 相手の銃口が、此方に向く。

 ……ミメシスを、○○を狙うように、敵意が向けられる───

 

 

「いや……っ!!」

 

 

 ───ように、ユメが認識した瞬間、片手に構えた銃型武装『ケテル・ハンドラー』の銃身を、装着されたケセドアタッチメントごと素早く3度スライド。

 

 独特の機械音が鳴るその一定の動作をトリガーに、内部の神秘機構が平常運転状態から離脱。リミッターが一時的に解除され、設定された限界以上の稼働を開始する。

 

 

《Limit Break》

 

 

 短い電子音と共に、より濃く強く神秘が練り上げられ、青白い火花を散らし、甲高い金属音や警報音にも近しい響きが鳴り始める。

 アタッチメントと武装の機構が共鳴反応を引き起こし、更には装着者であるユメから神秘を吸い上げ、強大な攻撃的神秘エネルギーを膨れ上がらせていく。

 

 神秘を吸い上げられた事による、ユメの肉体に襲い掛かる虚脱感は一瞬。その反動は盾に内蔵された神秘循環器によって即座に回復。ユメの負担は最小限、最短に済まされる。

 

 そして今にもはち切れんばかりに光が迸る銃身を空へと掲げ、引き金を力強く押し込んだ。

 

 

「来ないでぇっ!」

《CHESED/FULL EXPLOSION!!!!》

 

 

 銃口から一筋の青白い光が空へ向かって立ち昇る。

 それが中空で無数の光の帯に分かたれ、瞬きの間に空を覆う程の数に分裂。

 中空にまで辿り着いた光の帯が軌道を変え、前方へ向かって弧を描く。誘導弾めいた挙動で機械兵の集団を飛び越え、対面する生徒達の足元へと降り注いでいく。

 

 

 "全員下がって!"

 

「うわっ!? ちょ、シャレになんないわよこれぇっ!」

 

「くぅ……っ!」

 

 

 光の弾丸が波状の如く降り注ぐ。

 着弾地点で青白い粒子をばら撒きながら爆発し、瓦礫を巻き上げ、粉塵を散らしていく。花火のように派手な音と爆発を引き起こす光の嵐に、前線の生徒達が後退を余儀なくされる。

 

 

「────ッ!!」

 

 "ホシノっ!?"

 

「先輩っ!?」

 

 

 流星群のように落ちてくる無数の光の中に躊躇なくホシノが飛び込み、怯む事なく突貫する。

 

 盾を潜り抜けようとする軌道の弾丸を、盾を振り回す事で強引に弾いて逸らし、ショットガンで撃ち抜き、瓦礫を蹴り上げ誘爆を起こしながら、無数の光を掻い潜る。

 

 

「退いて……!!」

 

 

 機械兵の壁にまで辿り着けば盾を力強く地面に打ち付け、ショットガンを力の限り連射。がむしゃらに弾を撃ち散らし、射程の範囲内に居た機械兵を神秘の粒子に還していく。

 

 そうして機械兵の守りに、穴が開く。

 

 向こう側に居るユメの瞳と、視線がかち合う。

 

 ユメへの道筋が拓けた。

 ホシノはそう確信した瞬間、僅かに生じたその隙間に飛び込まんと踏み込もうとして……

 

 

「っ、ユメせんぱ……」

 

 "っ! ダメ! ホシノ、下がって!"

 

「先生!? 今ならユメ先輩の所まで行けるのに……!」

 

 "下がって! 攻撃が来る!"

 

《SET UP》

《Gevurah Freezer》

《Limit Break》

 

 

 焦る先生の声と被さるように連続する電子音と駆動音。続け様にエネルギーが急速的に高まっていく甲高い音が再び鳴り響く。

 未だ立ち並ぶ機械兵の隊列。ホシノが蹴散らし生じたその隙間から、ユメの構えた銃口から冷たく輝く青白い光が、ホシノの視界に入り込んだ。

 

 

「来ない、で……!」

《GEVURAH/FULL EXPLOSION!!!!》

 

「っ!?」

 

 

 高々と読み上げられる言葉と共に、青白い光線がホシノの足元目掛けて撃ち放たれる。

 その光に底冷えするような怖気を感じ取ったホシノは、それを受けるという発想を即座に捨てて後退を選んだ。

 

 

「ホシノ先輩っ!?」

 

 

 光線が地面に着弾した瞬間、天高く貫くような巨大な氷壁が発生する。

 周囲に居た機械兵すら巻き込んで形成された氷山の如きそれにあわや巻き込まれたかとアビドス対策委員会が悲鳴を上げるも、五体無事で後方へ退避してきたホシノの姿を胸を撫で下ろす。

 

 

「先輩……先輩……!」

 

 

 ホシノの焦燥が、身と心を焦がしていく。

 

 ───早く、早く、早く……先輩を、ユメ先輩を、助けないと、先輩を───

 

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だからね、○○ちゃん……」

 

 

 ユメが自身の後ろを振り返る。

 ○○のミメシスが身を寄せ合って、大人しく佇んでいる。

 それを確認したユメは、救われたような穏やかな笑顔を浮かべ、穏やかに言い聞かせ……振り向く頃には決意を固めたように表情を引き締めた。

 

 

「私が、○○ちゃんを守るから……」

 

 

 ミメシスは動かない。攻撃に加わる事も、それを行ってヘイトを集める事もない。

 交戦当時には攻撃に参加していたが、尋常ではない様子でユメが背後に庇おうとしてきたので、それに大人しく全員従っている。

 攻撃に加われば、戦況を優位に動かせるかもしれない。が、それ以上にユメが傷付いてしまうかもしれない可能性と、ユメに加わる精神的負担を考慮して、何もしない。

 

 戦闘が始まる前に起きた、ユメの錯乱。

 ホシノがミメシスを撃ち抜いた事で、我がこと以上に悲しみ、苦しみ、嗚咽していたユメの姿を、自分達を本体たる○○自身と誤認しているユメの顔を、ミメシス達は思い返す。

 

 ミメシス1体が倒されただけであの錯乱であるのなら、また1体、2体……自分達全員倒されてしまえば、ユメはどうなる。

 自分達が傷付く事こそ、今のユメを最も傷付ける事ではないのだろうか。

 それに、今の自分達ではユメの誤認を解く事はできない。軽い道案内と付き添い程度と思ったばかりに武器だけを持った準備の悪さを少しばかり恨んだ。

 

 そう思い至ったミメシス達は、その場から動かない。ユメに従って、ユメの背後で隠れるように見守るのみとなった。

 

 

 

「私が、ちゃんと守るんだから……」

 

《SET UP》

《Chesed Shooter》

《Calling》

 

 

 そしてユメが再び換装したケセドアタッチメントのスイッチを押し込み、周囲に神秘の光を迸らせ、多数の機械兵を生成。

 ミメシス達の盾とするように、機械の装甲が立ち並び、周囲を牽制するように銃弾をばら撒き始めた。

 

 

「……なるほどな」

 

 

 その一連の行動に、今回の作戦に参戦していた生徒の内の一人、ミレニアムが誇るエージェント部隊C&Cのネルが呟く。

 

 

「リーダー、どうしたの? 何か気付いた?」

 

「見たまんまの事だけどな、まぁいい聞いとけ」

 

 

 絶妙に銃弾が当たらない地点に立ちながら銃弾を撃ちオートマタを沈黙させる、同じくC&Cであるアスナがその呟きを拾い、瓦礫を蹴っ飛ばして機械兵の頭部を破損させるネルに問い掛けた。

 

 

「まず奥に居るあいつは引っ込んだまま出てこねぇ。後ろに庇ってるアレも動く気はねぇんだろうよ」

 

「んで、引き篭ったまんまのあいつが晒す隙といやぁ、さっきみたいな大技を出す時、武装を切り替える時……そこが明確な隙か」

 

 

 ネルは他の生徒同士と連携して押し寄せる機械兵を殲滅していく傍ら、機械兵の奥に居座るユメの行動を観察していた。

 機械兵の隙間から覗いたユメの挙動。手にした武装、そこから鳴り響く音、事ある毎に後ろを庇うように視線を寄越していた動き。その後ろに庇われていた○○の姿をしたそれらの挙動。

 その所感を手短にまとめて口に出せばほへぇ、と間の抜けた声でアスナが感心を漏らした。

 

 

「へぇ〜、良く見えたね? ご主人様が周りの方を徹底的に攻撃してって言ったのはコレが狙い?」

 

 

 あぁ、と短く返事を返してからネルは耳元のインカムに指を添える。

 

 

「……って事で、どうするよ先生。何か良いの思い付いたか?」

 

 "……うん。それじゃあ、今から作戦を説明するよ。皆、聞いてくれる?"

 

「おう、どうすんだ?」

 

 "あの子の武装解除、無力化を狙う。"

 

 "お願い。力を貸して、皆。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! うぅ、もう、一回……!」

 

 

 いくら呼び出しても、容易く蹴散らされてしまう。それでも○○を……ミメシスを守るには、こうするしかない。圧倒的に人数差が不利な状況では、自分一人でカバーし切れない。

 息を整える。盾に搭載された装置のおかげで体力自体は時間と共に回復するが、ぐずぐずとしていられない。

 機械兵を呼び出す。少しでも相手の気を逸らし、守れるように。

 ケセドアタッチメントのスイッチを再び押し込もうとユメが手を動かし───

 

 

「アカネ!」

 

「では皆様、伏せてください」

 

 

 それよりも早く張り上げられたネルの声を合図に、アカネが即座に手元のスイッチを押し込む。爆破のスペシャリストたるアカネの早業によって仕掛けられた、即席の炸裂トラップの起爆装置。

 その事に反応する暇もなく、ユメの周囲がけたたましい爆音と閃光に包み込まれる。

 

 

「うわっぷ!?」

(ば、爆弾……!? いつの間に仕掛けてあったの……!?)

 

 

 地を舐め上げるような爆煙がユメの周囲を包み、激しい耳鳴りが平衡感覚を失わせる。一体何が起きて……と、ユメの思考はそこまで逸れて、遮断した。状況の詳細な分析よりも先に気を回すべきは、後ろ手に守る○○のミメシス達の存在。

 

 

「っ、○○ちゃん!!」

 

 

 耳鳴り自体は盾から齎される回復機能で即座に収まるが、ユメの心配はそこではない。自身と同じく爆破に巻き込まれた○○のミメシスに視線を慌てて向ける。

 

 ……粒子に解けたミメシスは居ない。最初に消えてしまったミメシス以外は、まだ生き残っている。目立った怪我もない。全員無事だ。

 

 

「よ、良かったぁ……」

 

 

 ユメはそこで大きく息を吐いて、酷く安心してしまった。

 爆弾を使ったにしては低威力。状況の仕切り直しの為に使ったのか、視界を遮る為か、または違う目的があるのか。

 相手の側に立った考えを今のユメがする事はできず。

 

 

「オラァッ!」

 

「っ!?」

 

 

 漂う黒煙の中空。そこからネルが勢い良く飛び蹴りの姿勢のまま突き破り、ユメの横合いから現れ、空を滑るようにユメの元へと飛び込んでいく。

 

 

「う、わぁっ!?」

 

 

 突然視界に入ってきたオレンジ色の影に驚いたユメが、反射的に空を駆けるネルを迎撃しようと盾を振り回す。

 が、空中で体を捻り、盾に向かって手を伸ばしたネルが振り回された盾の縁を掴み取る。

 そこから新体操のように体をぐるりと身軽に回転、捻りを更に加えて……

 

 

「そぉらッ!」

 

「あ、っ、い……!」

 

 

 勢いを付けたネルの両脚が強かにユメの手首を打ち据える。

 片脚から与えられる一度目の衝撃、次いでもう片脚の蹴撃に見舞われたユメの手は僅かに痺れ、保持していた盾から手を離してしまう。

 

 

「おらもういっちょ!」

 

 

 とどめにネルが空に浮いた盾を蹴り出し、ユメの手元から完全に離れる。

 それにより装着者の神秘を元に駆動する盾の機構が停止し、増幅されたユメの神秘と保護シールドが収まり、無防備な姿を晒してしまう。

 

 

「キャッチ! ……わ、この盾凄いね! 持ってるだけで元気が出てくるみたい!」

 

「あ……か、返して……! それは、○○ちゃんが作ってくれた大切な……!」

 

 

 蹴り出される位置を予め分かっていたように待機していたアスナが盾を掴み取る。

 その様を見て、ユメは堪らず手を伸ばした。

 

 

 それは○○がユメの為に作り上げた、ユメの大切な一部。

 

 記憶を失って、右も左も分からない。

 不安に押し潰されそうなユメを慮り、身を守る為に使って欲しいと贈られた、単なる防具以上の意味が篭められた、大事な大事な、大切なもの。

 

 ユメを救ってくれた人が贈ってくれた、何物にも代えがたいもの。

 

 残った武器による反撃など一縷も思考に過ぎらず、ただそれを取り返そうと腕を伸ばした。

 

 

 返して。返して。返して……! 

 

 

 私から、あの子を、奪わないで……! 

 

 

 

「ここまでだ。大人しく投降してくれ」

 

 

 腕を伸ばした眼前に、銃口が突き付けられる。

 

 

「は、ぇ」

 

 

 ネルが持つ2丁のサブマシンガン。その片方がユメの方へと向けられ、その進路を塞ぐ。

 

 

 ユメの視界の端で段々と煙が晴れていく。

 そして機械兵のものではない複数の足音がこちらに向かって来ている。

 ユメからの機械兵の供給がそのまま絶たれたために、足止めをしていた全員が前進してきたのだろう。

 

 

 ───そうしたら、どうなる? 

 

 目の前の1人どころか、たくさんの生徒がやってくる。ここに、守るべき相手が居る此処に。銃口が向かう先は、何処になる? 誰が狙われる? 誰を撃とうとする? それをさせてはダメ。守らないと、私が、ダメ、守らなくちゃ、奪われないように、守らないと、守れ、守れ、守れ、殺される、でないと居なくなる、あの子が、私の前から、全部、消えて、壊れて、ばらばらに───

 

 

 ユメの思考が急速に冷え、一瞬の内にあらゆる思案が浮かんでは消え、ぐるぐると巡り出す。ぐちゃぐちゃに渦巻いて、その思考に追い付かない感情が、再びパニックの坩堝へとユメを叩き落としていく。呼吸が覚束無い。押し寄せる恐怖で涙が溢れてくる。

 

 そしてユメは衝動的に身を翻し、駆け出した。

 

 

「あっ、おい!?」

 

 

 過呼吸気味になり、目元を潤ませ出したユメに対して流石に一声かけようとした所で突然の転進。片手に持ったままの武器で反撃をするでもなく、かといって大人しく留まらなかった相手の行動に一瞬面食らったネルがその背中に手を伸ばしかけるも……

 

 

「やだ、やだ、だめ、だめ、だめ、だめ……」

 

 

 ユメはミメシス達をまとめて腕の中に収めるように抱き寄せて、ネルの方へと背を向けて蹲っていた。

 抵抗するでもなく、それ以上何かをするでもなく、ただそのようにしていた。

 自分の体で包んで、必死に外敵から守ろうとするように、ひたすらに。

 ミメシス達も、ユメの行為を静かに受け入れるように大人しくしていた。既に武装から指を離し、降ろしている。

 

 

「……手出しはしねぇよ。だからこっちの話を聞いてくれるとありがたいんだけどよ」

 

 

 すっかり毒気が抜かれたネルが突き付けていた銃を降ろし、ガタガタと震える背中に静かに話しかける。

 しかしユメは震えるだけで、まるで取り付く島もない。

 

 

「すっごい怖がられてるね〜? 強く言い過ぎたんじゃない?」

 

「うるっせぇ、アスナお前何とかできねぇか?」

 

「うーん……私じゃない方が良いかも?」

 

「あー、なるほどなぁ……」

 

 

 どうすっかなぁ、と頭を掻きながら小さくぼやいている所に、機械兵を掃討し終えた生徒達と先生がネルの元へと追い付いてきた。

 

 

 "ネル! アスナ!"

 

「ユメ先輩っ!」

 

「ちょっ、ホシノ先輩、足はや……っ!」

 

「はぁっ、はぁ……ネル先輩、無力化できたんですね…………あの、どういう状況なのこれ……」

 

 

 続々と駆け付けてくる生徒達の多くは困惑し、怪訝な表情を隠せない。

 ひとまず戦闘終了の空気は読み取れたが、○○の姿をした者らしき何かに抱き着いて震えるばかりのユメの姿に、どうにも踏み込み難い雰囲気が感じられて二の足を踏んでいる。

 どうにかしてくれ、とばかりにネルは困ったような視線を先生に寄越した。実際自分が声をかけても怯える反応だけだったので、一番対応な得意そうな先生に丸投げするつもりだった。

 

 

 

 "これは…………。"

 

「……せん、ぱい。……どうして……」

 

 

 

 この期に及んでもミメシスを必死に庇い抱きしめるユメの姿に、ホシノは愕然としたまま上手く言葉を吐き出す事ができない。

 

 先生はホシノを慮るように横目に眺めつつ……一歩、ユメの元へと歩み寄った。

 

 

 "……手荒な真似をして、ごめんね。"

 

 

 "もう君を傷付けるつもりは無いよ。"

 

 

 

 

 

 






■梔子ユメ
攻撃タイプ/神秘
防御タイプ/特殊装甲

所持スキル
●セフィラ・プロテクト
戦闘開始時、最大HP500%分のシールドを付与。
3秒毎に、治癒力50%分の回復を行う。
HPが0%になった時、HPを100%回復、最大HP500%分のシールドを付与。(1回のみ)
●玉座への喚び声は此処にありて(EX)
ケセドアタッチメントが装着されている時、機械兵を召喚。
●FULL EXPLOSION!!!!(EX)
装着されたアタッチメントによって適用される効果が異なります。
・ビナー:直線範囲の敵に対して、攻撃力300%分のダメージ。
・ケセド:敵全体に対して、攻撃力の250%分のダメージ。
・ゲブラ:円範囲の敵に対して、攻撃力の200%分のダメージ。氷の柱を生成し、円範囲の敵に『行動不能』状態を付与(7秒間)。氷の柱が存在している間は、全ての敵に対して防御力を30%減少。
●狂乱の悪夢(パッシブ)
戦闘開始時、『○○のミメシス』(防御タイプ/神秘)を3体召喚。
『○○のミメシス』が1体撃破される事に、被ダメージ量が25%増加。攻撃力を25%増加。自身に『醒めない悪夢』を1つ付与。
●Mimesis Sacrifice(パッシブ)
『醒めない悪夢』が2つ付与された時に発動。
『○○のミメシス』の体力が100%減少。
敵全体に対して9999999分のダメージ。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。