神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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Take off toward a dream.

 

 

 

 

 

『小鳥遊ホシノ』

 

『貴方が探し求めている宝の行方を知りたくはありませんか?』

 

 

 目を閉じて、ホシノは想起する。

 薄らと微笑みを湛えながら現れた黒服の言葉を、思い出す。

 

 

『……そう邪険にしないで頂きたい。確かに私達大人は嘘を吐くでしょう。ですが、益にならぬ事はしないものです』

 

『今貴方に嘘を囁いたとして、私には何の得も無いのですから……』

 

 

 他の誰もいない、アビドス砂漠の見廻りの時。

 それを見計らったように、何処からともなく現れた黒服は、何時も通りに……何時も以上に妖しく揺らめく白い光を宿しながら、ホシノに語り掛ける。

 

 

『……言っとくけど、またアビドスや皆に何かするつもりなら、容赦無く撃つ。目的は何?』

 

『クク。目的は先程申し上げた通り、貴女の求めるもの……その在処をお伝えしようと思いまして』

 

 

 生徒とは違い、一発でも致命傷になり得る銃を突き付けられても尚、黒服は調子を崩さず、むしろ以前対面した時よりも愉快げである事に、無性に苛立ちを感じながら言葉の先を促した。

 

 

『……梔子ユメ。貴女が見付ける事のできていない、貴女にとって至上の宝の在処を』

 

 

 ホシノがその言葉を聞いて反射的に引き金を引かなかったのは、沸騰した感情を、辛うじて理性が抑え込んだため。

 

 

『……お前が、その名前を、口にするな』

 

『私の言葉を信じるのでしたら、この座標へと向かうと良いでしょう』

 

 

 怒りでカタカタと震え、何時暴発を起こすかも分からない銃口を前にしても、全く怯えた様子も無く。黒服は淡々と、愉悦混じりに笑みながら言葉を続ける。そして手元の端末を叩き、二人の間にある空いた空間に、ホログラムのマップを映し出した。

 

 そのマップの一点に、赤く記された光が浮かび上がっている。

 

 

『ミレニアム自治区、立ち入り禁止区域とされている、『廃墟地域』と呼ばれる場所です』

 

 

 ホシノの端末が震え、通知を受け取る。

 確認すると、同様のマップと座標が記された画像データが送られていた。親切でいてきちんとした対応が、また殊更ホシノの神経を苛立たせるようだった。

 

 

『そして其処は……我々が目を掛けている、○○という生徒の研究所です』

 

 

 黒服の言葉を聞いて、ホシノは心の内でストン、と納得を得るものがあった。

 

 

 あぁ、やっぱり。

 ○○ちゃんは……あいつは、黒服達と関わりがあった。

 それなのに平然と私達に近付いて……それで、ユメ先輩の事にも、関わっている? 

 一体、何を考えて、私達に関わっていたんだ? 

 

 

 これまで○○に対して抱いていた疑念が、点と点を結ぶように1つの理由を持ってまとまっていく。そうするにつれて、ホシノの中に渦巻いていた感情は、強く激しい冷徹な激情に塗り固まっていった。

 

 

『伝えるべき事は伝えました。後はご自分で確かめるのがよろしいかと』

 

 

 それきり黒服は踵を返し、空間に空いた虚空の中へと消え、虚空が音もなく閉じていく。

 

 

 

『…………行かなきゃ』

 

 

 誰に言われるでもなく、ホシノは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムで行われた、ミレニアム主要部とシャーレの混合部隊による作戦会議から数時間後。

 

 ○○の保護、及び未知の巨大兵器の稼働停止を目的とした作戦行動が開始された。

 

 なお、会議から数時間のインターバルが空いているのは、会議終盤の映像データを見た一部の生徒が著しく体調を崩し、その回復を待った末に改めて作戦行動が開始されたためである。

 体調を崩した生徒は幸い後方にて待機、支援の役割を与えられていた者だったので、本作戦に大きな支障は発生していない。

 

 

 

 

 

 

「─────……!」

 

 

 静けさが広がる廃墟の園。ミレニアム、ひいては連邦生徒会長にすら打ち捨てられた自治区郊外に位置する地域。

 

 自分達の足音以外に何も響かない静謐な空間を進む中で、複数の生徒で構成された一隊列の中腹を歩くホシノは、唐突に足を止めた。

 

 

「……先輩? どうしたの?」

 

 

 足を止めたホシノに、シロコが問いかける。その声に、他の皆も訝しげな視線を向ける。

 

 

「……ごめん、行かなきゃ」

 

 

 その視線を意に介する事なく、一言だけ謝ってホシノは駆け出した。

 

 

「あっ!? ちょ、先輩!? 何処行くの!?」

 "ホシノ!?"

 

 

 隊列を抜け出し、一足飛びに瓦礫の道路を駆け抜ける。制止の声を振り切り、ひたすらに。

 

 

 声が聴こえた。忘れることの無いあの声。もう聴ける筈の無い人の声を。

 気配がした。ほんの少しだけ、けれども確かに。もう感じられる筈も無い人の気配が。

 

 駆ける。駆ける。

 

 気配の感じる方へ。より強く感じられる方へ。

 懐かしい気配。もう二度と感じられる事の無いと思っていた、あの気配を追い掛ける。

 

 進んで、進んで、進んで。

 前へ進むにつれて気配が濃くなっていく。あの人の声が聴こえる。微笑む息遣いが聴こえる。

 

 もっと、もっと、早く、速く。

 

 足を動かして、切れる息も煩わしいから、もっと強く踏み込んで、瓦礫の街を飛ぶように駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

「せん、ぱい?」

 

 

 そして、ホシノは見つけた。

 

 廃墟地域の中を歩くユメを、追い求め焦がれて、もう二度と逢えないと諦め、遺された痕跡に縋るしかなかった人を。

 

 揺れる翠の長髪が、声に反応してこちらを見つめる瞳が視界に入った途端、ホシノの思考は、ユメ以外のものをシャットアウトした。

 もう、ユメしか見えていない。

 

 

 先輩が、ユメ先輩が、居る。

 立っている。

 歩いている。

 喋っている。

 生きている!! 

 

 

 息を荒く、不格好な様になりながらも駆け寄る。

 

 偽物? そんな訳はない。

 ユメ先輩そのものだ。そうホシノは確信している。

 目が、脳が、魂が、そこに居るユメという存在を肯定している。

 

 だからこそ迷いなく、ユメの名を呼びながら近付いて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホシノが放った銃弾は、狙い通りにミメシスを穿つ事なく、目標から横に逸れた瓦礫片に当たった。

 

 

「…………え?」

 

 

 外した理由を、ホシノは数瞬遅れて理解した。銃身に薄く付いた焦げ痕。銃を撃つ瞬間、そこに攻撃を加えられ、銃口を逸らされたのだ。

 その妨害は何処からか、とホシノが視線を向ける先。

 ユメが見慣れない形状の拳銃を構えて、ホシノの方へ……正確にはホシノの銃へと銃口が向けられていた。

 

 

「せ、せんぱ……なんで……」

 

「あぁぁ!! あああぁ!! ○○ちゃん!! ○○ちゃん!!」

 

 

 困惑に染まり切ったホシノの声に答える間もなくユメが地面に蹲る。

 痛ましい叫び声を上げながら、地面に散らばったミメシスの残骸……○○の神秘が篭められたカケラを両手で掻き集めようとする。

 それらを押し固めて、ミメシスを再び顕現させようと、必死に手を動かし続ける。

 しかし人一人の手で抱えるには多過ぎるカケラの量、いくら掻き集めても取りこぼしてしまう。

 カケラが、ユメの手から零れていく。

 ユメの指の隙間から、溢れていく。

 

 

「やだ、やだ……! ぁあ、やぁぁ……!」

 

 

 カケラが地面に落ちて、カラカラと音を立てながら転がっていく。

 

 ユメの視界が揺らぐ。

 無理矢理に叩き込まれた自分の過去の記憶が現在の記憶と混じり合い、割れそうな程に痛む頭。思考がミキサーにかけられたかのようにぐちゃぐちゃと攪拌され、正常な思考は根元から崩されていく。

 

 自分が今、どうして息をしているのか、どのようにして体を動かしているのかすら、分からなくなっていく。

 大切な人を失ってしまうかもしれない恐怖が、焦燥が、絶望が、心の中を埋め立て、奈落の底へと落ちていくような恐慌が、ユメの体を支配する。

 

 

 いくら集めても、○○のミメシスが再び肉体を構築する事は無い。

 核となるカケラが集まっていれど、○○のミメシスを形成する為に必要な感情が吹き込まれない限り、○○のミメシスは現れない。

 

 その事をユメは知り得ない。○○にミメシスの事を詳しく聞く事は無かったし、○○もその詳細を共有する事をしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 混乱した状況下の中、何故、と埋め尽くされる思考の中で、ホシノは一つの結論に辿り着いた。

 

 

「………………あぁ、そっか。また、騙されてるんですね、先輩」

 

 

 ホシノは思い返す。

 ユメは、生来優しく、そして甘い性格だ。

 キヴォトスに渦巻く悪意と大人は、体の良い食いものとして幾度となく蝕み、騙り、嘲り、虚仮にしてきた事は数しれない。

 

 そうだ、そうそう。なんだ、何時もの事じゃないか。

 

 美味い話に食い付き、その度に騙されてひんひんと泣き付いて、最後には困ったように笑って、それでも人を信じる事を止めなかった、ホシノにとってかけがえのない存在。

 

 

「……まったく、仕方の無い人ですね、相変わらず」

 

 

 今回もまた、騙されているだけなのだろう。

 一体どんな経緯があって、○○と会って、○○のような姿をした存在を○○と認識しているのか。そもそも、生きているなら何故姿を見せてくれなかったのか、連絡をくれなかったのか、会いに来てくれなかったのか。

 

 その疑問を全て切り捨てて、ホシノは再び銃を構え直した。

 

 大事な先輩を縛り付けているであろう、○○の姿をした何か……ミメシスに向けて、銃口を突き付ける。

 

「今度こそ、助けますから、待っててください」

 

 

 ───今度こそ、今度こそ。私が。

 

 

 ───私がユメ先輩を助けないと。

 

 

 ───私がユメ先輩を守らないと。

 

 

 ───私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が───

 

 

 

 ……そのために、邪魔なやつは排除しないと。

 

 目に宿る光が濁りに染まり、塗り変わる。意識が切り替わる。視界が定まり、思考がシンプルなものに統一されていく。

 もう一度ユメと過ごすために。ユメを取り巻く全てから解放するために。

 そのために、邪魔となるものは、全て、撃ち払う。

 

 

「……っ!」

 

 

 ホシノがトリガーを引く。ユメの側にいるミメシスを狙ったショットガンの銃撃は、直前で防がれた。

 ユメが射線上に素早く身を割り込ませ、展開した盾で一つ残らず受け止めた。

 

 

「……ユメ先輩。どいてください。そいつを倒せません」

 

 

 図らずともユメを撃ってしまったという事実に動揺し、銃を握る手が震え、声を上擦らせながらも、ホシノが断固とした口調で呼びかける。

 盾の脇から覗かせた顔を、ユメは力無く、瞳を潤ませながら訴えかけた。

 

 

「やだ、やだよ……なんで、こんなことするの……○○ちゃんを撃たないでよぉ……」

 

 

 ホシノの手に力が戻る。

 

 あぁ、何て事だろう。先輩は酷く騙されているらしい。洗脳までも行われているのだろうか。守っているのは、○○ではないというのに。

 

 

「先輩は騙されてるんです。私が助けますから。ほら、離れててください。危ないですから。それから離れて」

 

 

 厳しく言い聞かせるように、注意するように。けれども慮りを篭めた声色で、ホシノはユメに語りかける。

 アビドスの地で過ごしていた頃のように。2人なりの青春を過ごしていた頃のように。ポカをした先輩を諌めた時のように。

 何時も通り、何時かのように、かつての日々を思い返しながら、声をかける。

 

 

「撃たないで、撃たないでよ……○○ちゃんを……」

 

「目を覚まして下さい!! それは○○じゃありません!!」

 

 

 それでもなお首を横に振り、動こうともしないユメに叱責を叩き付ける。

 ユメが○○だと呼んでいるモノ。姿形は確かに○○に瓜二つ。けれど体表は青白く、頼りないランプのように仄かに発光さえしている。更には同じモノがユメの周りに複数体。それに銃で撃ってやれば、体はバラバラに解けて消えていく。

 これの何処が○○だというのか? 

 会議の際に見せられた映像データの事を加味したとしても……ユメを取り囲んでいる幽霊のような存在は、○○などではない。

 ホシノはそう判断した。

 

 

「……ホシノちゃんの分からず屋ぁ!!」

 

 

 悲痛な声を張り上げ、ユメが叫ぶ。

 

 突然復活した記憶の情報量を処理しきれないことによる意識の混濁。

 大切な後輩であるホシノが、大切な恩人である○○に銃を向け、撃ち抜いた事による衝撃。

 せめぎ合う過去と今の思い出が、ぎりぎりと脳を締め上げるような痛みを発して、ユメの思考をぐずぐずと困惑させる。

 

 大切な後輩と死してからもまた出逢えた。けれどその後輩が、自分を見つけて、助けてくれた恩人を糾弾している。

 

 何で? 

 

 先程からまるで○○が悪者のような言いぶりをホシノがしている。

 

 どうして? 

 

 助けてくれた大事な子を、大事な子が殺そうとしてくる。自分を騙しているのだと、自分をそこから助けるからだと。

 

 なぜ? 

 

 

 ユメの中は疑問符に満ち溢れる。冷静な思考ができない。状況に追い付けない。

 

 そこへ更に追い討ちをかけるように、乱入者達が現れる。

 

 

「───ホシノ先輩! だから一人で突っ走らないでって言ったのに……!? ちょっと、なにこれ……?」

 

「おい、どういう状況だ……?」

 

「……ユメ先輩が洗脳されてる。周りにいる奴等から助けないと」

 

「何だって?」

 

 

 ホシノの背後から複数の足音と共に、ユメの見知らぬ生徒達と、知らない大人が一人現れた。

 生徒達は、ホシノの方へと駆け寄り、ユメの方を警戒して見つめている。

 正確には、ユメを守るように立っている○○。そのミメシスに視線を向けている。

 

 

「……○○、みたいだけど……○○じゃ、ない……?」

 

 

 一際警戒心の強い生徒が、ミメシスに向けて構え、銃口を向けた。

 

 

「あ、ぁ……!」

 

 

 ユメの口から苦悶の声が漏れる。

 吐き戻しそうな、理不尽を煮詰めたような状況に陥り、何をすれば良いのかさえも分からない。

 

 

 ……○○ちゃんを守らないと、守らなくちゃ……! 

 

 

 ぐるぐると掻き乱される思考の中で、シンプルな答えが出た瞬間。ユメは手に持った銃型武装の銃身に備わったスイッチを反射的に押し込んだ。

 

 

《Calling》

 

「っ、何!?」

 

 

 武装に予め装着していたケセドアタッチメント。3Dプリンター機能が装填された神秘を燃料として稼働を始めた。

 

 ユメを中心に光の帯が複数射出され、周囲を踊り……青白いワイヤーフレームを形成し、神秘による肉付けが行われていく。

 

 

「な、何よこの量……!?」

 

 

 現れるのはオートマタ、ドローン、機械兵。武装にフル装填された分の神秘を全て使い切り顕現させた、機械の軍勢。

 兵器工場を掌握し、自身の手足たる眷属を自在に生み出すケテルの権能。それが再びキヴォトスの地へと降臨した。

 

 

「○○ちゃんに……」

 

 

 視界を埋める程の機械の群れが、一様にその銃口を生徒達に突き付けた。

 

 

「……手を出さないでぇ!!」

 

 

 悲痛な絶叫を引き金に、一斉掃射が始まった。

 

 

 

 

 

 

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