神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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Wish in the dark

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────……」

 

 

 

 ふわふわと、光が降り注ぐ。

 

 さぁさぁと、柔らかい光が、わたしを包んでいる。

 

 

 目を開けると、ふんわりした綿みたいに、白くて広い世界。

 

 

 優しくて、暖かくて、とても安心する、光の中。

 誰かが傍に居てくれるような、ふわふわの心地。

 上手く言えないけれど、ここに居たい、って思える世界。

 

 

 

 

 

 冷たくて、固くて、ざらざらしていた、前とは違う。

 

 誰もいない、誰も見つけてくれない、前とは、違う。

 

 

 

 

 

「────?」

 

 

 わたしの体から、細い線みたいなものが伸びている。

 その線は、ほわほわとしている。

 引っ張っても、ちぎれない。

 

 線が伸びている先。途切れないで向こう側にまで途切れないで伸びてってる。

 

 

 線が繋がっている方に、向かっていく。

 

 暖かい気配。

 優しい匂い。

 

 向こう側に居るんだ。

 

 

 ふわふわした足元を、ゆったり、歩いていく。

 

 どんどん、暖かい匂いが近付いてくる。

 

 

 

 

 

 見つけた。

 

 

 ほんのり光の陰った、ほわほわの温もりの中で、その子はそこにいた。

 

 私を見て、にこにこと笑ってくれてる、優しい子。

 

 

「────!」

 

 

 手を伸ばして、抱きしめた。

 

 そうすると、胸の中いっぱいに、暖かいのが溢れてくる。

 

 ぶわぁって、零れ落ちそうなくらい、たくさんの暖かいのが、わたしを包んでくれる。

 

 

「────っ!」

 

 

 その子の名前を呼んでみる。

 それだけで、わたしの心がいっぱいになるみたいに、暖かくて。

 

 

 にこにこ、って笑ってくれている。

 あなたも同じ気持ちなのかな。

 もしそうなら、とっても嬉しいな。

 

 抱きしめる。温もりを体いっぱいに感じられるように、むぎゅう、って。

 

 にこにこ、くすくす、笑ってる。

 あなたが笑ってくれている。

 

 

 形がほんのりふわふわしてて、ぱちぱち光の粒が溢れてる、あなた。

 

 わたしを見つけてくれた、あなた。

 

 わたしを暗いところから引っぱり上げてくれた、あなた。

 

 わたしを連れ出してくれた、あなた。

 

 わたしをきらきら照らしてくれる、あなた。

 

 

 そばにいて欲しくて、ずっと一緒が良いから、ぎゅ〜って、抱きしめて。

 

 

 

「…………?」

 

 

 

 腕の中が、空っぽになった。

 

 どうして? 

 

 暖かいのが、感じられない。

 

 

 慌ててあなたを探してみる。

 

 目の前にいた。いてくれた。

 

 変わらず、にこにこ笑ってる。

 

 

 腕をもう一度伸ばして、あなたを抱きしめて───

 

 

 

 ぱきん。

 

 

 あなたの体が、割れていく。

 

 

「────っ、!?」

 

 

 ばき、ぱき、ばり、ぱり。

 

 

 驚いてる間にも、あなたの形が割れていく。

 

 どんどん、壊れて、割れて、崩れてく。

 端っこから、真ん中から、頭から、足から、どんどん、ぽろぽろ、ぼろぼろ。

 

 

「────!!!」

 

 

 だめ、だめ、だめ、だめ!! 

 

 腕を伸ばして、必死に抱きしめる。

 

 でも、何の意味も無くて。

 あなたが崩れていくのは、止まらない。止められない。

 ばりばり、音を立てて、あなたが無くなっていく。

 

 

「─────!!? ───!!」

 

 

 やだ、やだ、やめて、やだ、やだ。

 

 

 崩れていく。壊れてく。

 光の粒になって、消えていく。

 

 あなたが無くなっていくのを、止めたくて、零れた光を掻き集めても、零れてく。

 

 わたしじゃ止められない。止まらない。

 

 

 やだ、まって、とまって、やめて、やめてよ。やめてよぉ。

 

 

 光が閉じていく。

 降り注いでた陽の光が、暗く黒く陰ってく。

 また、わたしだけの、さむくて、冷たくて、ざらざらした世界に、取り残されてく。

 

 

 もうあなたが見えなくなっていく。いなくなってく。わたしが独り、残されて。

 

 

 やだ、やだ、まって、とまって、いかないで、いかないで、やだ、やだやだやだ……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユメさーん。ユメさんってばー」

 

 

 現在、ユメさんに抱き留められてから何分経っただろうか。

 

 

 夜中の黒服さんとの密談も終え、徹夜した分の睡眠を摂ろうと私に抱き着いたままのユメさんと共にベッドに転がり、快眠する事数時間。

 

 気分スッキリさぁ今日も頑張ろう! と目覚めてベッドから降りたら。

 

 お腹にぐるりと腕が伸びて、巻き付いて、めちゃめちゃ抱き締めらた。

 

 

 背中側から腕ががっちり回され、しっかりホールドされている。あんまりにも深く抱き留められているが故に、爪先がぷらんと浮いている。体格差は如何ともし難い。さながら抱き上げられている猫の気分。

 

 

「…………うぅ〜…………」

 

 

 当のユメさんは、私の首元にぐりぐりと顔を擦り付けて何やら唸っている。一体何やら。夢見でも悪かったのだろうか。

 

 先程から何度か呼びかけてみているけど、抱き着く力は弛む所かぎゅうぎゅうと深まるばかり。

 神秘の影響でキツく抱き締められても苦しくはないし、振り解くのも何て事は無いけど…………それをしてもなぁ、という具合。

 肩先が少し湿っている。ぐすぐすとしゃくっているような音からして、涙やら何やらだろう温かい感触が触れては服に染み込んでくる。

 

 

「……何か嫌な夢でも見ました?」

 

 

 私の首元に埋められている頭を優しめにぽんぽん。小さく撫でてみながら聞くと、ようやくユメさんは口を開いた。もごもごと動いて少しくすぐったい。

 

 

「……やな夢を、見たの」

 

「不安になっちゃいました?」

 

「うん。…………○○ちゃんが、居なくなっちゃう夢」

 

 

 孤独に飢えた今のユメさんには随分と酷な夢である。日がな一日私にべったり離れない生活と言っても差し支えない現状、依存すら見えるような彼女にはだいぶ堪えるものがあったのだろう。

 言葉をぽつぽつと続けるユメさんの腕に、どんどんと力が篭っていく。

 

 というか、私の全体重をよくこんなに抱き上げていられるな……そんなに軽いっけ私。

 ……まぁ、ここ最近の生活で筋力などの身体能力が戻ってきているのならそれはそれで良いのだけど。

 

 

「○○ちゃんが、ね。バラバラになって……消えちゃって、いなく、なっちゃって……」

 

 

 ユメさんがぽつぽつと夢の中身を語るにつれて、途切れる言葉の変わりに涙と嗚咽が溢れていく。

 よほどショックな絵面だったみたいらしい。嫌なものほど、印象に強く刻まれてしまった事ほど忘れることはできないとは聞いていたけれど、これほどとは。

 

 

「わたし、私、○○ちゃんが、消えないように、止めたくて、抱きしめようと、したのに、ぅぐ、ひっ、ふ、っ」

 

「大丈夫ですよ、ユメさん。私はこの通り、ぴんぴんしてますから、ね?」

 

 

 なるほど。

 手を尽くしても私が消えて、息絶えて。独り残された所で目が覚めて。

 何時も一緒に傍で寝ている私の姿が無くて、もしかしたら夢が現実になったのかもしれない……なんて過ぎった所に、先に目覚めてる私を見つけて。

 こうして二度と離れないとばかりに強く深く抱き締めて。

 

 

 それほど独りになるのが嫌なのだろう。

 それが生来の気質故か、砂漠で孤独に死んだが故のトラウマなのか、それとも。

 

 ……夢の内容を思い出すにつれて、また感情がぶり返したらしく、過呼吸気味になってしまったユメさんの頭を優しく撫で、摩り、しっかりと声を聞かせる。

 非実在のものではない、ここに存在している○○として、ユメさんの腕の中に収まりながら、少しずつ、少しずつ、伝えていく。

 

 大丈夫。大丈夫。

 私が居る。私が着いている。私はここに居る。

 貴女は決して独りなどではない。

 

 ……そして繋がりは、私一人によるものではない。

 直に、貴女を知る者が訪ねてくる事でしょうから。

 私が居なくなって、孤独になる……そんな事を恐れる必要は、もうじき無くなるのだから。

 

 

「ユメさん、ユメさん。大丈夫です。ちゃんとここに居ますから」

 

 

 それまでは、彼女にとって欲しい言葉を好きなだけ。望むだけ。欲しいだけ与えてみよう。

 

 

 時間にして、十数分以上はそうしていただろうか。

 

 身体中の水分が顔から零れ落ちてしまいそうな程に泣きじゃくり、震えていた背中が次第に落ち着いていく。

 

 不意に、私に押し付けられていた顔があげられた。

 

 

「ねぇ、○○ちゃん」

 

 

 泣きじゃくってほんのりと腫れている目元、熱の篭った瞳が、私を見つめてくる。

 

 

「いなく、ならないでね」

 

 

 どれ程に手を尽くそうと、それでもはっきりと聞かなければと駄目になってしまいそうな程に、心が押し潰されているのだろう。

 不安と恐怖に押し潰されそうな声で、たどたどしい言葉が囁かれる。

 

 

 私は、彼女のそんな顔につい見惚れてしまった。

 

 

 ……いや、違う。

 神秘だ。

 神秘がより美しく、彩りを増していく。

 

 恐怖、不安、焦燥、孤独。

 心の中を染め上げているであろう、それらの負の感情に苛まれた彼女の神秘が、色濃く輝いている。

 

 その輝きは、これまでに無いほどに鮮烈で、暗く輝いて、綺麗で、素敵で。

 

 

 ……あぁ、いけない。

 

 

「ユメさん」

 

 

 抱き止められる腕の中で身を捩り、無理やりに体を反転。

 それから腕を差し伸ばして、ユメさんと同じように深く抱き締める。真正面から、言葉を受け止めるように。

 

 

「大丈夫です。私はここに居ます。居なくなりませんよ」

 

 

 何時ものように背中と頭を軽く撫でて、小さく叩いて、そうお返事をする。

 添い寝の時、このように抱き締められながら撫でられる、という行為がユメさんは一等お気に入りらしい。こうすると気分が落ち着いて、とても安らかな気持ちになれるとのこと。

 

 そうしながら、彼女が安心できるように声をかけてあげれば……強張り、震えていた体が少しずつ弛緩していく。

 

 

「○○ちゃぁん……」

 

「はい。ユメさん。私はここに居ますよ。貴女の側に。居なくなったりしませんから」

 

 

 ぐすぐすと私の首筋に埋まる顔がしゃくりあげて、私を呼ぶ声に安堵が混じり、不安の色が失せていく。

 

 

「……うん、うん。約束だよ、○○ちゃん」

 

「そうですね。約束です、ユメさん」

 

 

 抱き寄せていた腕の内、片方が動いて、ちょこんと控えめに差し出してきた小指。

 それに私の小指を絡めて、そっと指切り。そこはかとなく、雰囲気が明るくなっていく。

 

 

 ……つい勢いでやったけど、こういう口約束も『契約』に含まれたりするのかな……? 

 

 うぅむ。キヴォトスにおいて契約は特別な意味を持っている……と黒服さんも言っていたし、気を付けるべきか……? 

 

 

 

「……ねぇ、○○ちゃん」

 

「はい、何ですか? ユメさん」

 

「今の研究が落ち着いたら……何処かに出掛けない? 二人で、一緒に」

 

 

 おや。

 

 これは嬉しい兆候かもしれない。今まで過ごしてきた中でユメさんから自主的に外に出よう、と言ったのは初めてだ。

 一応私と一緒であれば外に出れなくもなかったけど……あまり好ましい反応は得られなかった。その時も研究所付近を数歩ほど歩いたくらいだし。

 

 

「ずっと缶詰になって頑張ってたでしょ? だから……息抜きにどう、かな?」

 

「良いですね。でも外に出るのは平気なんですか?」

 

「……一人じゃないなら、大丈夫……だと思う」

 

 

 抱き留める腕に再び力が篭もる。爪先が更に何cmか浮いた。宙に浮く時間の最高記録がどんどんと更新されていく。

 

 

「でしたら……まずは近場を出歩いてみましょうか。ミレニアムは整備が行き届いてますから、散歩コースにはぴったりでしょうし。ミレニアムの次は何処にしましょうかね」

 

「……○○ちゃんと一緒なら、何処に行っても楽しいよ、きっと。だから、一緒に、色んな所、行こ?」

 

 

 すり、と頬擦りまでしながらそう言ってくれるユメさん。そこまで言うのならば、とことんまで連れ回って歩いてみようかな。

 

 

「約束だよ、○○ちゃん」

 

 

 ……。

 ……まぁ、これはすぐに解決できる約束ではあるし、別に良いか。

 

 

「……ええ。約束です」

 

 

 

「さてと。そこまで楽しみにして下さってるなら一刻も早く研究を一段落させないとですね。その為に今日も張り切って研究開発です」

 

「……ふふ、○○ちゃんは相変わらずだね」

 

「それ程でも。……気分、ちょっとは落ち着きましたか?」

 

「うんっ! ……ありがとう。ごめんね、○○ちゃん。色々迷惑かけちゃってて……」

 

「いいえ。じゃあ朝ごはん食べましょっか」

 

 

 ここでようやく抱擁が弛み、地に足が着いた。数十分ぶりの床の感触。

 

 背後にユメさんを伴いながら、何時も私達が食事を摂るスペースまで連れ立っていく。

 

 

 

 

 ……にしても。

 興味深いものを見ることができた。

 

 恐怖、不安……絶望的な負の感情に満たされた生徒の神秘。

 これまでに無いほどの、見たことの無い類の煌めきを秘めていた、あの神秘。

 

 これまで神秘を観測してきた中で、感情が一定以上に昂った際に、その神秘はより輝きを増す事は確認できていた。

 今回ユメさんから見てとれたのも、感情の昂りによる神秘の増大と同一。

 けれど、間近で見て、触れてみた私だからこそ解る。単なる戦闘時の興奮状態とはまた違った輝きだ。

 

 

 ……確か黒服さんや、マエストロさんが言っていたっけ。

 

 反転した『神秘』は、『恐怖』となると。

 

 

 掌の中にある、神名のカケラ。

 先程のユメさんから咄嗟に取ったそれ。ユメさんの神秘に満たされたそのカケラには……今までに見た事のない、暗く黒みかかった神秘の光が灯っていた。

 素晴らしい。一つしか取れなかった事が残念でならない。

 

 ……今のユメさんは、負の感情から立ち直ったようで先程見られたような神秘の輝きは無い。

 何にせよ、またしても貴重な物が取れた。ユメさんには感謝の至りしかない。

 このカケラは大切に使わせてもらうとしよう。まずはともかく培養から始めないとね。

 

 ……重厚な艶めきが何とも欲求を唆る……。

 

 いけないいけない。抑えないと。

 

 

 

 

 ユメさんと共に食卓に着く。

 食事はミメシスの私が用意してくれていた。チーズとハムを乗っけたトーストにサラダとヨーグルト。ご機嫌な朝食だ。

 

 ユメさんは相変わらず良く食べ良く笑って食事を済ませたが、お腹が満たされただけでは悪夢の余韻を晴らすにはまだ足りなかったらしく、神秘は少し翳りあり。

 

 

 こうなったら数で攻めよう。

 

 ミメシスの私を総動員。現在顕現中の6体と私を含めた包囲網でユメさんを囲み、一斉に抱き着いて撫でくりまわしての集中攻撃。

 もみくちゃにされながらも何時も通りの笑顔と神秘が戻ってきたので、ヨシとした。

 

 やはり数とは偉大であると再認識した所で、今日も今日とて研究開発実験に勤しもう! 

 

 

 

「さぁて、そんな訳で今日も張り切っていきますよ! 前回の試射のデータは纏めましたし、次は50%の出力で試してみましょうか!」

 

「あれ、50%? そのくらいで良いの?」

 

「えぇ。100%に向けて段階を刻んで発射実験を繰り返して、最後には100%出力で発射してみるんです。計算時と実践時でデータにブレがないかとか、どれ程の誤差が生じるか……とかですかね」

 

 

 あれやこれや、やりたい事試したい事を口に出してみながら、実験の結果を夢想する。

 

 不確実なデータ、空の星のように散らばるデータ。数多の可能性が秘められたそれらを線と線で結び、一つの形となるように、纏め上げて、結果を重ねて、次なるステージに踏み込む為の土台としていく。

 

 過程と結果。それをつぶさに書き留めて、僅かな変化も書き込んで、次へ活かすための糧として。

 

 

 積み上げて、作り上げて、私だけの形を重ねていく。

 

 

 それのなんて楽しいことか。

 

 

 外れ値、エラー、予想外、大いに結構! 

 

 

 見果てぬロマンへの道筋が、未だ遠き輝きが、私を待っているんだから! 

 

 

 

 

 

 先生。

 どうか存分に御覧になって下さい。

 私が作り上げたものを、私のこれまでを、私のこれからを、全て披露しますから。

 

 

 私はここにいます。

 私がいます。

 どうか見失わないように。

 

 

 分かりやすいように、居場所が分かるように、目印をど派手に撃ち上げてみせましょう。

 

 

 

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