神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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『TERROR!』『DESTROY!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアム廃墟地域。

 

 

 そのとある一画、研究所らしき棟に併設された半球形の巨大ドームハッチ。

 ぴしり、真っ直ぐにナイフを入れたように線が入った中心から割れ、機械の駆動音と共にハッチが展開。その内部を露出させていく。

 

 

 

 ドームハッチの大口の中から覗くのは、ミレニアムの威容と威光、そして校章を掲げた、白銀の装甲を纏う巨大なカノン砲。

 

 ハッチが開き切り、その全体像が露わとなる。

 神秘的なまでに輝かしく象られ、『砲』というシンプルな形に収められている大口径かつ超長砲身の其れは、自らを誇示せんとばかりに強烈で鮮烈な存在感を放っている。

 

 白く、清らかに、穢れなき金属的光沢に覆われた砲身は、廃墟地域の空を覆う暗雲の下にあっても、その輝きは一部も欠ける事なく、其処に佇んでいた。

 

 

 ガ、コン。

 重苦しい機械音と共に、カノン砲の台座が駆動を始める。

 

 斜め中空に向けられていた砲身が少しずつ、折れる事なく、撓む事なく、その角度を上向かせていく。空を掴み目指すように、その砲塔は空に向かっていく。

 

 

 直角の角度となり、砲身が固定される。

 地表に対して垂直に、芯を地に深く突き立てられたように真っ直ぐに、塔の如き堂々たる風格すらも伴って、カノン砲は天に向かってそびえ立った。

 地にある全てのものを見下ろしているかのような圧倒的迫力は、正しく相対する敵を威圧し、恐怖させる巨大兵器の様相その物。

 

 

 ガキン。

 カノン砲の炉心が稼働を始める。

 発射シークエンスが開始する。

 合わせて、砲身に変化が起こり始める。

 

 曲線と直線の融合により、美しく芸術性すら帯びた砲身が金属音を鳴らし展開。

 内部のエネルギーラインが露出され、極太の其れに神秘のエネルギーが急速に充填が行われていく。

 

 

 バチ、バチ、バチ。

 スパークのような電撃的な音が廃墟を覆う曇天の元に重苦しく響き渡る。

 1秒が経つ事に、砲身内部には膨大な神秘と熱エネルギーが満ち満ちていき、周辺の大気すら歪んで見える程にまで、収束と縮退を繰り返す。

 

 極大の力が一塊となって、無理矢理に集約させられていく重い音の反響が、やがて悲鳴にも似た甲高いノイズとなる。

 今にも弾けて四散を起こしそうな爆弾と呼ぶにも烏滸がましいエネルギーが、カノン砲の内に、溜め込まれて、溜め込まれて……。

 

 

 

 解放。

 

 轟音が、鳴り響く。

 

 

 

 限界のその先まで引き絞られた弓の弦が放たれたように、音速の壁を越え、亜光速にまで達した神秘の奔流が、砲塔から撃ち出されていく。

 

 圧縮を繰り返した弩級のエネルギーが空を裂き、大気を破り、目を焦がし灼き尽くす極光を無造作に撒き散らしながら、天高く突き刺さる。

 

 

 キヴォトスの宙に浮かぶ巨大な光輪の連なりを掠り、大気圏すらとうに突き抜けて、光の柱が立ち昇っていく。

 

 

 その圧倒的な神々しき光の煌めきは、ミレニアムだけでなく、ミレニアムを中心とした他学区の自治区の空をも照らし、はっきりと目撃された。

 

 およそ十数秒のみ観測された、宙を灼き尽くさんばかりのエネルギーの奔流。

 災厄か、はたまた吉兆か、もしくは巨大な陰謀の始まりか。何某かが噂し、多感な者達の合間で囁かれ、広まっていく。

 

 

 増幅され、充填されたエネルギーが底を尽き、光の柱が薄れ、細まり……最後には幻のように掻き消えていく。

 

 

 後に残るは、暗雲の一つもない、澄み渡る青空の景色。

 

 遮る何もかもを潜り抜けた陽の光が、白きカノン砲を祝福するように降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主砲から立ち昇る光の柱。力強く空に突き刺さるそれが次第に光量を薄れ、細まっていく。

 光の残滓が空に掻き消えていくのを見届けてから、両腕を力強く突き上げて、歓喜の感情に身を任せた。

 

 

「あははっ」

 

 

 ついに完成した。

 

 

「我ながら傑作……!」

 

 

 夢とロマン、神秘を詰め込んだ、私史上の大傑作。

 

 

 超長距離射撃型宇宙戦艦主砲。

 

 列車砲『シェマタ』を主軸に、デカグラマトンの預言者4体の神秘、コア、駆動部、装甲等のパーツを組み込み、更には現在収集した中で厳選した神秘もふんだんに取り込ませ、今の今までに積み上げてきた私の技術を利用しまくった、巨大武装。

 

 

 これまで作ってきた物とは正しくスケールは段違い! 

 ミメシスの私達との協力もあってこそだけれど、ついに作り上げることができた! 

 

 

 名付けて、『テラー・デストロイ』! 

 

 

 空を越え、遙かなる宇宙へと漕ぎ出し、星の彼方へと飛び出す宇宙戦艦。

 未知なる宇宙。果てしなく広大な宇宙。

 ダークマターとダークエネルギーに満ち満ちた未踏の領域たる宇宙には、思いもよらぬ何かが潜んでいるかもしれない畏怖、先の見通せない闇が広がる景色への恐怖が……果てには宙を旅する我々を害する外敵という試練が待ち受けることだろう。

 

 それ等の闇を鋭く眩く引き裂き、誰にも邪魔をさせない光の道筋を創り出すが為。

 宙を暗く包み蝕む恐怖を粉砕し、撃ち払うが為の巨大な光の道標が、今此処に君臨したのだ。

 

 ふふ、感無量。いざこうして成果物が元気に駆動したのを見ると込み上げてくるものがある。

 掛かった時間、日にちは……■■、■■……いや、いや、今はそこは脇に置いておこう。ただ完成した喜びを噛み締め、分かち合おう。

 

 

「すっごいね○○ちゃん! バチバチ〜ってなって、ズドーンッ! って一気に空まで突き破ってって!」

 

 

 主砲から放たれる強烈な光線から目と耳を守る為の保護メガネとイヤーマフを外しながら、ユメさんが腕を広げ、息巻いてはしゃいでいる。まるで我が事の様にそう言ってくれるのは、私としても嬉しい限り。

 だけど、しかし。

 けれど、まだまだ。

 

 

「こんなものでは終わりませんよユメさん!」

 

「うえぇっ!?」

 

 

 ぶち上がるテンションそのままに迫ってしまった為に後ろ側に仰け反り倒れそうなユメさんの腕を支え、抱き寄せる。

 

 

「わっ、わ、○○ちゃんっ」

 

「先のはまだ試射の段階、100%の威力ではありません。あくまで稼働と試射が成功した、まだそれまでなんですよ」

 

 

 ユメさんを抱き上げながら、興奮に任せてくるくるくるくる回って、ステップ。胸のときめきが留まらない! 

 

 そう。今回は試射だ。

 製造が終わり、稼働の確認を行い、カノン砲としての機能と役割を最低限果たすかどうかのテストに過ぎない。

 

 だから、まだここからだ。

 ここからが、始まりなんだと私のロマンが声高らかに張り叫ぶ。

 まだまだやる事尽くし、やりたい事目白押し。

 検証を重ね、データを集めて、僅かな変化も書き留めて、次のステップへ、次のステージへ。

 やらなくちゃならない事は雨霰のように、次から次へと舞い降りる。

 それのなんて幸せで、わくわくすることだろうか。

 

 

 ぼすり。回転の終わり際、並べていた椅子にまとめて座り込んで、ユメさんの顔を見つめて、問い掛けた。距離感が近いおかげで良く見える瞳の中を、体の内に感じる神秘をじっくりと覗き込みながら。

 

 

「ですから、どうか。手伝ってくれませんか、ユメさん。私の夢を、ロマンの果てが見れるまで」

 

「う……、うんっ! 私、頑張るからねっ。できる事があるなら、何だってするから!」

 

 

 あぁ、何て良い人だろう。やはりこの人を拾って救った選択に間違いは無かった。

 私の興奮が伝播してしまったのか、赤く紅潮しているユメさんに頬擦りもしてしまいながら、もう一度深く抱き留めた。

 それからユメさんの手を取り、声を張り上げるのだ。

 

 

「よぅし、言質取っちゃいましたよユメさん! さっそく張り切ってもらいましょう! まとめるべきデータ、取るべきデータの収集から行きましょう!」

 

「お、お手柔らかにお願い〜!」

 

「あはは、今夜は寝かせませんよー!」

 

「ひぇぇ〜!?」

 

 

 やるべき事は山積みだ。今回の稼働データを十全に取って、次の稼働実験の為の準備も必要。

 主砲発射シークエンスに始まって、発射までのラグ、着弾地点の弾道計算のブレ、発射後の排熱効率…………見るべき所、改善すべき点、他にも色々あって目が足りない。ミメシスの私もフル稼働で進めて、過不足なく洗い出しを済ませなくちゃ。

 

 試作を続けて、改造を加えて、改善を進めて、それを基に、また新たな物を作り出す為の土台を築き上げて、更なる発展を遂げよう。

 

 

 次なる目標は、エネルギー充填100%状態での主砲発射、一連動作のデータ取り。

 そして最終的には……この主砲を取り付ける、宇宙船の建造を! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しばかり、私の声に耳を傾けて下さいますよう。よろしいですね、先生」

 

 

 

 仄暗い灯りに照らされた、足元も覚束無い、キヴォトス内部の何処とも知れぬ場所において、黒服は言葉を零す。

 沈黙を肯定として受け取れば、小さく頷いて、言葉を吐き出していく。

 

 

 

「安定とは、即ち変化無き停滞を意味します」

 

 

 対面する大人……キヴォトスという方舟に降り立った、生徒を導く役割を持って現れた先生に、うっそりと笑いかけながら続けた。

 

 

「不変、停止。不朽、恒久。一定の状態を保った、波風立たぬ凪いだ水面のように、ただ穏やかに在る事」

 

 

 対する先生の表情は険しく、怒りすら滲ませた仏頂面で黒服の顔を睨めつけるのみ。

 それは決して普段接するような生徒に向けられるようなものではない。

 黒服は意に介さず、ともすればそのような感情を表出させる先生の態度を愉しむように肩を揺らした。

 

 

「移ろう事も、激しい変化も起こらず。進展は何も無い。何処にも行き着く事は叶わない」

 

 

 そこまで言い切ってから、少しばかり勿体ぶって、態とらしく溜めて、それからようやく声に発した。

 

 

「……彼女は、それを望みませんでした」

 

 

 先生が、仏頂面の片眉をほんの僅かに跳ねさせて反応を示す。

 黒服の言う彼女というのが、今更誰の事であるのかは言わずとも、2人の大人の間に認識の齟齬が起きることも無かった。

 

 

「不安定とは、大小問わずに変化が起こり得る状態。幾多もの可能性を秘めた、未知の源泉とも言えるでしょう」

 

 

 黒服は指を一本立てながらゆったりと歩き、目を掛けている優秀な相手に講義を行うように、丁寧に語り続ける。

 

 

「激しくうねる荒波に押し流され、吹き荒ぶ風に絡め取られ。そう在りながらも、自らの望む新天地へと漕ぎ出す為に舵を握り……自らの想う夢へと辿り着かんとしたのです」

 

「そうして、彼女は手にしたのです。自らの望む未来を。新たなる可能性を得る為の智恵と視座を」

 

 

 ぱちり、と指を鳴らして、改めて黒服は先生の顔を見やる。

 演説のように、披露するように、恭しく流麗に紡がれる言葉に対して何も思う所は無い、心が揺れる事は無いとばかりに努める仏頂面を浮かべている先生の表情に、愉しげな笑みは深まるばかりで。

 

 

「……素晴らしい事だと思いませんか、先生」

 

 

 黒服が、ひいてはゲマトリアの構成員が、こうして何処とも知れぬ場所に先生を呼び出し、何やらを語る事は初めてではない。

 そうして呼び出す理由は、おおよそ二分される。

 

 

 1つ目は、キヴォトスに在るその存在を共有する為に。

 2つ目は、自身らの作り出した作品を、先生に披露する為である。

 

 今回は後者の方であるとはっきり読み取れた。

 

 

 基本的に、大なり小なり、ゲマトリアは先生に対して好意的な反応を示し、興味深い対象として接している。

 そして、自身が生み作り出した作品を、先生がどのように評価するのか。その作品が、どのような影響を与えるのか……それを観察する為に、子供が成果物を見せびらかす無邪気さすらも伴って、こうして愉しげに語りかけてくる。

 

 

「自ら躍進を遂げ、才能を花開かせ……今も尚、胡座を欠かずに成長を果たさんとする。自身の夢を叶えるために、彼女なりの青春を謳歌するその姿こそ……」

 

 

 過去にこうして呼び出され、どんな存在と対面する事になったか。

 

 

 止め処無い奇談の図書館。

 聖徒の交わり。

 スランピアにて複製されたかつての歓び。

 

 

 挙げ始めれば枚挙に暇が無い。

 それは往々にして、強大で、苛烈であり。先生と生徒が一丸となって挑まねば打倒の出来ない、強力な存在であって。

 

 

「子供を導く大人にとって、これ以上無いほどに尊く映る。でしょう? 先生」

 

 

 例えそれ等が打倒されたとしても、彼等はまた興味深げに笑う。

 そうしてまた、彼等の「崇高」を求める傍ら、そうした作品は作られ続ける。

 これからもそうであるし、そうした存在は先生が先生である限り、何時までも続くのだろうと、先生は半ば確信していた。

 

 

 

「……クク、ククク……」

 

「これは失礼。いえ、少し感慨深く思いまして」

 

「生徒を導き、見守る先生……というものは、なるほど、このような感情を得るのですね」

 

 

 今回も、またその時がやってきたに過ぎない。

 生徒という存在を利用し、出来上がった作品。

 それを先生へと披露するために、こうして語りかけている。

 

 その行為は何よりも先生という存在を冒涜し、逆鱗を撫で付けた。

 

 

「……ククッ、そうですね。今の彼女に相応しい名を付けるとしましょう」

 

 

 そんな反応すらも求めていたように振舞う黒服の反応が実に煩わしいが、黒服の言葉を止める理由は何処にも無い。

 堪え忍ぶように佇む先生に対して、黒服は改めて首元を引き締め、声を吐き出した。

 

 

「『名も無き歓喜(ネームレス・プレジャー)』。私はそう定義致しました」

 

 

 名前とは、その事象に明確な形を定義し、その形に収めるもの。

 

 名前の無いものは、無秩序であり、凡ゆる可能性を秘めた無定形の存在とも呼べるもの。

 

 名付ける事とは、名が表す形に合わせた型にそのものを押し込め、縛り付ける契約。

 

 しかし、黒服が行ったのは名前を持たない概念としての名を付けるという、一瞬の矛盾。

 

 その行為には、その存在が持つ可能性を狭めたくはないという願いが篭められていた。

 

 先生にとって、そんな思惑など知った事ではない。

 彼女には、彼女の名前がある。

 お前達の作品では無い。そのような名を付けられる謂れも無い。

 そう言わんばかりの眼差しにも、黒服は怯まず、ただ笑うばかり。

 

 

「……先生、重ねて言っておきますが……」

 

 

 もう一度、ぴん、と立てられる人差し指。

 それを口元に静かに運んでは、戒めるように、言い聞かせるように、先生の思考を遮る。

 

 

「我々がした事とは、ほんの些細なきっかけと、細やかな助力を与えた事のみ。彼女が彼女自身を変えようと起こした行動の総ては、紛れも無く彼女自身の選択に他なりません」

 

 

 なので、私達が作り上げた作品とは呼び難いのですよ。等と零しながら、黒服は恥ずかしげに肩を竦めた。

 それから真っ直ぐに先生の瞳を見つめた。

 

 

「それでは、先生」

 

 

「どうか、見届けて下さい。彼女の行く末、彼女の末路を」

 

 

「ロマンの往く果てを、どうか、存分に」

 

 

 

 かつ、かつ。

 革靴が踵を返して、暗闇の中に溶けていく。

 愉悦をふんだんに詰め込んだ微笑を喉元から垂れ流しながら遠ざかり、やがて途絶えた。

 

 

 

 後に残された先生は、黒服が消えていった暗闇にしばらく視線を注ぎ、やがて自分も踵を返して、道を引き返していく。

 

 

 足取りに迷いはなく、瞳に決意を強く映しながら。

 

 

 

 

 

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