神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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Death The Crysis!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れた……」

 

 

 ヴェリタス副部長、各務チヒロ。外出兼用事を済ませ、軽く肩を解しながらミレニアム校内を歩いていく。

 

 

 

 行き先はヴェリタス部室。

 残してきた僅かな雑務を今日の内に片付けておくために、そして部員がまたろくでもないイタズラを計画していないかを監視するために、そそくさと足を進める。

 

 ハッカーであると同時にトラブルメーカーにも積極的になる厄介な部員達。

 マキにはグラフィティ欲求と年相応なやんちゃ加減に手を焼かれ。

 コタマは大人しそうな顔をして盗聴の常習犯である上、幾度となくシャーレに盗聴器を仕掛けようとしている。近い所また〆ないといけない。

 ハレもハレで、面白そうな事には従順である。一度火が点けば制御はしにくい事この上ない。

 

 他のトラブルメーカー……主にエンジニア部等と共鳴してしまえば殊更手に負えない。なので定期的にそこら辺りに探りを入れ、事前に被害を食い止める必要がある。

 

 考えるだけで現在の疲労が五割増しになるような心労がのしかかるようで、チヒロは本日何度目か分からないようなため息を零した。

 

 

「……っ、マキ?」

 

 

 廊下の突き当たりを曲がり、右手奥側にヴェリタスの部室が見えてきた頃、その扉が勢い良く開かれ、見慣れた人影が飛び出してくる。

 ヴェリタスメンバーの1人、小塗マキが吐き気を堪えたような青い顔で口元を抑えながら、慌ただしく廊下を駆けていく。

 

 

「ちょっと、危ないからそんな走らないで……って、もう居ない……」

 

 

 視界の奥の方に進み小さくなっていく背中に声をかけるも聞こえていないのか、そのまま速度を落とさずに廊下を曲がっていく。

 確かその方向には突き当たりにトイレがあっただけだったはず、とチヒロの記憶が呼び起こされる。

 

 

「全く……今度は何をしてたんだか……」

 

 

 大方、ハレ主導のエナジードリンクちゃんぽんパーティでもして変な組み合わせでも飲んだか、それともゴア表現のある映画でも観てたのか。

 

 追加のため息を吐き出しながら、部室の扉を開く。

 

 

「あんた達、またロクでもない事考えてないでしょうね?」

 

「……ぁ、ふ、副部長……」

 

 

 部室内を見やれば、やけに弱々しい返答が耳を打つ。

 声の方向には先程のマキと同様に青い顔でソファに身を沈めるコタマとハレの姿に、唯一電源が点いたモニターが1つ。

 

 

「何、映画でも観てたの? よっぽど刺激的だったみたいだけど……」

 

 

 それにしても全員が全員、グロッキーになる程の映像とか一体何処から持ってきた物なのやら。

 違う意味で興味は惹かれるけど、これ以上は目に毒でしょ。

 

 とっとと電源を切って、一言苦言でも呈してやるか、とモニターに近付いていく。

 

 

「あ、だめ、いけません、副部長……」

 

 

 小さくか細い、風のそよぐような声と手がチヒロを押し留めるよりも、チヒロの視界がモニターの映像を映す方がよっぽど早く。

 

 

 チヒロの目が、そこに映る映像を認識し、そこに映る情報を認識し。

 

 ……今見た物を、何も理解する事ができなかった。

 

 

「何、これ」

 

 

 チヒロは困惑と嫌疑から思わず声を零した。

 目の前に広がる惨状に、非現実極まるような状況に、自身の目を持ってしてもなお信じられなかった。

 

 

「何なの、これ……!」

 

 

 目の前の画面に映る映像。

 再生が止められ、停止した映像の中に居る人物の体に目を釘付けにさせられて、その内に込み上げてきた物を吐き出さないように、顔を逸らして無理やりに視線を切る。

 

 

「……一応聞くけど、あんた達が作ったコラじゃないよね」

 

 

 逸らした先、変わらず青白い顔でソファに沈み込むコタマとハレに語気を強めながら尋ねれば、2人は弱々しく、しかし決死の思いでもって首を横に振り、否定する。

 

 

「……そう思われるなんて心外、ですね。……誓ってそのような事はしていません。それは無加工の……本物、です」

 

 

 尚更どういう事、と当たり散らしたくなる言葉を飲み込み、混乱する思考を落ち着ける為に瞼を閉じる。

 

 

「……う、っ……!」

 

 

 瞼の裏に、先程見た光景が焼き付いている。そのイメージが強く刻み込まれて、脳裏から離れてくれそうにもない。

 

 

 映像に映っていたのは、エンジニア部に所属している部員の1人。優秀なマイスターである◯◯の姿。

 

 チヒロにとっても知らない仲ではない。むしろよく関わっている方ではある。

 

 エンジニア部というだけあって、◯◯もミレニアムにおける数ある問題児の1人。

 よくエンジニア部員と共に部活動に励み、はしゃぎ、突飛でとんでもない物を作っては暴走して果てには爆発している事など日常茶飯事。

 

 自由奔放な故に、よく他のミレニアム生徒と関わり……ヴェリタスとも関わっては互いの悪乗りを増長させ、更に頭の痛くなるようなトラブルを引き起こしてはユウカやチヒロに叱られる事も少なくない。

 

 

 決して全面的に優等生であった訳ではない。他の生徒と同様、何かしら迷惑をかけられる事はあった。

 

 

 けれど、あの様な姿にされる謂れなんて、何処にも無い。

 

 

 

 体のあちこち、表面が剥がれ落ちて、中身が無残に零れ出ている。

 ……そこから見えるのは、肉や骨ではない。何もかも吸い込んでしまいそうな、果てしない青白の光。

 バグを引き起こしたゲームのキャラクターのように、それがぐちゃぐちゃと無作為に体の表面に貼り付けられているどうしようもない非現実感が、異質なそれが其処に存在しているという違和感が、胸の内をガリガリと掻き毟ってくる。

 

 

「ぉ、え…………」

 

「ふ、く部長……。大丈夫、ですか……」

 

 

 ヘイローなど、無事な箇所は見付からなかった。

 綺麗な淡い光はノイズとひび割れに侵され、円輪の一部は割れ砕けている。

 その状態は最早、死に瀕した、死の淵にある者ですら辿り着く事の無い、致命的な欠損。

 歩いて、立って、喋る事すらできないだろう、そんな状態で。

 

 

「……っ!」

 

「ひっ……!」

 

 

 逸らした顔を元に戻して、モニターを視界に収めながら、再生ボタンを叩く。

 突然の蛮行を止める間もなく、恐怖からソファに沈む2人が目を覆い隠しても、チヒロは構わず映像を流し続ける。

 

 

『───ですから、知りたいんです。過程を、結果を、その先でどの様な反応が起こるのか……確かめて、実感してみたいんです』

 

 

 先生と◯◯が向かい合う。

 ◯◯の声は、チヒロが何時も聞くようなそれと全く同じ、聞き覚えがあるそれと合致している。

 笑顔で、実に楽しそうに、夢を語るように、軽やかで、ロマンに熱を上げている時らしく声に熱を帯びさせて。

 チヒロが何時も見る、◯◯の姿と同じなのに。

 

 体は、ヘイローは、今にも崩れて、壊れて、砕けてしまいそうなのに。

 

 

『私がこれまで追い求めて焦がれた神秘の真相、その一つが暴かれる……かもしれません。もしかしたらもっと謎が深まるかも。でもそれが良いんです』

 

 

 どうして、◯◯はあんなに平気そうに振る舞えている? 

 

 

 

 

 ……映像の日付を見る。

 シャーレのとある日を盗撮しただろうこの映像は、つい先週に記録されている事を示している。

 

 チヒロは、この映像が記録された翌日に、◯◯の姿を目撃した事を思い出した。この映像の光景が単なる、手の込み過ぎた、イタズラの度が過ぎた合成である事を願わせる程に、何時も通りの、何処にも怪我も何も無い姿だった。

 

 しかしチヒロは、この映像を見たヴェリタスの全員は、この映像に映った◯◯の姿こそが真実なのだと直感していた。

 

 

 すかさずチヒロは自身の端末を取り出し、モモトークを開いた。

 

 

「とにかく、本人に……それとエンジニア部に……先生にも連絡しなきゃ。どういう事なのかちゃんと聞き出さないと……!」

 

 

 真っ先に繋げたのは◯◯の連絡先。

 

 しかし、繋がらない。画面を見れば、何らかの要因によって、通話ができない状態であることを示す表示が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──○○? どうしたんだ? 何かあったのかい?』

 

 

 電話をかけると、ワンコールもしない内にウタハ先輩が出てくれた。

 てっきり機械弄りをしているかと思ったが、手元に端末を丁度置いてたのだろう。

 

 やけに心配そうな声をしたウタハ先輩に、慎重に返事を返した。

 

 

「すみませんウタハ先輩。諸事情により少し長期休暇を取ろうと思いまして」

 

 

 ほんのり間が空く。ホログラム通信ではないので表情は見えないが、ウタハ先輩が呆気に取られているような、そんな一瞬の驚きが感じられる気がする。

 ……イケるかな? 

 

 

『……そうか、うん、分かった。部長として許可しよう。……○○は最近根を詰め過ぎているように見えたからね。むしろ休みを取ってくれてほっとしているよ』

 

 

 やがて安心したような声色と共に、休暇の受理を頂いた。やったね。

 

 

「ん、そう、見えますかね? ともあれありがとうございます、ウタハ先輩」

 

『なに、今は繁忙期でもないしね、休める時は休む方が断然良い。……休み明けには○○があっと驚くような物をどっさり作って見せ付けてあげるよ』

 

『───今開発を進めている物がありまして、それについて先行して解説してあげま──!』

 

『こらコトリ、ネタバレはやめないか!』

 

 

 電話口の遠くの方でコトリさんの元気な声がインターセプト。それは普通に気になる。

 そうだなぁ……先輩達がその気なら、私も今取り掛かってるものを仕上げ切って、皆をわっと驚かし返そう。

 ふふ、俄然気合いが入るぞ。

 

 

 

『……ちなみに聞くが、フィールドワークで遠出する、とかではないんだね?』

 

「はい、ミレニアムに留まっておきます。最近はあっちこっち出かけてばかりでしたからね」

 

『……っふふ、そうかい。それを聞いて安心したよ。……○○、ゆっくり休んでおくんだよ』

 

「お心遣いありがとうございます。何かあればまた連絡しますので」

 

『言ったね? 言質は取ったよ○○。しっかりと連絡はするように、いいね?』

 

 

 何だか食い気味に念押ししてくる声におぉう、と一瞬呻いてしまう。

 ……うーん、やっぱり最近の皆は露骨に心配してくる。先日の氷海地帯から帰ってきた時のアレがまだ響いているのかな……

 

 …………いや、もしかしてテクスチャとヘイローもバレてたりするのかも? 実際先生にはバレてたし。確かめもしたいがやぶ蛇な気もするしなぁ。

 ……突っ込まれない限りは答えなくていいか。よし。

 

 

「では、お忙しい中邪魔するのも悪いのでここで。……なんか後ろでコトリさんがずっと喋って解説してるんですけど。ネタバレ聞かされるのも嫌なので本当に切りますよ?」

 

『解説する場面が減ってちょっと解説欲求不満でね……一度始まると止められないんだ。休み明けには○○も聞いてあげてくれ』

 

 

 それじゃあ良い休暇を、と名残惜しげな言葉を最後に電話は切られた。良かった、あのままだとコトリさんの発明品の紹介が3個目に突入する所だった。

 

 やっぱり休みの連絡を入れる時はちょっと気を張っちゃう。

 無事に休暇を得る事ができたし……これまで以上に気合いを入れて物作りに励むとしよう。

 

 さてと、目下必要な物を作り上げよう。集中するために、一旦端末の電源をオフにして……今の私は長期休暇中なのだ。他に連絡が入っても対応はしないので悪しからずといった具合だ。

 

 

 よし、まずはユメさんの武器作るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ユメさん? どうかされましたか?』

 

 

 先日の事。

 

 ユメさんの問診を終え、諸々の情報交換や雑談を済ませて、ユメさん用の食料や諸々の物品の買い出しをしに出掛けようと外への扉に手をかけた所。

 

 くい、と後ろに引かれる感触。

 

 見れば、私の白衣の裾を、震えているユメさんの手が握り締めている。

 

 咄嗟に掴んでしまったのか、その表情は自分でも何故そうしてしまったのか分かっていないようだった。

 

 

 

『……あ、あれ? ご、ごめんね○○ちゃん。今離すから……あれ……?』

 

 

 それから慌てて自分の手を離そうとする、けれど。

 ユメさんは外へ出ようとする私の裾を掴んだまま離れない。

 掴んだ手を離す事もできておらず、震える自分の手を制御できていない。

 

 

『……1人になるのが、怖いですか?』

 

『…………、そう、みたい……』

 

 

 そっと私が外へ出る扉から離れ、留まる意思を見せれば、手の震えはようやく止まったらしい。けれど、手は相変わらず私の白衣の裾を固く握ったままで。

 

 

 空いているユメさんの片手を取って、深く握り込む。それから部屋の奥に連れ立って行けば、握る手から安心が伝わってくる。そうして白衣を掴む手はようやく解かれた。代わりに繋いだ手が強く握り返されたけれど。

 

 

『◯◯ちゃん、ごめんね、ごめんね……』

 

『気にしないで下さい。ほら、どうか泣き止んで』

 

 

 何がしたいかも分からず、一体何故そうしてしまったのかも分からず、自分の中の感情を処理し切れないかのように涙を流してしまうユメさんを、ゆっくりとひとしきりなだめて……しばらくそうしていれば、泣き疲れたように眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ユメさんは、孤独となる事を極度に恐れている。

 

 その原因を彼女は語らないし、理由を語れない状態なのだけど……凡その推察はできる。彼女の死因に由来するものだろう。

 

 

 ユメさんはアビドス砂漠で1人、砂に埋もれるような形で死に至っていた。

 アビドス砂漠では大規模な砂嵐が結構な頻度で発生するらしく、遭難する人が居るのもまた多い。

 かく言う私も、その砂嵐に巻き込まれて遭難をした身だ。あの厄介さ、絶望はよく知っている。

 

 私の場合はその後にホシノさんに助けられたが、ユメさんはただ1人、砂漠で彷徨い続けたのだろう。

 前も後ろも、正しい方角すらも分からないまま、1人孤独に砂漠を歩き続けて。

 空腹にもなり、喉も乾き、歩き続けても何処にも辿り着けないで。

 何時頃意識を失ったのかは分からない。もしかしたら早い内に気絶したのかもしれないし、死の直前まで意識を保ち続けて救助を待っていたのかもしれない。

 

 そうして死を迎えて、砂に攫われて、深い砂の中に閉じ込められて……。

 

 

 彼女が感じた絶望などの感情を推し量る事は難しい。共感はできるが、全てを分かち合うのは困難だろう。

 

 

 なのでユメさんを1人にするのは、これから先付き合うに辺り、精神衛生上大変宜しくない結果を招きかねない。

 敢えてトラウマを刺激して記憶を呼び起こす、という手段を選ぶのは……少なくとも、今やるべき事ではないかな。

 

 アビドス砂漠に連れて行って、っていうのもちょっと保留としておこうかなぁ……

 一応私と一緒に居れば外を出歩けるし、砂漠に行けば記憶が呼び起こされるかもしれないけど……リスクが不明瞭、その後のケアも考えると、やはりすぐにやるべき事ではないかも。

 

 ホシノさんと会わせた時の反応を確認したいけど、それも難しそうかな。

 ……いや、ホシノさんにこっちへ来てもらえればイケるかな? 

 

 

 

 とにもかくにも、ユメさんは孤独を恐れている。それは死の直前のトラウマもあるだろうけど、それ以前に、キヴォトスで生きる上で当たり前のように持っている物を持っていない事にも起因しているだろう。

 

 

 そう。今のユメさんは自分の武器を持っていない。

 

 外を出歩くにあたっては不意の戦闘との遭遇には事欠かないキヴォトスにおいて手ぶらなのは無謀に過ぎる。

 しかも此処はミレニアム廃墟地帯真っ只中。何処ぞから湧き出るドローンやロボットがあちらこちらにひしめく危険地帯。

 そんな中で、自分の武器もなくただ1人っきりで留守番をするなんて不安で仕方ないだろう。

 

 という訳で、早急に武器を完成させよう。

 ほんの少しでも安心をしてもらえるように、不安を払拭して余りある程の物を仕立てあげなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いう訳で。

 

 

 

「できましたよユメさん! 貴女の新しい武器です!」

 

「ふぇ?」

 

 

 明くる日、明朝。

 仮眠室のベッドに横たわるユメさんの元へ抱き抱えた武器をベッドサイドにどさりと置く。

 ……あ、ご飯しっかりと食べてくれたんですね。良かった良かった。経過観察して問題無さそうならもっと大きいおかずにしてみましょうか。

 

 脈拍、ヘイロー……どちらも異常は無し。カケラに充填させた神秘も、相変わらずの輝きを宿している。良好だ。

 

 

 それはさておき、今はユメさんの武器についてだ。

 持ってきた武器の内の1つ……三つ折り式の盾をガシャンと展開しつつ、ユメさんに差し出しプレゼンを開始する。

 

 

 

「こちらの盾……名付けて『セフィラ・プロテクト』。折り畳み式、軽量化を果たしていますが、その強度は抜群です。折り畳んだサイズもサイドバック程度、スリングによって肩に掛けられるようにしてあります。携行性も確保してありますよ」

 

 

 次に差し出すのは盾の横に置いていた小型の銃。ハンドガンよりもほんの一回り大きいそれは、ユメさんの手にしっかり収まるように調整したものである。

 

 

 

「そしてこちらのハンドガンタイプの銃武装『ケテル・ハンドラー』。盾を構えたままでも撃ちやすい様に設計を致しました。ぜひお試しください」

 

 

 発射する弾丸は神秘で構成された光子エネルギー。

 銃内部に搭載した高効率のエネルギー供給システムによりリロード要らずとなっている。

 

 

 盾と銃には、穢れを寄せ付けぬ純白の外装に、各部に橙色の眩いエネルギーラインが迸るデザインを。

 無論、預言者達の装甲と神秘を使用した代物である。新たにビナーの素材も手に入ったので、ますます強力な武装を開発することができる。

 

 

 

「わ〜、ホントに軽いや〜。取り回しも良さそう……」

 

「強度においても問題はありません。特殊製造した合金や素材を組み合わせたコレは戦車砲を真っ向から受け止めても傷は付きませんとも!」

 

 

 ユメさんがまず手を付けたのは、身を守るべき盾の方。

 これまでに遭遇し、入手してきた預言者の装甲を解析、複製を行い、得てきたノウハウを駆使して出来上がったのが盾に用いた特殊合金素材。既存の物質よりも加工や鍛造は難しいが、その分強度は抜群だ。

 

 

 

「後ろに色々付いてるのはなぁに?」

 

「はい、盾背面には色々と機能を盛り込んでみました。まずはこちら、『ケテル・ハンドラー』に装着する為の様々なアタッチメントを添え付けております」

 

 

 展開状態の盾を軽く構えたり揺らしたりと持ち心地を試してる最中で、背面中部に取り付けた複数のアタッチメントについて質問が飛んできたので、そちらについて言及する。

 

 

「銃の上部を、アタッチメントのどれかに押し付けてみてください」

 

「えっと……こうかな?」

 

《SET UP》

 

 

 アタッチメントの内、左端に取り付けられた其れに押し付けると同時、銃上部に取り付くように変形、合着! 

 

 

《Binah Blaster》

 

 

「く、くっ付いたよ!」

 

「そちらはビナーアタッチメント。レーザーが発射できますよ。並の相手なら一発昏倒ですね」

 

「はぇ〜……こんなにちっちゃいのに……」

 

 

 おっかなびっくりとばかりに銃を眺めてはそんなお声を漏らすユメさん。何だか微笑ましい。

 

 ちなみに他のアタッチメントとして、追尾誘導弾を発射できるケセド。相手を氷結させる弾丸を発射できるゲブラが揃っている。

 

 

「各アタッチメント毎に機能拡充を行い、より多角的な対応を取れるような機能を有しています。状況に応じて使い分け、という奴ですね」

 

 

 ちなみに脱着も片手で簡単ワンタッチ、アタッチメント部分を盾の元の場所に押し当てるだけで済む。

 戦闘中でも素早く合着、脱着を行って状況に合わせた臨機応変な対応が可能だ! 

 

 

 

「へぇ〜……下の方に付いてるのはなぁに? 何かぴかぴか光ってるけど……」

 

「こちらはですね〜、神秘循環器『REBIRTH』です。解説すると専門用語が多くなってしまいますから……要するに体力回復+シールド発生装置ですね。盾持ちの方の耐久力をマシマシにしちゃいます」

 

「なるほど〜! ……え、あっ、この私の周りを囲ってるみたいなのって……」

 

「それがシールドですね。カッチカチですよ」

 

 

 タンク役、盾持ちの人がすることは専ら最前線でヘイトを買って攻撃を一身に受け止める事だ。当然体力はいの一番に削られるし、胆力も必要だ。

 それを補助する外付け装着として開発したのがこの『REBIRTH』。

 

 以前に開発した『エーテルリアクター』に改良と改造を行い作り上げたこれは、登録した神秘の持ち主と同期し、盾を展開した時点で内部エネルギーシステムが励起。

 展開中は常に神秘を増幅させ、持ち主に供給し体力の回復を行い、ロスとして溢れた神秘を周囲を防護するシールドに転用させることで、自身の身をがっちり護れるつよつよタンクとして君臨できるのだ。

 

 

 そこまで説明を進めた中で。

 あ、と息を吐いて、ユメさんが不安げな顔をする。

 何か機能に不備でもあったかな。

 それとももっと守りに偏重させて欲しかったり? 

 

 

「でも、私、お返しできるもの何も持ってないよ……? お金も無いし……」

 

「あぁ、何だ、そんな事でしたか」

 

「そ、そんな事って……」

 

 

 困惑した顔で見つめてくるが、そんなおかしな事でもない。

 私のような研究者やエンジニアが欲しいものは、お金では決して替えられない値千金なものなのだし。

 

 

「お金は請求しませんよ。私が貴女の為に作ったのですから、差し上げますとも。ですがその代わり、これを使用した実戦データを取らせて頂ければ何よりです」

 

「……本当に、良いの? ◯◯ちゃん……」

 

「ふふ、実際に使ってもらって得られるデータほど貴重なものはありませんよ」

 

 

 他にも使い心地や、実際使った時に判明する仕様の落とし穴、取り回しの善し悪しなどなど……客観的な意見は絶えず欲しい所。

 そういうデータはあるだけ良い。フィードバックのしがいもあることだしね。

 

 だからどうぞご遠慮なく。

 そこまで伝えてあげれば、ユメさんはその表情をようやく元通りに柔らかくしてくれた。

 うん、その方がユメさんには似合っている。

 感情は暗いよりも明るい方が良い。

 その方が神秘も翳り無く輝くしね。

 

 

「さぁさユメさん、まだまだ伝え切れてない機能はありますから、どんどん説明しちゃいますよ。なんなら気になったものがあればそれから教えちゃいましょう!」

 

「えっとここにあるケーブルは?」

 

「あぁ、それで端末を充電できますよ」

 

「わ、便利〜!」

 

 

 盾内蔵型モバイルバッテリー機能である。

 10分で0%から100%MAXにできる高速充電を実現。出先でうっかりバッテリーが無くなっても安心だ! 

 

 

「じゃあこの『変形』って書いてあるボタンは……」

 

「ふふ、押してみてください」

 

 

 そこに目を付けるとは全くお目が高い。

 

 ボタンをワンプッシュ。

 

 ガキン、ガコン、ガッチョン。こだわりのサウンドを鳴らしながら盾の一部が変形し、最終的に持ち手部分に蛇口が飛び出す。

 

 それをグッと捻るとなんと。

 

 

「お水が出ます」

 

「すごーい! 水筒にもなるんだ〜?」

 

「まぁ、水を入れると重量が嵩みますので厳密には違うのですが……これで何時でも何処でも前線でも水分補給が可能になってます」

 

 

 水は入れれば入れるだけ重いので、大気中の水分を吸収、増幅、濾過等を行い、即席補給が可能な飲み水を出せる機能を組み込んだ。

 勢いはそんなに強くない。お湯も出せるようにしたかったが……口惜しい。非力な私を許してくれ……と何処へと届かぬ悔恨が胸を打つ。

 それに時間が足りず、他に大した機能を追加できなかった。

 

 

 だがそれでも。

 

 ほへぇ、とユメさんが感心したような吐息を零して、それから◯◯ちゃんはすごいねぇ、なんてお褒めの言葉を返してくれる。

 渡した盾と銃を大事そうに抱えて、にこにこと朗らかな笑顔を浮かべている。

 どうやらお気に召したようで。作った物が喜ばれる、相手が笑顔になってくれる、というのは……やはり作り手冥利に尽きるというもの。

 

 

 私のロマンを満たす為の研究の一端が、誰かの喜びの助力となる。

 

 それはなんて楽しくて、幸福な事だろうか。

 

 

 

 

 

「あ、じゃあじゃあ、このカバーが付いてるすごそうなボタンは?」

 

「それは自爆スイッチです」

 

「なんでぇっ!?」

 

「そりゃ付けますよ。必需品ですし」

 

「そうなのぉ!? ミレニアムだと普通なのぉ!?」

 

「ボタンを押した後、音声で自爆プロセスのパスワードを打ち込まないと作動しませんから、うっかり押すだけだと安全ですよ」

 

「付いてる事自体が不安だよぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと」

 

 

 仮眠室から研究室に戻る。

 広まった部屋の奥で、ミメシスの私が忙しなく動いては、今世紀最大級のロマンの塊が着々と築き上げられている。

 

 そんな胸沸き立つ光景を眺めながらデスクに腰を下ろす。

 

 傍らには、私の神秘を閉じ込めた神名文字。計200個ほど。

 培養や研究の為に揃えたそれ等に手を伸ばし、口に放り込む。

 何故だか衝動的に、それを取り込まないといけないと予感した。

 だから、掴んで、食んで、飲み込んで、取り込んで。

 神秘が、私の中に溶けていく。

 

 スナック菓子みたいに神秘を貪りながら、デスクの上にようやく視線を戻す。

 

 デスクに広がる資料……ユメさんに提供した武装についての開発資料をまとめながら一人思う。

 

 

 

 

 ……この武装を作る中で、預言者の力は互いの配置や並べ方によって共鳴を起こし、その預言者の力をより高めてくれる、という事が判明した。

 

 

 ケテルを最上位に置いて、その下部にビナーを。

 ビナーの下部にゲブラ。そこからケセドに繋げる。

 そうすれば預言者の持つ神秘は共鳴を起こし、秘めていた力を呼び覚まされるかのように強い反応を示すのだ。

 

 エネルギーを繋げ合うパスは眩いほどに、痺れるほどに鮮烈により濃い色を取り戻して。

 

 最も強い反応を示す配置順で預言者の神秘を流し込み……驚異的な強度を有した頑強な盾を作り上げる事ができた。

 

 

 …………十の預言者の半数にも満たない今の組み合わせでさえ、既存の常識を覆す物を作り上げられるのなら。

 全ての預言者の力を揃え、最適な組み合わせで作り上げた物は、一体どれ程の高みにまで到達できるのだろう? 

 

 

 十の預言者の力、神秘を私の内に取り込んだ時、私は一体どうなるのだろう? 

 

 

 

 ああ、きっと、素晴らしい過程と結果が得られるに違いない。

 

 是非とも試さないと。

 

 やらねば、やらなくては。

 

 

 次なる領域に私を押し上げてくれるに違いない! 

 

 

 

 

 

 そうして夢想して、歓喜を呼び起こす最中。

 200個あった私の神秘を、最後の1つをごくり、と飲み込んだ瞬間。

 

 星のような輝きが胸の内に拡がり、神秘が熱を帯びるように打ち震えた。

 

 

 

 






『セフィラ・プロテクト』

戦闘開始時、最大HP500%分のシールドを付与。
3秒毎に、治癒力50%分の回復を行う。
HPが0%になった時、HPを100%回復、最大HP500%分のシールドを付与。(1回のみ)

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