神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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前回のあらすじ


スーパーカセキホリダー





降臨、復活、不滅

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────砂漠の中から救出した生徒が意識を取り戻した。

 

 

 

 呼吸も無く、意識もなく。しかし僅かな神秘だけを体に宿し、神秘を吹き込めば再び生命活動を開始した生徒。

 

 

 何はともあれ、貴重なサンプル、希少な検体に違いない。……これは言い方が悪いかな。

 とにかく丁重に扱い、穏やかに接して良好な関係を築いていかねば。乱暴に扱う理由とか一つもないし。

 

 

 まずは様子を伺いつつ軽く挨拶を……と、思っていたら。

 

 

「おはようございます。具合は如何ですか?」

 

「───────ッ!?!?!?」

 

 

 

 私の姿を見た途端、声にもならない悲鳴を上げて再び意識を消失させ、寝かせていた仮眠室のベッドに突っ伏した。

 ……ヘイローは砕けた訳ではなく、入眠時のようにスっと掻き消えていたし、今度は呼吸も脈拍もあるので死んだわけではない。そんなに私の格好って変だったかな。

 

 

 

 …………あ、やば。

 

 

 

「……テクスチャが見えてたままだった……」

 

 

 

 しまった。体にホログラムを貼るのを忘れていた。

 目が覚めたら不意にヘイローがボロボロで体の表面がバリバリ剥がれてる奴が出てきたらそりゃビックリもするよね。

 うぅん、やっぱりこの姿って刺激が強いみたいだなぁ……人前に出る時はもっと気を付けなくちゃ。

 初対面からちょっと悪い事しちゃったな。

 

 

 

 

 さて。

 様子をモニターしつつ、また意識が戻るまでの間に作業を進めておこう。

 乱れてしまったシーツを生徒にしっかりと被せ直す。

 それからベッドサイドに、砂まみれだったために洗濯しておいた制服を畳んで置いておく。

 洗濯する際、砂の侵食によってかほつれていたり破けてたりした箇所の補修を行っておいた。ヒビキさんから服飾関連の色々を習っておいた事が役立った瞬間だ。

 

 私の予備の制服を着せようかと思ったが、発育の暴力みたいなこの人と全体的に平坦な私ではサイズが圧倒的に合わない。下着すら合わない。なのでこの人は今全裸の状態だ。冷やさないように首から下をすっぽり包んでやる。

 

 ……眠る生徒の頬に触れる。

 まだほんの少しカサついてはいるけど、呼吸を行い、静かに揺れている。砂の中から見つけた時の、冷たく固まった肌とは異なり、人らしい温度を取り戻している。

 緩やかに撫でれば、うなされていた表情がほんのりと和らいでいる。

 

 その頬に神名のカケラを押し当てる。その感触からむず痒そうに身動ぎ……その僅かな間に神秘がカケラに溶け込み、充填される。

 

 

「……わぁ」

 

 

 カケラの中に満たされた輝きに、思わずため息が漏れる。

 

 ホシノさんやヒナさん程に力強く満ち満ちたエネルギーは感じる訳ではない。

 鮮烈でも、雄々しくも、視界を埋め尽くす程の眩さでもない。

 けれど目を惹かれるような、特別な何かに満ちている。

 柔く、朗らかな、優しい光。それが閉じ込められたカケラに、新たな可能性を感じ入る。

 

 とりあえず5個ほど神秘を頂いたら、1個を味見。

 舌の上で転がし、喉を通せば、柔らかな温もりが体に染みていくようで。

 

 うん、これは中々。誰の神秘と組み合わせるのが良いだろう。

 

 

 それから仮眠室を出て、研究室に戻る。

 

 

 

 研究室の扉を開ければ、天井から伸びる幾本かの巨大アームに掴まれ吊るされた、これまた巨大な影が目に映る。その頭部に当たる箇所は、半分が抉り取られたように損傷している。

 

 アビドス砂漠にて交戦し、捕らえた預言者。

 黒服さんが言うには、第3セフィラ・ビナーと呼ばれる存在。

 理知、理解を意味する名を冠した、私の新たな研究対象。

 鯨と蛇を掛け合わせたような外見は、正しく砂漠を悠々と泳ぐ機械蛇と呼ぶに相応しい。

 

 今現在は4人のミメシスの私が諸々を調査中。

 まだ生きている稼働部やコアの調査、武装の確認、リバースエンジニアリング等が着々と進められている。

 

 

 そしてその奥では、巨大な砲塔を備えた列車砲『シェマタ』が鎮座して、5人のミメシスの私が改めての構造解析等に努めている。

 火急速やかに行っているのは、主砲で撃ち出す砲弾たる、太陽熱級プラズマの発生機関の解析、解明、改造。

 更なるロマンの為に、より魅力的な装置に仕立て上げなくては。

 

 

 ……そうだ。

 この巨大砲塔を下地にして、アレを作ろう。

 

 かつてエンジニア部皆で造ろうと躍起になって、はしゃいで、駆け回って、一挺造るだけで下半期の予算の70%も吹き飛んだあの代物。

 

 

 宇宙戦艦の主砲。

 

 

 アリスちゃんが背負う『光の剣』よりも遥かに巨大で、重くて、武骨で、破滅的破壊力を秘めたこの列車砲を、かつて諦めてしまったロマンの為の礎としよう! 

 

 

 

 しかしながら、やっぱり人員が居ると作業がスムーズで助かるね。なのでこれまで以上のスピードで開発や研究が進められる……かと言われれば、次々とやりたい事したい事が湧いてくるからそうもいかない。

 あれもしたいこれもしたいどれもしたいもっともっとしたい。

 

 欲張りな私が、神秘を求める私が、内側から溢れる願望と欲求が体を雁字搦めにするような状況に嬉しい悲鳴を上げて、体の中から張り裂けそう。

 

 

 とりあえず神秘培養装置『インクリースくん』に先程採った神秘の籠ったカケラを投入。早速培養を始めよう。培養し終えたらまずはアビドスの人達との合成神秘を作ってみよう。

 

 

 デスクに置かれた書類達。

 列車砲『シェマタ』の設計図。ビナーの各種データ。そして砂の中から掘り出した生徒について書き起こしたレポートを記したタブレット。他にも諸々……

 ここらの整理と精査もしないと。黒服さんに送るために件の生徒についてのレポートも纏めておかないと。

 デスクに腰を落ち着けつつ、作業に入る。

 もう一度、砂漠から発見した生徒についての記憶を呼び起こそう。

 

 

 

 

 記憶の海に潜る。

 

 

 列車砲を見つけ、ミメシスの私達と共にリバースエンジニアリングを行い、設計図等を粗方取り終えた私は、ひとまず帰路に着いた。

 まずはデータを取っておき、列車砲の実物はまた後日改めて研究室へと持ち込み、じっくりと研究開発しちゃお、なんて夢気分で砂漠から帰還。

 研究室にビナーを置いてミメシスの私に一旦預けてから爆速でとんぼ返り。列車砲をまるまる『しまえる君Z』に収めて悠々と引き返した。

 

 その帰り道にて、神秘の気配を感じ取った。

 気配は足元、砂の中。どうやら砂中に埋まっているようだった。

 

 オーパーツとはまた異なるような、どちらかと言えば我々生徒が持つ神秘に近しい気配。微弱な神秘を発しているし、何か特殊なオーパーツかな、とも考えた私は通りかかったついでに掘り起こしてみた。

 

 

 しばらく掘り続けて、あと一息で気配の源に辿り着く頃合。気合を入れて、なおかつ慎重に、万が一傷を付けないように手で砂を払い除けた瞬間。

 

 生気のない顔が、砂の中から覗いていた。

 

 ヘイローのない生徒を掘り起こしてしまった。

 

 

 

 その後は、その生徒の体を砂から引っこ抜き、人工呼吸やら心臓圧迫やらの蘇生処置を試みて……効果が無いことを確認した。

 

 何故蘇生を試みたかについては、砂に埋まっていた死体にしては、綺麗過ぎたから。

 頬はこけていたが、程度も軽かった。

 肌も乾燥していたが、干物という訳でも、ミイラという訳でもなく。ある程度の潤いは保たれていた。

 何より、生徒の体に微弱ながら神秘が宿り続けていた。

 

 けれど、呼吸は止まっていた。脈拍も無かった。

 如何に生徒が頑丈と言えども、呼吸ができなければ死ぬ。

 私が掘り出してからこの研究室に運び、神秘を注入し続け、意識を取り戻すまでにかかった時間は約14時間。

 その間、呼吸はしておらず、脈も無かった。確実に死んでいた。ならばヘイローも砕けていたのだ。

 死ねばヘイローは砕けてしまう。

 それが当然であって、常識なのだ。

 

 

 

 ……けれど、ヘイローが砕けた後でも、生徒の持っていた神秘は体に残り続けるのか? 

 死してもなお、生徒という神秘を宿していた器は、神秘を内に留めておくのだろうか。

 そして死した生徒の体に神秘を注入した場合、再びヘイローを宿し、命を甦らせる事ができるのだろうか。

 

 

 

 ……それをつぶさに確かめるには、これまでよりリスクが伴う。

 今回のように偶然死亡した生徒を見付ける事など、レア中のレアケース。

 生徒の死体を確保するならば……能動的にそういう事をしなければ難しい。

 

 

 できることにはできるとは思うけど、こればかりは気が進まない。

 そもそも私は神秘を研究したいのであって、積極的に害そうなどとは考えていない。まして、自分から相手のヘイローを破壊するような行為は……相手の神秘やヘイローが二度と戻らないリスクも考えると、あんまりするべき行為ではない。

 

 ……やるべき時、やらなくちゃならない機会ができたのならやるしかないけども。

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………いや、ダメだな。

 

 

 

 

 

 それをすれば、きっと先生は悲しむだろう。怒るだろう。失望するだろう。

 先生の事だから、生徒である私を見捨てはしないだろうけど……それでも、今の関係には到底戻る事はできないだろう。

 

 バレなきゃ良い、とは思うけど。

 こと観察眼に優れてる先生に、果たして何時まで隠し通せるものか。私のテクスチャのことだって、いつの間にかバレていたし。そんな先生を相手取って誤魔化せる自信があんまりない。

 

 

 

 

 "───○○は、○○のやりたい事をしていいんだよ。"

 

 "悪意を持って誰かを傷付ける事を目的としていないなら……その思いは尊重すべきものだからね。"

 

 

 

 

 

 目を閉じて、優しい声を想起する。

 

 優しく、時に厳しい先生。あの人は、誰かが傷付いて、傷付けられる事を良しとしない。

 今の私がテクスチャを剥がしていくのだって、私が望んだ事だとしても、悲しい顔で見つめてくるのだ。

 

 

 

 生徒の遺体に神秘を注ぎ込む事による影響、これについては白紙としよう。

 

 今回見つけた生徒については……どうにも、あの生徒自身に特別な何か、外れ値のようなものがあったのだろうと私の予感が囁いている。

 

 ……あの生徒について色々と試すとしても、慎重にならないと。興味深い対象には変わりないしね。なるだけ大切に、傷付けないようにしないと。

 

 

 想いをそっと心の内に封じ込める。

 心が痛む、軋む。

 

 

 

 

 

 それにしても、と思う。

 今は仮眠室ですやすやと眠っている、あの生徒。

 砂漠の中でただ1人、死人の如く在ったあの生徒。

 

 

 あの生徒は、ホシノさんに助けられなかったもしもの私、のような存在だ。

 

 砂漠で行き倒れ、誰にも知られず、砂に飲まれて、そして何時か消えていく。

 

 私にも、そんな未来があったかもしれない。あの日あの時、偶然ホシノさんが通りかかってくれなかったら、私も。

 

 今回、偶然で見つけて、助け出せた生徒。彼女に奇妙な縁を感じてならない。

 

 情けは人の為ならず、とはこの事だろうか。

 

 

 

 

 

 ……良し。レポートはひとまず纏まった。黒服さんに送信するとしよう。

 

 一段落付いたし、休憩がてら合成神秘でも取り込んでおこう。

 100人分の神秘を集めた『ハンドレッド』はまだ完成してないし、まだまだ味わってない生徒の神秘はたくさんあるし、暇がある時に摘んでおかないとね。

 

 ちょうどあの生徒の神秘も培養が済んだし、これを素体に合成神秘を作ってみよう。

 

 

 

 まずはアヤネさんとの組み合わせ。

 

 

 続いてセリカさんとの組み合わせ。

 

 

 ノノミさんとの組み合わせ。

 

 

 シロコさんとの組み合わせ。

 

 

 

 皆一様に綺麗に輝く神秘がカケラの中で瞬いている。

 だがしかし、相性の良い者同士の組み合わせのように、強く輝かしい反応は示されていない。

 4つの合成神秘を口に含んで、取り込んで、私の中を神秘が満たしていく心地を堪能する。けれどヘイローやテクスチャに変化は無い様子。

 

 もう少し試して探っていこう、と意気込んだ矢先。

 

 

 ホシノさんとの組み合わせにて、変化は如実に起こった。

 

 

「おおぉ……!」

 

 

 私の手のひらの中で眩く照り光る、青い色。

 空と水が混ざり合ったような、爽やかに澄み渡る果てなき純粋な輝き。

 

 これまでにない、強い反応だ。

 ホシノさんの神秘単体がとてつもなく強く濃い事を加味しても、それだけでは説明が付かない程に高純度な神秘が出来上がった。

 合成した神秘同士がより深く結び付いている。

 幸先良く、相性が良い神秘を見付ける事ができた! 

 

 

 我慢ならず、彗星の如く眩く煌めくカケラを一息に飲み込んだ。

 口に含んだ瞬間、芳醇で暖かな味が広がり、熱を持っているように誤認する程の濃密な神秘が喉を通り落ちて。

 

 

 直後、嵐のような衝撃が体の中を蹂躙する。

 

 

「ぅ゛、ん゛っ゛」

 

 

 体が浮き上がる程の刺激が、胸の内から迸る。

 体の内側、取り込んだ神秘が溶け込んで、自分という体の形を無理矢理に押し拡げられるような圧迫感と異物感が一瞬で通り抜けて、開いた隙間が満たされていく。

 

 

「ん゛、ん゛んん゛っ゛」

 

 

 瞳が見開かれ、瞳孔が収縮と膨張を繰り返す。

 瞬間、視界から光が失われて、世界がモノクロとなる。

 白と黒に構成された視界が広がり、それ等が収束するように、高速で過ぎ去って…………

 

 

 

 遠く、遥か遠くのある一点。

 白の黒の世界の中で、ほんの一瞬。一等星のように満天の光を湛えた色彩が見えた。

 

 

 

「───っ、ぷはぁっ」

 

 

 

 瞬きをすれば、視界に色合いが戻る。

 全てが刹那の内に通り過ぎていった事を認識したと同時に、今や聞き慣れた、乾いた破砕音が私の体から響いた。

 

 ぱりん、軽い調子で弾けて、粒子が飛び散る。その出元を目で追うと、右手首から先のテクスチャが完全に剥がれ落ちていた。

 

 青白く、薄く発光するように輪郭がぼんやりとしている右手。何ともファンタジックでスピリチュアルな光景だが、この状態でもしっかりと感覚は通っている。触れれば感触は伝わるし、ちゃんと手指は動いている。

 

 結構大きい範囲が剥がれた事だし、ヘイローにも変化は起きているだろうか……近くのミメシスの私を呼び付けてヘイローのスケッチでも頼もうとした矢先。

 

 

 

 コツン、と質の良い革靴の踵が床を突く乾いた音が背後から響いてくる。

 ……来るの早いな。

 

 

 振り向いてみれば、空間に開いた孔の中から予想通りの人が歩み寄って来ていた。

 

 今日も今日とてきっちりと黒いスーツに身を包んだ、愉快な笑みを浮かべた異形の人、黒服さんだ。

 ……本日はとても機嫌がよろしいらしい。纏う雰囲気ははしゃいでるようにも、笑いを堪えきれないといったようにも映る位に明るいし。何だか歩くペースも少しばかり早い。

 

 ドップラー効果もかくやとばかりに、段々と近付くにつれ大きくなる黒服さんの含み笑い。

 

 私の研究室に吊り下げられているビナーと、その奥に並ぶ列車砲。加えて、私の手元のモニターに映り込んでいる、ベッドで眠りこける生徒の姿とバイタル。そして私の方を順番に眺めて……クックックの1人大合唱だ。今日は一際機嫌が良いなホント。

 

 

 笑い続けて一段落付いたのか、吊り上がった口角を戻しつつ改めて私の方に向き直った。

 一段と興味深い対象を見やる、研究者然とした視線が私に突き刺さる。

 

 

「ククッ……失礼しました。今回の収穫物も大捕物だったようで何よりですよ、○○さん」

 

「いやぁ、沢山取り過ぎちゃってどれから手を付けたら良いものかと……楽しいから良いんですけどね!」

 

 

 素晴らしい、と美辞麗句を並べてくれる黒服さんを尻目に、生徒が眠る画面を覗く。

 私のそんな視線に気付いたのか、黒服さんも画面を覗き込み……また一人肩を揺らして笑う。……何だか訳知り顔のようにも見えるけれど。

 

 

「死の淵から蘇った生徒とは、いやはや何とも……」

 

 

 それから、『どうなさるおつもりで?』なんて挑戦的に問い掛けてくる黒服さん。

 どうするつもり、と言われたら、まぁ。

 

 

「慎重に取り扱うようにしますよ。彼女が何者で、彼女の神秘によって何ができるのか……色々と探ってみます。調べる事はたくさんありますし、じっくりやっていきたいところです」

 

「クック、なるほど、なるほど。何分我々にとっても未知の領域ですので、データは共有して下されば幸いです」

 

「黒服さんの所で実験やら調査はしないんですか?」

 

 

 尋ねてみると、顎に指を当てて思案する素振りを見せる黒服さん。

 一頻りそうして、こくりと頷いた。

 

 

「えぇ。出来うる限りで構いませんので、貴女の視点でのデータを取って下されば。生徒同士でしかできない交流もあるでしょう」

 

「了解です。……あの人がなるべく有用な調査が行える状態である事を願うばかりですね」

 

 

 死の淵から命とヘイローを吹き返した生徒が、果たしてまともな受け答えが可能なのか、連続した意識と記憶を保っているのか……懸念点は思い浮かぶばかり。

 

 

 憂い事を零していれば、ふと強く感じる視線。

 じぃ、っと黒服さんの光に塗れた瞳のような何かが、こちらを見つめてくる。正確には、私の剥がれたテクスチャとヘイローに目線が向いているようで。

 しきりに、頷いたり、やはり、なんて呟いてもいる。

 

 

「再三の確認となりますが……貴女は死に瀕した生徒に神秘を注ぎ、復活を成した……その認識で間違いはありませんね?」

 

 

 不思議に思って黒服さんを見つめ返していれば、降ってくる問いかけ。

 私はそれに、確かにそうであると実感を込めて首を縦に振った。

 

 

「では、落ち着いて聞いて欲しいのですが……」

 

 

「今の貴女には……復活させた者というテクストが新たに刻まれた事でしょう」

 

 

 なんと? 

 驚きのままに声を漏らした私に対して、黒服さんは困ったように肩を竦める、けれども愉しそうな雰囲気は崩さずに。

 剥がすべき、白紙にすべきテクストが追加されているとは、これ如何に。

 

 

「本来ならば、ありえない事です。しかしテクスチャを破り、テクストを空白に差し替えつつある貴女の存在には、隙間が生じています。貴女にとってその事象は乾いた砂浜に落とした雫のように染み込み、定着が成されたでしょう」

 

「さしずめ、神性の付与、とでも呼びましょうか」

 

 

 続け様に放たれる黒服さんの言葉。

 驚愕と共に受け止め、意味を咀嚼して……また未知が増えた事への歓喜と、厄介な部分が増えた事への若干の辟易を感じていた。

 神秘について新たに解明すべき点が増えたのは喜ばしい。けど今はテクスチャとテクストをまるっと引き剥がそうとしている最中なのだ。そこに新しいテクストが刻まれたというのは、何とも。

 

 

 

「……尤も、今回の例以前にも、貴女には神性が付与されているようですが」

 

「貴女は続け様に、預言者たる強大な存在を打ち倒し、その力を我が物としている」

 

「こちらも偉業と称するには相応しい行為であり、隙間が生じたテクストに刻まれるに足る成果でしょう」

 

 

 含み笑いが響く最中で、私はひっくり返りそうな勢いで椅子に体を沈めた。また考慮すべき点が増えた。

 

 今の私……神秘を詰め込んで、テクスチャが剥がれ、存在に穴が空いて隙間が生じている状態だと、何か大きな事をこなすとテクストにそれが刻まれる、のだと。

 何かをすればするほど、生じた隙間を埋めていくようにテクストが記されていく。

 

 テクスチャやテクストを剥がしたい私と、何かをする度書き込まれていくテクスト。

 これじゃあいたちごっこだ。

 これを解決するにはやはり、一息に全てを剥がし切る程の神秘を取り込む他無いかなぁ……。

 

 うんうんと頭を捻り、腕を組みながらぐるぐると思考を巡らせる。

 考える時間は楽しいし解決する道標を用意するのはもっと楽しいが、如何せんやる事も考える事も大量だ。

 

 

 

「……ククッ。つくづく貴女という存在は、私達を愉しませてくれますね」

 

「貴女の行き着くその果てを、どうか魅せて下さるよう……」

 

 

 黒服さんは何時も通りに笑う。

 目元から、口元から、陽炎のような白い光を零して、愉しそうに肩を揺らす。

 悩む私を、期待を篭めた瞳で見つめて、とても愉しそうに、笑い続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて。そろそろ枷を外す頃合でしょうね」

 

「肩書き、契約……その者をその立場へ縛り付け、不変を強いる物なぞ、空へと羽ばたく者には不要でしょう」

 

 

 預言者のデータ。アビドスに眠っていた、かつての黄金期の遺産たる『シェマタ』のデータ。そして、砂漠の地より蘇りを果たした1人の生徒のデータ。

 それ等を収めたデータを手元に掲げながら、元居た場所へと戻るべく、黒服は空間に開いた黒い孔の中を潜る。

 

 

 それから背後に、この興味深い事象を齎した生徒の姿が見えなくなった事を確認してから、うっそりと笑みを深める。

 

 誰に聞かせるでもなく、誰に届けるでもなく、言葉を発しながら、黒い孔の中を進む。展望、期待を笑い声に零し、愉悦を混ぜ込んで。

 黒い影は肩を揺らしながら、闇へと溶け込んでいった。

 

 

 

 

 






○○にクラフトチェンバーを見せたらテイラーメイドで青輝石を作れるように改造するかもしれない。
しないかもしれない。

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