神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
あくる日。さんさんと照り付ける太陽の陽射しが窓から射し込んで、ちりちりと肌を撫でる良いお日柄。
アビドス自治区、アビドス高校の一室にて。今日も今日とて集めて頂いたオーパーツの引取りに、アビドスにいるとされるある存在についての情報を受け取りに来たのだけれど。
「───本当に申し訳ございません、あまり有益な情報は集められませんでした……」
「いえいえ! 頭を上げてください! そう気に病まずとも……。あぁ、お世辞ではなくてですね……」
アビドス砂漠を泳ぐ、巨大な機械蛇についての調査。それに関する情報収集をお願いしていたが、梨の礫、といった具合で芳しくない結果となったそう。
ペコリと深々頭を下げてくるアヤネさんに慌てて頭を上げるように伝える。……中々に渋られる……。
一応追加料金が発生している為に、それなりの情報を集めなくては……という責任感があったのだろう。そんなに気にしなくても良いのに……。
「それに目撃例が少ない、という事は普段アビドスで過ごす方々の活動圏内よりも遠い場所に居るのでは……とアタリを付ける事ができます。それでも十分な成果なんですよ」
「うぅ、そう言って頂けるのは嬉しいのですが……」
「なんか軽くない? ……いや、あんまり情報集められなかった私達が言うのもアレだけど……」
「情報が少ないという事自体が貴重な情報なんですよ、セリカさん」
何だか心配そうに所在なさげにしているセリカさんが言葉を絞り出している。……情報料の事なら、しっかりと振り込むので安心して欲しい。貰えるものは貰っておくのが得ですよ。
今回得られた情報としては……アビドスにおいて巨大な機械の蛇は数十年前から目撃例がある事、数年間隔で目撃例が挙がっている事。ここ数年での目撃例は確認されていない事。……そして目撃例というのも、確かなソースは無い、という事。
情報を集める期間を多く取れなかったのもあるが、現地で活動している方々でも取得できる情報が少ない、という事は……その巨大機械蛇は、よほど活動圏から離れた場所で普段過ごしているのだろう、と推測できる。もしくは、砂に埋もれてしまったアビドスの建物の何処かに情報が眠っているのかどうか、など。
ともあれ、現地で活動している人からの情報というのは貴重な物。
この度得た情報を元にして、まだ私が踏み入った事の無い砂漠の奥地をしらみ潰しに探してみるとしよう。
今回の取引と情報量を上乗せした分の金額をきっちりとお支払い。皆さん、未だに金額の多さが苦労の量に見合ってないらしく、戦々恐々といった具合が隠せていない。そろそろ慣れても良いと思うのに。
さてと。今回も上質なオーパーツは引き取れたし、情報も頂いたし、神秘も取れたし。今日此処でできる用事は済んだかな。
それに以前アビドス高校に寄贈した、砂掃除ロボット『吸い取る君』の稼働データ取り、メンテナンスもついでに済ませたし。
その時、ふとシロコさんが片足を引きずり、その足を庇うように身動ぎするのを見つけた。
「……シロコさん、足に怪我でもされたんですか?」
「……ん。ちょっと特訓してたら、捻っただけ」
「特訓、ですか?」
足の事について触れれば気まずそうに、けれどしっかり答えてくれるシロコさん。怪我は良くない。それが要因で万が一にでも神秘やヘイローの輝きが鈍ってしまうのはちょっと……
しかし特訓とは何ぞや、と首を傾げていると机の上で枕に頭を預けていたホシノさんが声を上げた。
「シロコちゃんったら、次こそ○○ちゃんをぎゃふんと言わすって自主練とかしててさ〜。○○ちゃ〜ん、責任取ってねぇ」
のほほんとした顔でからかうように見つめてくるホシノさん。
なるほど。以前の戦闘のリベンジにと影で努力を重ねていたらしい。怪我をしたのはそれが原因……うぅん、なら私に責任の一端はありかぁ。
「ホシノ先輩、その言い方はあんまりですっ。すみません○○さん、そうお気になさらないで……」
「でしたら、シロコさん。これをお使い下さい」
アヤネさんがわたわたと言っては暮れるが……まぁ、このまま何もしないのも忍びない。
それに、怪我をした生徒相手にはお誂え向きの物も持ってるのだ。有効活用するとしよう。
粒子化装置から取り出したるは、注射器のシリンダーを模した細長の装置。片側の先端部はピンク色である。シリンダー内部には薄い青色の光が灯っている。
「……これ、何?」
「怪我を治す物です。素肌にピンク色の先端を押し当ててみてください」
「……ん、こう?」
シロコさんが手首に装置の先端を押し付ける。すると先端部がかこん、と装置内部に押し込まれ……次の瞬間、シロコさんの体を淡い光が包み込む。
「え、何今の!?」
「シロコさん、具合はどうでしょう?」
程なくして光はシロコさんが庇っていた脚に収束し、消えていく。
するとシロコさんは驚いたように目を僅かに見開いて、恐る恐るとその足を動かしてみせた。
「痛く、なくなってる……?」
「えっ。ほ、本当に治ったんですか!?」
「ふふ、良かったです。これこそメディカルキット『治せる君α』!」
「相変わらず効果に比例してダッサイのよね名前……」
ぴょんぴょんと軽く飛び跳ねてなお異常が無い事を確認するシロコさんの様子に、問題なく作用した事に一息を吐く。
相変わらず私以外の生徒には良い働きを示すようだ。この『治せる君α』……もとい、『テクスチャ剥離剤』。
私に打ち込むと、剥がれたテクスチャを再度貼り直してしまう効果を示したこれが、私以外の生徒……テクスチャが剥がれていない生徒には、回復効果があると判明したのはつい先日。
路地裏でボロボロになっている、ヘイローも虚ろな不良の方が倒れていたのを見かけて、介抱しようとして……ふと働いた直感に従って、『テクスチャ剥離剤』を打ち込んでみた所、青輝石由来の神秘の光に見る見るうちに包まれ、全身に負っていた怪我がスッキリと消え失せたのだ。意識も取り戻し、直に立ち上がって動けるようにもなった。
どうやら青輝石に内包された神秘には、そういった回復作用があると分かった。
キヴォトスにおいて怪我人とはそこらに割かしいるもの。
喧嘩に負けた不良やチンピラの方々を見かけては投与を繰り返して……今の所副作用は無く、純粋な怪我と体力の回復のみを齎す事を確認できた。代金の代わりに神秘を受け取っておいた。
……私には相変わらず、テクスチャを貼り直す効果しか見受けられなかったが。
「そうだ、せっかくですから皆さんもどうぞ。何時もお世話になっているお礼です」
今の私にとっては無用の長物だ。在庫処分のようで聞こえが悪いが、アビドスの方にはだいぶお世話になっているし持っている分は渡してしまおう。ちょうど人数分はあるし。
「い、良いんですか!? 怪我が一瞬で治るなんて貴重なものを……!」
「まぁあくまで試作品の物ですし……遠慮なく使ってみてください。使用者の意見が一番助かりますし」
…………。
何か、これを積極的に使ってみて! とねだるのは少しアレだな。
「……あ、積極的に怪我をしろってことではありませんよ!? それを使う機会なんて無いに越した事はないんですから!」
「わ、分かってるから必死に付け加えなくていいわよ……」
ふぅ。要らぬ不信の種なんてあっても得はしない。
「さて、そろそろ出発しようと思います。今回もありがとうございました」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。何から何までありがとうございました、○○さん」
「ん。ありがと」
「ありがとうございました〜☆機械蛇探し、頑張って下さいねっ。無理せずにですよ」
「くれぐれも砂漠で遭難しないでよね? アンタが来なくなるのはちょっと、困るし」
「会えなくなると寂しいって言いましょセリカちゃん♡」
「はっ!? いやいやいや、そういうんじゃなくて! あくまで仕事をくれる仲でしょ!?」
ノノミさんのからかいに大袈裟に反応したセリカさんが手を振って顔を赤くしている。そんなやり取りに場は一層和やかな雰囲気に包まれる。
人数は少なけれど、こうした暖かな雰囲気や空気感は素敵だ。仲良き事は素晴らしきかな、その方がヘイローも神秘もより輝きを増してくれるというものだしね。
ほっこりとした所で、扉に手をかける。すると一際強い視線を背中に感じた。
振り返ると、ホシノさんが伏せた顔を少しばかり上げて、こちらを見つめている。
「……。ねぇ、○○ちゃん」
ぽつり。唐突に、ホシノさんは一人呟くように、問いかけてきた。
「前にも聞いたかもだけど……その機械の蛇にこだわるのって、何で?」
「ホシノ先輩……?」
眠たげに細められた、黄と青の両目。
瞳のように象られた、輝かしく素晴らしいヘイロー。
じぃっと見つめてくるそれ等を真っ直ぐに見つめながら、私は口を開く。
「ふふ、それはもちろん……」
もちろん、決まっている。
これからも揺らぐ事の無い答え。最早お決まりとなった文言でもって、ホシノさんの質問に答えるのだ。
「ロマンのため、ですよ!」
胸を張って、大手を振って。
私の根底にある想いを吐き出すのだった。
さぁて、用事も済ませた。オーパーツも情報も頂いた。
早速預言者探しに出発だ。
そして。
今。
見つけた。
アビドス自治区の奥地。
砂漠の地平線を1つ超え、2つ、3つ、4つ……『セフィラ・レーダー』でひたすらに探知し続けながら探し回って、ついに、ついに、ついに、反応を捉えた。
預言者特有の周波数を検知した。
そこから駆け出して、真っ直ぐに突き進んで。反応に向かって走り続けて。
ようやくその姿を見付け出した。
デカグラマトンの預言者たる存在。その1つ。生徒ならざる身なれど、ヘイローと神秘を宿した機械の巨体。
砂の海から蛇の如き前身をもたげ、煌々と照る陽の下に、その姿を現している。
蜃気楼ではない。
ぼやけてなどいない。
本物だ。
あの日に焦がれた像が、今確かに実体を持って目の前にいる!
幻覚ではない。
虚像でもない。
何より……視界に映るあのヘイローの輝きが、感じ取れるデカグラマトンの預言者特有の神秘の気配が、本物であるのだと知らしめている!
駆け出した体が、ぐんぐんと周りの景色を置き去りにしている。
けれど捉えた物は決してブレずに。
もっと速く、もっと近くへ。
あぁ、自分の遅さが煩わしい。
《exetension》
装置を押し込む。『アンプちゃん』が駆動する。神秘を増幅する。アーマーを身に纏う。私の神秘が膨れ上がる。
砂地を強く踏み締めれば、流れる景色が更に加速する。
跳ねるように軽やかに、飛ぶように速やかに、近付いて行く。近付いて行く。
増大した神秘に包まれ、覆われ、満たされていく体の隅から隅。バイザー越しに見える姿を一寸余さず見つめ上げる。
明瞭となった視界の中、あの預言者の出で立ちが、大きさが、神秘とヘイローがより鮮明になるにつれて、心臓が高鳴っていく。
興奮と高揚が抑え切れない。
これまでにないほどに荒ぶる感情が、私の神秘を昂らせてくれる。内側からはち切れてしまいそうな程、内側から私という身体の器を破らんばかりに溢れ出してくる!
近付いてくるこちらに認識したらしく、ゆっくりと頭部を向けてくる預言者。
その預言者の前まで、飛び出して、躍り出る。まずは予定通り挨拶から始めよう!
「こんにちわ、デカグラマトンの預言者の方!! ずっと会いたかったで────ぐぇえっ!?」
加速する巨体、突っ込んでくる機械の塊。目の前に広がる白い装甲。
直後、神秘の防護越しに全身を強かに打ち付ける強烈な衝撃。
挨拶も遮る強大な体当たり!
ファーストコミュニケーション、乱暴!
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思考する。思案する。
デカグラマトンの預言者、第三のセフィラ。命名された名はビナー。
目の前に在る小さな存在について思考する。
王冠は失墜した。
慈悲は唾棄された。
氷海を泳ぐ峻厳は破損し、王国を敬愛する無限光の三体は怯え竦んだ。
かくして音に成らない聖なる十の文字の一部は崩れ、均衡は破られた。
理知は、目の前に在る者を、正しく理解する。
我々を貶める脅威である事を、理解する。
それを阻み、破砕し、打破する事こそが、今此処に在る自身の役割であると理解した。
故に、目の前の標的に向けるべきは、加減無き処理である。
眼前へ飛び出した標的に頭部を直撃させ、空高く打ち上げた。
無骨な突進なれど、質量の差は如何なる者も抗えぬもの。小さな標的は風に巻き上げられる木の葉のように空を舞うばかり。
落下速度、数秒後の座標を計算し、その地点を見据えれば、自身の大口を開き、砲門を顕にする。
駆動するエネルギーライン、口腔部位に集約する絶対的熱量。
煌々と照る光の集束と縮退を幾度か経た後に、その熱量を解放。
『アツィルトの光』と名された極太の熱線が、大気を灼き尽くしながら標的へ惑うこと無く直進。
轟音と共に、空を舞う標的を包み込み、空を覆う天高く聳える光輪に向かって光の柱が突き進む。
紛うことなき直撃だがしかし、ビナーは失敗を直感した。
標的の生体反応、及びヘイローに翳り無し。
意識も消失していない。大きな損傷を与える事は叶わず。
ビナーは冷静に、冷徹に空から落下する標的を見やる。
標的が纏う、純白に等しい装甲。目的を同一とする同胞の躯体と神秘、その一部を使用したと想定される装甲が強固な鎧となって傷を付ける事を許さない。
装甲表層に複数の光輪……同胞が冠していたヘイローを、これみよがしに浮かべている様が忌々しい。
砂漠へと落ちていく標的に更なる追撃をせんと身動ぎをする最中、突然標的の躯体が青い粒子に包まれ、装甲各所にスラスターが増設される。
スラスターに神秘が漲り、点火。空中での軌道力を得ながら体勢を立て直す。
その場から距離を取るように大きく弧を描きながら旋回を行い……ビナーに向けて真っ直ぐに加速を始めた。
スラスターに更なる神秘が注がれ、蒼白い炎を噴き出し、爆発的な加速を経て驚異的な速度へと突入。
人型の砲弾と化しながら、依然迷い無くビナーへと突き進み、突撃を試みている。
愚かな、と理知は判断した。
如何に速度を得ようが、神秘による後押しが、やはり絶対的な質量差は覆す事はできない。このまま互いが衝突したとして、競り勝つのはこちらの方であり、ダメージを大きく負うのはあちらの方である。
怯まず、臆せず、加速を続ける標的の衝突地点を予測。
叩き落として砂漠の染みの1つにせんと巨体を振るい。
『────ッ!!!!』
凄まじい衝撃と鈍く重く響き渡る金属音と共に視界が大きく揺れ、装甲の一部が破損。体が盛大に仰け反った。
何が起こった、ビナーは一瞬の困惑の後に理解し、認識した。
突撃の直前、ほんの刹那の時の中、標的は自身の神秘を膨大に膨れ上がらせ、互いの間にある質量差を覆す程の強度を引き出し、こちらに被害を与えたのだ。
標的の脅威度を再認識。再定義。
その合間にも装甲各部に衝撃が走り、各包囲から攻撃が加えられている事をモニターがアラートで共有する。
各種センサーが、体に纏わり付く程の距離で貼り付きながら幾度も銃撃を浴びせてきている標的を認識し、羽虫の如く鬱陶しく、高速で飛び回る動きを捉え切れない。
銃弾が、砲撃が、熱線が、機関砲が、手を替え品を替え、数々の銃撃が雨霰となって降り注ぐ。
どの角度から、どの攻撃が、どの程度有効であるのか……如何にしてビナーの駆動を削ぎ落とせるかを一手一手試していくように。
先程剥がれた装甲の隙間。鋼鉄の躯体に生じた綻びを拡げるように、執拗な銃撃が与えられていく。
『───────!!!!』
機械蛇が煩わしげに、怒りを孕んだ威嚇のように吠える。こちらを攻略しようなどという不遜の蛮行を許すはずも無く、巨体を大きく振るい、身を捩って攻撃が集中する箇所を庇いながら、全身各部のハッチを開き、ミサイルを点火、噴煙を立ち上らせながら発射させる。
『大道の劫火』、と名されたミサイルの群れ。
撹乱と迎撃を両立させ、隙間なく迫り来るこの攻撃を、標的は避ける事無く受け止め、空に咲く爆撃の中に埋もれていく。
なおも健在な標的の存在を認識したビナーは、再び頭部の砲門を開く。
標的はミサイルの直撃を受ける直前、またしても神秘を膨れ上がらせ防御を行ったのだろう。攻撃を仕掛けても、そうした分厚い神秘の防壁が凡ゆる攻撃を凌ぐのだろう。
……だがしかし、あくまで標的は一生徒の枠組みに収まっている範疇。ならば神秘に無尽蔵は無く、限界と底は存在する。
このまま波状攻撃を続けて行い、標的の神秘を削り続ければその攻勢は崩れる。
全てを以て、標的の存在を否定する事こそが目下の存在理由であるとビナーは理解する。
そうして溜め込んだ『アツィルトの光』を爆煙の中の標的に向けて解き放たんとして─────
《Imagination》
電子音声がビナーの聴覚センサーが拾うと同時に、一本のワイヤーが爆煙を抜け、装甲の剥がれた隙間に突き刺さり。
『────────ッ!?!?!?!?』
直後、回路を焼き切らんばかりの超高電圧がビナーの全身を迸る。
空気の絶縁抵抗を容易く振り切る、落雷の如き電撃の蹂躙。
数秒に渡り浴びせられた極大の電撃に、ビナーの動力回路が強制的にダウン。項垂れたような頭部を下げた姿勢のまま、一時的に沈黙した。
舞い上がる爆煙の中、ビナーに接続されたワイヤーの伸びる先、違法建築のようにバッテリー部分が異様に盛り上がったテーザーガンを構える○○の姿。
『スーパーウルトラDXテーザーガン』。
脳内の設計図を元に神秘で構築する『I.M』を用いて実体化した、超高電流発生機器。それに自らの神秘を多量に注ぎ込む事で、預言者すら怯ませる電撃を実現させた。
砂漠に着地すると同時、構築する神秘を使い果たし粒子に解けていくテーザーガンを手放した○○は、続け様に腰部の装置を弄り、粒子化していた物体を手元に呼び出していく。
《Gevurah Buster》
《Keter Crown》
《Chesed Actuator》
ビナーの動力機関が未だ再起動に至らぬ中、鮮明ではない聴覚センサーが電子音を拾い上げる。
項垂れる眼前にて、不遜にも預言者の名を冠した機器を手にしている標的の姿を、ノイズの走る視覚センサーが捉える。
両手、装甲肩部から伸びるサブアームを駆使して3つの機器を掴み、それ等を変形させていく。
《Double Docking》
ケテルの名を冠した、突撃銃型の銃器。
両手で抱える程の大きさの其れ。船の甲板の如き扁平な形状をした上部に、ゲブラの名を冠する銃器が合着する。
預言者の力が2つ合わさり、パスが繋がる。エネルギーラインが接合され、鋭い光を放つ。
《Triple Docking》
ケテルとゲブラ。2つの銃身が折り重なり、1つの銃口と成る。
ケセドの名を冠した、円形状の純白の機器。それが合体したケテルとゲブラの下部へとセットされる。
エネルギーラインが接合。より深く強い光が放たれる。パスを繋がれた預言者の力が共振を始め、纏う神秘が高ぶりを見せていく。
そうして出来上がった合体銃器、その下部のスロットに、青く輝く石が5つ、装填される。
神秘が、充填される。
《Full Loading》
合体を経てなお巨大となった武装からはち切れんばかりのエネルギーが内包される。
青と紫の入り混じったそれが武装各所を駆け巡り、溢れ出さんとするエネルギーの流れが銃口部に収束を始める。
そこへ駄目押しとばかりに、標的の手によって神秘が注ぎ込まれる。
破滅的なまでに高まり続ける膨大なエネルギーが武装を悲鳴の如く軋ませる。
軋む金属音、響き渡るエネルギー過多のアラート、迸るエネルギーの昂りが入り乱れ、不協和音を奏でる銃身を、未だ再起動が間に合わないビナーの方へ向けられる。
《FULL EXPLOSION!!!》
高まり続けたエネルギーが放たれる。同時に麻痺していたビナーの動力機関が再起動を果たす。
迎撃か回避か。
生命が知覚できない0と1で構成された電子の高速思考で、迫り来る暴威からの回避を選択した。
しかし、音を超え、大気を突き破り、空間を引き裂き、次元の壁を突き破らんとする神秘の奔流を前に、その逡巡に掛かった時間はあまりにも遅く、無防備で。
神秘の光の束が、折り重なり、視界を埋め尽くす。
『─────────────!!!!!!!!!』
知覚できたのは世界を劈く轟音と衝撃。
その情報を最後に、ビナーという個体の意識は途切れた。
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「っふふ、ふふふ」
ご機嫌にステップを踏む。砂に足を取られる事もなく、踊るように滑っていく。
砂地に横たわる巨大な機械の残骸。
デカグラマトンの預言者、第三のセフィラ、ビナー。頭部の半分が抉り抜かれたような痕を残した、その成れの果てに手を伸ばし、愛おしげに触れる。
直後、砂漠に沈み込んでいた巨体が青い粒子の塊となり、手をかざし触れていた少女の元へ……○○の持つ、粒子化装置の中へと吸い込まれていく。
後は見る影も無く、ビナーがそこに居たという痕跡は、歪な砂のクレーターと、周辺に散らばる戦闘の痕からしか伺えない。
「ふふ、ふふふ。これで、四体目。また完璧に近い形で手に入れられた」
やったやった、と小躍りをしながら、辺りに散らばった装甲の破片を残さず粒子に溶かし、取り込んでいく。
ひとしきり飛び跳ね、喜び、小躍りを繰り返す。
神秘を求めて、求めて、求めて。それでも神秘について知る事のできなかったあの頃から追い求めていた砂漠を泳ぐ巨大機械蛇。ソレをこの手に収める事ができたのだ。
欲しくてやまない宝物が手に入ったのだ。
嬉しくて、嬉しくて、たまらない。
「よし、よし、よし……! まずは何を作ろうかな、やっぱり装甲を素材にしてアーマーの改修を……いや、合成神秘の器の耐久度を高められるかも確かめないと、それに新しい武装を作ってみるのも……それにそれに……」
手に入れた最高の研究材料。大きくて多くて、棄てる所なんて何処にもない最上の実験材料。何から始めよう、何をしよう、何に活かそうか……インスピレーションが止まらない。
砂漠を歩き続け、戦闘を行った疲れなど微塵も無い。今の○○を邪魔するものなど何も無い。
そのまま自分の世界に飛び込んで、これから行えるであろう研究と開発についてのアイデアをぶつぶつと諳んじながら、無意識に砂漠を歩き続ける。
そうする中でふと、○○は足元に違和感を覚え、思考の海から浮上する。
砂漠の砂を踏み締めるばかりだった足に、異なる感触が返ってきた。
かつん、と硬く重い感触。馴染み深い、鉄の感触。
足元から視界を前方へ向ければ、列車のレールが2本、何処かへと続いているのが見えた。
「線路……廃線になった電車のものですかね」
かつてアビドスが隆盛を極めていた頃に使用されていた路線のものだろうか、と思考しつつレールの先を見遣れば……左右を切り立った崖のような地形に挟まれた、何かしらの施設群に続いていた。
砂に半ば埋もれ、侵食されてはいるが……少なくとも駅のようには思えない。寂れた哀しい雰囲気を出してはいるが、軍需工場のような物々しさを感じる出で立ちの建物に、線路は伸びている。
○○は好奇心に惹かれて、足を進めた。
広いアビドス自治区、まだ足を踏み入れた事の無いその建物に、何かしらのオーパーツが残っているかもしれない。
何て微笑みながらわくわくと足取り軽く、線路の上を歩くように沿って進んで行く。
「さて、さて……レールの先には何があるやら。拝見しちゃいましょう」
続くレールの先は、建ち並ぶ施設の中でも一際大きく高い建造物の巨大扉の中へと続いていた。
強い神秘を感じる、という訳ではない。
ただ、何があるか分からない、寂れた施設を探検するという愉しげな冒険気分が、胸を打っていた。
巨大な扉に手を掛け、ゆっくりと左右に押し開く。
砂山に侵食されていたが、苦労はせず開く事はできた。
間もなく扉を全開にして、薄暗い内部に外からの光が差し込んで、その中身が顕になったその時、○○は、この日至上2番目に輝いた表情となった。
「わぁあ…………!」
感嘆の吐息が零れ出る。
○○が見上げる先には、黒く、大きく、長く、何処までも伸びて、天を突くような威容を湛えた、砲身があった。
その砲身を有した機体も、正しく規格外の巨体。首が痛くなるほど見上げてもなお視界に収まりきらない、弩級のスケール。
それなりの間隔を空け敷かれていた2本のレールを土台に鎮座している。
光に照らされ、黒光りの光沢が蘇る。
近付くもの全てを威圧するかのように重厚で硬質な黒鉄の装甲。
更には着飾るように各所に隙間なく盛り込まれた副砲の数々。
弩級の列車砲。そう呼称すべき兵器が、アビドス砂漠の只中で存在していた。
全てにおいて自身の偉大さを体現するように、堂々たる風貌で、その場に在る超巨大兵器を前にして、○○の心が、ミレニアム生徒としての情熱が、エンジニア部としての矜恃が、再び激しく燃え上がり出した。
「あぁ、なんて素敵な……!」
なんて素敵で、バカバカしい程に巨大で、素晴らしい、火力を突き詰めていて……
言葉が纏まらない。想いが湧き上がる。興奮が抑えられない。また神秘が体の内から暴れ出しそうな程に噴き上がるようで、体が熱くなるみたいで。
「預言者に続いて、こんな出逢いがあるなんて……今日は、今日はなんて良い日なんでしょう!」
目の前の相手を抱きしめるように大きく両手を広げて、その偉大な威容を寸分余さず見届ける。
「あぁ、楽しみが、また増えちゃった」
「どうやって、弄ろうかな」
とめどなく溢れて、弾けて、止まらないアイデアとインスピレーションの海の中で、歓喜に溺れながら囁いた。
『治せる君α』:生徒の体力を完全回復できる。大体石コンテ。青輝石5個で作れる。