神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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オーバー・ザ・エボリューション

 

 

 

 

「っ、ぐ、ぅ、う゛、ぅ」

 

 

 

 がつん、がつん、がつん。

 

 

 頭を打つような衝撃。

 物理的でない鈍い痛苦は、全身に浸透して、広がって、やがて温もりに変わる。

 心地好く、受け入れていく。

 

 

 神秘が鳴動する。

 

 身体の奥底で、私という存在が酷く脈打って、熱く膨れ上がっていくようで。

 私という存在が、ひとつに蕩けて溶け合ってしまう、ように。

 

 

 

「ん゛、く゛、っ……ぁ、あぁ……」

 

 

 

 ぱきり、ぱきり。

 

 

 砕けて散っていく、頼りない音が脳の中に反響する。

 

 私の外殻を形成する、脆弱な人の形が剥がれて、崩れていく。

 

 

 理性がそれを拒絶して、本能がそれを享受する。

 本能がそれを否定して、理性がそれを歓喜する。

 

 

「ふっ、ぅ……ふぅ、ふっ、ぅ……」

 

 

 相反する私の感情がグルグルぐるぐる渦巻いて、入れ替わり、立ち替わり、絶えず変化していく。

 

 

 長くかからない内に、それらは攪拌されて、混ざり合って、ひとつになっていく。

 悦びと変わっていく。

 

 

 テクスチャが剥がれる。

 ヘイローがひび割れる。

 

 その都度、溢れ膨張し続ける神秘の濁流。

 それが私の全てを削り取って、こ削ぎ落として、呑み込まんと暴れ回るような奔流を吐き出していく。

 

 

 決して拒まず、目を背けず、逃げ出さず。

 

 素晴らしき輝きを、私の中に受け入れる。

 

 追い求める崇高なる頂へ登り詰めるためにも。

 

 愛おしいロマンを掴み取るためにも! 

 

 

「っ、ふ、ぁ、は、はは……あは」

 

 

 頭の中で、体の中で。ぱちぱちと光り輝く神秘の脈動が収まって、圧迫感は収束していく。

 

 

 

 一時の苦痛は、数多の幸福となって私を癒して。

 自我の乖離は、ひとたび耐えれば確固たる私を再構築する。

 

 

 ───痛み、苦しみ、痛苦、熱、圧迫、声が聞こえる聞こえる聞こえる痛い、苦し■■■■■■

 

 

 ■■■■■■開放感、多幸感、酩酊感、充足感! 

 ありとあらゆる幸せな感覚が、感動が、体を駆け巡る! 

 

 

 

 そうしてまたひとつ、乗り越える。

 新たな自分を再認識する。

 神秘をより深く受け入れた私が、見えてくる。

 

 頭の中は、透き通って、透明な景色を映し出す。

 次いで、果てしなく続く青空の如き清らかに澄み渡る感覚が、身体中を脳天から爪先まで駆け巡る。

 

 閉じた瞼を開いて、両手を広げ、その感覚を余さず受け止める。

 

 

 視界に散りばめられる虹色。

 繋がって、混じり合って、どろどろと掻き混ざって、やがてひとつの神秘色に輝く光となって私に降り注ぐ。

 

 

 あぁ、なんて素敵な事だろう! 

 

 

 ロマンが弾けて、止まらない! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合成神秘取り込み実験、76度目。

 

 

 エンジニア部のメンバーの合成神秘を使用。

 すなわちヒビキさん、コトリさん、ウタハ部長、私の神秘を合成したもの。

 

 

 口に含めばなんと甘美な味わい! 身体に馴染む、心地好い神秘! 

 

 ばちばちと電撃が迸るような刺激と共に、テクスチャが剥離。

 

 左掌の手相ごと剥がれ落ちた。

 

 

 

 

 

 合成神秘取り込み実験、81度目。

 

 

 スミレさん、レイさんの神秘を合成。

 

 柑橘のような爽やかな味わいがじわりと染み渡る神秘を飲み下せば、私の中の神秘が活性化。

 

 右大腿部の表面が大きくこそげ落ちるように、テクスチャが剥離した。

 

 

 

 

 

 合成神秘取り込み実験、87度目。

 

 

 今回はゲヘナ自治区の生徒の神秘を使用。

 合成する神秘はゲヘナ学園給食部のメンバー、フウカさん、ジュリさんの神秘。

 

 毒々しく蠱惑的に照る合成神秘を飲み込めば、甘く濃密な味わいが全身に火花を迸らせる。

 

 

 背骨付近のテクスチャが、縦に裂けるように剥がれていった。

 

 

 

 

 

 合成神秘取り込み実験、92度目。

 

 

 ゲヘナ自治区で活動をする温泉開発部のメンバー、鬼怒川カスミさんと下倉メグさんの神秘を使用。

 

 焔を思わせるような熱く燃え滾る光を宿したそれは、私の体へ正しく神秘という燃料を注ぎ込み、圧倒的火力でもって燃焼を加速する! 

 今の私は人間火力発電所だ! 

 

 

 右頬のテクスチャのひび割れが大きく広がり、右眼球が完全に剥がれる。首元から伸びるひび割れと端が繋がる。大きな大きな裂け目となっていく。

 蒼白い神秘の輝きが、燃え尽きぬ火種の如く、ゆらゆらと揺らぎ、光を湛えている。

 

 

 相変わらず、とても綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

「……〜♪ 〜〜、〜〜♪」

 

 

 とても軽やかで、スキップで飛び跳ねてみたい程にご機嫌なのが自分でも分かるくらいな良い気分。

 鼻歌を歌いながら、くるくると控えめに体をターン。その場で反転、大きく体を見せるようにゆったりポーズを決める。

 

 さらさら、とペンを動かす音を背中越しに聞く。ミメシスの私が、一糸まとわぬ状態の私をしっかりスケッチしている。

 より正確に言えば、背中部分のテクスチャが剥がれた部分を注目してスケッチしている。

 

 神秘の取り込みによってテクスチャが割れた時には、写真で記録する他にもこうしてスケッチで描き記すという方法も取っているのだ。

 

 

《終わった。今回の分はこれだけ》

 

 

 しばらくしてからペンを置いて、成果物を見せてくれるミメシスの私。

 うん、うん。ちゃんと写真とも差異は無い。お互いにテクスチャの剥離の具合をしっかり認識出来ているようだ。

 

 

「うん、ありがと私。じゃあ今回の分を黒服さんに送るために纏めておいて」

 

 

 服を着直しながらお願い。

 それから『神秘ボトル』の中身をぐぃっと呷り、1本空にする。

 神秘の渇きと飢えが満たされる充足感。それが全身至る所を駆け巡り、ため息が零れた。

 テクスチャが剥がれた箇所から、中身の神秘が漏れ出す……といったことは無い。しかし色々と神秘を取り込み、強化され、肥大化した私の神秘は思った以上に食いしん坊と化したらしい。

 

 

 

 現時点で、私の体表面の18.5%、テクスチャを剥がす事に成功している。

 おおよそ1/5程剥がせてきている。

 

 ヘイローの方も、ひび割れが進んでいっている。私のテクスチャと同程度、凡そ20%程度にひびが生じている。中途半端に割れた卵の殻のようで、何だかもどかしい気分。

 ひびの中から淡い光が漏れ出ている。果たして完全に剥がれて割れた時、中からは一体何が生まれるのだろう。

 新しい私? それとも全く違う、私では無い何か? 予想の付かない未知が、すぐそこにある。

 

 

 また、以前に懸念していたテクスチャとヘイローのひび割れに比例しての自己意識の消失や薄らぎなどの点については……今の所問題は無し。

 自分の名前、意識、何をしていたか、どのように過ごしてきたか、何処で生まれ育ったか……

 確固たる自我は揺るぎない。ロマンを追い求める心も陰りなし。……というより、以前よりも意識が明瞭になって、ロマンについてもより意識を向ける事ができている気がする。

 

 開発、研究をしていると心が落ち着く。色んな神秘に触れて、神秘が周りにある中でそうしていると更に良い。心地が良い。安心する。そして興奮もする。エンジニアリングハイである。

 

 あぁ、本当に良かった。私が神秘の研究ができるようになるなんて。

 正しく夢のよう。数多のオーパーツ、数多の開発品、数多の神秘に満ちたこの研究室に居るだけで、多幸感はうなぎ登りだ。

 

 

 数多の神秘といえば……テクスチャ以外にも私の身体に変化は起こった。

 神秘に関して、気配や場所などをある程度検知する事が可能となった。

 近くにあるオーパーツの位置と数が分かったり、私以外の神秘が近付くとそれを感知、識別ができるようになったり。

 感覚が強化されたような、拡張されたような、不可思議な感覚。

 

 意識を集中させれば、遠くの方にある神秘も感じ取れるようになった。

 あくまでもそれがあるおおよその方向を薄ぼんやりと感じられる程度だけど。

 何だか声も聞こえる。朧気、けれど私の脳にしっかりと染み付くような、虚ろな声。

 

 

 

 

 

 さてもさても、改めて。先生にも黒服さんにも感謝感激である。

 

 

 そもそも黒服さんが取るに足らない一生徒である私に目を付けたのは、神秘について研究しようと奔走して、躍起になって、ヤケになっていたのを哀れに思って……とかではなく。先生が一等目にかけていた事と、単なる興味本位だという。生徒の身でありながら、これまでとは異なる観点で神秘の探求をしようとしていたからだと。

 

 それでもって、キヴォトスにおいて先生がゲマトリアと出会って、色々と関わりあっていたからこそ、黒服さんは精力的に活動していて……私が先生とより深く関わっていたからこそ、先生自身も私を助けようと神秘について調べていたからこそ、その要因である私に目が付いた、という。

 

 

 要は、先生が居たからこそ、先生と関わったからこそ、黒服さんと私は繋がれたのだ。

 そして私は、念願叶って神秘の研究や開発、神秘に関するもの作りが行えるようになった。

 

 

 つまりは先生と黒服さんは私にとっての大恩人だ。大人様様ですね。たはー! 大人って頼もしー! 

 

 

 そんな大恩あるお2人には恩返しを近い内にしなくてはならない、と思考が帰結するのは明白の理。

 しかしどうしたものか。

 先生ならまだしも、黒服さんの好みやら喜びそうな事ってよく分かんないしなぁ……。

 欲しそうな物を予測して、それがよりにもよって大ハズレの物を選んでしまって、好感度がガタ落ちする、なんてのはこの前ミドリちゃんが愚痴っていた恋愛シミュレーションの世界だけで十分だ。

 

 

 そう悩んで……いっその事本人に聞けば良くない? って事で直接黒服さんに聞いてみた所。

 

 

『クク……そういった事は考えずともよろしいというのに。我々はあくまで互いが利を取り合っているだけなのですから』

 

 

 元より私達はギブアンドテイクな関係である。言い分は分かるのだけども。

 あまつさえ、自身の行う実験に付き合い、私が神秘について研究開発し、その成果を共有する事こそ協力への見返りであるのだから、それ以上を求める事は無い、とまで言われてしまった。

 

 まぁここは黒服さんの言に従って、これまで通り、これまで以上に神秘の研究と開発を進めるとしよう。……熱い視線を送っていたホシノさんの神秘をより高純度に培養精製したものでも贈ろうかと思ったけど。

 

 

 合成神秘製造の為の装置『ミクスウェル』。合成神秘製造の際の余波による度重なる修理、改良。そして蓄積された合成神秘のデータによって、神秘をより高効率で濃縮、合成を行えるまでになった。

 無駄なく、ロスなく。何と嬉しい言葉の響きだろう! 

 

 合成時のロスが限りなく減ったおかげで、合成神秘を取り込んでテクスチャを剥がす手間がだいぶ省けてきている。

 相性の良い神秘同士を選定できているのも要因ではあると思うが、テクスチャの剥離が起こる頻度が多くなっていっている。

 やはり、神秘の組み合わせとその濃度がテクスチャを剥がすカギであると推測。今後も実証を重ねていこう。

 

 この分で行けば、近日中に私のテクスチャの剥離は20%を超えるだろう。

 この調子でもっともっと剥がしてみよう。

 

 

 

 ……思考が逸れちゃったな。先生には何を贈ろう。

 

 うーん、やはり成果物を披露するのが先生には良いかも。

 先生が手を貸してくれたからこそ、助けてくれたからこその神秘の研究だ。全ては先生が居てくれたから。

 先生の助力があっての成果です! って感じに、開発した神秘に関わる製品を見せていく事が、先生にとって最高の贈り物になるのではないか。

 うんうん、そうしよう。成長した私を、1歩先のステージに進んだ私を、存分に見せるようにしなくては。

 これからの研究にも一層身が入るというものだ。

 

 

 そうだ。先生は特撮系が好きだったし……そういう方面の開発品をお披露目して、プレゼントするのもアリかな? 

 預言者のパーツを使った武装もひとまずは完成できたし、これを骨子に何か作ってみるのも……いや、これをこのまま贈るってのもいいかな? 先生の護身用って感じで。

 それならこのケテルを使った武装を───

 

 

 

 

 ……おっと、電話だ。

 知らない番号。新規のお客さんかな? 

 

 

「はい、こちらエンジニア部です。本日は如何されました?」

 

《あ、えっと……ここでオーパーツ? っていうのの引き取りをお願いしたくって……》

 

 

 思った通り、新規顧客さんのお出ましだ。

 自然と笑みが零れる。

 

 

「はい、オーパーツ引き取り、承っております! 郵送して頂ければ査定の後、オーパーツの量と質に応じた金額を入金致します。それと、直接私から出向いてその場で査定、入金を行う事も可能ですよ。こちらですと、即座に入金が可能となっております」

 

《なら……直接でお願い。倉庫いっぱいにあるから量も結構あって、いちいち包むのも面倒だから……》

 

 

 どうやら大型顧客らしい。頬が緩む。

 私としては直接出向いた方が都合が良いので、電話越しの答えに内心ガッツポーズ。ついでにお客様の神秘も貰っていけるしね。

 

 

「えぇ、では直接お伺いさせて頂きます! 向かう先の住所をお教えください!」

 

 

 オーパーツならば西へ東へ何処へでも駆け付けよう。

 あればあるほど困らない良いものだからね。

 

 

《えーと、住所はトリニティの───》

 

 

 聞こえてきた地名と住所の並び。

 それを認識した途端、口端が吊り上がるのを感じた。

 

 あぁ。

 なんてちょうど良い。

 

 

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