神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
"ヒマリ、来たよ。"
「ふふ、御機嫌よう、先生。ようこそ特異現象捜査部へ。この純真可憐超絶天才清楚病弱────」
「あー、なっげぇ前置きはいいからさっさと本題に入れよ。お互いに暇じゃねぇんだしよ。ほら先生、早くこっちに座れよ」
「……ネル……お約束、というものがあるでしょう?」
"ネルも来てたんだね。……あれ、エイミは何処に? "
「エイミには他の用事を済ませてもらっています。……さて、出鼻をくじかれてしまいましたが、まぁネルの言う事にも一理はあります。さっそく本題に入りましょう」
"……○○に関して、報告があるんだったね? "
「えぇ、そうです。身辺調査を行って、何か異常があればそれを報せる……といったお願いを先生からされていましたから」
「んで、その異常ってのが起きた訳だ。ほら、これ見ろよ先生」
"……これは……ミレニアム廃墟地帯の地図? "
「あぁ。そんでここにある丸い点が発信器……○○に取り付けたヤツだな」
「廃墟地帯に生徒が入り込む……それ自体はよくある話ですが、注視すべきはそこではありません」
"それじゃあ一体、何が……"
「こちらに監視用にばら蒔いていた遠隔ドローンに撮った映像がありますのでそれと併せてご覧下さい。その方が早いでしょう」
"……。○○がビルから出てきたね。慌ててるみたい。"
「えぇ。この日○○は遅刻をしてしまったようで、この映像の時刻から見ても遅刻寸前ギリギリといった所ですね。……あぁ、ちょうど走り出しましたね」
"……すごいスピードで走ってる……! "
「えぇ、実に時速50kmの速度を維持して走っています。凄まじい健脚ですね。……あぁ、ここからは無人ドローンに襲われている様子ですが……」
"……すごい。無人ドローン達を銃も使わないで素手で蹴散らしてる。"
「ネルにもできそうですね。というよりやった事はあるんじゃないですか?」
「あァ? そりゃ殴ったり蹴っ飛ばしたりはやるけどよ、銃も使うっつーの。てかそこじゃねぇだろ、もっと問題なのは」
「はい、先生。ここから先、瞬きはせずに、よく見ておいてください。きっと驚くでしょうけれど……」
"……○○が周りを見渡して……上を見上げて……? "
"……!? と、飛んだ!? "
「あぁ。そいつが飛び乗ったのは10階建てのビルの屋上だ。地上からそこまで30mは余裕で超えてやがる。そこらの生徒が出していい跳躍力じゃねぇ。ましてやインドアのエンジニア部のヤツがな」
"……○○……。"
「そしてここからは学舎の方へ向かって、ビルからビルを飛び跳ねて移動をして行っています。こちらも驚異的なもので、まず間違いなく登校時間に間に合う速度でしたが……勢い余って、学舎を飛び越えて数km先のビル街でようやく動きを止め、再び学舎へ向かっていきました。
……さて、ネル。貴女の視点から見て……○○が行っていた動きは、誰でもこなせるものでしょうか?」
「ん〜……まぁ訓練次第じゃあ、って所だが……それでも、そこらの奴が一朝一夕にできるもんじゃねぇ。才能があるってのにも限度があるしな」
「えぇ、そうです。少なくとも○○の身体能力は、前回ミレニアム全体で行った体力テストの結果を加味しても、今に至ってここまで動ける程になるとは思えません。それこそ、常軌を逸した行為を……自らの体に、何かしらを仕込んだとしたら別ですが」
"……! "
「どうするよ先生。もう直接本人に聞くのが速ぇと思うぜ? コイツの裏にいる、ゲマトリアって奴らから引き離してぇってなら、廃墟地帯に入り浸ってるって理由で私らがしょっぴいて軽く謹慎させる手もある」
"……そうだね。でも、少なくとも○○は、ゲマトリアに救われてる。自分がやりたい事ができる、って○○が喜んでいたのは、ゲマトリアが関わってから。"
"奴等から無理やり引き離す事をしてしまったら……。"
「生徒のやりたい事を、先生が阻んで否定する事になるってか。……いやいや、先生よ。バカやってる奴が居たら叱って止めるってのも先生なんだろ? それにゲマトリアってヤツも相当な外道って話だろ。んなもんと関わり合わせとく必要は無いだろ。
手段は知らねえが、コイツは明らかに自分に改造やらしてるし、されてんだろうよ。でなきゃ短期間で人並み外れたこんな動きはまずできねぇ。そんで調子に乗ってバカやって、事故って周りに迷惑かけるのがお決まりのやつだろ。コイツもエンジニア部だしよ」
"……そう、だね。うん。そうだ。まずはしっかり○○と向き合って、もっと話を聞いてみなくちゃ。"
「ハッ、らしい顔になったじゃんか、先生」
「……おおよそ言いたいことはネルが言ってしまいましたね。何故台詞泥棒をしたのですネル?」
「あ? いや、知るか! そっちが黙り込んでたんだろうが?」
「いえ、それに関しては……○○の映像を見返していて、少し違和感があったので解析していたので」
"何か分かったの、ヒマリ? "
「……彼女は本当に隠し事が多いようですね。それともゲマトリアのやり方なのでしょうか……いえ、ともかく端的に申しますと、彼女自身の体の表面にホログラムがかけてありました。つまりは、体表には何か隠したいものがある、とだけ。……もうしばらく解析して、ホログラム自体を剥がしてみましょうか」
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「それでは、今からいくつか質問を行いますので、できる限り正確にお答え下さい」
「はい、分かりました!」
ミレニアム廃墟地域、その一部の中に隠蔽された○○の研究室内部にて、デスクを挟んで椅子に座りながら向かう合う黒服と○○。
これは定期的に行われる問診の様な行為。
自身とは異なる神秘を多数取り込み、一部のテクスチャを剥がした結果、心身への異常の発生が多くなった事から、自他ともにどの様な状態に置かれているのかを認識させる為の質問を交えた調査である。
黒服は片手に愛用するタブレット端末を持ちながら、今回の質問項目を改め……ゆったりと脚を組みリラックスしながら、○○と話を交わしていく。
話題は、○○のテクスチャが剥がれた事による意識の揺らぎについて。
「体内に異なる神秘を多数取り込み続けて尚、生徒という形を保っている……とはいえ最近は不安定な様子。……確か、対処方も用意したのでしたね?」
「えぇ、はい。意識が遠のくような、眠気とは異なる感じで意識が消失していく感覚が二日に一度、日中に発生しまして……」
不意に。
そこまで説明を進めていた○○の瞳が眠たげに細められ、微かに仰け反って怯む。
唐突な目眩に襲われたように頭を抱え、それでもちょうど良いとばかりに口端を緩めた。
自らの頭上に浮かぶ、ひび割れたヘイロー。それの輪郭が僅かにぼやけ、ノイズじみた模様が描かれるのには気付かずに。
「あぁ、このように、意識が覚束なくなりまして……その場合には……」
ざりざり、とヘイローにかかるノイズは激しく揺らいでいく。
○○はデスクの上に積んでいた神名のカケラを無造作に掴み、二、三個程をそのまま口の中へと放り込んだ。
咀嚼も無く、ごくり、ごくり。テクスチャが剥がれ、内側が露出している細い喉を鳴らしながら自らの神秘を飲み下し……
何度か瞬きを繰り返しては、意識をはっきり取り戻したと示しつつ黒服に向き直った。
「……ふぅ。私の神名のカケラを数個取り込めば、この通り戻ります。
この現象については、私の体が取り込んだ神秘を受け付けなくなっているのか、私という神秘の器が耐えられなくなっているのか、原因はまだ定かではないのですけど……」
「クク、いずれにせよ経過観察は欠かせませんね。引き続き調査をお願いします」
そう伝えながら、黒服は手元にあるタブレットに書き込んでいく。
───対象の神秘は依然不安定な状態。以前に見受けられた均衡状態は崩れつつあり、対象の意識を喪失させる形で影響を受けつつある様子。
───引き続きデータを提供させ、適宜観察、調整を行う事とする。
「それでは……次の質問は趣向を変えましょう。我々は先生について深く興味を寄せていまして……せっかくですから、生徒という視点から見た先生についてお聞きしましょうか」
「分かりました。お答えできる範囲ならば何だって答えましょう」
「では、そうですね。最近の先生についてですが───」
黒服はしばらく、先生についての話題を振っていく。
最近の先生の動向。
生徒という視点から見る先生とその評価。
生徒から先生はどういう存在であるのか。
などと色々と探っていく最中。
「それでは……最後に先生と会った日時を、正確にお教え下さいますか?」
「はい。えぇと、最後に会ったのは3日前なので…………日時、は……」
「……○○さん?」
正確な日時を。
それを思い起こそうとして、○○の挙動が怪しくなる。
油を差していない錆まみれの機械のようにぎこちなく、少しずつ、少しずつ動きが鈍くなって行き。
「ぁえ」
唐突に、猶予も無く、○○の意識が途切れる。
電源を落とした機械らしく突然、ひび割れたヘイローが揺らいだ後に掻き消え、完全に意識を飛ばしてしまう。
残った肉体は静かに項垂れるのみ。糸を切られた操り人形のように、力無く椅子に身を預けるばかり。
「……ふむ。なるほど、なるほど」
目の前で起こったそれに黒服が慌てる様子は無く、ただ興味深げに、心底愉しげに笑みながらタブレットへと書き込んでいく。
───対象に先生に関しての質問を行う。その最中、出来事が発生した日時を正確に回答しようと試みて、意識を消失させる。
───興味深い事象の為、検証を続行する。
「……っ、んん……」
椅子の背もたれに身を預けたままの体が身動ぎ、吐息が漏れ出る。
○○の虚ろな瞳に光が戻り、焦点が定まって行き……不思議そうに首を捻った。
自身に何かしらの不調が起こっていた事など知らず、認識していないように。
「あれ、すみません……質問内容、もう一度伺っても……?」
「えぇ、構いませんよ。それでは、もう一度。○○さん、先生についてなのですが……」
その後、黒服はいくつかの検証を行った。
───初めて先生と接触した際について質問。その日時、会話の内容を出来うる限り正確に。
───対象は先生と初対面時、どのような場所、どのような会話を行ったのか、一つ一つ懐かしむように回答。途中、正確な日時を思い出そうとした所で数秒程動きを停止。後に意識を消失させる。外見上、テクスチャに変化は見受けられず。
───数分後、意識を取り戻す。その際のヘイローは意識消失前と形状、傷共に変化無し。改めて前述の質問を繰り返し尋ねると、先程と同じ回答に加え、正確な日時を話していた。
───先生に渡されたという武器について質問。渡された日時、その際の出来事、会話を出来うる限り正確に。
───対象は途中まで明瞭に回答を続けていたものの、正確な日時や先生との思い出を思い出そうとした所で深く考え込む仕草をした後、意識を消失。
───数分後、意識を取り戻す。同様の質問を尋ねると日時、先生と間に発生した出来事について滞りなく回答。
黒服は含み笑いを漏らしながら、タブレットに書き込む指を止めない。
───対象は自らのテクスチャの剥離によって生徒という存在から外れかかっている。
───完全ではないテクスチャの剥離により、『先生とその生徒』という関係性が中途半端に崩れている。キヴォトス側のテクスチャから干渉を受ける事で、崩れた中身を補完及び修繕が成されていると推測。
───穴が開き、綻びが生じてしまった生徒という布地に、パッチワークを当て嵌めるかのように。
タブレットに文面を書き認め、口端を持ち上げては喉を鳴らして笑い続ける。
実に、実に。興味深い対象に他ならない。
あの時あの場所で手に入れた対象は、こうして自らの好奇心を大いに刺激してくれている。
その身を象るものを剥がす事を躊躇わず。
その身に取り込んだ神秘に押し潰される事も厭わずに。
例え自身の器が壊れかけた今の状況でさえも覚える感情は恐怖ではない。
とても、興味深い。
果たして、果たして。行き着くその先では、どのような結果を見せてくれるのか。
楽しみで、仕方がない。
ぐたりと力無く椅子に沈む生徒が再び覚醒するまで、黒服はそうして思いを馳せていた。
……不意に、黒服は自らの行為が途端に可笑しく思えてしまった。
「……クックック。いやはや、何とも……」
先生ならばいざ知らず。
ホルスならばまだしも、特別な神秘など持っていなかった生徒に、ここまで思考や時間を割くなど。
誰に見せる訳でもなく、大いにかぶりを振って肩を竦め、少なからず起きた自身の変化に、黒服は愉快そうに振る舞うばかりであった。
「……うぅん……あれ、黒服さん。すみません、質問は何でしたっけ」
「では○○さん、最近開発した物について教えて頂けますか?」
「了解です! えぇと、最新の開発品ですが……こちらの『セフィラ・レーダー』です」
何度目かの意識消失から数分後、○○はぱちりと目を覚ました。
先程から数度、自身に起きていた意識の消失など認識していないとばかりに○○がデスクの上に両手程の大きさの機器を取り出すと、セールストークさながら、流麗に語り出す。
「詳しい原理については後ほど纏めますので……簡潔に申しますと、こちらはデカグラマトンの預言者を検知できるレーダーです。デカグラマトンに影響された機械類が出す特殊な周波数を検知し、画面に表示するといったシンプルな代物です」
いわく、研究の息抜きにとデカグラマトンの預言者の1つであるゲブラとの戦闘映像などを見返し、解析している最中で、ゲブラから既存の物に当て嵌らない独自の周波数が発せられている事に気付いたらしく。
手元にあるゲブラの神秘やパーツからも同様の周波数が発せられていたので、これはと思い急いで作り上げたのがこの装置。
預言者と積極的に接触を試みたい、しかし居場所が分からない……というジレンマを解決する装置が開発された、という筋書きだった。
「装置の試験運用も済んでます。とりあえずは5km以上の距離を離していても研究室内部に置いてあるゲブラのパーツから特殊な周波数を検知できました。……それで、より広い範囲を検知するように改造していったらですね……なんと、なんとですよ!」
語る口調に段々と熱が籠っていく。
すごい発見をしたのだと親に喜び勇んで見せびらかしにいくような子供のようにはしゃいで、腰を浮かせて立ち上がらんばかりに興奮を露わにしていく○○を、黒服は片手を翳して抑えつつ。
「ククッ。見つけたのですね、他の預言者を」
「えぇ、そうなんですよ黒服さん!」
言わんとしていた事を代弁されれば、ぶち上がったテンションによって勢い良く立ち上がる○○。
そうして興奮を維持したまま多弁に語り出す。
「とりあえずミレニアム廃墟地帯を広く捜査するようにレーダーの範囲を広げた所、端の方にゲブラの物とは異なる反応が引っ掛かりまして……急いで反応の場所まで向かい、そして発見致しました!」
○○は興奮冷めやらぬ、とばかりにうろうろとその場を歩き回り……その内、研究室内部に広く空けたスペースの方へと向き直り、腰部の装置へと手をかけた。
「そしてこちらがその成果です!」
粒子化収納装置を弄り、内に仕舞い込んだ中身を引き出していく。
青い粒子が押し寄せる波のように溢れ、大きく角張った形を作っていく。
僅かな光が収まり、ずんと重たい音を響かせながらそこに現れたのは多脚戦車と呼ぶべき出で立ちの巨大機械。
その姿は無残な有様だった。
元は四本あったであろう脚部パーツはその半分が千切れ、均整の取れていたであろう白い装甲は所々が煤け、潰れ、破損が目立っている。
機体上部から伸びるランチャーや機関砲などの武装の一部が折れ曲がり、通常運用もままならない状態。
そして何より、機体中枢に開けられた、凄まじい威力で抉り抜いたと思しき大穴。
一目でそれが致命傷であり、決定打となったと確信させる、向こう側の景色まではっきりと映し出している大穴が、存在感を強く主張していた。
「廃墟地帯の水没した区域内部でこちらの預言者を発見致しました。デカグラマトンに影響された預言者は高度なAIを持つとの事でしたので、発見後はなるべく穏便にコミュニケーションを取ろうとしましたが……やり方がいけなかったのか、攻撃されまして。その後の戦闘の末に、こうして無力化を行いました。なるべくは傷付けないようにしたかったんですけどね」
プレゼンの発表を行うように、ヘイローも映さない物言わぬ預言者を片手で示しながらそれについての経緯を話していく。
その途中で唐突に思い出したようにハッと口に手を当てて、不安気に黒服に尋ねた。
「それでその……黒服さん。こちらの預言者は、どういった存在で?」
今一つ、確信が取れていない面持ち。
その不安を払拭させるように、黒服は変わらず不敵な笑みを浮かべながら問いに答えていく。
「第一セフィラ、『ケテル』。その名の通り、一番目の預言者を冠する者です。もっとも、その分技術発展度やAIの複雑性も低くなっておりますがね。戦闘能力についても後に続いた預言者と比較すれば低いものでしょう」
「あぁなるほど、道理で……」
その言葉を受ければ、疑問が氷解し、納得と歓喜をその表情に表す。
自身の開発した装置が問題無く動作していた事、また新たな預言者を……ヘイローと神秘を持った生徒以外の存在と出会えた事に、感情を昂らせている。
「クク。では○○さん、ケテルと接触した際の事を詳しくお聞かせ下さいますか?」
「はい! 記録映像を残してあるので合わせてご覧下さい!」
○○はそう言って手元にある端末を数度弄り、画面に映像を表示する。
S.Fアーマーのバイザーから記録した、第一セフィラ・ケテルとの接触の一部始終。
それをお互いに見やすいようにデスクに置いて、共に閲覧を始める。
『───こんにちわ! 突然の訪問失礼致します! 私はミレニアムサイエンススクール、エンジニア部所属の○○と申します! 貴方はデカグラマトンの預言者の1人で間違いないでしょうか!』
ノイズ1つない鮮明な映像の中、ケテルの姿がはっきりと映し出される。
所々崩落し、水没した道路地帯。
○○の視線の向こう側、水没した大通りを間に挟むようにして、ケテルはその姿を現している。
ターゲットマーカーを象った巨大なヘイローを戴き、白く美しい装甲に淡く輝くエネルギーラインを浮かばせながら、四足で踏み締めた道路の瓦礫の上に鎮座し、○○へ向けて機関砲の銃身を真っ直ぐに構えている。
それを背景に、映像の中で○○がハキハキと言葉を紡いでいく。
『貴方に会いに来たのは他でもありません! デカグラマトンの預言者という貴方! 貴方と交流を図りたいのです! そして何より所有している神秘! ヘイロー! それを調べてみたいからです! これからそちらに近付いて行きますので、何かしらコミュニケーションを取れる手段があるならば是非とも返答を───』
その言葉を遮るようにして、機関砲から銃弾が吐き出される。
激しいマズルフラッシュを伴いながら弾き出された銃弾の嵐は映像を中断……する事もなく、アーマーの防護膜に阻まれ、力無く瓦礫の床に飛び散っていく。
○○に一切の揺るぎもない。
『すみません、驚かせてしまいましたか!? それとも返答なのでしょうか!? 突然ですからね、無理もありませんよね! ですが少しばかり耳を貸して下さると幸い……うわわっ』
続け様に爆発音。
ケテルの機関砲から遅れて放たれたミサイルの飽和攻撃が足元の瓦礫ごと破壊せんと着弾、爆裂する。
『……せめてお名前! お名前とか! 第何のセフィラだとか教えて下さりませんかね! ……わー! ちょっと!』
○○のバイザーに示されたアーマーのステータスには何の異常もなく、当人に怪我すらもない状態。
爆煙が収まり、崩落する瓦礫の山から素早く抜け出した○○の叫びに、ケテルが示したのは銃弾による拒絶だった。
『ちょ、あのー! すみませーん! 他の! 他のコミュニケーション方法とかはー……うわっ!』
○○が呼び掛ける。機関砲が撃ち据える。
○○が手を振る。爆発が瓦礫を巻き上げる。
○○が歩み寄る。言葉を紡がせぬように砲門が火を吹く。
『……分かりました、そちらがその様にするならば……致し方ありません。なるべく傷付けたくはなかったのですが……』
言葉と拒絶の往復が幾度か行われた後、銃弾を見に受けながら○○の落ち着いた声がそう零して。
『無力化させていただきます! ……貴方のこと、しっかりと調べさせてもらいますね!』
膨れ上がった神秘をアーマー各部、全身の隅から隅へと行き渡らせ、足元の瓦礫を強く踏み砕き、クレーターを作りながら爆発的推進力で跳躍。
ケテルへと向かって、跳ね飛んで接近していく。
そうして始まった戦闘は、○○が優勢を握っていた。
片や一生徒、片や超高知能AIに見出され、自己改造を果たした多脚戦車。客観的に見れば一生徒が適う要素など見受けられない戦いは、驚く程に早い決着を迎えつつあった。
先の黒服の話に挙がったように、ケテルは第一セフィラの名を戴いている都合上、最も古く、最も早くにデカグラマトンの預言者に選ばれた。
それ故に戦闘能力、演算機能、AIの性能……どれもが他の預言者ほどに洗練されたものでもなく。
○○自身がキヴォトスに名を連ねる程の戦闘巧者でなくとも、驚異的なスキルを持っていなくとも、身に宿す神秘が特別なものではなくとも。○○が繰り返した実験によって取り込んだ神秘と、その神秘を増幅、補強させる装甲。加えてゲブラと交わした戦闘経験が、ケテルに対して大きく優位に立ち回れている要因であった。
ケテルが機関砲を放つ。それと同等の数の、それよりも強烈な神秘を篭めた銃弾がケテルの装甲を抉る。
ケテルがミサイルを放つ。○○の放った多弾頭ミサイルの雨が地を揺るがす爆炎を巻き上がらせる。瓦礫を粉微塵に変えて、ケテルの機関部に痛手を負わせる。
『───あっ、撤退する気ですか!? 待ちなさーい!』
ケテルが脚部から発射したワイヤーを廃墟ビルに突き立て、自身の巨体を軽々と引き付けて素早く撤退を行っていく。
それに気付いた○○が以前の失敗を繰り返さんとするも、軽々とビル間を飛んでいくケテルに一歩追い付けず。
しかし依然レーダーの範囲内にはケテルを捕捉していた為に、ケテルの反応へ急行すれば……追い詰めるよりも早く、ケテルが再び○○の目の前に姿を現す。
『……おや、その姿は……なるほど、傷付いた機体上部を換装、ついでに武装も変えてきたのですね! 貴方はそういう事ができるんですか!』
またテンションのぶち上がった○○が言うように、ケテルは新しい武装と傷一つない装甲を機体上部に取り付けていた。
ケテルの強みは、様々な状況、敵対勢力に合わせた形態変化にある。
素早い機動力と数多くの形態を用いる事により、如何なる相手にも対応を可能とする。
幾度と無く攻撃を撃ち込んでも大した損傷を与えられていない対象を排除するにあたりケテルが選び取った選択は、超高電圧電磁パルスを発生させる弾頭を発射するランチャー。
如何なる強靭な生物であろうと、神秘を持った生徒であろうと、電気信号で動くものであれば抗う事は出来ない強烈な電撃を浴びせる。
○○にも通用する、有効な選択であったが……
『新しい武装の威力、受け止めてあげたいのは山々ですが……』
○○側はケテルの取った対応を読み、むざむざとその攻撃を喰らうという選択は取らなかった。
何より予測は容易いものだった。
賢く合理的なAIであれば、実弾兵器の通用しない、水場で動き濡れている相手に対して、自由に使える手札があるならば、どういう選択を行うのか……
そうした考えを読む事は、高精度な演算機能を有していなくとも可能。
何より、○○にはその行動を見切り、放たれる弾頭が着弾する前より回避を可能にする身体能力が備わっていた。
『はっ、と!』
ケテルが電磁兵器を放つと同時、○○はその場から飛び跳ね、ランチャー弾頭を躱しながらケテルの方へと向かっていく。
脅威的な速度で迫り来る小さな対象を前に第二射を放つその間もなく、容易に懐の内にと入り込まれてしまい……
『大丈夫です、なるべく被害は少なく仕留めますからね!』
肩部装甲から伸びる二本のサブアームがケテルの機体を鷲掴み、しっかりと○○の体を固定。
そして粒子化させていた武装……フルチャージ状態の『光の双剣』を二丁、圧縮と収束を繰り返す光溢れる銃口をケテルへと押し当てて。
轟音を伴いながらケテルの機体を極太の閃光が刺し貫いて、なおも収まらない光の柱が軌道上に存在する廃ビルと瓦礫を消し飛ばし、溜まっていた水を一瞬で蒸発させていく。
動力源を丸ごと撃ち抜かれたケテルは動作を停止。ヘイローは掻き消え、破損した機体各所から火花を微かに散らせながら、地に伏せてしまう。
『ふふ、止まりましたね。大爆発も起こす様子はありませんし……では、遠慮なく』
うっとりと。
カメラ視点故に表情は伺えないが、達成感と興奮に満ちた笑顔である事が容易に想像が付くような声色と早口で言葉を繋ぎ……項垂れるように静かになったケテルに手を当て、粒子化。装置内部に機体を丸ごと仕舞い込み、○○の歓喜に満ちた小躍りで視点が揺れた所で映像は終了した。
「……と、まぁこの様な戦闘を経て、今に至ります。超高知能AIを持った存在という事で、対話もしてみたかったのですが……次の預言者に期待したい所ですかね」
「クク。幸い預言者はまだキヴォトス各所に存在しています。根気強く試してみると良いでしょう」
「……ほほぅ。がぜんやる気が出てきますね!」
拳を握りやる気を漲らせる○○を横目に、黒服がタブレットに書き込んでいく。
───対象の戦闘能力は向上の一途を辿っている。テクスチャを破る程の強大な濃度と量の神秘の保有は、預言者を単身にて打ち倒す程に。
───取るに足らない一生徒であった対象がこれ程の可能性を持つに至るこの事象はますます興味深い。
───対象の戦闘能力については衰える様子は無く、取り込んだ神秘の総量、テクスチャの剥離具合に関連した能力の向上を見せると思われる。サンプルデータを引き続き提供させる事とする。
「……では、今回はここまでにしましょう。お疲れ様でした、○○さん。それではまた次の機会に」
「はい、それではまた!」
終始笑顔であった○○は、研究部屋から去り行く黒服を殊更明るい笑顔で見送る。
これから行う実験や研究に思いを馳せ、構想を練り、どんな結果が得られるのか。楽しみで仕方がないから。
○○の研究部屋から去り、ゲマトリアの施設にと移り……誰の目も無い場で、黒服は1人タブレットを見遣る。
今回の問診で見受けられた、○○の様々な不調。凡そ健全では無いそれ等を、黒服は敢えて指摘しなかった。
そしてこれからも、あちらから意識されなければ、気が変わらない限り教えるつもりはなかった。
○○に起こっているのは、キヴォトスという箱庭に対して違和感を覚えるという、世界そのものにとってのイレギュラー。
今はキヴォトスに貼り付けられたテクスチャが○○に関与する事で、○○の意識と認識を書き換える形でその違和感を無かったものとしている。……尤も、生徒というテクスチャが剥がれかけている○○には対症療法じみた行為にしかなっていない。
生徒というテクスチャを丸ごと張り替える事態には陥ってはいない。
黒服にとっては、そうなってしまう事は避けたい所だった。
認識や意識が不安定である○○に対して、その原因のみを突き付けてしまえば……彼女の自己意識、自己認識は更に強く深く揺らいでいくだろう。
そしてその影響は精神に響き、神秘に、ヘイローに、そして何より彼女自身に多大な変化を与えるだろう。
その結果は、果たしてどうなるのか。
興味はある。結果を知りたい。
が、急いでその結果を得たいとは思えなかった。少なくとも、今はそうするべきでは無い……と、黒服は思考した。
「……クク」
自身に起きた変化に呆れ、そしてそれを喜ばしいものとして受け入れ、黒服は笑う。
まさか言語化に難しい程のものが自分の内にまだ芽生える余地があったのだと、気付かせてくれた対象に向けて感謝をするように。
「───さて。貴女がこの先どうなり果てるのか……見守るとしましょう」