「第二級冒険者が全滅?」
「あぁ。おまけに
「
【ディアンケヒトファミリア】のホーム。その店の奥で、
「それで?珍しく顔を出したと思えば、まだギルドに報告も済んでない真新しい情報を流した理由は何だ?」
【フレイヤファミリア】のレベル5。都市最速と謳われる【
そんな人物が、ただ治療薬を買うためだけにこんな所へ訪れるとは考えにくい。本来ならば、ファミリア内の下級冒険者がまとめて購入しに来る筈だ。
手元の羊皮紙にペンを滑らせながら、壁に寄りかかって動かない青年に向けて言葉を続ける。
「言っておくが、こっちから提供出来るような情報は特にないぞ。昨日は迷宮に潜ってたしな。第一、うちでまともに戦えるのなんて俺と団長くらい……」
「てめえ…一体何を掴んでやがる」
アレンの口から発せられた低音の一言に、一瞬シキが手の動きを止める。
「……何の話だ」
「てめえが何やら動き回ってるのは知ってる。…大人しく白状しやがれ。」
カウンター付近の壁に預けていた身体を持ち上げると、得物の槍をシキの顔の横に突きつける。
突然のその行動に、店内の冒険者達がざわつく。緊張の走る中、作業を終えたシキが軽く息を吐くと、視線を目の前の猫人族に向ける。
「アレン、お前今日暇?」
「質問に答えろ。あと暇じゃねえ」
「じゃあ今からちょっと付き合ってくれ」
「聞いてんのかてめえ」
「昨日の探索で、少し気になることができた。」
「…あぁ?」
「目星はなんとなくついてる。何もなければすぐに済むよ」
「てめえ一人で事足りるだろうが」
シキはレベル3。幹部クラスの相手でもなければまず遅れを取ることはないだろう。
「証人が欲しい。俺一人では発言力に欠けるからな」
「わざわざ付き合う筋合いはねぇ」
「じゃあ依頼だ。
「………チッ……早くしろ」
まだ呆けている冒険者達を無視し、アレンが槍を肩に担いで外へと歩き出す。
「ああ、すぐに行く。……アミッド、後は任せた」
「え?あ、はい。」
突然の展開にアミッドが驚くも、シキの仕事は既に大半が済んでいるため、特に咎めることもない。
ただ少し、不安と不満を顔に浮かべ、部屋へ身支度に向かう少年を見送る。
「ふーん?アミッドったらそんな顔もするのね!なんかちょっと意外かも!」
「!」
すぐ隣で聞こえた声にハッとし、先程まで対応していた赤髪の女性へと振り向く。
「ア、アリーゼさん、何を……」
「駄目よアミッド?好きな人を見送る時は、もっと笑顔で言わなきゃ!」
「す⁉︎…好きな人とは…その……シキはそういうのではなくて、ですね」
うんうんと頷きながら得意げに人差し指を左右に振るアリーゼに、所々つまりながらもなんとか弁明を試みる。
「あらそう?でもこんな世の中だもの。毎日笑顔で過ごすことって大切よね!」
「そう、ですね…」
「それにしても、シキってばあの戦車さんと仲良かったのね?なんだか珍しい組み合わせ。」
「仲が良い…かはわかりませんが、よく話しているのは目にします。お互い、無駄が無いところが似てるんじゃないかと…」
そんなことを言っているうちに、奥から着替え終えたシキが出てくる。
「アミッド。悪いけど、帰りは遅くなると思うから団長に伝えておいてくれ。それとアリーゼ、昨日の件の報告書だ。フィンにそのまま渡してくれればいい。…じゃあ行ってくる。」
「はい。気を付けて」
シキが扉を出たことを確認すると、羊皮紙を受け取ったアリーゼが伸びをする。
「さーてと!それじゃあ報告書も貰ったし、私達も行くわ…って、あれ?輝夜は?ついさっきまで此処にいたのに」
背後を振り返ると、一緒に来ていた3人の仲間の1人が欠けていることに気づく。小人族のライラ、エルフのリューともう1人。ヒューマンの少女の姿がない。
「あいつなら、シキが出ていってすぐに飛び出してったぞ?」
開いた扉の外を見ながら、呆れて物も言えないような表情でライラが応える。
「え?ウソでしょ⁉︎ライラったら、なんで止めてくれなかったのよ〜」
「無茶言うな。掴んでもアタシごと引っ張られるのがオチだって」
「でも出て行ったってことは、シキを尾行しに行ったってこと?……輝夜ってば、情熱的なのは私嫌いじゃないけれど、神様達の言う『すとーかー』紛いなことは許容できないわよ?」
「いい加減そのネタでいじるのやめてやれよ。あいつが聞いたら間違いなくキレるぞ?」
「そういうのも知ってるわ!『つんでれ』って言うのよ?ヘルメス様が言ってたもの!ふっふーん!」
「だからやめろって言ってんだろ⁉︎あいつ意外と耳ざといんだから、不用意に変なこと言うなって!」
「ふ、2人とも、この場で騒いでは店側に迷惑が……ひっ!」
カウンターの傍で騒ぐ2人を宥めようとするリューが、ふと視線をずらし、短く声を漏らす。
「あ?どうし……げ」
「ア、アミッド?あーその、ね?ふざけてたとかじゃないの。こうやって周りに笑顔を振り撒くことも大切だってことを……ぁ」
視線の先の少女を見て瞬時に理解したのか、ライラが思わず声をあげ、アリーゼが先の様子を正当化しようと試みる。
「…店内ではお静かにお願い致します。」
『は、はい。ごめんなさい』
有無を言わさぬその圧力に、3人の第二級冒険者が口を揃えて謝罪する。
歳下の少女に注意されているその様子は、普段の姿とは違い、客観的に見ても格好の悪いものだった。
「面倒なところに付き合わせやがって……一体何のつもりだ。いい加減答えろクソガキ」
場所はダイダロス通り。オラリオにおいて最も複雑な地形を誇るその区域は、ギルドでさえその全様を把握できていない。今やそこに住むのは、あてのない人々や孤児院のみだ。
そんな道を、二人の男が並んで進む。
「都市で物を隠すのなら、この場が最も適している。奴等が使わない理由はないだろ。」
「そんなことは聞いてねぇ。こんなわかりやすい場所、既に他の冒険者達が調査を終えてるに決まってんだろ。今更何を探す。」
「…昨日、ダンジョン18階層で
「…それがどうした」
「道中含めて俺が殺しただけでも14人。中にはレベル2も二人いた。幹部クラスの奴には逃げられたが、推定ではレベル4程度。……そんな多数の連中が、何故前触れも無くダンジョンに現れた?」
自身に問いかけるようなその言い方をするシキに、アレンが足を止める。
そう、不自然なのだ。
あの場に向かう途中、階層から離れる冒険者を追っていた者だけでも7人。18階層のフロア内では20を超える闇派閥が、殺戮の限りを尽くしていた。それこそ、【アストレアファミリア】の大半が応戦に向かうほどには。
違和感が決定的なものになったのは、ヴィトーと呼ばれた男が逃げた時だ。直接追うのは断念したものの、千里眼を使って姿を見ていた。しかしある地点から突然、千里眼の接続が切れたのだ。
つまり、そういった類の作用が効かないエリアに逃げ込まれたか。あるいは、シキ自身がそれを認識していない、存在を把握出来ていない場所に入り込まれたかのどちらかだと考えられる。
「ダンジョン内部には多数の目がある。当然、見た者全てを消したと考えられなくもないが、であればなんらかの異常が報告されてもおかしくない。レベル1や2の構成員がほとんどのことから、少人数で別々に移動したとも考え難い。……以上のことをふまえて可能性をあげるなら……」
「……てめぇまさか…」
「奴等がバベルからではなく、別の道を通って来たという可能性。つまり、ダンジョンへの扉が他にあることを指しているのではないか……ま、単なる憶測だけどな。」
ダンジョン内部へ繋がるもう一つの道。
それこそ、
「……それについては理解した。だが、俺の最初の質問には答えちゃいねえ。……てめえはどこまで掴んでやがる。」
「…さあな。依頼達成出来たら答えてやるよ。」
「ざけんな」
「ったく、わかったよ。
「頭かち割られてぇのか」
「やだね」
「…チッ、とっとと行くぞ」
「ああ」
そう言うと、二人の男は地上の迷宮へと足を踏み入れた。