聖女と直死


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作:あるけ〜
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ロキファミリアとの遭遇


冒険者の武器は様々だ。剣だけでも長さや幅、重さに違いがある。見た目が鮮やかな武器を持つ者もいるが、正直そういうものに限って耐久性があまり無かったりする。

 

また、槍を使う者も以外と多くいる。相手のリーチ外から一方的に攻撃出来るのは当然有利に働く。人間はかつてこの武器を使って地上の支配者となった。だが、高ランクの冒険者になるにつれて、槍を使う者は少なくなる。リーチが長い分取り回しの効きづらい槍は、どうしても扱いに高度な技術が必要とされるためだ。それを使いこなせるかは、使用者の技量に委ねられる。

 

そんな数々の武器を持った冒険者達が集まるダンジョン入口で、あまりに軽装で貧弱な武器を持つ少年がいた。

 

 

「…結局新しいナイフ買わなかったな。短剣だけは貰ってきたけど、やっぱり使い慣れてるナイフの方がいいかな?壊れた訳でもないのに新しいのを使うのは申し訳ないし…今日は中層手前まで行ってみるか。」

 

トーコに聞いた話、中層からはモンスターの出現率が圧倒的に増えるらしい。1人では相手をするのに手間取るかもしれない。潜るのはパーティーを組んでからにしよう。

 

昨日探索した5階層まではサラッと流して通り抜ける。できればまだ見たことのないモンスターの素材を持ち帰りたいところだ。

 

7階層まで降りたところで、蟻のようなモンスターの集団と遭遇する。顎をガチガチ鳴らしながら近づいてくる。

 

「「「「キシャー‼︎」」」」

 

「…気持ち悪ぃ。」

 

普通なら恐怖を抱くところだが、生憎恐怖には耐性がある。代わりに強い嫌悪感が出てしまい、視界に映った線をナイフでなぞり瞬殺する。飛び散る体液がかからないように注意しながら、魔石を回収しようとして顔をしかめる。

 

「…どうせ全部持って帰れないしいいか。」

 

一体分の素材だけ剥ぎ取り、残りは魔石を砕いて灰へと還す。この眼の欠点は、魔石を抜かないとモンスターが灰にならないことだ。そのため死体に直で触らなければならない。

 

「なんでモンスターってのはこんなに異形な奴が多いんだ。」

 

いくら簡単に殺せる相手でも流石に集団で来られると気持ち悪い。さっきも思わず眼を使ってしまった。使わないで済むならそうしたいが、素材を取る為には仕方がない。

 

ーさっさと11階層まで降りるか。

 

身を軽くかがめ、足を前へと踏み出す。

想像以上のスピードに危うく転びかける。

 

「危なっ、やっぱり神の恩恵ってすごいな。」

 

当然のように街に神がいるせいで実感が湧かなかったが、やはり神は神らしい。

 

「…まぁ本当に死ぬかはともかく、殺せるのはわかったな。」

 

神とは本来不明瞭なものであり、死が理解出来ないものに分類される。しかし、下界にその存在を降ろし、人間と同等の存在となった神にも、鮮明にとまではいかないが死の線が見えた。

線が見えるなら神であっても殺せる。もし自分やアミッドに害を成す存在がいるなら、殺すことに躊躇いはない。

 

「アミッドは嫌がるだろうけどな。」

 

彼女は人が死ぬことに忌避感を抱いている。当然シキも、人が死んでいくのを好き好んでいるわけではない。

しかしそこに理由があるのなら、それは人間らしい死として受け入れるだろう。人間は醜い生物だ。妬み憎しみで簡単に殺し合う。それは前世でも当然のようにあった話だし、特に何も思うことはない。こんな世界だ。明確な理由を持った殺人であれば、人を殺すことも迷わない。

 

そんなことを考えながら進み11階層まで降りていったところで、前方から歩いてくる3人の人影を目にする。

 

ダンジョンで他のパーティーに遭遇するのは珍しいことじゃない。基本は無干渉がルールで、出会っても話しかけるなんてことはしない。モンスターが大量に発生したりしている場合にはトラブルの原因になるらしいが、幸い近くにモンスターの気配はない。

なんてことを考えていると向こうもこちらの存在に気付く。気付かれたことに気付くも、特に用などない。無視してモンスターが現れるのを待つ。が、

 

「おや、こんなところに1人でいる冒険者なんて珍しいね。初めて見る顔だ。しかもまだ小さい子供だとは。」

 

「こんな階層にいるとは、小童にしてはやりおるようじゃ。おいお主、名は何という?」

 

「おいガレス。ダンジョンでは互いに不干渉だ。気安く話しかけるな。」

 

「まぁいいじゃないか、たまにはこういうのも。それにアイズのこともある。聞いておいて損はない。」

 

その言葉に背の高いエルフの女が黙るが、黙ってもらっても困る。こちらに会話するような意思はない。大柄の男(おそらくドワーフ)とシキより身長の低い少年のような男が近づいてくる。1メートルとちょいぐらいだ。あまりに小さい。小人族(パルゥム)というやつだろうか?

 

3人とも、ここより下の階層から登ってきて汗一つかいている様子がない。かなりの高レベルの冒険者だろう。流石に無視することは出来ないか。

 

「…誰だあんたら。」

 

思わず反発的な態度をとってしまうが、気にした様子もなく笑いながら答える。

 

「ハッハッハ!すまんな、儂はガレス・ランドロックじゃ。気軽にガレスで良いぞ。」

 

「確かに聞いておいてこちらが名乗らないのも悪いね。僕はフィン・ディムナ。こう見えてもロキファミリアの団長を務めさせてもらってるよ。」

 

「…リヴェリア・リヨス・アールヴだ。」

 

3人の聞き覚えのある名前に顔を引きつらせる。ロキファミリア、都市最強派閥のレベル5全員に話しかけられて普通にしろというのも難しい話だ。

流石にここは名乗らないとまずいだろう。

 

「…シキです、姓はない。所属はディアンケヒトファミリア。」

 

「ディアンケヒトファミリア?医療系ファミリアの団員がどうしてこんなところに?」

 

「薬草と素材の確保と、あとは資金稼ぎですかね。入って間もないんで金がないのと治療費払わないといけないんで。」

 

まぁヘファイストスさんとの交渉が上手くいったので、今後は定期的に金が入ってくるようになるだろう。…主神に全部持ってかれるかもしれないが。

 

「入って間もないだと⁉︎それでこんな階層にいるなど、死にたいのか⁉︎」

 

先程不干渉だと注意したくせに、エルフの女が突然大声で怒鳴ってくる。

 

「うるさ…。はぁ、レベル2でこの階層って潜りすぎなんですかね?受付では適正って言ってましたけど。」

 

トーコに適正と言われはしたが、この眼を使ってしまうと手応えがあまりにない。素材回収目的以外では極力使いたくない。

 

少年の言葉に3人の上級冒険者が目を見開く。レベル2、それにこれだけ若いともなれば小さかれ噂になる筈だが、シキなどという名前は聞いたことがない。

 

「…失礼だが、年齢を聞いてもいいかい?」

 

「?10ですけど。」

 

ーそういえばアミッドももうすぐで10歳になるな。…なんか用意してやろう。

 

質問に答えていると、後ろの方で壁に罅が入り、モンスターがぞろぞろと湧いてでる。

 

ーモンスターってああやって産まれんのか。…そういえばさっき魔石砕いちゃったから全然回収出来てねぇな。

 

「…すいません。あのモンスター貰ってもいいですか?」

 

「え?あぁ、構わないよ。」

 

あの量を1人で?まぁ実力を見るには丁度いい。本当にレベル2なら問題ないだろう。

 

「じゃあちょっと失礼しますね。」

 

その言葉と同時に駆け出し、ナイフを横に一閃する。

 

次の瞬間少年の姿はここには無く、慌てて向こうを見ると、遠く離れたモンスターの集団で次々と敵を斬り伏せていく少年の姿があった。

 

 

ー早い⁉︎ いや、まったく見えなかった。

 

レベル5ですら見えない動き。何かのスキルか、あるいは魔法なのか。武器も安物のナイフにしか見えない。小さな冒険者の想像以上の強さに戦慄する。

 

ー彼とは是非友好な関係を築いておきたいね。

 

脳裏に半年前入団した金髪の少女を思い浮かべる。あの子には歳の近い友達が必要だ。今度ホームに招待してみようか。

 

そうこう考えているうちに、少年が最後の一体を斬り伏せる。だがここでも異常な光景を目にする。

 

ーモンスターが灰にならない⁉︎

 

異常の連続に、少年の眼の色が変化していることには気が付かなかった。

少年が何やら死体を弄り、身体の一部を剥ぎ取ったと思うとそれをしまう。その後、魔石を抜き取るとようやく灰になり消滅する。全てのモンスターから魔石を抜き取ると、満足したのか戻ってくる。

 

「あれ、まだいたんですか?…なんかすいません、待たせてしまったみたいで。」

 

開口一番それか。と苦笑するが、なかなか面白いものを見させてもらった。

 

「いや、邪魔してすまなかったね。予想以上に強くて驚いてしまった。今度ディアンケヒトファミリアに世話になる時はゆっくり話したいものだ。」

 

「はぁ…」

 

流石にこれ以上は迷惑だろう。そろそろ退散するとしよう。

少年に別れを告げ、階層を離れる。

 

 

「…あの少年、どう思う?」

 

「さあなぁ。なかなかに腕が立つが、それだけではないのぅ…。」

 

「…彼がモンスターに向かっていった時…見えたかい?」

 

2人とも首を振る。

 

「僕も見えなかった…。それにあのナイフ、唯の安物にしか見えなかった。あれではハードアーマードの甲羅が切れるはずがない。」

 

魔法を使ったようには見えなかった。それではスキルだろうか。いずれにしろ彼が異質な存在であることは確かだ。ファミリアに支障をきたすとは思えないが、まだ彼については情報が少なすぎる。入って間もないとはいえ、そろそろ噂も出回ってる頃だろう。その辺りの情報も集めつつ、近々ある遠征の準備も進めなければ。

 

 

「それにしても儂らがいない間、アイズをどうするかが問題じゃな。」

 

「あぁ。遠征中はどうしても面倒が見られない。今日はホームのロキに預けているが、ずっと任せておくわけにもいかないだろう。幾分かマシになったとはいえ、何よりあの子自身我慢出来ない。」

 

「…さっきの彼に頼んでみようか。」

 

フィンの呟きにリヴェリアが目を剥く。

 

「なっ!彼は他派閥だぞ!何か問題があったら…」

 

「遠征は一週間後だ。…それまでに情報を集めて、彼に直接会いに行く。歳が近いし、彼はソロだった。ここらでディアンケヒトファミリアに恩を作っておくのもいいかもしれない。」

 

「…確かに、闇派閥(イヴィルス)の連中に呪詛(カース)を得意とするやつがいたな。」

 

「なるほどな。関わりを持っておくのもいいじゃろう。」

 

「よし。彼の方は僕で話をしてみる。リヴェリア、その間アイズを頼んだよ。」

 

「…わかった。ロキには私から話しておく。ガレスは遠征の準備を進めておいてくれ。」

 

「儂は雑用係じゃないんだがな…了解した。」

 

彼には今後世話になる予感がする。親指のうずきとは関係なく、フィンの長年の勘がそう告げていた。

 

 

 

「結局何が聞きたかったんだ?あの人たち。」

 

ロキファミリアの3人がいなくなり、1人になったところで考えてみる。

 

「まぁ別にいいか。素材も取れたし、今日はもう帰ろう。」

 

魔石と素材で一杯になったバックを背負い、3人が行ってしばらく経ったところで歩き出す。そこで、足首に僅かな痛みを覚える。

 

「いってぇな、さっきので挫いたか。」

 

ー急に慣れないものを"殺した"ためだろうか?

 

自分とモンスターの間を移動するのにかかる筈の時間。そんなものを殺せば、バランスを崩すのも仕方がない。

 

進んでいればいずれ辿り着く距離とはつまり、終わりがあることを示す。『目的地に着くのにかかった時間』なんて言葉があるが、これはその時間が終わった時に初めてわかることだ。終わりとは即ち"死"であり、死に至ることでその場所に着いたという結果が生まれる。限定的な時間における死とは、その時間が過ぎること。なんなら、時間をスキップしたと言ってもいいかもしれない。

 

例えば、『あのモンスターに向かって走る。』という行動を起こす時、自身の走る速さとは別に、そこに行くまでの時間と距離というものが発生する。

 

(道のり)=(速さ)×(時間)という法則がある。

 

この式の時間が0になれば、どれだけ速さがあってもなくても、必然的に道のりは0になる。時間の死とは、間接的に距離の死でもあるのだ。

 

これを発見したのは村にいたころだったが、

どんなに頑張っても大した距離に移動することが出来なかった。

 

ーひょっとして千里眼の影響か?

 

別の角度からの俯瞰的な光景を目にすることで、距離間が掴みやすくなったのかもしれない。もっと遠くが見えるようになれば、実質的な瞬間移動も可能だろう。距離が遠くなるほど死が見えづらく、脳に負担がかかるため何度も使いたくはないが。

 

 

アミッドは今頃治療院の手伝いだろうか?魔力に余裕が出来れば、いつか彼女の魔法が使われるようにもなるだろう。そうすれば彼女の夢に近づく。

 

「…早く帰ろう。」

 

自然と足が早くなる。時折現れるモンスターを魔石ごと貫きながら歩く。一緒にダンジョンに行けなかったことを拗ねてるかもしれない。

 

その日、ダンジョン上層で黙々と歩きながら、襲いかかるモンスターを無言で瞬殺する少年の情報がギルドで噂になった。

 

 




遂に出てきましたね…ロキファミリア。アイズと絡ませたいがための登場でしたが、そのせいで今回もアミッド要素が皆無ですね。次回こそは可愛い姿が見られるでしょう。
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