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まず感じたのは背中に当たる柔らかな感触。木々とは違う都会特有の匂いに目を開ける。
「…ここは…?」
身体を起こそうとして、左腕の感触があることに気付く。
ー?腕はワイヴァーンとの戦闘で失った筈。
思考がそこに至ったところで、隣にいる筈の人物がいないことに気付き、飛び起きる。
「ー⁉︎アミッド!」
近くにいた女性がいきなり飛び起きたシキに悲鳴を上げるが無視し、全速力で部屋を飛び出す。足に上手く力が入らず転びそうになるが、人の気配を探して廊下を走る。
まるで病院だ。似たような部屋を一つ一つ探して回るが見つからない。
「あっ、君!止まるんだ!」
「どけ!アミッドは何処だ!」
男性が呼び止めるも、蒼眼に睨まれ怯んだところを通り抜ける。
すると向こうからも走ってくる人影が見える。何かを探すように周囲を見渡しながら廊下を通り抜ける。服装は違うが、背格好と銀色の髪を見て誰であるか確信する。
「! 見つけた!」
駆け寄ってくる少女を腕を広げて抱きとめる。肌から伝わる熱が、彼女が生きていることを改めて教えてくれる。
「良かった…見つからないかと思うとかなり焦った。」
「…本当です。いなくならないと約束したのに…。」
「あぁ…でも、ちゃんと此処にいるだろ?」
「…はい。私も、此処にいます。」
子供をあやすようにして頭を撫でる。
少女の心を落ち着けたところで、今の現状を確認しようとする。
「ウォッホン!」
「「!」」
「まったく、こんな朝っぱらから院内を駆け回りよって。子供は回復が早いというのは本当じゃったか。」
後ろから髭を生やした白髪の老人が声をかけてくる。
「さて、2人共目が覚めたところでいくつか聞きたいことがある。辛いこともあるだろうが、答えてもらうぞ。」
「…あんたが俺達を治療したのか?」
「そうじゃ。」
「…この腕も?」
「それについては後で話すとするかのう。
とりあえず2人共、こっちに来るんじゃ。」
老人に促され、2人揃って応接室のような部屋に通される。老人と向かい合うようにして椅子に座り、質問する。
「此処は何処なんだ?」
「迷宮都市オラリオの治療院じゃ。同時に儂のファミリアのホームでもある。」
オラリオだと?それにファミリアと言ったか?自身のファミリアということは、
「…あんたは神。ミアハ、いや、医神ディアンケヒトか。」
「ほほ〜、よく儂の名を言い当てたな。ミアハと間違えられたのはムカつくが。
お前達はオラリオ南方にある村の子供で間違いないな?」
「「あぁ(はい)。」」
「お前達は6日前、焼け野原になった村で倒れているのを発見され、この治療院に運び込まれた。千切れたお前の腕も一緒にな。」
「「ー!」」
「…やはり…。」
「私達だけ…。」
「損傷が酷くはあったが、なんとか繋げることは出来た。その歳で義手ともなると、サイズの調節に手間がかかるからな。お陰でエリクサーまで使う羽目になったわい。」
なんと、千切れた腕を繋げるほどの回復薬があるらしい。前世や村の常識では考えられないことだ。
「…礼を言う。ありがとう。」
「まったく、妙に子供っぽくない奴じゃ。
それで、お前達を発見した近くでこいつを見つけてな。」
ディアンケヒトが机に出した物に、思わず腰を上げかける。この爪は、
「これはワイヴァーンの爪。まったく、死体丸ごと残ったものなど初めてみたわい。両翼が断ち切られ、首にナイフを刺したような痕がありおった。心当たりはあるかのう。」
「…それは…」
「俺が殺した。」
「ー!シキ…」
「…どうやったかを聞いてもいいかの?」
「それについては答える代わりに頼みがある。」
「…なんじゃ。」
「俺をこのファミリアに入れてくれ。」
「…ほう。」
「俺達には帰る家が無い。都市について何も知らないガキが歩き回ってもどうにもならないし、金だって持ってない。」
神に嘘はつけない。俺が今話してることは紛れもない事実だ。今の俺ではアミッドを守ることができない。それに眷属になれば、恩恵を刻み、ステータスを確認することもできる。両者にとって都合がいい。
「駄目じゃ。うちに子守をする余裕なんてないわい。面倒を持ち込むのは御免…」
「俺の殺した魔物、灰になっていないらしいな。」
ディアンケヒトが口が止め、姿勢を直す。
此方を見定めるように目を細める。
「ここは治療薬を作ってるんだろう?俺達は今まで村で薬の作り方を学んでたんだ。少しは役に立つだろう。それに、モンスターの死体が残るなら素材も取り放題だし他のファミリアに全面的に頼る必要はなくなる。恩恵無しでモンスターを倒してんだ。そちらにも利益の出る話だと思うぜ?」
ふむ…。と顎に手をおいて考え始める。
「…それに、腕の治療代を払わなくちゃな。」
「…ふ、ハハハハハ!まったく生意気なガキじゃ、気に入ったぞ!悪くない取引じゃ。ただし、金はしっかり払ってもらうからな。」
大きな声で笑い了承する。
見かけ通りの豪快な神だ。
「あぁ、それで構わない。」
「それで?お前さんはどうする。」
と、アミッドに声をかける。
「私は…」
「アミッド、金と居場所については心配するな。お前1人、俺が絶対に養ってみせる。」
その言葉に首を振る。
「私は…もう誰も死なせたくない。この手で掴める命を救いたい。だから…」
席を立ち、頭を下げる。
「私も、貴方のファミリアに入れてください。」
「…ふむ、よかろう。その歳でそこまでの心意気、見事じゃ。それに、ガキが1人も2人も変わらんからな。」
「ー!ありがとうございます。」
「本当にいいのか?アミッド。冒険者になれば常に危険と隣合わせなんだぞ。もしお前に何かあったら…」
「私自身で決めたことです。シキ1人で危険な所に行かせるなんてもっての他ですから。」
それに、と続け、
「シキは私を守ってくれるんでしょう?もしもなんて起こりませんよ。」
微笑みながらそんなことを口にする。
ーホント、いきなりそんなことするのやめてくれ。心臓止まるかと思った。
「ハッハッハ!これだから下界の子供は面白い!よし、早速恩恵を刻むとするかの。さて、お前達の名は?」
「シキだ、姓は無い。」
「アミッド・テアサナーレです。」
「シキにアミッドよ。これより2人を我がディアンケヒトファミリアに迎え入れる!しっかり働いてもらうぞ!」
やることは決まった。俺達はここで生きていく。そのために出来ることはなんでもやっていかなければ。