「生成AIで声優はピンチ?」――大手事務所代表が回答 音声AIで“声の保護と多言語化”する団体に参加したワケ
「生成AI(の普及)は声優にとってピンチではないのか」――大手声優事務所であるエイティワンプロデュース(東京都渋谷区)の南沢道義代表は11月19日、音声AI技術を活用し、声優や俳優の声の権利保護に加え、日本語以外の多言語化を目指す団体「声の保護と多言語化協会」の設立発表会に登壇。生成AIと声優業を巡る今後の展望を明かした。 【画像を見る】声の保護と多言語化協会の概要【全5枚】 同協会は14日に設立。元小学館社員で、アニメ映画のプロデューサーなどを務めていた久保雅一氏が代表を務める。エイティワンプロデュースに加え、AI音声サービスを展開する米ElevenLabsや、AI音声サービスを提供する事業者が集う団体・日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS)が参加する。 声優や俳優の声の権利保護には、ElevenLabsのAI音声技術を利用する。声紋や抑揚などから正規のAI音声を確認するElevenLabsの技術「VoiceCAPTCHA」や、音声に埋め込む独自の電子透かしなどを活用。正規のAI音声と海賊版との識別により、声の不正利用防止につなげる。 また、声の多言語化では、ElevenLabsのAI音声の多言語化技術を活用する。同技術は、話者の声の特徴を保ちながら、声優や俳優の声を30以上の言語に翻訳できるという。これにより、日本のアニメやドラマ、映画の海外展開を後押しする。 なぜ、声の多言語化に特化するのか。久保氏は、アニメ市場において特に海外の売上が伸びている一方、海賊版のAI音声などの問題も顕在化していると指摘。「海外における日本の声優・アーティストの人気は高い。彼らの力をもっと海外展開に生かせれば、日本のアニメのリーチがさらに広がり、ファンも多くなる」と分析した。
声優と生成AIの今後は? 南沢代表の見解
発表会に登壇したエイティワンプロデュースの南沢道義代表は、声の保護と多言語化協会の設立に関連し、生成AIと声優業を巡る今後の展望を語った。南沢代表は「声優の声の保護と多言語化は、私たちの喫緊の問題」と説明。「生成AI(の普及)は声優にとってピンチではないのか。仕事がなくなるのではないのか、といった質問をよく受ける」と明かした。 これに対し、南沢代表は「ピンチもチャンスも、私たちの日々の中では背中合わせ」と回答。自身の声優業界での取り組みを振り返り「先輩たちから教えられた芝居や業界、さまざまでルールを日々大切にしながらここまでやってきた」と述べた。 一方で「声優の立場や文化を守ってほしい、という一方通行では難しい時代」と南沢代表。「新しい文化やシステムとどう向き合うのか、大変難しい問題ではある」としつつ、「私たちも一歩踏み込んでみよう」との意気込みで、声の保護と多言語化協会に参加した。 「業界の仲間や声優仲間とともにこの問題を議論し、新しい海外向けの声優ビジネスができれば本当にうれしく思う」(南沢代表) また発表会では、アニメ「アンパンマン」のメロンパンナ役などで知られる声優のかないみかさんが、ElevenLabsの技術を活用した声の多言語化を披露した。まず、かないさんが1人で2役を演じ、短い掛け合いを日本語で実演。その様子をスマートフォンのカメラで撮影した。その後、約20分間で、AI音声により英語や中国語、フランス語などに吹き替えられた動画を作成して公開した。 米ElevenLabsの日本法人であるイレブンラボジャパン(東京都千代田区)の田村元氏によると、事前にかないさんの声を学習したAIを利用したわけではなく、その場で撮影した映像の音源データのみを参照して多言語化したという。実際の制作現場で多言語化をする際には、事前に声を学習させたAIモデルを利用し、音響や演出なども調整。よりクオリティーを高められるとアピールした。 かないさんは、実演されたAI音声に対し、つい先ほど録音した自分の声のため、どれほど似ているかは「客観視できない」とする一方「このままクオリティーがどんどん上がれば良い」と説明。声を声優や俳優に無断で利用しないことを前提に「私たちもAIと反対ではなく、うまく融合してやっていければ、みんなが逆に助かることにもつながる」と語った。
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