今年の7月8日参議院選挙のまっただ中に安倍元首相が山上容疑者に射殺された事件は世間に大きな衝撃を与えた。当初は政治テロだとか、安倍元首相の長期政権の成果を無条件で称え、国葬の実施するところまで突き進んできた。しかしながら、山上容疑者の殺害の動機が母親が旧統一教会(以下、「統一教会」という)の信者となり、多額な献金を繰り返し、山上容疑者がそのため進学を断念し、以後職を転々とする生活を余儀なくされてきただけでなく、兄までが自殺するという悲惨な家族崩壊の実態が明らかにされてきた。山上容疑者はその責任の一端が安倍元首相にあると思うに至り、今回の蛮行に及んだことが徐々に明らかにされた。もちろん、このような蛮行は許されるものではなく、凶弾に倒れた安倍元首相に哀悼の意を表するのは当然のことである。

 しかしながら、そのことと安倍元首相の長期政権を無条件に賛美し、国葬まで行うということには強い違和感を覚える。安倍政権の時代に起こった森本、加計問題、桜を見る会などの金権体質が未解決のままにされてきたことを忘れてはならない。
 また、今回の安倍元首相と統一教会との関わりの親密さが徐々に明らかにされてきた以上、統一教会の反社会性を明らかにし、それと安倍元首相を初めとする政治家との関わりや実体をうやむやにすることなく、その責任追及がなされなければならない。
 私は、1980年代に大きな社会問題になった霊感商法の被害救済の時から関わってきて、今日まで、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、「全国弁連」という)の一員として統一教会の反社会的活動を追求し続けてきた。1980年代に起こった霊感商法の被害について、被害相談を実施し、被害者を組織して、4億円ほどの損害賠償訴訟を提起した。この訴訟は統一協会側からの和解申し入れにより、勝利的和解で終結した。

 次に、統一教会の元信者3人が統一教会の違法な伝道により信者にさせられ、青春の大事な時期を無為に過ごしてしまったことによる損害賠償を統一教会相手に提起した。これはいわゆる「青春を返せ裁判」といわれ、東京、札幌、新潟、岡山の各地裁で裁判が争われた。いずれも統一教会の違法性が認められ、神戸の青春を返せ訴訟も2003年10月に最高裁で勝利した。
 このように、2003年には統一教会の反社会性は最高裁により認められており、その後も違法献金に対する訴訟が各地で提起され、最近に至るまで、いずれも勝訴が続いている。統一教会(現世界平和統一家庭連合)は今回の件の記者会見で、2009年以降コンプライアンスを徹底し被害がなくなったなどと言っていますが、真っ赤なうそです。この点については、全国弁連が声明を発表し、この35年間で3万4537件の相談があり、被害総額は約1237億円に及んでいること、最近の5年間でも約580件の相談が寄せられ、約54億円の被害があることを明らかにした。これは氷山の一角でしかなく、山上容疑者の母親のように明らかにされていない被害額ははるかに大きく、被害総額は軽く1兆円を超すのではないかと推測される。

 全国弁連は、これまでも統一教会の反社会性を明らかにし、文部科学省に対しても統一教会の宗教法人の法人資格を取り消すように要求してきた。しかしながら、今回明らかになったように、統一教会は政治家に取り入り、2015年には統一教会の名称を世界平和統一家庭連合に変更することに成功した。
 統一教会が各地で行っている統一教会の名前を隠した数々の講演会で、国会議員、著名人や自治体の賛同を取り付けてきた。全国弁連はこれらの情報をキャッチしたときは当該著名人等に文書を送り、賛同を取り消すよう求めたりした。当初は全国弁連の要請を受けて、賛同を撤回したりしていたが、今回明らかになっているように安倍元首相をはじめとする政治家が賛同や講演の挨拶をするようになり、なかなか成果を上げるのが難しくなってきている。
 全国弁連は2019年9月17日に安倍元首相に統一教会や正体を隠した各種イベントに参加したり、賛同のメッセージを送らないよう求め、9月27日にも国会議員に同じような要望書を送った。しかし、いずれも無視され、今日まで講演会への参加や賛同メッセージが寄せられてきた。

 統一教会の反社会性は、その勧誘の手口にある。正体を隠したアンケート調査や手相占いで巧みにビデオセンターに誘い込み、ビデオセンターで統一原理と分からずにビデオを視聴させ、2ディズ、4ディズと合宿の中で統一原理をたたき込み、先祖の因縁で家族が不幸になっていると脅し、被害者が氏族のメシアとなって救わなければならないとの信念を植え付け、このようにして統一原理を受け入れるまで、誰にも言わないように口止めし、統一原理を受け入れる段階になって、統一協会であることを明らかにするというマニュアルのもとで信者を作り出してきた。この間も先祖を解放するための献金、物品を購入させ、信者になった後も、月例献金その他の献金継続させている。その結果山上容疑者のように2世信者が悲惨な生活を送らざるを得ない事態が起こっており、家庭崩壊を招いている。

 このような統一教会の違法な伝道マニュアルの中で、日々信者の再生産が行われ、教会のイベントに参加させられ、その中で安倍元首相や著名な国会議員、トランプ元大統領のメッセージを聞くなかで、統一教会が認知された団体と錯覚させられ、信仰心が強化されてしまう結果をもたらしている。このように、安倍元首相を初めとして、統一教会に賛同を寄せる国会議員等の責任は重大である。

弁護士 吉井正明