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茂木外相の「中国側に適切な対応を求める」対薛剣措置はペテン? まもなく薛剣の任期満了を知っているはず

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
高市内閣における茂木外相写真:REX/アフロ

 茂木外相は訪問先のカナダで、11月12日午後(日本時間13日午前)、薛剣(せつけん)総領事のXへの投稿に関して「日中関係の大きな方向性に影響が出ないように、適切な対応を中国側がとるように強く求めていく」と言ったが、これはペテン師のようなやり方だ。

 なぜなら、薛剣が大阪の総領事として赴任したのは2021年6月29日で、今年の11月28日で着任から4年5ヵ月経つことになる。これまで大阪総領事で最も在任期間が長いのは4年4ヵ月。だから薛剣は任期満了で、まもなく帰国するはずだからだ。

 二度も外相を務めたことのある茂木外相はそのことを十分知っていて「中国側に対応を求める」などと言って日本国民を欺いている。

 茂木外相は「中国側に対応を求める」のではなく、「薛剣が日本国内にいるうちに厳罰を科すべき」である。

◆中国の駐大阪領事館、総領事の任期

 図表1に、これまでの中国の駐大阪総領事の任期を大阪総領事館のデータに基づいてまとめてみた。

図表1:歴代駐大阪総領事の任期

大阪総領事館のデータに基づいて図表は筆者が作成
大阪総領事館のデータに基づいて図表は筆者が作成

 図表1から明らかなように、在任期間が4年あるいは4年を超える総領事は黄色で示した「2、5、6、12、15」番目の5人だ。過去において最長は12番目の「4年4ヵ月」。

 今般、高市総理に11月10日のコラム<高市総理に「その汚い首は斬ってやる」と投稿した中国の大阪総領事は国外追放に値するレベル>で書いた「殺人予告」のような恫喝をXに投稿した薛剣は、15番目にあるように「4年5ヵ月」と最も長い。過去において最長は13番目の「4年4ヵ月」なので、薛剣だけが異様に長い。おそらく大阪万博などがあったせいだろうとは思うが、11月29日で6ヵ月目に入るので、11月28日くらいに「任期満了」で帰国することになっているのではないかと推測される。

 二度も外務大臣をやり、中国の王毅外相とも昵懇(じっこん)の仲にある茂木外相が駐日本国の中国大使や総領事の任期を知らないはずがない。

 本来なら即刻、薛剣を国外追放すべきところ、「中国に対応させるよう求めた」などとして、あたかも日本が厳しい措置をしている顔を日本国民に見せ、実は「任期満了」で帰国するのに、帰国したら「ほらね、俺が厳しいことを中国に言ったから、中国が薛剣を中国に帰国させたんだよ」と日本国民に言うつもりではないのか?

 だとすれば、茂木外相は日本国民を騙そうとしていることになる。まるでペテン師ではないか。

◆中国に頭が上がらない日本政府

 2020年11月30日のコラム<日本の外交敗北――中国に反論できない日本を確認しに来た王毅外相>に書いたように、2020年11月24日に、訪日していた中国の王毅外相は当時の茂木外相と会談し、会談後の記者会見で「最近、一部の正体不明の日本の漁船が釣魚島(尖閣諸島)のデリケートな海域に侵入している。中国はそれに対して必要な対応をするしかない。この問題に関する中国の立場は非常に明確で、われわれは今後も引き続き中国の主権を守っていく」と述べた。

 尖閣諸島は11月12日のコラム<薛剣・大阪総領事に問う:毛沢東や周恩来は「尖閣諸島は日本の領土」とみなしていたのをご存じか?>で書いたように、れっきとした日本の領土であるだけでなく、毛沢東や周恩来などがかつて「(尖閣諸島を含む)琉球諸島は日本の領土で、ただの一度も国際協定では日本の領土であることから離脱したことはない」と断言している。

 それを当該コラムに書いたような経緯で「台湾のものは中国のもの」とばかりに、いつの間にか完全に「尖閣諸島は中国古来の領土」で、尖閣諸島に関する「中国の主権」を守ると王毅は言ったのだ!

 これに対して茂木外相はその場で反論することもなく、日中外相会談は有意義で喜ばしいものであったという趣旨の感想を述べている。

 茂木外相はこの時の会談では、日本は尖閣問題に関して「遺憾の意を伝え」かつ「改善を強く求めた」と言い訳しているが、中国側に百万回「遺憾の意」を伝えたところで中国はビクともしないし、「改善を強く求めた」と言ったところで、中国側は「中国の領土領海に日本の漁船らしきものが不当に侵入してくるのはけしからんことで、これを追い払うのは中国の当然の権利であり、追い払う際に船舶の衝突が起きないような海上のメカニズムだけは整えてもらいたい」という姿勢でしかない

 このような見るも無残な日本の外交敗北は一体どこから来たのかと言うと、前掲の11月12日のコラム<薛剣・大阪総領事に問う:毛沢東や周恩来は「尖閣諸島は日本の領土」とみなしていたのをご存じか?>の最後のパラグラフで書いたように、長きにわたって続いた自公連立内閣の自民党内における「組織文化」が大きな原因の一つだ。

 尖閣諸島領海に中国の船舶が侵入していることに対して鈍感になり、神経がマヒしてしまって、それが常態化してしまったからだ。

 これは台湾有事よりも恐ろしいことである!

◆中国船舶の尖閣侵犯を常態化させることによって中国に舐められている日本

 海上保安庁が公開している<中国海警局に所属する船舶等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数>を図表2に示す。

図表2:中国海警局に所属する船舶等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数

海上保安庁のHPから転載
海上保安庁のHPから転載

 図表2をご覧になれば一目瞭然だが、中国船舶の領海内侵入と接続水域入域の回数には目を見張るものがある。これを長きにわたって日本は「見て見ぬふり」をしてきたのだ。

 このようなことを継続させれば、当然中国は「日本をどんなに侮辱しても、日本は怒らないから大丈夫!」という気持ちになる。

 今般の薛剣のXにおける暴言は、日本のこの「マヒした精神」が招いたものである。

 「日本を舐めている中国」を創り出したのは自公連立政権でマヒしてしまった自民党議員の「組織文化」だ。

 冒頭に書いた茂木外相の「適切な対応を中国側がとるように強く求めていく」という言葉が、いかに日本国民をうまく騙して、中国を怒らせずに逃げた「ペテン師の手法」であるかを、日本国民は見抜かなければならない。

 茂木外相は直ちに「適切な対応を中国側がとるように強く求めていく」ではなく、「日本政府が厳重な処罰を薛剣に与える」に切り替えていただきたい。その決断を求める。

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中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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