批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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じつに空虚だった。10月4日に高市早苗氏が自民党総裁に選ばれたあと、21日に臨時国会で総理に選ばれるあいだの大騒ぎのことである。
自公は衆参両院で過半数を割っていた。野党が結集すれば確かに政権交代の可能性がある。立憲は早くも8日には野党統一候補として国民の玉木雄一郎代表の名前を挙げた。
当初は現実味を欠く提案と考えられたが、10日に公明の連立離脱が報じられると情勢が一変した。総理選出に必要な衆院過半数は233だが、自民単独の議席数は196。立憲と国民に維新または公明が加われば自民を超える。高市氏に批判的なリベラル派を中心に玉木首相待望論が巻き起こり、連日数合わせの議論がメディアやSNSを賑わせることになったのだ。
しかし、今となっては明らかなことだが、その熱狂は完全な空回りだった。
結果論ではない。立憲と国民は安全保障やエネルギーなど基本政策で相入れない。玉木氏は連立はありえないと主張し、その態度を最後まで変えなかった。肝心の玉木氏と調整がつかない以上、統一候補は絵に描いた餅でしかない。これは最初から明らかだったはずだ。要は、リベラル派は、高市総理誕生という現実から目を逸らしたかっただけなのである。
別の角度から言えば、この騒ぎで改めて浮かびあがったのはマスコミと政治評論の極度な質的低下だ。
高市氏への警戒感はわかる。かねてより保守的言動は問題視されていたし、総裁選時には排外主義への親近感を隠さなかった。裏金問題もなし崩しになった。とはいえ、とにかく総理就任さえ阻止すればよいとばかりに高市氏に批判を集中させ、実現可能性の低い政権交代の夢を嬉々として報じてきたマスコミの姿勢に、とても客観性や公平性があったようには思えない。
少なからぬ国民が高市氏を支持している。参政党をはじめ保守全体が伸びている。リベラル派がいかに認めたくなかろうと、それは動かしがたい事実だ。今政治報道に求められるのは、リベラル派の現実逃避を垂れ流すことではなく、その厳しい現実に直面し分析する力である。
※AERA2025年11月3日号
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