神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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割れる、壊れる、砕け散る

 

 

 

 

 私という存在を構成しているテクスチャが、ほんの一部剥がれた。

 

 

 箇所は下腹部、臍下。

 剥がれた部分は約2.5cmの円形に近いもの。指先程度の大きさではあるものの、それは確かに存在している。

 

 今回剥がれた箇所はそこ以外には無い。

 ミメシスの私にも手伝ってもらい体中の隅々まで確認したが、臍下だけが剥がれていただけ。

 下着の中も確認したが無し。

 

 

 肌表面が破れた先、向こう側に見えるのは青白い神秘の輝き。

 プラネタリウムを思わせるような、きらきら無数の煌めきが小さな孔を隔てて広がっている。

 

 

 

「……貫通はしないんだ」

 

 

 

 指先を剥がれた孔の中心に突き立ててみるも、柔らかな肌の感触に防がれる。

 表面上は肌として存在しているらしい。

 指先の形、爪の硬さなどがしっかり伝わってきている事から、テクスチャが剥がれた場所も感触は機能している様子。

 

 

「そしてこれ以上拡がりもしない、と」

 

 

 続けて爪先で孔の縁を剥がすようにカリカリと引っ掻いてみるものの、何も引っかかる様子はなくただただお腹の表面を滑るばかり。くすぐったいだけ。

 

 

 なるほど。これ以上にテクスチャを剥がしたかったらまた他の神秘を取り込んでいく必要があると。実に分かりやすい。

 

 

 これからどんな変化が訪れるか俄然楽しみになってきた。

 ……お臍だけ剥がれてるっていうのも何だか格好が付かないのだが、まぁ衣服で隠せば見えなくなるもので済んで何よりといった所。

 

 さて、次はどの生徒の神秘を合成させようかな……ステップアップとして私と生徒ではなく異なる生徒同士の合成も行ってみようか。どんな神秘が見れるかな。

 

 経過観察などまだるっこしい事など待っていられない。今すぐ試さなくては────! 

 

 

 

 

「────○○さん。黒服です」

 

「あ、黒服さん。どうぞお入りください!」

 

 

 研究室の扉を静かにノックする音。黒服さんだ。……扉の向こうにそれ以外にも気配がする。……軋む音からしてマエストロさんに……他は誰だろう。まぁ黒服さんが連れているのだし、私に不利益な方ではないだろう。

 

 

「失礼致します。……おや、お着替えの途中でしたか」

 

「あぁ、いえ、お構いなく。それよりも、是非ともこれについてご意見頂ければ!」

 

 

 剥がれたテクスチャ観察の為に上半身下着姿のままであった私に配慮して扉を再び閉めようとする黒服さん。

 が、恥じらいよりも真っ先に確認して欲しいのでさっさと迎え入れる。

 

 そして、私の全体像を視界に収めた黒服さん。目にあたる頭部の白いパーツが、途端に見開かれたように揺れ、私を射止める。

 

 

「──ッククク、これはこれは……!」

 

 

 とてもとても愉しげに笑い始める黒服さん。

 

 あっ、段々と笑いのボルテージが上がって……うわっ口端がすんごい事に! すんごい事に! 

 

 

「黒服、何を興奮している…………なるほど、そういう訳か」

 

「えぇ、えぇ。実に、実に素晴らしい事です。生徒同士の神秘の合成という私共では得られなかった結果、その果てを見届けられる時が遂に近付いてきたのです」

 

 

 軋む音と共に入室したマエストロさんが私を見つめて、合点が行ったように頷いた。

 やはりこの成果はあちら側にとっても興味深いものらしい。ようしよし、たっぷり第三者視点からのご意見を賜ってモノにしてやるぞ。

 

 

 とその時、カツン、と硬質な音と足音が床を叩きながら部屋の中へと入ってくる。

 

 扉の前に控えていた3人目の方。

 

 きっちりとコートを纏ったその人は、首から上は無く、立ち上るような黒いモヤに覆われている。例に違わず、異形の頭部を有している。

 その手にはステッキを、その片方には写真の入った額縁を。

 

 

「ゴルコンダ、デカルコマニー。見るが良い。この生徒の有り様を。テクスチャの乱れ様を。テクストの崩れ様を。歪みの極致、とも言うべき様を」

 

「分かっていますとも。それよりも先ず、自己紹介の場を設けて頂きたい」

 

 

 ぎしり、と忙しなく体を軋ませるマエストロさんに応対したのは額縁からの声。

 額縁の中、後ろ向きに映ったシルクハットの男性。

 これは……首と体が分離した、デュラハンのような方なのかな? 

 

 そう思案していれば、その方が近付いて来る。思わず背を正して向き直った。

 

 

 

「では、我々と同じく神秘を求める探究者よ。改めて自己紹介と参りましょう。私はゴルコンダ。そして私を抱えているこちらの方がデカルコマニーと申します。以後、お見知り置きを」

 

「そういうこった!」

 

 

 あっ、体と頭の人格分かれてらっしゃるんですね? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───つまり、私の今の状態は貴方方にとっても全くの未知、という事なので?」

 

「えぇ。異なる神秘を掛け合わせ、少量ずつ投与する……といった方法は、我々もまだ手を出していない領域。ましてや貴方のように、自分の意思でもってテクストを書き換えようと試みた者は居りません。正直、結果や過程がどの様になるのか……それは全くの未知であると言わざるを得ません」

 

「そういうこった!」

 

 

 自己紹介を済ませ、ゲマトリアの方々と私の状態の経緯や考察などを話し合う事しばらく。

 話の要約をして下さるゴルコンダさんに、デカルコマニーさんが快活に同意する。

 ……ゴルコンダさん曰く、お2人は互いに「虚像」と「非実在」を象徴する相棒であり、『記号』であるとの事。

 なるほど。2つで1つ、互いと互いを補う1。ガッチリと嵌り合うパズルのピースが如し関係性。なかなか良い。

 

 

 今の私は、私という存在を覆うテクスチャが一部のみ剥がれて、中身の神秘という私の根幹そのものが露出している。

 加えて、私という存在を固定しているテクストの一部が書き換えられ、私の神秘に揺らぎが生じている。

 そんな状態であると告げられる。後日詳しく調べてみるつもりではあるそうだが、分かる事は少ないだろう、とも。

 

 

「貴方の状態は実に不安定でありますが……その逆、均衡を取れている、とも見れます。全く、退屈をさせてくれませんね、貴方は」

 

 

 合成神秘とその実験について纏めたレポートから目を離さずに黒服さんは含み笑う。

 不安定……と称されたが、どうなのだろう。少なくとも自己認識では私という意識と人格は揺らいでいないつもりなのだけど……。

 

 取り込んだ神秘に人格が乱される、といった事態も今の所確認できていない。

 これからも神秘を取り込んでいくとその内異常も起きてくるのかな。私の人格が変わったり、破綻したり……それとも、取り込んだ神秘が混じり合って、全く異なる新たな人格が生えてきたり、私という存在と意識が塗り替えられたり押し潰されたり? 

 うーん……まともに実験を続けられる精神状態を保ちたいなぁ……。

 

 

 

「……所で、この事はまだ?」

 

「えぇ、伝えておりませんとも。互いに益がある訳でもないでしょう」

 

「妥当でしょう。その方が我々にとっても都合が良いかと」

 

「まあそういうこった!」

 

 

 マエストロさんが黒服さんに何やら疑念を尋ねる。その黒服さんの返しに、だろうとも、と他の2人がしきりに首を振っている。

 ……益という言葉が出る辺り、件のゲマトリアの方かな? この調子では、私と出会わせるつもりは毛頭無いんだろうな。

 というか他のメンバーにそこまで言わせる方って逆に気になってくるなぁ……いや、会いたいとは思わないけど。遠くで眺めてはいたいけどお近付きにはなりたくない感じの人ってイメージが勝手に私の中に積み上がってるけど。

 

 

「ふむ……短期間に多数の神秘を取り込んだにしては、やはり安定し過ぎているようにも思えますね。ご自身でも変化は見受けられないのですか?」

 

「えぇと、そうですね。少なくとも、他の神秘が私の意識に混ざってきたりはしていない……筈です。あくまで自分の認識では、ってだけですけど」

 

 

 これまで計13名。それぞれ異なる生徒の神秘を私の内に取り込んだが、口調や趣味趣向、自意識、体型の変化など発生していない。

 あくまで変化が起こったのは、肌表面の剥離、神秘の露出、増強された神秘によって攻撃力、耐久力が増した程度のみ。

 極々小さなものではあるが、私にとっては偉大な進歩、確かな結果に違いないのだ。

 

 これから先、神秘を取り込んでいくに連れて、自分の肉体に何が起こっていくのか……それがとても楽しみなのは、何があっても変わりはしない。

 

 死ななければ大抵、何とかなるもの。

 とにもかくにも、これからも研究は続行だ。まだ何もかも試し足りないのだし、意欲が湧いて出てきて止まらない。

 ううん、私の神秘が滾って仕方が無い。

 

 

 

「ククッ。貴方の辿る道程、その結末……どの様に至り、何を得るのか……それを楽しみにしていますよ、○○さん」

 

 

 より一層研究に励む気概が溢れてきた私を見て、黒服さんが顎を摩りながら朧な瞳を向けてくる。

 

 どうやら明確にこうしろ、という命令をする訳では無いらしい。ならば、私のやる事は変わりはしない。

 

 何時も通り、やりたい事を、やりたいだけ……のびのび自由に研究して、突き詰めていくまで。

 

 

 必ずや、神秘の何たるかを解き明かして、探究してやるとも! 

 

 

 その際には……あぁ、たくさん手伝ってくれた人にも、見せて回ろう。

 色んな人に、そして先生にも。

 

 待っててくださいね。センセーショナルな成果をお見せして度肝を抜かしてあげちゃいますから。

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒服さん達が一度お帰りになり、再び私とミメシスの私だけになった研究室。

 ほんのりと頭を悩ます事態になってしまった。

 

 

 改めて、私のテクスチャの一部が剥がれた事について。

 

 

 それに伴って、地味に困った事が起きてしまったのだ。

 

 

「うーん……分かりやすくひび割れてるなぁ……どう誤魔化そう……」

 

 

 

 鏡の前に立って、頭上に浮かぶ私のヘイローを良く眺める。

 

 中心から広がる翼を囲うような円輪。

 その外周部分、後頭部側のそこにひび割れが生じている。それも結構分かりやすく。私からは見えにくいのだけど。

 

 本来生徒間であってもヘイローの形状は認識できないので、ひび割れがあったとて気にはされないだろうけど……先生に見られてしまうとまずいなぁこれは。

 

 

 ……あ、いや待て。

 私達ヘイロー持ちが絶命した時、ヘイローが割れるというのは誰しもが分かっている共通認識だ。以前の私もその認識だった。

 

 ヘイローの差異は分からずとも、ヘイローが割れる、という現象自体は認識できるのだ。

 

 

 ……なら、私のヘイローのひび割れにも、気が付く……? 

 

 

 うーん、気になるから確かめたいけどそうだったらそうだったで面倒な事が起こりそうで……ただでさえユウカさんやらノアさんやらマイスターの方やらに心配されているのだからもう……

 

 

 そうでなくとも、生徒のヘイローを見分ける事のできる先生に出会ってしまえば一発で異変を見抜かれる。そして追求もされることだろうし……改めてどうしよう。誤魔化すにしてもヘイロー割れ=死のイメージがあるキヴォトスではこの状態で素直に出歩かせてくれる程お気楽ではないはず。

 

 

 ……ホログラム映像を私に向けて投影して、以前と同じ姿とヘイローを映して見た目を誤魔化す他ないかな。

 

 

 

 という訳でホログラム投影装置を手早く組み上げる事とした。

 

 コレは以前エンジニア部に依頼された機器の流用をして……と。

 

 この依頼をしてきた子はミレニアムタワーサーバールーム夜間警備の子。警備中寝てても起きているように見える装置が欲しいって内容だった。

 

 ミレニアムが誇るミレニアムタワーのサーバールームの数は実に多く、その夜間警備の子が担当していたのは比較的奥まった区域の方。

 サーバールーム内部と周囲は警備カメラ、無人オートマタ、押収した不法戦闘ロボを改造した警備ロボ……その他多数で厳重に警備されている。突破する所か蟻一匹侵入する事も困難。じゃ自分1人寝てても問題ないじゃん? との事。

 

 

 需要があれば、そして依頼があればそれに応えるのが我らエンジニア部。早速マイスターの皆と頭を突き合わせあーでもないこーでもないと開発会議をする事1、2時間。そこから開発する事3時間で完成したのがこのホログラム投影装置。

 

 限り無く精巧なホログラム映像を対象表面へと覆い被せるように映し出す、精度抜群の代物。

 

 

 依頼者の子は喜び勇んで夜の警備に使用していった。

 

 起きている状態の彼女を常に映し出すように設定した後は、警備中ずっと居眠りしていたらしい。それでもしばらくバレなかったのだから全く良い出来の物を作れたと皆と一緒に自分達の腕に感心し切ったものだ。

 

 

 ……数日後、運悪く担当していたサーバールームにコユキさんが侵入し、大騒ぎを起こした末に大脱走。その時もずっと居眠りをしていて対応が遅れた彼女が責任追及をされた際にホログラム投影装置の事がバレて、コユキさんとは別口の反省部屋に入れられたそう。

 

 ついでに私達にもユウカさんからの鬼の雷が落とされた。ひぃん。

 

 

 

 

 

「よーしよし、これで問題無さそう……うん、しっかり映ってるね」

 

 

 ……そんな思い出があるホログラム投影装置をちょちょっと弄り、対象は私のヘイローに絞った。

 手のひらに収まるポータブル型な其れを早速使用してみれば、何の傷も無いヘイローが私の頭上に浮かんでいた。しっかりとホログラムが投影されている。

 

 一応、ヘイローを見れる黒服さん達にも確認してもらった所、問題無しと判断された。これでヘイローは何とか誤魔化せるだろうとホッと一息吐いた。

 流石私、完璧〜。これには心の中のユウカさんも太鼓判だ。

 

 これにてホログラム投影装置『かぶせる君』の完成だ。

 

 

 さて、『かぶせる君』の性能試験も兼ねて学校に行かないと。

 納期の近い依頼もあったし、ばりばり部活もしちゃうぞ〜っと。

 

 

 あ、ミメシスの私。私が居ない間に私とこの神秘を合成して保管しておいてね。失敗成功に関わらず記録を残して、合成できた神秘は写真にも残しておいてね。それじゃよろしくね〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

 

 

 結果からして、『かぶせる君』はその役目を立派に果たしてくれている。

 

 エンジニア部に始まり、開発機器の納入やらその他の用事で今日は校内を歩き回った日だったが、ヘイローに関して何か言及される事も疑問に思われる事もなかった。素晴らしい。思った通りの成果に思わずほくほくで鼻歌も奏でちゃう。

 

 

 ……どうやら先生は他の自治区に赴いているらしく、今日は顔を合わせられず。先生の目すら誤魔化せるのなら完璧に等しいのだけど、それが試せなかったのは少し残念。

 

 まぁこれからも何度も何度も会うだろうし、今残念がる事でもないか! 

 さてと、今日の用事も済んだし、早速研究室まで向かって研究の続きを……

 

 

「あーっ、○○ちゃんだ! 元気ー?」

 

「わっ、とと……!?」

 

 

 横合いから声を掛けられたかと思えば、むぎゅっと抱き着かれる柔らかい感触。垂れてくる長い髪先が顔をくすぐってくる。

 この距離の詰め方、活発な明るい声は……

 

 

「アスナさん、今日も元気そうですね」

 

「あははっ、私は何時も通りだよ〜」

 

 

 包まれた腕の合間から見上げると、にま〜っと緩んだ表情。人懐こい、邪気の一つも感じられないアスナさんの笑顔が視界に広がる。

 お返しに軽くぽんぽん、ぎゅぎゅっと背中に腕を回して抱き返す。しばらくするとそれで満足してくれたのかそっと離れてくれた。

 

 

 

「オイ、急に走ってくんじゃねぇって……あぁ、何だ。お前か」

 

「あ、ネルさんまで……こんにちわ。お2人でお出かけですか?」

 

 

 そこに遅れてネルさんが駆け付けてくる。

 ……私のテクスチャの破壊、その一部。それを担ってくれた神秘を持つのがこの人だ。ありがたや。

 

 しかしこの2人が揃っているとは、何だか珍しい組み合わせにも思えるけれど……いや、同じ部活のメンバーなのだしそうでもないか。

 

 

「そうだ! ねぇねぇ、○○ちゃんも一緒に遊びに行かない?」

 

「あ? おい何勝手に決めて……」

 

 

 ううん。アスナさんに、会う機会が割と少ないネルさんと共にお出かけというのも捨て難いけれど……今日は何より帰って研究がしたい気分……。

 

 

「いやぁ、申し出はありがたいんですけど〜……今日はこれから用事がありまして……」

 

「え〜。そっかぁ、残念。じゃあまた今度ねっ!」

 

「……用事ねぇ。また怪しいフィールドワークってんなら感心しねぇな?」

 

 

 丁重に、断腸の思いで断る最中、炎のように鋭い視線が私に突き刺さる。

 心配……というか釘を刺すように脅しているようにも感じてならない。というか威圧感が相変わらず凄いよこの人。

 

 

「違いますよ。家に残してた機材の稼働の具合が気になってまして……なのですみませんアスナさん、また今度時間が合えば!」

 

「うんうんっ、大丈夫だよ〜。それじゃあまたねー!」

 

 

 逃げるようにはなってしまうが、頭を下げて、そそくさとその場を後にする事とした。非常に後ろ髪は引かれるけれども! ネルさんの神秘を追加でどさくさ紛れに取りたかったけども! 

 

 

 ……しかし、少し誤魔化しが透けてみえてただろうか。いやいや、一応事実ではあるし……合成神秘が無事できてるか、その出来はどうなのかも気になってるし。

 

 まぁ、ぐだぐだ考えても仕方ない。改めて実験の続きと洒落こもう。やる事尽くめだ、やりたい事を片っ端から試していかなくっちゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んで、できたか?」

 

「発信機ならバッチリ! えーと、多分一週間ぐらいなら見つからないんじゃないかな?」

 

「勘か?」

 

「うん、びびっと来た所に取り付けたよ!」

 

「なら良い。……ったく、ホンット気が進まねぇ……わざわざここまでする必要あんのか?」

 

「今の○○ちゃん、なんか変かな〜って気はするけど……まぁ、何にもなかったら後で謝ろ!」

 

「……それも勘か?」

 

「うんっ、勘だね!」

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ゴルコンダさんにデカルコマニーさん? 先日ぶりですね、如何されましたか?」

 

 

 ミレニアム廃墟地域内の研究室へ戻ると、ゴルコンダさんとデカルコマニーさんが出迎えて下さった。

 黒服さんやマエストロさんは居られないようだし……個人的な用件かな。

 

 

「貴方に技術提供を、と思いまして。……これを提供というのは些か心苦しいのですがね。何せ失敗作なのですから」

 

「そういうこった!」

 

 

 少しばかり申し訳無さげに答えるゴルコンダさんに、デカルコマニーさんの大声が続け様に相槌。

『技術提供』! 何と心躍る4文字。しかもゲマトリアの技術と来た。失敗作だろうとなんだろうと大歓迎、是非とも頂きたい所! 

 

 

「わぁ……! 技術提供とはありがたい限りです。しかし何故私にそこまで?」

 

「何。短期間の内に、そして自らの意思でもって自らを覆うテクストの一部を書き換えた貴方の奮戦と、探究心を讃えての事です。対価は結構ですよ」

 

「まぁそういうこった!」

 

 

 えっマジで? 

 お窺いを立ててみた所、返ってきたのは思わず耳を疑ってしまうような、私にとって都合の良い言葉。

 対価は結構。そんな破格の待遇までされるとは……ついつい夢ではないかと錯覚してしまう。

 

 そしてデカルコマニーさんがいつの間にやら、ステッキではなく何かを握り、傍のデスクへと丁寧に置いた。

 

 

「なるほど、こちらが?」

 

「えぇ。今回提供する私の作品の一つです。……結果は振るわず、失敗作に終わった物ですが……貴方に託し、その結果を見届けるのも面白いのではないかと。そう思い至りましてね」

 

 

 

 デスクの上に鎮座している手のひら大の物体。

 手榴弾に似た形状からして、何かを炸裂させるものだろうか。

 

 

 して、その作品の名は一体? 

 

 

 ゴルコンダさんはしばし考えて───後頭部のみでもその様な雰囲気が伝わる程に押し黙っていて───から、言葉を続けた。

 

 

 

 

 

「名は……ヘイロー破壊爆弾、とでも。俗っぽく、遊びがない呼称ですがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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