神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
前回のあらすじ
○○「神秘と神秘を合体させて、最強の神秘を作りたいんですよ〜〜〜!!!」
黒服「この人何言ってんですかねぇ!?……でも、なんか見てみたいかも〜〜〜!!!」
氷海で出会った巨大オートマタ。
───デカグラマトンの預言者の一人。第五セフィラ・ゲブラ。
黒服さんが言うには、アレはデカグラマトンの預言者達と呼ばれる存在。
自らを新たなる神として成立させる為に活動を始めた極めて高度な知能を持った人工知能こそが『デカグラマトン』であり、預言者達は『デカグラマトン』の考えに感化されたAI達の事を指すのだという。
機械ではなくAIを、そして洗脳ではなく感化というのが引っ掛かる所。
強制的に機械を乗っ取って支配下に置くのではなく、知能あるAIに自身の考えを布教し、自らの仲間となってもらう……といった具合なのかな。
神という大元がデカグラマトン。それを信奉するのが預言者。
みたいな構図なのだろうか。
とても興味深い。こう言っては何だけど、人間らしくも感じてしまう。デカグラマトンは超高知能を備えたAIというのだし、預言者達もAIを搭載した機械だし、意思疎通を図る事もできるのかな。
ゲブラにもそう言う方向性での交流を試みておくべきだったなぁ……初対面時は生徒以外がヘイローと神秘を持っている事への興奮と感激で昂ってしまっていた上に、先に攻撃をされた事で私も反撃をしてしまったし……冷静な判断力、必要だね。うん。
……預言者達と呼ばれるのは、ヘイローのある巨大機械。
デカグラマトンによってヘイローを与えられた、AI達。
アビドス砂漠にいると噂されていた、ヘイローを持った巨大な機械蛇も、預言者の一人なのだろうか。
確かめに行きたい。その目に焼き付けたい。その神秘を感じたい。
今もまだ、その預言者はアビドス砂漠に居るのだろうか。
……けれど、唯一の交戦経験があるゲブラから鑑みるに、デカグラマトンの預言者は巨体に見合った相当な戦闘力を有している。保有する神秘も相当なものだった。
もし次に出会えたとしても、太刀打ちできずにやられてしまえば神秘を収集する事はできない。
今回のような事態は幸運であったからこそなのだ。
先生も何か鬼気迫るような勢いでゲブラの事を聞いてきたのは、私が今想像するよりも危険な存在である事を示してるのかもしれない。
……というか先生、他の預言者にも心当たりあるっていうか会ってる? うわー、その辺聞いておけば良かったなー……まぁ次に会った時にでも聞こう。
しかし今のタイミングで聞くと余計に止められちゃうかな。私が預言者探しに行くかもだし。危険な目には合わせられないって先生はきっと言うんだろな。
……いや、どうだろう。
最後に会った時には……。
"○○は、○○のやりたい事をしていいんだよ。"
"悪意を持って誰かを傷付ける事を目的としていないなら……その思いは尊重すべきものだからね。"
"子供たちの夢、やりたい事を応援するのは、私達大人の義務でもあって、使命でもあるからね。"
"間違っても、食い物にしたり、踏み付けにしたりする事なんかじゃ断じてないよ。"
"どんな事情があっても、子供たちの思いを踏み躙っていい訳は無いから。"
───だから探究の為に他を蔑ろにしていくゲマトリアと関わるのはどうか止めて欲しい。
といった具合の事を言われたし……頼み込めば他の預言者について教えてはくれそう。
……探しに行くと思われたら、相応の監視が付いてきそうな気がするなぁ……
ともあれゲブラに関しては、私はS.Fアーマーを装着していたのと神秘を強化していたから耐える事ができていたけど……あの猛攻に対応できる人が果たして何人居るか。
なのでそもそも預言者を探す前に、私の神秘を早急に強化し、対抗出来るまでに増強しなくてはならない。
とにもかくにも、開発と研究の繰り返しだ。
と、いう訳で先日手に入れたゲブラの装甲を使ってS.Fアーマーの改修&改造計画を実施。
驚いた事に、装甲自体に取り分けて特別な箇所は見受けられなかった。しかし頑丈な構造、頑強な構成物で形成されていたので、アーマーの参考にさせて頂いた。
大切なのは神秘である。
剥がれた装甲に僅かにだが残留していた神秘を抽出。
改良を重ねた神秘培養装置『インクリースくん』を通して、その神秘を可能な限り培養、増殖、増幅を行い、贅沢に使い倒す。
アーマーのシルエットは機動性の低下や可動域の干渉を鑑みて大きく変えず、あくまでS.Fアーマーを元にしたデザインに。
もちろんデカくて強くて凄いのは好物だけど、もう少しシンプルに落ち着けたい。
無駄のないスマートさを維持しつつ、なるべく極力ロマンを追い求めて、試行錯誤を繰り返す。
……。
…………。
が、何だかしっくりこない。
これだ、という決定的な何かが足りない。
作っていくと、どうしてもゲブラそのものを模したような造形に近付いてしまう。
行き詰まりだ。
確かにゲブラは全身に武器を取り付けながらも、余分を削ぎ落とした、人型を模した造形。
ロマンはある。確かにある。けれどこのままではゲブラをそのままスケールダウンさせたような物になってしまう。これではゴテゴテし過ぎている。全身に武器を取り付けた火力の宝庫というコンセプトは惹かれるけど……こうじゃない!
やっぱりサンプルケースがゲブラ一つだけというのも良くはないかぁ……。幅が生まれない。もっと他のも参考にしよう。
手始めにミレニアムプライスのロボット部門入賞作品を見返してみよう。気晴らしにもなるし。
……あ、このロボット面白いな。造形美も中々。でも実用化に向けての予算の関係で結局おじゃんになったんだっけな。
この製品も良いなー……
……新素材開発部の柔らかセメントも良い。中々便利で使ってみてたっけ。……しばらくは新しい製品を出してないみたいだし、今度尋ねてみて新素材の進捗でも見てこようかな。今後の参考にもしたいし……
……いっそのことオーパーツを持ち込んでみるのもアリかな?
タブレットの画面を操作してミレニアムの開発機器を巡り巡る。ミレニアムプライスに拘らず、かつてミレニアムにおいて開発されてきた山のようなロボット達の情報を覗いていく。
しかし、今の私に天啓をズドンと落としてくるような物が見つからない。参考になるのは多々あったし良い作品達を見返すのも良いリフレッシュにはなったんだけども……
今欲しいのは、人型をした強いロボット。
人型で強い……強い……他に何かあったかな。意外と身近にありそうなものだけど……うーん……
その時だった。
スライドさせたタブレットの画面に映り込む人型戦闘ロボット。
「……これだーっ!」
画面いっぱいに映り込む、凄まじく前衛的なビジュアル。
ミレニアムの歴史に鮮烈的に刻み込まれた発明品、その一つ。
セミナーの会長、調月リオさん謹製の『アバンギャルド君』!
頭部はシンプルで簡素な造形の、無駄を省いたデザイン。
脚部は凡ゆる悪路も踏破できるような汎用性とパワーを備えた、戦車を模した巨大キャタピラ。
華美を捨て合理を突き詰めたこれまたシンプルなボディには、多腕のアームが装着されている。
その計4本のアームに装備された効率的に火力を求めた火器とシールド。
特にシールドの黄金比を象った美しさといったらどうだろう。
合理を突き詰めた正しく傑作怪作の一つだ。
うん、アバンギャルド……。
リオ会長……あの人、ハードウェアとソフトウェアの両方をこなせる人だったし、こういった開発にも積極的に取り組んでる人だったなぁ。
以前にもエンジニア部での依頼関連で製品開発やらお話しした事もあったけれど、あれは実に有意義な時間だった。
合理的でない点や不備についてズバズバ言ってくれて改善点を洗い出してくれるのは本当にありがたい。
……あの人も神秘について色々と知ってるかな……? 見識も深いし、その辺りも知識として何か持っていそうであるけど……今失踪しちゃってるからなぁ。
預言者達の行方もそうだけど、リオ会長の所在も知りたい所。後輩からの相談事には乗ってくれる優しい人だし、駆け込んでやりたい。
ついでに神秘も見たいし取りたいな。
今ミレニアム自治区内に居るのかな。
……そういえばあの人、何時から失踪してたんだっけ?
確か数ヶ月前……いや、もっと前からだったような。……最近? だったっけ?
私が神秘について研究を始めた頃には既に失踪してて……あれ、そうだったかな?
……失踪して年単位行方をくらましてる? そんな訳は無い、私はまだ進級すらしてないしそもそも3年生のウタハ先輩だって卒業してない。
記憶が曖昧……というか、ハッキリ時期を思い起こせない。
何だろう、深く考えられない……
頭が痛い。
思考が■■■────
───苦心と苦難がありつつも、無事にS.Fアーマーの改修が完了!
とはいえ暫定的な形ではあるので、これからもまだまだ改善や改造も行うけど。
全身に装着するアーマー部分は、ゲブラの装甲の構造を参考にし、ヴォルフスエック鋼鉄とエーテルを配合した素材で造り上げた。
各オーパーツから抽出した神秘を極限まで濃縮したものと、ゲブラのパーツから抽出した神秘を混ぜ込み、アーマーに刷り込み、馴染ませる。
既存のアーマーよりも頑強で、神秘もより流し込める装甲が出来上がった。
白を基調とした装甲に、各所に青白い神秘のエネルギーラインが走っているデザイン。
アーマーを展開後には、装甲表面にゲブラのヘイロー模様が仄かに浮かび上がる。
これこそS.Fアーマーのバージョンアップモデル。
名付けて『S.Fアーマーtype:D』。
ついでにサブアームも開発した。もちろんアバンギャルド君へのリスペクト。
一先ずは2本。肩部アーマーに装着させるアタッチメント式で、アーマーと同じ素材で構築されているので頑丈だ。
関節には360度回転可能なボールジョイントを採用。2本のサブアームを自由自在に動かす事で、ある程度の死角も補えるように仕立てた。
更に畳んでおける構造にする事で、有事の際にはしっかりと展開し、それ以外の場面でも邪魔になりにくいように。
……作った後で気が付いたけど、邪魔になるなら粒子化してしまっておけば良いじゃんね?
まいっか、作っちゃったし付けとこ付けとこ!
そして武器の方も完成した。
こっちはゲブラの装備していたレールガンを分解、解析を行い、素材を流用する形で製造したもの。
大きさがそのままでは取り回しが悪く、かさばりもしたので、アサルトライフル程度まで大幅にサイズダウン。
その分、2丁製造する事ができた。
その名も『光の双剣』。
レールガンの高火力を実現しつつ、チャージ時間の長さ、連射性能の低さという欠点を補う事に成功した逸品!
神秘ボトルを『光の双剣』下部スロットに装填する事で、ボトル内部の神秘を発射機構に充填。
こうして充填した神秘をエネルギー弾として撃ち出すのだ。
そして発射機構にあるダイヤルを弄る事で発射間隔をセミオート、フルオート、フルチャージに切り替え可能。
フルチャージは既存のレールガンよりもチャージ時間は短く、けれど高威力の神秘エネルギーに満ちたビームを発射できる。
アーマー周りの開発で余った端材で作ったターゲットマーカーをフルチャージで撃ったら見事にぶち抜く所か向こう側の壁まで貫通してたし……
2丁合わせてフルチャージで撃ち抜けばアーマーの神秘保護膜を全部ぶち抜く程の超パワー! すごい!
……まぁ、燃費は極悪だけども。
フルチャージは満タン充填済みの神秘ボトルの中身を一発で空にするし、フルオートでも20発撃てばリロードが必要になる。
しかし神秘ボトルも他の使い道を考えていた所なので、まぁ良しとしよう。
さて、アーマーと武器の開発も一段落付いた所で、次のステップに進もう。
『最強神秘製造計画』。
これを推し進める時だ。
オーパーツの研究を進めたことによって神秘の培養は、ほぼほぼ完璧にまで至った。
『インクリースくん』も問題なく稼働をしてくれている。これで培養した神秘の量産も滞りなく進む。
さぁ神秘をバンバン増やしてドンドン合成して取り込んで強くなるぞ!
……と、黒服さんの前で意気込んでいた所、諭されるように言われてしまった。
『───神秘というものは、キヴォトスの生徒が持つ強力な力の根源。その者特有の魂、と言っても差し支えないでしょう』
『既に貴方という神秘に満たされた器の中に、カケラとはいえ強力な力の源の一部を取り込む……その影響は、私とてどの様なものになるのかは定かではありません』
『実行するのであれば、くれぐれも慎重に。貴方にはまだやるべき事があるのでしょう?』
うん、まぁ確かに。
極めて濃度の濃い神秘を保有していたホシノさんやヒナさんの神秘をバカスカ増やしてから一気に取り込む……とかやっても、身体の方が耐えられないだろう。
最初の頃にオーパーツから抽出した神秘をバカスカ飲み込んで体の内から弾け飛びそうになったのだし……そんな事したら多分本当に爆裂すると思う。
なので黒服さんの忠告に従って、まずは他の神秘に体を慣らすように進めていこう。
今回使用する神秘は、ミレニアムの生徒のものに。サンプル数も多く、培養にも成功している為、失敗してもダメージは少ない。
神秘同士の合成には、開発した神秘合成装置『ミクスウェル』を使用する。
合成したい神秘が籠った神名のカケラを装置内部に装填し、装置を稼働。カケラから神秘を抽出、配合、合成が行われる。
それから装置中央に設置した空っぽの神名のカケラに合成神秘が注がれる事で、晴れて合成神秘が完成する。
合成神秘は、今までに採取した神秘のどれとも似ても似つかない、複雑な輝きを放っている。マーブル模様ともいうべきか、幾何学模様ともいうべきか……既存の何かに言い表す事も困難な、万華鏡の如き煌めき。
では、いよいよ実験開始だ。
合成神秘取り込み実験、1度目。
合成神秘は、私と不良の子一人の神秘を合成したものを使用。
合成神秘を抽出に成功。
経口摂取にて体内に取り込む。
「んん……ぐ……?」
摂取してから暫く、オーパーツから抽出した神秘を取り込んだ時とは異なる、胸の中から広がるような圧迫感に苛まれる。
時間をかけて全身に広がっていくその感覚は14秒後に収まった。それと同時に、私の中を充足感が満たしていく。
それ以外に体に異常や異変は起こらず、一日経過後も異常な事象は現れなかった。
その後の実験において、攻撃力、防御力共に僅かに増強されていた事が確認できた。
初実験は、滞りなく終了。
合成神秘取り込み実験、2度目。
合成神秘は、私とウタハ先輩の神秘を合成したものを使用。
合成神秘を抽出に成功。
経口摂取にて体内に取り込む。
1度目と同様の感覚に全身が満たされた後、特に身体に影響は及ぼされる事は無く、実験は終了。
攻撃力、防御力、共に僅かに増強を確認。
合成神秘取り込み実験、3度目。
合成神秘は、私とヒビキさんの神秘を合成したものを使用。
合成神秘を抽出に成功。
経口摂取にて体内に取り込む。
1度目と同様の感覚に全身が満たされた後、特に身体に影響は及ぼされる事は無く、実験は終了。
今回も攻撃力、防御力の増強が確認できた。しかし上がり幅は一定では無い模様。
法則性を見出すためにはまだまだ実験を重ねる必要がありそう。
また、その人の神秘を取り込んだ所で、その人の思考や趣味嗜好が私に反映される様子は今の所見受けられない。
開発意欲は……元から私にもある。しかしそれが大幅に増幅された感覚は無し。
服飾に関しては……特にこれといって作成したい欲求は湧いていない。
カケラ1個のみを使用している為に影響は小さい為か、他人の神秘を取り込んだ所で大元の私の神秘がある故にそういった影響は及ぼされないのか……
実験を継続して、検証を重ねていく。
合成神秘取り込み実験、13度目。
合成神秘は、私とネルさんの神秘を合成したものを使用。
合成神秘を抽出し、経口摂取にて取り込む事に成功。
「お、おぉ……ぉ?」
合成神秘を摂取してから4分後。これまでにない反応が起きる。
体を内側から突き破らんばかりの強い反応ではなく、浮遊感にも似た感覚に全身が包まれる。
青白い神秘の輝きが全身から薄く立ち上り、その光量を増していき、10秒後には弾けるように霧散する。
「ぁがっ」
ひび割れる音と共に腹部に微かな違和感が生じた。
服を捲り上げると、臍辺りの皮膚に微かにひび割れが走っていた。
ひび割れが剥がれて、中身が露出した。
けれどそこから覗いていたのは赤い血肉と臓物でも白い骨でもなく。
青白い神秘が、煌々と輝いていた。
私は、自らの『テクスチャ』を破った。