神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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アンノウン・アンレスト・アンリミテッド

 

 

 

 レールガンにエネルギーラインが迸り、青白い光が寄り集まっていく。

 

 二連砲塔がこちらに狙いを付け、巨大な口径から圧倒的な破壊力を秘めた徹甲榴弾が放たれる。

 

 逃げ道を塞ぐように背負われたポッドからミサイルが飛び出し、周囲の氷床ごと破砕させていく。

 

 足場を奪うと共に、各所に設けられたバルカン砲が一斉掃射。更に動きを制限しようと、その場に釘付けにしようと弾丸がばら撒かれる。

 

 

 舞い散り漂う爆煙を突き破るように、レールガンから青白い光が撃ち出される。

 対象を消し去らんとする驚異的超威力が大気を焼き焦がし、氷海の景色を吹き飛ばしていく。

 

 

 全身に装備された武装から絶えず放たれ続ける攻撃。

 当たればただでは済まない。

 

 

 

「けど、当たらなければどうということはない、ですよね!」

 

 

 

 右に左へジグザグにステップを踏むように、影を踏ませぬように。そう意識しながらスラスターを噴かせて飛び交う弾丸を避けていく。

 

 

 どれもこれも高威力の攻撃。アーマーに複数枚重ねられた神秘防護膜を一発で突破する程の劇的な威力には届き得ないが、受け続ければ脅威になり得る。

 

 受けるにしても、二連砲塔からの大きな攻撃はなるべく避ける。バルカン砲程度の攻撃は無理に避けず、避けられないなら受け止めに行く気概で立ち回る事を意識する。

 

 

 足をなるべく止めないように動き続けながら、攻撃の合間を縫ってこちらも負けじと反撃を行う。

 神秘をたっぷり篭めたマシンガン二丁、両手に構えたそれにフル装填したマガジンの中身を空になるまで撃ち尽くす。

 

 

「……やっぱり硬い……!」

 

 

 装甲部分ではなく脚部関節を狙ったものの、目立った破損は見受けられない。

 ……さっきから同じ箇所を集中して狙って攻撃を加えているが、動きに変化は見受けられない。関節ですらこの硬さなら装甲は抜けないとみて間違いなさそう。

 

 

「ぅわ、わっ、と……!」

 

 

 ……放たれた反撃を避け切れずに食らってしまう。連続で叩き込まれたミサイルと二連砲にアーマーの神秘防護膜の一つが叩き割られた。

 ミサイルによって巻き上げられた爆風を急いで抜け出しながら破砕した防護膜が修復されるまで回避に専念。

 

 その間にもう一度反撃を挟む。

 実体化させたロケットランチャーを二丁、もう一度脚部を狙って撃ち出す! 

 

 ……命中はしたもの、やはり大きな損傷は無し。けれど巻き込んだ装甲には僅かに焦げが付いた。

 

 

 先程からこの応酬の繰り返し。撃って撃たれて、当たって当てられて……違いは互いへのダメージの度合い。手数も多く損傷も少ないあちらの方が断然有利な状態。

 

 

 けれど大体分かってきた。

 

 まず相手の巨大オートマタ……ヘイローを携えたあの機械に何度か攻撃を行った所、実弾は効果が薄い。ほとんど無いと言っても差し支えない。

 しかしミサイルやロケットランチャーなどの着弾後爆発を伴う兵装は一定の効果が見受けられる。

『I.M』を用いた高火力兵装……二連砲レールガン等の威力ならばそれ以上の損傷を与えられる可能性はあり。しかし相手は数々の兵装を抱えた巨大な躯体ながら身軽に動く為、避けられぬようにしなければならない。

 

 相手の硬さは保有するヘイローと神秘によるものか、単純に私の神秘による攻撃が相手の防御を打ち破れない程に劣っている為か……それとも相性と言うべき何かが互いの神秘間に存在しているのか。

 

 付けた傷が治っていない所から見るに少なくとも自己修復機能は備わっていない……いや、そもそも治すべき損傷だと認識されていないのかどうか。

 

 対してこちらは相手の攻撃を受ける度に神秘防護膜を削られ、私の神秘を着実に減らしていく。

 レールガンはまともに喰らえば神秘防護膜の何枚も纏めて正面から打ち破る程の超高威力。他の兵装も火力が高く、明らかにダメージレースでは私が圧倒的に負けており、このまま戦った所でジリ貧なのは間違いない。

 

 

 

 とにもかくにも、相手の装甲を貫く火力が私側に足りていない状況。

 

 

 

 うーん……よし。

 火力に不足があるならば。

 

 

 

《Warning/Limit over》

 

「使いますか、リミッター解除」

 

 

 

 困窮した状況を破る為の手段を切ろう。

 S.Fアーマーの展開装置を弄り、ホログラムインターフェースを手元に映し出してリミッター解除の項目に承認する。

 

 エンジニア部に所属する私が作った装置なのだ。

 装置の限界以上の性能を引き出すリミッター解除機能は、当然、組み込んである! 

 

 読み上げられる警告ガイダンスを聞き流しながら、装置天面のスイッチを押し込んだ。

 

 

 

《Release/Limit Break》

 

「っ、ぐ、ぅ、っが」

 

 

 

 体が爆発するような衝撃が全身に迸る。

 神秘増幅ユニット『アンプちゃん』が全力を超えて限界稼動。私と装置の接続は更に深く、出力は更に大きく。

 体の内側の隅から隅までに、血管のように張り巡らされていく神秘接続レイラインが私の中に広がり、私という全てに馴染み、過負荷を加えて私の神秘を引き出し、指数関数的に膨れ上がらせる。

 そうして満ち満ちる神秘に、目を閉ざして私の身を委ねる。

 

 

 

 神秘が充填していく。

 薄氷が踏み砕くような破砕音が頭の中に響く。

 

 神秘が充足していく。

 薄皮を剥がし千切るような痛みが体中を掻き毟る。

 

 神秘が充満していく。

 張り裂けそうなほどの圧迫感が全身を支配する。

 

 

 瞬きを終える一瞬の合間に、その全ての感覚が通り過ぎて。

 限界稼働が始まっていく。

 

 

「っふ、うぅ……」

 

 

 S.Fアーマーに包まれた体が、驚くように軽い。熱に浮かされたような高揚感が全身と心の中を支配している。

 心臓がどくどくとうるさく脈打つ度に神秘が溢れて、収まり切らないそれが逆立つ雷のように迸って、ばちばちと弾けている。

 凄まじく煮え滾る欲求が、何でもできそうな万能感が、身を焼き焦がしていくようで。

 

 

 衝動に身を任せて、跳ぶ。

 

 

 巨大オートマタの照準を定めさせないように、右へ、左へ、跳ねて、飛んで、動き回る。

 リミッターを外され、パーツが焼け付く事も厭わぬスラスターの爆発的な加速で、音を置き去りにしながら駆け回る。

 

 体を通り過ぎる銃弾も、爆風も、全てが余所事のように感じられる。

 

 

 攪乱をしながら、巨大オートマタの死角へ、僅かな隙間のある股下を身を屈めながら潜り抜け、瞬時に背後を取る。

 

 

 相手が振り返り切る前に、手元に呼び出したロケットランチャーを全力射出。

 

 

 ドォン、と地響きのような爆発が巻き上がる。背後から突き刺さった、神秘をこれでもかと篭めたロケット弾は、相手の巨体をグラつかせ、バランスを崩させる事に成功した。

 

 

《Imagination》

 

「"ミサイルポッド"!!」

 

 

 ついに攻撃が通った喜びに浸かる間もなく間髪入れず、多弾頭ミサイルを詰め込んだ『ミサイルパーティ』を呼び出し、全弾漏れなく射ち放つ。

 

 

 青空を遮る程の噴煙を伴い、氷海に影を落とす程に空を覆う数の弾頭が分かれて────雨霰の如く降り注ぐ。

 

 

 先程と比にならない程の爆風と爆煙が暴れ散らし、砕かれた氷が吹雪みたくはちゃめちゃに吹き上がる。

 

 

 その中に紛れる、白い金属塊。鈍色のパーツ群。

 重い音を立て私の側に転がってくる、巨大オートマタの装甲。

 

 

 あの神秘と爆発の嵐によって、ようやくあの巨大オートマタにダメージを与える事ができた。

 

 

 

 これこそ、これこそロマンだ。

 

 リミッター解除という心躍る文字列に恥じない稼働性能。

 危険を厭わない、反動を伴った高出力モード。

 最大出力を超えた稼働を実現する、機能の限界を打ち破った超駆動。

 ロマンを体現する、限界突破の領域。

 

 素晴らしい、私は今、猛烈に感動している! 

 

 

 

 恍惚とする思考の最中、バイザーからのアラートに気を取られる。

 

 正面から、巨大な何かが接近している。

 

 

 身構えた私の前に、分厚い黒煙を突き破り抜け出してくる巨躯が視界いっぱいに映り込む。

 

 所々煤け、白く美しい装甲は一部剥がれ、破損し、それでもなお機能は止めず、ただ目の前の目標を排除せんと勇猛と無慈悲に塗れながら、私に向かって突撃してくる。

 

 

 ガゴンッ、と頭部パーツがアーマーの腹部に突き立てられる。そしてそのまま、背部スラスターを勢い良く噴出して、その地点を通過する。

 

 巨大な質量をぶつけられた私の体が跳ね上げられ、空へと天高く放り投げられる。

 

 

 

 ……体とアーマーを覆う神秘防護膜によって、致命的なダメージは余さず防がれる。

 防護膜は纏めて叩き割られたものの、装置に接続された私の神秘がすぐさまに補充する、修復する、足りない分は神秘を再び増幅させて補わせる。

 

 そうされる度に、脳髄から伝ってくるびりびりとした神秘の奔流に身を灼かれる。

 ばりばりと頭の中で弾ける神秘が、私の中に満ち満ちては溢れて、止めどなく暴れ回っていく。

 

 

 

「あ、ははっ」

 

 

 

 

 漲る神秘でトぶ────! 

 

 

 

「ぃよいしょ、っとぉ……!」

 

 

 空へと打ち上がった体をスラスターで姿勢制御。

 そのまま落下地点を調節し、オートマタの機体上部に着地。無骨で艶やかな装甲表面に四肢を大の字に広げるように張り付きながら、ある地点に目掛けて這いずっていく。

 

 

 張り付いた私を振り払おうとオートマタが機体を左右へ揺すってくるが、リミッター解除により強化された握力のお陰でそう易々とは落とされない。

 荒ぶる白く硬い機体の上をゆっくりと登攀して行き……主武装の一つであるレールガンの根元に辿り着く。

 

 

 少しばかり……かなり勿体ないが、手数の一つを物理的に破壊させてもらうとしよう。

 

 

「ん、ぐぐ、ぐ……!」

 

 

 レールガン砲塔の根元に両腕を巻き付けて、そのまま強く深く抱き締める。

 

 溢れる神秘を上半身に集中させて、とにかく抱き着き締め上げ続ける。

 

 狙いに気付いたのか、私をより力づくで振り落とそうと体を滅茶苦茶に振り回し、近くにあるバルカン砲を向けて放ってくる。

 

 離さない、離さない。離さないぞ、絶対に。

 

 

「ぐっ、ぅぅ、うぅぅぅ」

 

 

 惚れ惚れとするような直線を描いた、エネルギーラインを敷いたレールガンの外装フレームが徐々に歪んでいく。

 

 擦れ、歪み、不細工な凹みによってゆっくりとひしゃげていく金属の音が、悲鳴のように澄み渡る青空にこだましていく。

 

 息を吐き出しながら、篭める力を緩めない。ずぅっと力を加え続ける。締め上げて締め付け続ける。挟んで、押し潰して……両腕の間隔が、確実に狭まっていく。

 

 

「ぅ、あがっ……!」

 

 

 レールガンの根元の歪みが致命的な角度に差し掛かる最中、オートマタの抵抗が最高潮に達する。

 急速度でジグザグな蛇行を繰り返し、近場にあった氷山へ自らの機体ごと私をぶつけ、汚れを擦り付けて落とすように氷の塊の中を強引に突き進み始めた。

 

 

 3つほど氷山をカチ割った拍子で片手が浮き上がってしまい、抵抗虚しく振り落とされた。

 

 

 

「ああ、後ちょっとなのに……なら、もう一回……!」

 

 

 削れた防護膜は即座に修復されるも、結構な圧力と衝撃を喰らい続けた影響で足元が覚束無い。

 けれど痛みは無い。膨れ上がり続け溢れていく神秘の充足感が脳内を支配しているばかり。

 あぁ、素敵。

 

 

 正面へ視界を戻せば、巨大オートマタも体勢を立て直した様子。

 ……レールガンはその砲塔が根元から歪に捩れ、まともに運用するのは最早難しそうである。

 あれなら発射を封じられたかな。

 

 

 

 バキンッ、と金属の擦れる音と共に砲塔がひしゃげて使い物にならなくなったレールガンがパージされる。

 

 重たく邪魔になるだけの主武装を切り捨て、更に身軽に動こうとしている。

 

 

 その思考は裏切られる。

 

 

 何とパージしたレールガンをアームで掴み取り、ボディをぐるりと回転。

 重量と遠心力を加えた全力の投擲を行って、レールガンをぶん投げてきた! 

 

 

 槍の如く真っ直ぐに、私へ突き刺さらんと迫ってくる巨大な質量の塊を視界の真ん中に捉えながら───両手を突き出した。

 

 けれどそれは受け止める為でも弾き返す為でもなく。

 

 この絶好のチャンスを掴み取る為に! 

 

 

「頂き、ますっ!!」

 

 

 投げ飛ばされたレールガンの砲塔が指先に触れたその瞬間、粒子化装置『しまえる君Z』を駆動。

 隅から隅まで、巨大な砲身が青白い粒子に解けていき……

 私の膨大な神秘量に合わせてその容量を拡げた装置の中に、レールガンを丸ごと仕舞い込んでいく。

 

 

 

 やったやった、やったぞ。

 手に入れたぞ、強そうな武装だ、未知の機械が身に付けていた武器だ。

 持って帰って解析しよう、分析しよう、解析しよう! 解体して修復もしてみよう! 

 でもどうせなら、もっとサンプルを手に入れよう! 

 

 

 

「さぁ、まだまだいけますよ! どんどんやりましょう! もっともっと見せてください!」

 

 

 

 滾り漲る高揚感に身を委ねて、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ふむ、なるほど、なるほど……その後はどの様に?」

 

 

 

 

 氷海地域でのあの邂逅から数日後。

 

 ミレニアム郊外、廃墟地帯の何処か。

 

 私に割り当てられた研究室。

 ───ゲマトリアの方々が私専用に用意して下さった研究棟にて。

 

 脚を組んだ黒服さんが実に愉しげに微笑みながら私に続きを促してくる。

 

 とはいえ、この後は何て事はない展開なので肩透かしはさせてしまうだろう。

 

 

「いやぁそれが……逃げられちゃいまして」

 

 

 頭を掻きながら正直に伝える。

 

 

 そう、逃げられてしまったのだ。

 ……今思えば、見逃されたと言うべきなのだろうが。

 

 武装をパージし、更に身軽になった相手に対してどう動くべきか、相手がどんな動きを見せてくるか、新しい行動パターンを見せてくるのか……。

 

 注視していた相手は取った行動は、私に背を向けて氷海に潜行。

 

 最初に私を襲った足元からの突き上げ再びか、と身構えていれば……グングンと遠ざかっていくではないか。

 

 しばらくしてから、相手がこの場から離脱していっているのだと理解した。

 

 なので当然追い掛けた。

 

 

『待ちなさーい!!』

 

『このまま逃げるつもりですね! そんなの許しませんよっ!!』

 

 

 そう叫びながらスラスターを全開に噴かし、必死に追い縋ったが……時既に遅く、センサーにも反応しない範囲まで逃げられてしまった。

 

 

『ん、警告……? ……リミッター解除限界……!? あっやば…………ぁだだだだだっ!?』

 

 

 しかもその時点でリミッター解除の稼働限界を迎えてしまい、増幅させた神秘が元に戻ってしまった。

 おまけにリミッター解除の反動で全身に凄まじい痛みが継続的に私の身体を蝕み続けた。過度な神秘増幅のフィードバックに襲われてまともな戦闘行動を続ける事が難しくなった為、諦めてそのまま帰る事とした。

 

 フィードバックのせいで動く度に体が軋むように痛む中、必死に元来た道を辿って氷海地域を抜け出して、どうにかこうにか帰ってこれたのだった。

 

 S.Fアーマーの維持に支障を来すほどのダメージを負っていなかったのが本当に幸いだったが、正直何時痛みで気絶してしまうか気が気で無かった。

 

 

 

「それはそれは……良くぞご無事で」

 

「絶対に持ち帰って研究してやるぞって意地ですかねー」

 

 

 そうして背後に振り返る私の傍に置いてあるのは、破損したレールガンに傷付いた金属塊と機械パーツの数々。

 氷海地域で遭遇した巨大オートマタから破損して分離した装備と装甲である。

 あの後、痛む体にむち打ちながら戦闘地点に戻り、なるべく余さず持ち帰ってきた戦利品だ。

 何と漏れなくオーパーツの如く神秘を宿している! これは素晴らしい! じっくりたっぷり調べて活用してしよう! 

 

 

「まぁ、正直帰ってきた後の方が大変でしたね……」

 

 

 

 氷海地域から這う這うの体で何とか帰還を果たした私だったが、安心出来る土地に帰ってきた事で張り詰めていた気が抜けてしまった為か、自宅へ辿り着く前にミレニアム自治区内でふっと意識を失ってしまった。

 

 

 次に目を覚ましたのはミレニアム内の病院。

 開けた視界に飛び込んできたのは清潔な白い天井に、ベッドサイドで顔を突っ伏して眠っているウタハ先輩の姿。……日付を見ると、丸1日ほど寝込んでいたようだ。

 

 どうやら気絶していた私を病院に運び込んでくれたのは、エンジニア部の方々だそう。

 鼻血を流しながら学校前で倒れていた私を介抱して付き添ってくれたらしい。

 

 

 それで、目を覚ました私を待ち受けていたのは当然マイスターの皆に囲まれながらの事情聴取。鬼のガン詰めだった。

 途中、私が目覚めた報を受けて駆け付けてきた先生も合流したのでもう止まらない。

 

 S.Fアーマーを着込んでいたお陰で戦闘時の負傷はほとんど無かったものの、リミッター解除の反動で極度の疲労、全身筋肉痛に一部筋断裂まで起こっていた為、何があったのかをとことんまで問い詰められた。

 

 

『いやーフィールドワークに出かけたらめっちゃ強い野生化した巨大オートマタに出くわしまして〜』

 

 

 とこんな具合に明るく振舞いつつ事情の説明をしたのだが中々納得してくださらなかった。特に先生が全然引き下がってくれなかったし……

 

 ちなみに野生化したオートマタはミレニアム廃墟やら打ち捨てられた工場に割と彷徨っているので、足りない部品を補充しに拝借したりお小遣い稼ぎに利用する子もちょくちょく居る。

 

 

 ともあれ、長い時間を掛けはしたがその場は追求を収めてくれた。先生はすんごい何か言いたげだったけども。

 ウタハ先輩にくれぐれも無茶はしないでくれ、と潤んだ目で詰められるのはちょっと効いた。

 確かに、命あっての物種である。それに研究もまだまだ道半ば、私が求めるロマンの行く果てを拝めてはいない。

 今回の邂逅も上手く立ち回っていれば違う結果が、より良い成果を得られただろうし。次からはもっと臨機応変に立ち回るように努めよう。

 

 

 翌日になると、療養も兼ねてたっぷり一日眠ったのと神秘ボトル三本の中身をガブ飲みしたお陰ですっかり元通りの体調になった。

 なので抜け出しても問題無いだろうとこっそり病室のドアを開けると先生がそこにいた。

 

 そしてそこから有無を言わさずベッドに戻され事情聴取に直行。

 

 ───いやほんと、氷海地域に向かったら見知らぬ巨大オートマタに出会しただけなんです……今回は実験の副作用とかそういうんじゃないですって大丈夫ですよマジ。もっと詳しく教えろと? はぁい…………

 

 

 それから先生に氷海地域で戦闘した巨大オートマタをバイザーでスキャンした画像を見せたり、戦闘時の特徴を教えたり……。

 後は時間が許す限り、近況や体調の具合やら何やらを懇々とお話した。

 

 結局その日は研究部屋に赴く事はできなかった。

 

 

 その翌日。今度はエンジニア部の面々が病室に押しかけて来たので色々と雑談を交わした。

 途中で開発議論が白熱し過ぎて皆が敢え無く病室から追い出されて行った。

 

 結局その日も研究部屋に赴く事はできなかった。

 

 

 退院したその後数日間、エンジニア部にて試作品のテスターに選ばれて長時間拘束されたり、それとなくその場から退散しようとすると最低一人は着いてきたり……私をなるべく一人にしないような行動が取られているのが分かった。……その分神秘は取りやすかったので取れるだけ取っておいたのだけど。

 お陰様で合間を縫って研究部屋までのワープ座標へ向かうのも一時期困難となってしまった。

 

 ……だったのだが。

 今日は何とか時間と隙を見付けて包囲網を突破した後に数日ぶりの研究部屋に辿り着く。すると黒服さんがなんと私の為の研究棟がミレニアム廃墟地帯の一角に用意出来たという一報を持ってきてくれた。

 

 しかも其処へのワープ先を私の自宅に繋げてくれたそうで、これで研究部屋への行き帰りが容易となった! 

 

 

 

 ……さては黒服さん、色々と見通していましたね? 

 

 

 

「いえいえ、そちらに関しては全くの偶然ですとも」

 

「またまたぁ。それでもありがとうございます、黒服さん。お陰で時間も取れて研究が捗りますよ」

 

「所で○○さん。今後はどの様な研究や探究を推し進めるのでしょうか」

 

 

「今の所やってみたいのはこの辺りですかね。今後確実に増えますけど」

 

 

 今後について尋ねてくる黒服さん。それに答えるべく、研究日誌や開発メモをまとめたタブレットを立ち上げ、箇条書きにしていた今後行うつもりの研究予定リストを表示する。

 

 黒服さんは私が示したそれを目で追いかけて、とある項目に目を留めては続けて尋ねてくる。

 

 

「……ふむ。○○さん、こちらの研究についてですが……一体どの様な内容で?」

 

 

 黒服さんの興味を惹いたのは、『最強神秘製造計画』という文字列。

 内容を詳しく言うも何も、そのまま書いての通りである。

 

 

「そちらはですね……まぁ、神秘の培養が軌道に乗り始めたら実行しようと思いまして」

 

 

 現状、神秘の培養計画自体は順調に進んでいる。安定化と培養装置の精査が済めばすぐにでも行える算段だ。

 そして神秘の培養を行い多くの神秘を手にする事ができれば、次の段階に進める。

 

 

「神秘同士を掛け合わせて、配合や合成、合体を行って、新しい神秘を作ってみたいんですよ」

 

「そして作り上げるはまだ見ぬ最強の神秘! きっと面白いものが見れますよ!」

 

 

 現状私が見た中で最も密度の濃い神秘を保有しているのは、小鳥遊ホシノさん。並んで空崎ヒナさん。

 

 幸い、両者の神秘を取り込んだ神名のカケラは手元にある。

 

 そしてこの2つの神秘を掛け合わせれば、より強い神秘を生み出せるのではないか。

 その考えに基づいて考案したのが、『最強神秘製造計画』である。

 

 

 

「……クククッ。それはそれは……是非とも拝見したいものです。応援していますよ、○○さん」

 

「はいっ、引き続き取り組ませて頂きますね!」

 

 

 

 もし、私の手で新たな神秘を作れたのなら。

 もし、強い神秘同士を掛け合わせたのなら。

 もし、出来上がった神秘を取り込んだのなら。

 

 

 そこでは一体、どんな結果が待っているのだろう。

 

 

 

 とてもとても楽しみだ! 

 

 

 さぁて、研究を頑張っていこう、まだまだやりたい事は山積みだ! 

 

 

 

 

 

 

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