神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
「たっだいま〜、っと」
私の研究部屋の扉を開く。
ミメシスの私が返事を返すみたいにこちらに振り向いてくれる。
今日も今日とてるんるん気分。
体も軽く心も晴れやかだ。どれもこれも研究が順調に進んでいるお陰である。
それに神秘の収穫も上々であるからだ。
「ふふ。それに今日も色んな子の神秘を手に入れられたし……収集がいっぱいで捗るね」
粒子化装置から仕舞い込んでいた、私お手製の犬型ロボットを抱えて、独り言ちる。
実体化した犬型ロボットは私を認めると、尻尾型アンテナをふりふりと揺すって、可愛らしい機械音を鳴らした。
犬型ロボット改め、犬型神秘収集ユニット『ワンワンボット』。
この子のボディ各所に設置した神名のカケラが、色々な生徒の神秘に満ちている事を確認する。
ミレニアムでは、犬型ロボットがブームを乗り越えもはや定着している。
そこらで自由に走り回ったり、飼い主と散歩をしていたり、犬型ロボット同士で交流していたり。
ミレニアムにおいて、犬型ロボットを見ない日は無い。
そこに私の作った『ワンワンボット』を紛れさせても違和感は無いだろうと目を付けた。
既存の犬型ロボットと形状は変えず、されどボディを一回り大きく、そして各所へ神名のカケラを半ば露出するように取り付けたもの。
生徒に対して積極的に接触するようにプログラムしたこの子が、生徒にお手をしたり、体を擦り付けたり押し当てたり……そうする事で神名のカケラに神秘が充填される仕組み。
体中の神名のカケラもそういうデザインとして受け入れられているみたいで、自然と神秘を集める事ができている。
私が研究をしている間や、オーパーツや神秘を集めていたりと他の作業をしている最中にもせっせと生徒の神秘を集めてくれている。
えぇと、これはアスナさんの。こっちはカリンさん。……多分相当撫で回されたな、今日はアスナさんのが多い。……おっとこれは!
「……初めて取れた子も居る! 上出来だね、すごいぞ」
『ワンワンボット』に取り付けた粒子化装置の中からも取り出した神名のカケラを並べ、歓喜に満ちる。ついでに撫でて褒めてあげる。良い子め良い子め。
この子のボディに仕込んだ神名のカケラに神秘が満ちた先から、内蔵した粒子化装置に仕舞い込んだ空の神名のカケラと交換する事で、最大80個、神秘を収集する事が可能となっている。
お陰様で神秘のサンプルがどんどんと集まっていく。
時折ミレニアムへ観光しに来た他自治区の子も物珍しさからこの子に寄ってくるようで、ミレニアムに居ては関わる事のできない子の神秘も割かし手に入る。これはこれはありがたい。まぁ本当は直接相手の顔を見ながら神秘を取りたいけども……そこはそれ。
「よーし。それじゃあ次もお願いね」
神秘をひとしきり識別し終え、上々の成果に満足しつつ『ワンワンボット』を撫で回す。尻尾を愛らしく振って……可愛いヤツめ。
今回集めてきたオーパーツも並べておこう。
こちらも収穫が上々。ホクホク気分。
色々な場所を巡って、色々な方に集めてもらって。
オーパーツを寄り集めていく内、その貯蔵も潤沢なものとなった。
そして数を集めるにつれて、新たなオーパーツも発見する事ができた。
レヒニッツ写本。ヴォイニッチ手稿のコピー。トーテムポール。円盤型ペンダント。ミステリーストーン。怪しい髪の伸びた人形。古代文明のメダル。黄金の糸で編んだ布。中空十二面体。黄金シャトル。古代ロケット。
どれもこれも素晴らしい。
特に中空十二面体の調和の取れた見事な造形美といったらどうだ。
黄金の糸で編まれた布の極上感触も良い。
妖しさを宿した、ほんのり怖気と哀しみを感じさせる髪の伸びた人形も良い。誘発される感情によって私の神秘が仄かに活性化するのを感じる。
オーパーツで敷き詰められた箱に顔を近付けて、深呼吸。
すうすう、ふわふわ。神秘とエーテルに溢れた空気を私の体にめいっぱい取り込ませていく。
……うーん。たまりません。湧き上がる幸福感。満たされる心。そして神秘。幸せの香り。これは体の調子も良くなるというもの。
この効用はその内ガンにも効くようになるだろう。間違いない。
さて。
今まで集めてきたオーパーツ達を見ると、これらは生み出されてからある程度の年月が経っているものばかり。
神秘が物体に宿るには、長い事キヴォトスに存在する事こそが必要なのだろうか。
アビドスにオーパーツがより多く集まっていたのは、度重なる砂嵐によって物品が埋まっていたのもあると思うが……かつて数多くの人が居て、物が残されて、あまり人が寄り付かなくなったが為だろう。
広大な砂漠という悪環境からして資材拾いで生計を立てるという人も全く出てこなかったのかも。
ああいう所に在住しているのは、アビドス対策委員会の方や比較的砂漠化が進んでいない地域に居る方くらいだし……
……そういえば、アビドス砂漠にはカイザーが手を出しているという情報もあった筈。しかし仮にも大企業があの砂漠で何をしようとしていたのか。
オーパーツといえば、先生の持っていた『シッテムの箱』も大変興味深い。
先生にしか扱えない、極めて特別な意味が籠った謎のタブレット型デバイス。
そしてそこに住まう、アロナという小さな少女。当人はシッテムの箱のOSを自称していた。ヘイローも、アロナちゃんの感情の機微に応じて形状を変化させるというもの。現時点でそのような特徴を持つのはアロナちゃん以外見掛けていない。これも特殊たる所以か。
是非とも神秘のサンプルを取りたかったが……残念ながら、神名のカケラ───ピンク色の石を黒服さんがそう呼んでいたので私もそれに倣う───をシッテムの箱に接触させても、神秘は取れず。ガードが硬いと見える。
まぁエンジニア部はともかく、ミレニアムが誇るスーパーハッカーたるヴェリタスの方々も一切手出しできなかったという曰く付きなので予想はできていたけど。アロナちゃんを観測できただけで儲け物としよう。
……けどなぁ。
解析したいなぁ。気になるし。
シッテムの箱は間違いなく神秘に満ちたオーパーツである。
あの先生以外に起動すらさせないガードの硬さがシッテムの箱に溢れるあの神秘に由来するのであれば……手はあるのかもしれない。
要検討。
とにもかくにも、オーパーツは多くのサンプルデータを揃えられた事により、神秘の研究も日々日々進んでいった。
抽出した神秘を溜め込む『神秘タンク』も、ゲヘナ地下水や他のオーパーツの部品を組み込む事でその貯蔵量や貯蔵期間も増加に成功。初めの頃とは比べ物にならない程神秘を閉じ込められるようになった。
なんと『神秘タンク』とサイズは変わらずとも内容量は5倍以上。貯蔵期間は一週間を超え、現在も更新中。
すごいぞ、オーパーツ!
それでもって他にも興味深いオーパーツもあるのだった。
粒子化させておいたソレを装置から取り出す。
「うわ、まだ動いてる……生命力凄まじい……」
両手のひらに抱えるサイズで現れたのは、毒々しい紫と緑色が入り交じった巨大なタコ足とパンケーキ生地。
ゲヘナで遭遇した巨大パンケーキの触手とその肉片である。
神秘を宿し、強靭な生命力を有していたそれは例えその一部であっても例外ではないらしく、本体から切り離された状態であっても触手はビクビクと僅かに脈動している。
匂いも何ともいえない。鼻が曲がる……とはいかないが中々鼻に残る香りである。
というか触手に付いてる吸盤……規則正しく並んでいる事から見るにメスのタコを模したものなんだ、コレ。メスかぁ……。
この巨大パンケーキの肉片だが。
確かに神秘を宿しているしオーパーツと同じように活用できないかと色々試してみたものの、あまり上手くいかない。
今持っているものを含めて丸々二本分程触手と肉片を持ち帰り、実験を行ったが……神秘を思ったよりも抽出できないのだ。
一本はもう使い切ってしまったし、さてどうしたものか。
そこで1つ思い至る。
これは元々、ジュリさんが温泉卵を作ろうとした結果生み出された巨大パンケーキ。
要は食べる物として存在しているのだ。
ならば、そこに宿る神秘を一番効率的に取り込むに値する形にするには、どうすれば良いか。
そう、食べる事だ。
食べ物ならば直接摂取すれば良い。
という訳で食べてみよう。
「うーん。火を入れて……いや、タコ足の見た目なんだし生でも大丈夫かな?」
包丁を構えてみるものの、今度は調理に迷う。
まがりなりにもオーパーツという物体を直接取り込むのはやった事はない。今まではオーパーツから抽出した神秘だったのだし……。火を通すと神秘は霧散するのか、それとも適切な調理をしなければ神秘はより多く取り込めないのか、未知も未知の領域だ。
……とりあえず思い付く限りはやってみよう。
調理機器を用意してと。
パンケーキ生地は……そのまま皿に盛り付けて。
大きいタコ足を一口大に切る。
そして生のまま刺身に。
焼く。
茹でる。
揚げる。
和える。
カルパッチョにしたり。
そして出来上がる巨大パンケーキの触手料理。
一通り皿に盛って並べてみるも……どれもこれも禍々しい紫の煙がほわほわと立ち上っていて、何処と無く不気味な光景だ。
何か緑の汁とか滴ってたりもするし。匂いも強くなってる気がする。
ともあれ、いざ実食と行こう。
まずはタコ足を……いや、パンケーキ生地にしようか。
うーん……いっそ両方まとめて……
「私はどっちからが良いと思う?」
作業中のミメシスの私へ声をかけてみる。
こっちを振り返って…………すんごい顔顰めてそのまま作業に戻った。食うなって? っていうかその顔見た事ないんだけど。ねぇちょっともっかい見せてってば。
……こっちを向いてさえくれない! 何だこの子は! 私か!
「……まぁいいや。いただきまーすっ」
とりあえず一口行ってみよう。
タコ足の刺身をパンケーキ生地に乗せて、箸で口に放り込む。
───むぐ、むぐ。もぐ……。
あ、強い匂いの割には淡白な味……
タコ足の歯応えが思ったよりもぐにぐに硬い。パンケーキ生地との食い合わせはおよそ悪い。
……パンケーキ生地は緑色の体液のソースが思ったよりも主張してない……何味だ? これ。
あれ、タコ足は何だか噛んでると味が染み出してくるというか……噛めば噛むほど口内に肉汁みたいなのが……
うん? うん、うん……うん。何だかすんごい込み上げるような何だかとっても……旨味の奔流というか何というか。
あっこれすご─────
─────意識がふわふわと飛び上がる。
風に揺られて、ゆらゆら。
ゆったり飛んでいく先に、光が見える。
聞き覚えのあるような声が、光の先からぼんやりと聞こえてくる。
ゆらゆら飛んでいく。
光が広がる。
何処かのオフィスのようだ。
先生が居る。
シャーレだ。シャーレのオフィスだ。
先生が座るデスクの傍には、ユウカさんが座っている。書類の整理を手伝っているみたいだ。
「──まったく……大人なんですから、しっかりと大人らしく計画的な消費をしてください」
「──それに、こうして領収書の整理を手伝ってくれるのなんて、私くらいなんですから……」
「次はもう、絶対に手伝いませんからね!」
頬を赤く染めつつ、呆れと照れと何処か優越感を交えた表情でユウカさんがペンを動かしていく。
何だか嬉しそうでもある。
意識がふわふわと飛び上がる。
目の前の光が遠ざかり、曖昧な世界に引き戻される。
すると間もなく、新しい光が瞬いて、そちらにゆらゆらと引き寄せられていく。
光が広がる。
広い室内。
機械と部品、工具に様々な機材が雑多に置かれている。開発途中らしき製品や、設計図らしき物もデスクにある。
エンジニア部の部室棟だ。
「──どれどれ……ふむ、軸周りが緩くなっている。ということは、ベアリングが……」
ウタハ部長が機械のメンテナンスをしている。
額に汗をしながら真摯に取り組む様は、やはり良いもので。
「───先生、これは、見ていて面白いのかい? 先生が良いのであれば、別に構わないのだけど……」
興味深げに、そして生徒が夢中になっている様を微笑みながら見つめる先生。
気を取られ、集中が途切れる訳ではないが、ウタハ部長はほんのり恥ずかしげにしている。
何でもなく、何気ない、けれど大切な一日の瞬間。
そこに先生が加わる事で、その瞬間に輝きが増している。そんな様な気がする。
意識が再び浮き上がる。ふわりふわり、飛んでいく。
光が遠ざかり、また新たな光が私を包む。
……ほんのり煌びやか、賑やかな……店内。
カフェのよう。
ソファに腰を下ろして、脚を組むカリンさん。
その下に先生が寝そべって、踏まれていた。カリンさんに。
「───ほ、本当に……こんなことでご褒美になるのか……?」
踏まれていたのではなく、先生が踏ませていたらしい。
だから何だと言うのだろう。
……輝いてる?
輝いてるかな……多分……
「───うん? もっと強く……? わ、わかった……先生がいいなら、私も……いい」
意識がふわふわと飛び上がる。
新しい光が視界を包み込んで、広がっていく。
……。
……。
何だか雲行きが……。
「──うぅっ、こんな格好……っ!」
「──この屈辱、絶対忘れませんからね……!」
三日月のような薄水色のヘイローを携えた青髪の生徒が、四つん這いになっている。
その人の首輪に繋がれた先にはリードの持ち手を持っていた先生が居て───
「───お、『お散歩』!? 正気ですか!? このまま!?」
リードを引く。
チリン、と首元に飾られたカウベルが揺れて、屈辱と羞恥、果てしない感情に見舞われた彼女の表情はみるみると赤く染まり上がって───
「何か変なの居たーっ!?!?」
意識が急速に浮上し、起き上がりながら覚醒する。
見慣れた天井と床。ソファに寝かせられていた体、かけられている毛布。
どうやら夢を見ていたらしい。どんな夢?
あの巨大パンケーキ、幻惑や前後不覚やらの症状を引き起こす成分でも入っていたのだろうか。
「おや、お目覚めになりましたか」
「……黒服さん。おはようございます」
声がした先に目を向けると、黒服さんが資料を片手にこちらを見やっている。
事の顛末を聞くに、資料の共有にと私の研究部屋に訪れた際、昏倒していた私を発見。
幸い、魘されてはいるものの呼吸は正常で、毒物に侵されている訳でもなかった為、横にして簡易的な処置を済ませる程度にしたという。
「いやぁ、手間をお掛けしまして……」
「いえいえ、お気にならさず。……して、そちらが今回摂取したもので?」
「えぇ。ゲヘナの生徒が持っていた神秘によって作り出された料理でし、て……」
黒服さんが示す先にある、食べかけの巨大パンケーキ料理。
そこに顔を向けると……視線が吸い寄せられる。
妖しい紫の湯気を立ち上らせる巨大パンケーキ料理。目が離せない。
自然と立ち上がり、近寄っていく。
そして刺身を箸で摘み、一口放り込んだ。
「……○○さん?」
黒服さんに呼び掛けられるが口に入った物を飲み込むまで少し待ってて欲しい。
───むぐ、もぐ、もぐ……。
口内に広がる強烈な風味。刺激臭と呼ぶには弱いが、それなりの衝撃を突き付けてくる味わい。
噛むほどに旨味に溢れた肉汁が零れ、唾液と混じり合い、口の中が幸せに満ちるよう。
さっきのように意識が遠のく気配も無い。
ごくん、と飲み込めば……神秘が私の中に充足して、温かく満たしていく感覚。
……うん、美味しい。いけるね。
もう一口、一口。
箸を進めて、刺身の皿を空にしていく。
……ようやく、こちらを窺う黒服さんに意識を向ける事ができた。
「黒服さん」
「何でしょう」
「食べますか? 飛びますよ」
「クク。遠慮しておきます」
「───そういえば○○さん。貴方専用の研究棟の目処がようやく立ちました。よろしければ今しばらくお待ち頂ければと」
「ぁ、ホントですか? いえいえ、わざわざありがとうございます黒服さん」
数ある巨大パンケーキ料理を平らげる最中、私の研究資料やらミメシスを眺めていた黒服さんが唐突にそう告げる。
いやぁ、つくづくありがたい。
今私に割り当てられている研究部屋も手狭になっているし、より広く、自由に使えるスペースを用意してくれるとなれば飛び付くというもの。
物の運搬に関しては、『しまえる君Z』で粒子化してから黒服さん達が使う移動方法で一瞬で目的地までワープしてしまえば済む。楽チン。
まぁ、黒服さん側も単なる親切心で用意する訳では無い。
以前にも話していた、私と関わっても益を齎さないゲマトリアのメンバー。
その方の何かを嗅ぎ回ろうとする動きが目立ってきた為に、私をこの場所から離れた場所へと隔離し、私という存在が露見する可能性を極力減らしたいのだという。
不穏要素はなるべく無くしたいしね。分かります分かります。
……おっと。料理を全て食べ終わってしまった。ごちそうさまでしたっと。
「所で黒服さん。古い物が集まる場所、と言ったら……何処を思い浮かべますか?」
「ふむ。オーパーツの収集に赴かれるのですね?」
「えぇ、少し行って確かめてみようと思いまして……」
「ほう。今回はどちらに?」
「こちら、ですね」
ホログラム投影デバイスからキヴォトスの全体地図を表示して、ある地点へピンを打つ。
すると黒服さんは、また愉しげに含み笑い、了承してくれた。
「……クク。貴方にとってきっと面白い物が見つかる事でしょう」
という訳でやって来ました氷海地域。
見渡す限りの永久凍土。
一面の銀世界。
凍てつく大気。
文明を感じさせない、正しく人類未踏の地ともいうべき場所。
そして遙か何万年前から凍り、積み上がり、積累された氷山と氷床の数々。
オーパーツという物体に神秘が宿るために必要な要素の1つが年月とするならば。
キヴォトスにおいて何万年もの間存在していた此処氷海の地にオーパーツと類される物はより多く眠っているのではないか。
遺跡の中にあったり土の中に埋まっているオーパーツなどよりも、凍結保存されているオーパーツの方が損傷率も低そうではあるし。
氷海地帯の対策、ボーリング発掘の為の機器、オーパーツ捜索用装着、その他諸々はたっぷり用意してきた。
遭難や水没にも気を配ったが、油断は禁物。
此処はキヴォトス。何時何が牙を剥き襲ってくるか分からないのだから。
とりあえず、S.Fアーマーとそれを覆う神秘防護膜に極地活動用の機能を追加。これにより周囲の環境温度に左右されず、常に装着者にとって快適な温度が保たれる。悪影響を及ぼす毒素もシャットアウト。無酸素状態の中でも、30分は活動可能なまでに至った。
また、機動力と推進力増強の為に各所へアタッチメント式のスラスターを取り付けた。稼働エネルギーはもちろん私の神秘。神秘の注入量によって加速減速もお手の物となっている。
現在は背部と肘、踵に取り付けたスラスターを噴かす事で氷床の上を正しく滑るように移動中。姿勢制御装置もしっかりと働いている影響で、猛スピードの中でも転倒する事無く動けている。
「うーん……今の所オーパーツ反応はないなぁ……」
……問題というか何というか。
バイザーに浮かび上がるセンサーから返ってくるオーパーツを示す反応は今の所ゼロ。
既に氷海を探索して1時間ほど経つだろうか。十何kmかは探してみるものの、成果は乏しい。
うーん、この分だと海に潜ってみないと駄目かもしれない……。
「────あっ?」
再びスラスターを噴かせ、氷床を滑り続ける最中。
センサーの端に反応あり。
数は1つ。
何かが前方から猛スピードで私が居る所へ迫ってきている。
前方を見据える。しかし何も見当たらず。真っさらの銀世界のみ。
上空を見上げる。しかし何も見当たらず。透き通るような青空のみ。
なら。
「……下?」
視線を下ろして、氷床の方へ向ける。
私の足元を覆う巨大な影が目に止まった。
「ぬわぁーッ!?」
それを認識した途端、劈く破砕音と共に視界が真っ逆さまに裏返る。
急激な浮遊感が私の体を包み、青空を見上げながらぐるぐると視界が回っていく。打ち上がる水飛沫が体をバシバシと打ってくる。
足元の影が急速に浮上して氷床をぶち破り、巻き込んだ私を空高く打ち上げたのだ。
「あぶ、あっぶない、っとぉ……!」
咄嗟に各部スラスターを噴かし、姿勢を制御。重力に振り回される体の自由を取り戻す。
割れていない氷床に何とか着地、突如として襲ってきた相手を見据える。
その形を、認識する。
「……ぁはっ」
ずしん、と重たく、私と同じように氷床へと着地をする白い巨躯の機械。多脚をしっかりと踏み締め、頭部と思しき鋭角的なパーツをこちらに向ける。瞳が光り輝くと同時に、全身へオレンジのエネルギーラインが走る。
がしん、がちん、小気味良いリズムを刻みながら、次々に武装を展開していく。
ミサイルポッド。二連砲台。レールガン。ドリル。魚雷発射管。パイルバンカー。各部位に取り付けられたバルカン砲塔……圧倒的質量の武装群を取り付けた、全身兵器と呼ぶに相応しい出で立ち。
そして何より、何より。
一番に目を引くのは、頭部に戴く輝かしきヘイロー!
花弁が精一杯に開いたように活力溢れた、素晴らしきヘイロー!
神秘に満ち満ちた、巨大なヘイロー!
あぁ、歓喜と感動が衝動のように押し寄せてくる!
「ください! 見せてください! 貴方のヘイローを! 神秘を!」
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