神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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地の文方式にしたら9000文字近くなっちゃったゾ……






第三者から見た彼女

 

 

 

 

 

 

 ミレニアム自治区某所。

 エンジニア部お得意様の2人の証言。

 ○○と関わる事の多い2人に、先生は尋ねる。

 最近の○○の様子はどうかな、と。

 挨拶と雑談の最中、差し出された話題について彼女たちは明るい笑顔を浮かべながら話し出す。

 

 

「○○ちゃんですか? あー、最近はすっかり明るくなったよねあの子」

 

「そうそう、前はあんまり元気なかったし隈もバキバキ入っててヤバかったけど、今は元通り……っていうよりもっと明るくなったっていうか」

 

「グイグイくるようになったよね。距離感が近くなった感じ」

 

「子犬みたいでなんか可愛いよね〜」

 

「分かる〜」

 

「この前なんかせっかくだし写真撮ろうって○○ちゃんから言ってきてさー」

 

「あー、趣味が増えたとか言ってたっけ」

 

 

 写真を? 

 先生が疑問を差し込むと、彼女たちは肯定を示し、手にした端末を数度弄ってから画面を先生へと向けてくれた。

 

 

「うん、そうそう。ほらこれ。良い笑顔撮れてるからちゃんと保存してあるの」

 

 

 1人が見せてくれたスマホの画面。

 画面には、○○と2人が仲良くピースサインをしながら映り込んでいる写真が表示されている。

 ○○の両手は2人の肩に回され、体を寄せ合うように抱かれている。

 

 にっこりと微笑む○○の瞳は、以前よりも輝いているように映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部部室内にて、部内メンバーの証言。

 

 ゲームの開発に必要で大事で大切なインプット作業中だから! といつも通りゲームに興じる彼女たちに、先生が質問をする。

 最近の○○について何か知ってるかな、と。

 

 

「○○? 最近よく一緒にゲームやってるよ! 大体呼ぶと来るからパーティゲームしたい時に助かる!」

 

「便利物扱いしないのお姉ちゃん……まぁ、ゲームする人数が増えるのは確かに良いけど」

 

 

 寝っ転がりながら携帯ゲーム機を握り、忙しなくボタンを弄るモモイがそう答え、ミドリも同意。

 部長であるユズもこくこくと首を縦に振り、控えめに意見を示している。

 

 

「アリスも○○と一緒に冒険をする時間が増えました! めげずに○○の好感度を稼ぎ続けたおかげです!」

 

「アリスと一緒に居る時間、確かに増えたよねー」

 

「この間はついに特別なCGスチルもゲットしました!」

 

 

 アリスは部室の棚に飾ってある写真立てをぐぃと自慢げに先生へ見せ付けた。

 写真には、ゲーム開発部の皆と○○が映っていて、皆が皆、画角に収まろうと体をくっつけ合うように寄せて、思い思いの笑顔を浮かべている。

 

 前髪に隠れがちな○○の瞳が、爛々と輝いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セミナー部室内にて、セミナーメンバーの証言。

 

 爆発や爆裂や爆散などの派手な問題を起こしがちなエンジニア部。その年度予算やら修繕費やらの話題に事欠かず、衝突を起こす光景がミレニアムの日常風景となるほどには、セミナーは関わり深い部活である。

 その彼女たちにも、先生は尋ねた。

 最近の○○の様子に何か違和感は無いかな、と。

 

 

「○○ちゃんは……確かに、最近は様子が妙だとは感じていました。空元気とは違うんです。もちろん明るくはなってましたが、何というか……焦っているような、取り憑かれているような、変な違和感で。すみません先生、はっきりと言えなくて……」

 

「私は○○ちゃんとあまり関わりが無いのですが……活動的な子だとは記憶しています。……けれど、あそこまで好戦的だったでしょうか」

 

「そうなのよ、最近ミレニアムで起きた不良同士の揉め事とか、銃撃戦に発展までするような喧嘩には大体○○ちゃんが居るの。周りに聞いてみれば、途中で参加してきたり、あえて突っかかってきたりしたみたいだし……」

 

 

 ユウカとノアの反応は芳しくない。○○に起きた変化に対して、好意的なものばかりではない様子だった。

 

 

 

「前までは、そんな子じゃなかったんです。むしろ争い事は避けたり逃げる子でした。自分から首を突っ込んでいくなんて、どんな心境の変化なのかしら……」

 

「それに、武器も変えたようですね。以前はハンドガンを使っていたようですが……最後に見かけた時には、サブマシンガンを携帯していました。それも二挺……あ、ひょっとしてユウカちゃんリスペクトでしょうか」

 

「い、いきなり何言ってるのよノア……!?」

 

 

 どうにも暗い空気になりそうな雰囲気を晴らそうとしたのか、ノアがいつも通りユウカへのからかいを朗らかに飛ばしていく。

 

 しかし先生の顔色は晴れず、顎に指を当てて俯くばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も先生は最近の○○の事について聴き込みを続けた。

 

 ○○の知り合いは、皆以下のような反応を示していた。

 

 

 ○○の変化にあまり気付かない、もしくは関心が無い、あるいは気にしていない者。

 ○○の変化に好意的である者。

 ○○の変化に何らかの不審感を覚える者。

 

 

 

 先生はその聴き込みを続けるにつれ、認識を不審寄りに傾けていった。

 

 本来ならば、以前まで元気の無かった生徒が元気を取り戻しているという事は諸手を挙げて歓迎する事態である。

 

 

 素直に喜べないのは、前情報と事前知識があっての事。

 

 少しばかり焦燥したウタハから相談を持ちかけられた際に発覚した、○○が生徒のヘイローが見えているような挙動をしている事実。

 

 

 本来であれば生徒同士は頭上に浮かぶヘイローの形を識別できない。そこにある、という事だけは認識できるが、その程度に留まる。

 

 

 けれど、○○はヘイローの形を認識している。もしくは、先生と同じ視点を持っている。

 

 

 そして、生徒にそのような視点を授ける事ができる心当たりが先生にはある。

 ○○と同じように、キヴォトスの神秘に目を付け、研究をしている者達。研究と探究の為ならば生徒に対しての非道も平気で行う輩が。

 

 

 嫌な予感が心の内を占める。

 杞憂であるならばどれほど良いか。

 神秘について熱心に研究していた○○が、偶然、たまたま、何かの拍子で、1人でその視点を手に入れたのではないか……などと現実逃避じみた楽観視まで思い浮かぶ。

 

 

 

 

 ……一度、○○と会って、話をしてみなくてはならない。

 

 

 しかし連絡を取ろうにも、何故だか○○とモモトークの交換をしていない事に気付き、過去の自分に恨みを飛ばしつつ……この場においての最終手段を躊躇いなく切った。

 

 

 

 

 

 "アロナ。○○の居場所って分かるかな。"

 

 

《はい、先生! アロナちゃんにかかればちょちょいのちょいですよ! 捜索しますのでちょっと待っててください!》

 

 

 先生がキヴォトスにおいて手にした不可解なタブレット。

『シッテムの箱』と呼ばれるそれに先生が声を掛ければ、澄み渡る青空が浮かぶ教室の中に佇む、青空と同じ髪色の少女が元気良く画面に映る。

 

 頼りにされて嬉しいです、とばかりに笑顔を浮かべて、ヘイローをハート型に変化させながら応対する少女は先生の言葉をすぐさま受け入れ、《むむむ〜……》と中空に向かって唸り……しばらくしてから顔色を再び明るくした。

 

 

《○○さんの端末の座標を特定しました! 現在は……ゲヘナに向けて移動中のようです。追い付くルートを検索しますね!》

 

 "ありがとう、アロナ。"

 

 

 一個人の端末の位置を特定し、現在地を割り出し、それを追跡する。

 およそ生徒たる子供に行うべき所業ではないと先生自身認識はしているが、生徒に迫っているかもしれない不安要素を前に、躊躇いなど微塵もなかった。

 

 タブレット画面に表示されたルート案内を頼りに、先生は足早に歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中進路を変えず、真っ直ぐにゲヘナ自治区へ入った○○を追い掛け同じ自治区へ足を踏み入れた先生だったが、思わぬ足止めを食らった。

 

 

「あっ、先生ぇ!! 助けてぇ!!」

 

 

 ゲヘナ自治区を歩くこと数分、暴れ回る不良とその鎮圧を行う風紀委員会の争いに半ば強制的に巻き込まれてしまった。

 

 十人単位で徒党を組み銃を乱射し爆弾を放り投げ憂さ晴らしの破壊活動を行う不良軍団。まだ経験が浅く、その鎮圧に手間取っていた風紀委員会のメンバーに泣き付かれ……先生は嫌な顔一つせず、即座に風紀委員会側に加わり、鎮圧活動にあたった。

 

 

 

《全く……アロナちゃんが居なかったら大変な事になってましたよ、先生。……本当に怪我はしていませんか?》

 

 "大丈夫。アロナのおかげで何ともないよ。"

 

 

 

 今回は特に不良の暴れ具合は度を超えたものだった。

 敵味方から激しく飛び交う銃弾の嵐は、後方から指示を飛ばす先生の元へ、流れ弾として何発か飛んで行く。

 

 

 だが、その弾丸は先生の体へ触れる事もなく、強固な光の壁に阻まれ、あえなく地面へ落ちる。

 摩訶不思議な『シッテムの箱』の機能の一つ。耐久力がキヴォトス人より遥かに劣る先生を危機から守り抜く完璧強固な神秘の防護壁。

 

 

 

《もう、気を付けて下さいね先生。……あ、○○さんの行方の方ですが……》

 

 "うん、今は何処に居るかな? "

 

 

 無事に鎮圧も終え、軒並み伸された不良達を風紀委員会が纏めて運搬を行っていく姿を横目に、本来の目的に戻ろうと先生が尋ねると、アロナはあっ、とちょっぴり驚愕を示しながら言葉を返した。

 

 

 

《……すぐそばです! あっ、ちょうど先生の後ろから近付いてきてます!》

 

 "えっ? "

 

 

「先生!」

 

 

 

 呼び掛けられた声の元へ振り向くと、探していた生徒の姿が視界に収まる。

 にっこりと笑みを浮かべ、緩く手を振りながら近付いてくる。

 

 

 

 

「こんな所で会うとは奇遇ですね?」

 

 

 

 好奇心に塗れた瞳が、髪の隙間から覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "○○はいつもので良い? "

 

「いえ、水でお願いします」

 

 

 立ち話もあれなので、と何処か落ち着ける場所として近場の公園へと赴いた2人。

 自販機の前で先生が指す"いつもの"は、ミレニアムで大人気のエナジードリンク『妖怪MAX』。

 日々エンジニア部にて研究開発に勤しむ○○もその例に漏れず愛飲し、新作フレーバーが出るや否や試し飲みも行っており、先生も良く差し入れとして渡していた。が、○○はそれを拒否して、ただのミネラルウォーターを要求した。

 

 

 "珍しいね。妖怪MAX、新作も出てるのに"

 

「この頃、健康に気を遣ってまして。これ系は控えるようにしてるんですよ」

 

 

 実際、エナジードリンクを過度に常飲する事は健康に何らかの不調を齎すため、生徒の事を思う先生としてもその心変わりには安心する所。

 しかしその変化も、そこはかとない違和感として先生の心に募り、そして自身に対する嫌悪が湧いて出た。

 生徒を疑うなんて何事だ。

 

 

 "そういえば、隈も無くなってるね。ちゃんと寝れてるみたいで安心かな。"

 

「はい。それに最近のウタハ部長は健康器具制作にハマっているらしくって……この前は不眠症超速改善ベッドなるもののテスターとして何日か強制的に使用させられまして……」

 

 

 互いに公園の手近なベンチに座りながら、○○を観察する。

 以前と決定的に違う、という訳では無い。

 ほんの少し、引っかかるような違和感を抱く。

 その正体は何か。先生は談笑を続けながら○○を眺める。

 

 

 顔色は良い。健康に気遣っているという言葉は本当のようで、以前よりも肌の艶もハリもある。ふわふわと伸ばした白い髪も、乱れずに艶を取り戻している。

 神秘についての研究が滞っていたという時には目の隈も酷かったが、それもすっかり薄れて、今は明るい表情を浮かべている。

 

 

 ……以前の○○は先生からすれば危うい子であった。

 エンジニア部に所属する、もの作りが好きで、それこそ三度の飯よりも好んでいる一年生。

 

 ロマンを追い求める事に熱心で余念がなく、その為ならば何事にも躊躇いなく、遠慮なく踏み込んでいく気質の子。

 

 その性格が相まって、時には暴走したり、はたまた他のエンジニア部員と一緒になってとんでもない物を作り出してしまい、ミレニアム内で騒動を起こす事は少なくない。

 

 

 問題児の1人ではあれど、先生にとって大切な生徒の1人でもあった。

 

 

 そんな彼女が弱り出したのは、何でもないある日の事。

『神秘について研究したいんです!』と宣言をしてからしばらく、思い通りに研究が進まず、何をしても上手くいかない事が多くなったという。

 

 シャーレで仕事に勤しむ先生の元へ乗り込み、『連邦生徒会の資料閲覧の許可を下さい!!』と土下座をしながら頼み込んできた記憶に新しい。

 見るからにぼろぼろで痛々しい姿の彼女を前にした先生はまずしっかり休息するように促していた。

 

 

 

 "そっか。研究も、順調に進んでるの? "

 

「えぇ、それはもう! 以前とは打って変わって。作りたい物がバンバンと作れていますよ!」

 

 "楽しく研究、できてるんだね。私も嬉しいな。"

 

「そりゃもう楽しいですとも。作りたいものを作れて、やりたい事をやれる。パラダイスですよ!」

 

 

 

 背格好に目を向ける。

 取り分け変わった様子は無い。

 肌の露出を抑えるようにミレニアムの制服を着込み、少し丈が合わず袖が余り気味の白衣を羽織っている。

 腰に下げたベルト帯には工具箱と思しき四角い箱。

 

 

 ……不意に、先生の視線が○○の頭上に向く。

 

 ○○のヘイロー。

 宙に浮かぶ黒い円形から羽のような形をした白が広がり、それを2本の円輪が囲っている。

 

 ぎらぎらと輝きを湛えたそれは、その存在を誇示するようにそこに浮かんでいる。

 

 

 ……いや。

 少し違うような。

 

 この子のヘイローは、こんなにも……力強く輝いていただろうか。

 

 ……それに。

 円輪の端に、微かに走っているひび割れの様な模様は、以前もあっただろうか。

 

 

 

 

「……そんなに気になりますか、先生?」

 

 

 

 眩い光を帯びたヘイローが近付いてくる。

 ○○の瞳が、射抜くように真っ直ぐと向けられる。

 深く見つめてくる2つの瞳。

 その虹彩が、やけに煌めいているようにも思えた。

 先生の返事を待たず、開いた口を動かした。

 

 

「私も気になっていたんですよ、先生。先生が持っているそのタブレット。シッテムの箱でしたっけ」

 

「先程の戦闘中……そちらが稼働している様子を見かけました」

 

「そこから聞こえてくる声も」

 

「……それは一体、何なのですか、先生?」

 

 

 ○○が小首を傾け、けれど真っ直ぐに、視線を逸らさずに瞳を向け続けてくる。

 

 ここが分水嶺である、と先生は直感した。

 

 

 それと同時に、嘘を吐く事も、誤魔化す事もせず。先生は懐からシッテムの箱を取り出し、それを○○に手渡した。

 

 

 "あんまり乱暴に扱わないでね。"

 

「おっと、と……乱暴だなんてそんな……。……。……おぉ」

 

 

 ○○は意外そうに目を瞬かせ、すぐさま気を取り直しては丁寧に両手で受け取り、それから画面に映り込んでいる景色に目を釘付けにさせた。

 

 水平線の彼方まで広がる青色。

 澄み渡る水に足元を浸された、壁や天井が崩れ掛けではあれど退廃感を微塵も感じさせない教室のような空間。

 机が乱雑に並ぶその空間に佇む、神秘を纏った1人の少女。

 

 

 真っ直ぐに注がれる視線に少し気はずかしそうにしながら、アロナは微笑みと共に声をかけた。

 

 

《えぇと……初めまして、○○さん。アロナです!》

 

「初めまして、アロナさん。わざわざご丁寧に……可愛らしい方ですね、先生」

 

 "やっぱり、○○には見えるんだね。"

 

「……その言いぶりですと、先生以外には?」

 

 "うん。少なくとも、これまでアロナを認識できる子は居なかったよ。"

 

 

『シッテムの箱』というタブレット型デバイス。

 そのメインOSを名乗る少女。先生の秘書を自称する彼女は、先生以外に認識はできず、電源自体も先生が触れなければ起動も叶わない、謎の多いオーパーツ。

 

 

 "……私にも分からない事は多いけれど。"

 

 

 扱う先生にもその全貌は知らない、未知の何か。

 それでもはっきりと分かっている事を、先生は伝えていく。

 

 

 "アロナはね、私をいつも助けてくれる優しくて凄い子なんだよ。"

 

《そうですとも! 何たって先生の秘書、スーパーAIアロナちゃんですからね!》

 

「なるほど。……して、先生を守っていた防護壁は、貴方が?」

 

《はいっ、危険な攻撃を完全シャットアウト、アロナちゃんの防御フィールドです!》

 

 

 

 感情と共にころころと形状を変えるアロナのヘイローに○○は視線を注ぎながら、○○が質問を投げ、アロナと先生がそれに答える談笑が和やかに続き。

 唐突に、○○がシッテムの箱を先生の手へと返した。

 

 

 "……もういいの? "

 

「はい。私ばかり聞いては不公平ですし……私も、先生からの質問に答えられる分だけお答えしますよ」

 

 

 先生が嘘偽りなく接した為に、○○もその胸襟を開くようになったらしい。

 明かしてくれた情報の分だけ、情報を渡すと告げれば、先生は今一度姿勢を正して向き直った。

 

 

 

 "……研究は、誰かと一緒にやってるの? "

 

 

 その質問が来る事を分かっていたように、○○は微笑みを絶やさずに答える。

 

 

「えぇ。大人の方々です。お互いの神秘の研究の為にと協力して下さいました」

 

 

 "……その大人の人達の名前って……。"

 

「すみません、それだけは口止めされていまして……けれど、神秘を研究しているとだけ言えば先生は分かる、とも言ってましたね。お知り合いで?」

 

 "……うん、ちょっとね。"

 

 

 悪い予感が、そのまま的中した。

 先生の両手に力が籠る。

 

 

 "……その人達に、何か変な事をされてないかな。"

 

「変な事とは違いますが、私の体で実験を行っていますよ。何せ生徒の神秘に興味があるとの事なので……」

 

「あ、いえ。肉体的に傷付けられた事はありませんよ。……直接死に至るような実験も行わないと契約もしましたし」

 

 

 やはり心配ですか? と言い加える○○に、先生は力強く肯定する。

 

 悪辣なやり口、悪意に満ちた手口を持って、己の欲求と探究の為に手を尽くす奴等の事だ。

 何時○○と交わした契約内容を潜り抜けるような手を使って、危害を加えるか。

 ……もう既に、○○の体に何かを仕込んでいるかもしれない。

 懐疑と警戒がじわじわと膨れていく。

 

 

 

 "……私個人としては、その大人と関わる事はやめて欲しい。"

 

 "奴等は、自分の目的の為なら他の人達を害する事を厭わない。"

 

 "相手を利用して、搾取する。そんな大人だから。"

 

 

 先生の懇願にも近いような諭しにも、○○はあまり心を動かされた様子もなく、調子をそのままに言葉を返していく。

 

 

「分かっていますとも、先生。あの人達がまともな方々ではない事も、私を利用している事も」

 

「けれど、利用しているのは私だって同じです」

 

「あの人達の土壌を利用して、私のしたい事を、したいように……作りたい物を作り倒して、好きにやらせてもらってますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "……。"

 

 "やっぱり、こっちにも聞いておかないと。"

 

 

 

 ○○と別れてから数分。

 

 先生は連絡先の欄から、最も関わりたくもない、最も会わねばならない人物のアドレスを探り当て、通話のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、貴方からお呼び出しがかかるとは珍しい。お久しぶりです、先生。ご機嫌の程は如何で───」

 

 "○○に何をした。"

 

「……ククッ。全く貴方らしい。アイスブレイクは必要ないようですね」

 

 "○○が言っていた協力者っていうのはお前達だね? "

 

「落ち着いてください、先生。焦れる気持ちは理解いたします。ですが本当に生徒の事を想うのならば……まずは私の言葉に耳を傾けてくだされば、と」

 

 "……。"

 

「理解が早く助かります、先生。では貴方の疑問の回答へと移る前に……一つ、お伺いしましょう」

 

 

「直接お会いした貴方から見て……彼女は、どの様に映ったのでしょうか?」

 

「少なからず、変化はあったでしょう。けれど劇的なものではなく、小規模な範疇に収まっていた筈」

 

「えぇ、それこそ、子供がほんの少し、心境の変化に伴って背伸びを行ったような、自らを変えてみようと試みている最中のような……微笑ましいもの、でしょう?」

 

 

 "確かに、○○は少し変わったよ。"

 

 "けれど、ヘイローは○○自身には弄りようがない。……お前達が手を出したのは、そこでしょ。"

 

「あの輝きようをご覧になりましたか、先生。アレは素晴らしいものです、ただの凡庸な一生徒があのように至るとは……私達も驚かされました」

 

「さて、ヘイローを弄ったかと問われれば、正確には異なります。彼女の神秘の方ですよ」

 

「彼女の製作物である、装着者の神秘を増幅させる装置……そこに一手加える事で、彼女自身の神秘を極限にまで高めさせました」

 

「……正直な所、これは賭けでした。何せ、彼女自身は増幅した神秘に耐え得る器ではありませんでしたので」

 

「ですが、彼女は見事打ち勝ちました。膨れ上がる自らの神秘に押し潰される事もなく、その神秘を受け入れたのです」

 

「……誤算なのは、あの瞬間、彼女が恐怖ではなく、歓喜を抱いていた事。彼女は自身を掻き消さんとする神秘の奔流に呑み込まれながら、愉悦を覚えていたのです」

 

「ククク……実に面白い。そうは思いませんか、先生」

 

 

 "何にせよ、お前達と○○とこれ以上関わらせる訳にはいかない。"

 

「我々と関わるのは彼女にとって健全では無い、と。えぇ、それには一部同意しましょう」

 

「原石というものは適切に、適当に扱わねば、その輝きを思い通りに放たせる事はできません。困った事に、それを真に理解していない者もおりますので……私としても、苦心している所です」

 

 "お前はそうじゃない、なんて思わせたいの? "

 

「ククッ。えぇ、少なくともその者達よりかは彼女の可能性を広げられる自負はありますとも。実際、彼女が神秘に関わる事ができたのは私の手があっての事ですので」

 

「この事に関して気に病むことはありませんよ、先生。こればかりは、我々のアプローチによる切っ掛けが無ければ成らなかった事ですから」

 

 

 

「……ともあれ、先生。私達と彼女、その繋がりを絶ったとしても……彼女は最早、その好奇心を抑える事は無いでしょう」

 

「例えどれ程時間が掛かったとしても、障害が立ち塞がったとしても、彼女は彼女の思うがままに振る舞い、自らの夢の実現の為に走り続けるでしょう。彼女が胸に掲げるロマンに従って」

 

「それは先生である貴方自身が良くご存知の筈です」

 

「そして先生、貴方だからこそ……いえ、貴方であるがために、彼女の道筋を阻む事はできない」

 

「先生が生徒の夢を、生徒の思いを、阻み、否定する事など、できるわけがない」

 

 

 "……だとしても、このまま○○を放っておく訳にもいかない。"

 

「えぇ、そうでしょうとも。貴方ならば、それでも、と仰るのでしょう」

 

「先生。貴方にとって言うまでもないでしょうが……念押しとして、警告しておきましょう」

 

「彼女の抑圧をするならば、くれぐれもその方向性を見誤らぬように。道具とは遣い様によって、身を癒す薬にも身を侵す毒にも転じるのですから」

 

「……ククッ、言葉の綾ですよ。そう睨まずとも、えぇ、分かっておりますとも」

 

「見守って下さい、先生。彼女の行く道を、行く末を……」

 

 

 

「……では、失礼致します。また近日、お会いすることとなるでしょう」

 

「お話の続きは、またその時にでも……」

 

「あぁ、他の用事で訪ねて下さっても、勿論構いません。私達と貴方の仲です。貴方のお口に合う一杯をご用意して待っていますよ、先生」

 

「ククッ、クックック……」

 

 

 

 

 

 





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