神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
他の生徒の神秘。その量産、培養についての進捗。
急拵えになってしまったが、ひとまず神秘の培養装置が完成した。
その名も『インクリースくん』。
アンプちゃんの神秘を増幅する機構を下地に作り上げた中型の装置。
装置に取り付けた2つのタンク。エーテル等を溶かし込んだ神秘に満ちた溶液を入れたそれらに、培養したい神秘の石と何にも染まっていないピンクの石をそれぞれ入れる。
神秘の増幅、抽出、濾過、濃縮……装置内での数々の工程を経て、空っぽの石に、生徒の神秘が篭められていく。
すると晴れて神秘が量産されるという仕組みである。
この装置を用いて実験を行ったところ、結果は芳しくない。
というより、私の神秘を増やすより、石に篭められた状態の神秘を増やすことは、後者の方が遥かに牛歩じみたペースでしか増やせないのである。
ピンクの石に直接神秘を流し込めば、それこそスポンジに浸透する水のように即座に吸い取り、中身が満ちる。
しかし培養装置を経ると、ゆーっくり、じんわり、ゆるゆるとしたペースでしか神秘が染み込まない。
このペースでは、数を用意するのもままならない。まぁ増やせるだけ良いのだけど。
「……うぅん……何だろう、これじゃいけない……ような」
そして不意に壁に当たる。
まずは私の神秘を培養したのだが、これがどうにもよろしくない。
なんというか……培養された神秘は、不完全なものだと感じてしまう。
感覚的な話になってしまうが、実際そうなのである。
PNGの画像をJPEGで保存した後に貼っては保存を何度か繰り返した後のような……完璧な状態から劣化しているような、精度が低いというような感覚が絶えない。
しかし紛いなりにも神秘を培養するという行為自体には成功している。装置も問題なく稼働できている。急拵えとしては及第点以上といったところだろう。
何もできない、もしくは爆発する……といった事態に陥っていない所か、肝心の目的は達成できているので万々歳だ。
必要なのは、改良と改造なのだし。
出力系統を見直すか、装置の機構内部を修正するか、それとも全く別のアプローチに移行してみるか……やるべき事は山積み。
むしろここからの工程が楽しいというべきか。
より良い結果を得るために、思いもよらないデータが弾き出されるかもしれない可能性のために、手を尽くして試行錯誤を繰り返すこの道程。
あぁ、モノ作りとはかくあるべきかな。
生の実感を感じる!
……しかし、『インクリースくん』とは別に息抜きとして始めた方の開発が上手く行ってしまってそっちに熱が入り過ぎちゃったな。
なんかつい楽しくなっちゃってハイになってしまって……ついでにミメシスの私もいるから作業的にスイスイ進んじゃって手が止まんなくて……
まさか本命のものより先に出来てしまうとは……試験稼働もぽんぽん進んで完成も早かったし。
私自身で実験も行って問題なく稼働している事も確認できた。
うーむ。
……どうにも手詰まり感を感じてしまう。改良と改造を始めるのがまだ待っているにしろ、この感覚はいけない。開発部屋に篭もり切りというのもまたよろしくない。ここはひとつ出かけてこよう。
外からの新鮮な刺激を頂くのも、制作意欲やふとしたきっかけが湧き出る要因だ。
せっかくだしヘイローもたくさん見て視界から神秘をたくさん摂取しよう。ついでに神秘を取れたらもっと良い。
しかしどこへ出かけようかな……せっかく外に出るのだし、今まであまり行っていない所へ…………
──そうだ、ゲヘナ行こう。
ゲヘナ学園。
現キヴォトスの中で1、2を争う程の規模を誇るマンモス校の1つ。
その校風は「自由と混沌」。空気感も生徒達の行いもそれに合わせて正しく混沌。
広いゲヘナ自治区も活気溢れる……溢れ過ぎて治安も悪く、銃撃戦は必須。誰が言ったか世紀末一歩手前。力こそ全て。真の弱肉強食。血気盛んLvMAX。
道を歩けば不良に当たり、不良を避ければ弾に当たる。回り道をすれば爆発に巻き込まれる。帰ろうと背を向ければ喧嘩に挟まれる。……と、こんな事態は日常茶飯事。
そんなこんなで生来の私の気質なら近付く事も躊躇われるウルトラ危険地帯であったが…………
「テメェ! よくもアタシの服をアイスで汚してくれやがったな! 弁償代寄越せや!」
「はァ〜!? テメェの服がアイスを勝手に食ったんだろうが、詫び代せしめてやる!」
「んだとぉ……ぶっ潰す!!」
「やってみやがれやバァーカ!」
道端で一触即発、からの即銃撃戦。
殴る蹴るの攻防もお構い無し、街中で生徒達の喧嘩が始まる。野次馬の方々も集まり、空気に当てられて近場の人に喧嘩を売っては広がる銃弾の雨霰。手榴弾も投げ込まれた。
そんな光景を観察しつつ、側を通り抜ける。
「いやぁ……良い眺め」
戦闘時、興奮時の神秘は活発化し、ヘイローは輝きを放つ。
それが歩いていればそこかしこで眺められる。鮮やかで絢爛、正しく選り取りみどりのテーマパークだ。テンション上がるなぁ。
ぴしぴしと流れ弾が当たるも、痛みは無い。ついでに制服も焦げない。繰り返した実験と、日々摂取している抽出神秘のおかげによって、私の耐久性は格段に上昇している。呑気に考え事をしながらゲヘナをのんびり歩ける程。この分まで行くとS.Fアーマーすら纏わずとも無傷で観光も可能だろう。
……おっと、ぼんやり歩いていたら他の方に当たる所だった。
前から歩いてきた方を避けると、不意に横から腕を伸ばされ、肩に手を回される。
「よぉ嬢ちゃん、気分良さそうじゃねぇの。小綺麗な格好して金もありそうじゃんか」
「せっかくだしアタシらにも恵んでくれよ、色々とよォ」
絡まれながら3名に回りを囲まれてしまう。定番のカツアゲだ。
……アビドスを治安が悪いと称したが、やはりゲヘナの方が悪いな。ピカイチだ。こういうカツアゲもこれで5件目だ。ゲヘナに来て1時間も経ってないのに……やはりゲヘナこそ世紀末だったか。
……うんうん、この人達も可愛いヘイローだ。赤い丸、緑の三角、黄色の四角……仲良くグループなのかな?
「おいおい、ビビっちまって声も出ねぇみてぇだなぁ?」
「ま、いたぶるのは趣味じゃねぇ。恐怖を長引かせずに終わらせてやるよ!」
「って訳で身ぐるみ剥がされな!」
1人のサブマシンガンがこめかみに突き付けられて、容赦なく放たれる。
……耳元で連射されるとうるさくてたまらない。が、それだけである。ほんのり耳がきぃんとするけど、他には痛みもないし。
全く、神秘様々。
「……。…………?」
「ん、あれ?」
「……当たった、よな?」
「はい。しっかり30発当たりましたよ。……では、お返し致しますね」
困惑されてる3人を尻目に、拳銃を手元に呼び出して、順番に1発ずつ撃ち込んでいく。
肌に傷を極力付けないように、胴体へ向けて服の上から接射。
「ぉごっ!?」
……あまり神秘を篭めずに放った銃弾はそれでも彼女達の衣服を突き破り、体をくの字に曲げながら地面に倒れ伏していった。意識も同時に吹き飛んでヘイローも消えてしまった。残念。
うーん。もっと威力を絞る練習もしておいた方が良いのかな……
まぁともあれ神秘を採取させて頂こう。
彼女達の体の適当な箇所にピンクの石を押し当てて……よしできた。
やっぱり天然物の神秘は良い。純然たる輝きを宿している。もっと貰っていこう。5個……いや8個。10個でも良い。多ければ多いほど良い。
神秘抽出における効率化と、人手が単に2倍になった事で青い石とピンクの石が出現する頻度も多くなり、今では日に20〜30個程となったため、贅沢に使えるというものだ。
そろそろ青い石の使い道も確立させても良いだろう。砕いてみれば濃ゆい神秘が溢れてきたし。
……さて、この人らからも十分神秘を頂いた。次の神秘を求めて散策するとしよう。
久々に温泉に入ってみるのも良さげだろう。
行先を考えながら3人を適当な公園のベンチに寝かせていると、不意に地面を揺るがす程の爆発音と衝撃、叫び声が遠くからこだましてきた。
「巨大パンケーキが出たぞーっ!!」
「またかーっ!?」
「今月何回目だよぉ!?」
「知るかぁ! さっさと逃げるぞ!」
やや前方のビル街から巨大な破砕音と悲鳴、銃撃音が響いてくる。同時に人通りに逆流するように人々が一斉に避難していく。
……巨大パンケーキとは? 何かの隠語だろうか。
……いや、それよりも気になるのは……大きな神秘の気配を感じる事。恐らくその巨大パンケーキなるものの元にその神秘がいる。何だかとてもとても興味をそそられる、そんな神秘だ。
「……ヨシ!」
気になるならば即効即決。いざや現場に直行だ。待っていろ巨大パンケーキ!
「……うわぁ……」
辺りに飛び散る瓦礫の陰から、眼前に広がる光景を窺う。
見上げる程の巨体。
毒々しい紫の体色に、続々と湧き出ては垂れ零れ、地面に広がっていく緑の泡立つ体液。
何層にも連なり重なる、円盤状の平べったいみちみちとした肉質。
その隙間から何本も漏れ出る、タコ足状の触手群。
言い表すのは躊躇われる程に冒涜的な見た目だが、正しく巨大なパンケーキとしか言い様の無い怪生物がそこに居た。
六段重ねのちょうど半分辺り、口らしき裂け目を大きく広げ、言葉にならない叫び声を上げては紫の触手を振り回しては暴れている。
道路に落とされればアスファルトが捲れ上がり、ビルに当たればビル壁を容易く砕き、ガラスを撒き散らしている。
「くっそ、全然効いてないんだけど!?」
「委員長、委員長はまだ!?」
「遠くの地区で治安維持してたし到着までまだ掛かるからそれまで耐えろって……」
「無理だって! 残ってるのもう私達だけなんだよぉ!?」
それに相対するはゲヘナ学園の風紀委員会の腕章を付けた人達。
暴れ回るパンケーキを鎮圧しようとしているが……彼女達の放つ銃弾では有効打にならないらしく、パンケーキ側は意にも介していない。
立っている風紀委員の方も3名のみ。結構な数の風紀委員の方がそこらに力尽きて倒れてしまっている。
……何よりも驚くべきこと、興味深いことにあの巨大パンケーキに神秘があるのが分かる。
しかしヘイローがある訳では無い。
ならオーパーツに分類される……のかな? 動いてるけど……なんなら生きてるけども。
いや、むしろオーパーツとはまた違うものなのかもしれない。
生徒でもないのに神秘を宿している生命体。身体構造はどうなっているのか、どのような物質で構成されているのか、一体どんな神秘をその身に満たしているのか……
うんうん、ますます興味を惹かれてきた。
これは調べてみるしかないよね!
「……あっ、そこのお前! 何してるんだ、早く逃げろって!」
瓦礫に隠れている私を見つけた風紀委員の方が声を掛けてくださる。が、ここで退く訳にはいかない。何としてでもあの巨大パンケーキを調べなくては気が済まないのだから。
……今声を掛けてくれた子も良い神秘である。なので後で神秘を取らせてもらおうそうしよう。
と、その子へ不意に影が指す。
頭上へ目を向ければ、巨大パンケーキの触手が天高く掲げられ、今まさに振り下ろされようとしている。
その子もそれに気付いたのだろう。けれど足が竦んでしまって固まっている。あれでは直撃だ。アスファルトにクレーターを作る威力のそれを喰らえば、ただでは済まない。
《extension》
瓦礫から飛び出すと同時に、S.Fアーマーを纏う。神秘が膨れ上がる。
地に足を踏み締め、瓦礫を砕き飛ばし、音を置き去りにして体を弾き出す。
向かう先は、触手の下敷きになろうとしている彼女の元。
手を伸ばし、掬い上げ、抱き込みながら駆け抜ける。
「ぅ、え……っ?」
遅れて背後から炸裂音と衝撃が走る。
腕の中で頭を庇うようにして縮こまっている彼女は、何時まで経っても来ない衝撃と浮遊感に困惑している。
「大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、あり、がとう…………ぁの、降ろして……」
「えぇ、立てますか?」
「あ、うん……」
彼女をゆっくりと降ろしつつ、神秘を詰め込んだハンドガンで触手の根元目掛けて撃ち抜く。
どぱん、と体液を撒き散らしながら触手の一本が千切れ飛ぶ。……間もなく断面がもぞもぞと蠢き、ややあってから新たな触手が生えてきた。
「なるほど、再生能力もある。と……もしくは触手のみが生え変わるのか、果たして」
「あ、あんなの無理だよ……倒せる訳……早く逃げないと……」
「……うん、よし。アレを真っ向に試せる相手がちょうど見付かりましたね。気晴らしに来てみるものですね」
「な、何言って……?」
耐久力がある。脅威である。そして生徒という対象ではなく、容赦なく火力を叩き込んでも問題のない相手である。
ならば、息抜きに作っていたコレを私以外で試し撃ちできることだろう。
《Imagination》
「『
装置を弄り、音声ガイダンスが流れる。
直後に私の両肩にワイヤーフレームが走り、神秘の青白い輝きが迸り、その形を実体化していく。
両肩へ背負うようにして現れたのは、戦車の其れのように前方へ堅く突き延びる、白銀の砲塔。重たく、雄々しく、凄まじい威容を放っている。
アリスちゃんがレールガンを扱った事によってレールガンをもう一度作ってみようと熱に浮かされ、"背負えるレールガン"として設計された、背負うにしては大きく、抱えるには太過ぎる、ついでに使うエネルギーと予算が馬鹿にならないと、エンジニア部においても考案後に没とされた作品の一つ。
設計図だけ残された、幻の作品。
私の神秘を用いて、それを現実に具現化させる。
「神秘充填。アンカー接地。……レールガン発射準備、完了」
肩先から伸びる砲塔、その先端に私の神秘が寄り集まり、青白いエネルギーとして凝縮、縮退、圧縮を繰り返し……光り輝きながら極限まで高まっていく。
レールガンの背中側からアスファルトへ、姿勢固定と反動減退用のアンカーがガン、と突き刺さり、狙いが強く定まる。
向ける先は、巨大パンケーキのど真ん中。
強く足を踏み留まらせて、衝撃に備えて踏ん張りを効かせる。
「───発射ッ!」
号令と共に引き金を押し込む。
究極的に張り詰めた二筋の閃光が砲塔から撃ち放たれ、轟音を伴って空を破り、突き進む。
2つの神秘の帯は巨大パンケーキの分厚い生地を刺し貫き、生地の弾力をものともせずに破りくり抜き…………向かい側の景色を覗き見れる程の大穴をぽっかりと穿ち開けた。
「…………すっご…………」
風紀委員の方が呆然としながらもその感想を漏らしてくれる。
肩に背負った2砲のレールガンは、出現の際に篭めた神秘を使い切り、青白い光に解けて消えていく。
私としてもこの威力には満足なのだけど……まだまだ消化不良気味である。
……だが、どうやらまだ終わりでは無いらしい。
「んな……っ!?」
うごうご、ぐちぐち。
抉り貫いたパンケーキの傷口が蠢き出し、大穴を塞ぐように膨れて……修復されていく。ほんのりグロテスクな光景で、風紀委員の方も悲鳴を上げている。
どうやら巨体相応の生命力であるらしい。
「あ、あれでも倒せないなんて……あんなの、どうしたら……」
絶望し切ったように銃を取り落とし、縋る視線をこちらに向けてくる風紀委員の方。
確かにあの生命力は、想定を超えている。動けるならまだしも、あの状態からでも再生を行える程の能力を有しているなんて。
まぁ、こちらとしても嬉しい誤算である。
「倒せないなら、倒せるまで。試せるだけ、試してみるだけですよ」
何せ、まだ試していない装置がたくさんあるのだから。
「威力試験、存分に付き合ってくださいね」
《Imagination》