神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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ダイブ・トゥ・ディープ

 

 

 

 

 

 アビドスに赴いてからしばらく。

 わたしはいつも通り、黒服さんの実験を手伝ったり、部活動に精を出して依頼をこなし、先輩方と共にハッスルした後、無事納品をしたりなど、日常を送っている。

 

 

 にしても今回の依頼も面白かったなぁ。お陰様で良い物が作れた。

 

 大型レジャー施設用の自立型レスキューロボット。

 マスコット感を出すために可愛らしくファンシーで丸みを帯びたボディに仕立て、ヤンチャな子供達と戯れる事を想定して頑丈で頑強な外骨格を形成。もちろん自衛用の射撃AIも搭載済み。咄嗟のトラブルも非殺傷弾で即鎮圧もできる。

 レジャー施設に遊びに来た方に配れるように風船作成、ポップコーン調理機能も完備。いざという時にスマホを充電できる充電ステーションもある。

 

 なおかつ悪意ある者に奪われたりパーツ欲しさに拉致されるような事があった時の為の自爆機能ももちろん搭載。ロマン盛り盛りの大火力で居場所を知らせる事も忘れない! 

 

 ふふ。サイズは少々大きくなってしまったがあらゆる状況に対応するために多機能を重視したので仕方なし。相手方も納得してくれてたし。

 

 

「ただいま〜」

 

 

 さて、部活動の後にいつも通りゲマトリアの施設へ訪れ、私に割り当てられた開発部屋に入る。そこに居るであろう相手に来訪を伝えるように挨拶。

 

 

 その相手は挨拶こそ返してくれないが、返答の意思は返してくれる。

 作業の手を一度止めながらこちらを小さく振り向いて私を一瞥。……確認を終えるとすぐに作業へ戻って行った。

 

 私の開発部屋に増えた新たな住人。

 私をそっくりそのまま青白く染めたような、ぼんやりとした雰囲気の人型。

 

 

 私の複製。

 私のミメシス。

 

 

 

 この子は、私の神秘を宿した石を核に、私が垂れ流しにした感情を肉体として姿を形取った、半ば亡霊、生霊じみた存在となっている。

 

 要した私の神秘は、石換算で120個。

 感情の量に至っては……正確な計算はできず。私がこの施設で研究を始めてからのものであるのか、それともミメシスを作ろうと試行錯誤してからの感情であるのかが不明である。一応、ミメシスとして顕現可能な必要量に達したためにこうして生まれたらしい。

 

 

 

 ……この子は2人目のミメシスである。

 

 1人目のミメシスは誕生して私の目の前に現れたのだが、諸々の試行錯誤を経てついに報われた成果を前にしてスーパーハイテンションMAXハイパーに陥った私はもう猛烈に喜び狂ってミメシスを抱き締めた。

 

 

 そう、もう、力いっぱい。感激のあまり凄まじく抱き潰した。

 半狂乱で抱き締め回しているうちに、パキッと砕ける音。見ると腕の中の私のミメシスがぐったりうなだれて、核にしていた神秘の石を残してふわぁ……っと霧散していった。

 

 初手で鯖折りしてしまったのである。

 

 せっかくの成果第1号が腕の中で息絶えて『ウ゛ワ゛────ーッ゛ッ゛ッ゛!!!!!』と泣き叫んでは床に広がる失意の涙の海に沈んだ。

 加えて核にしていた神秘の石が全て私の中に吸収されていった。

 何か1つ壁を乗り越えたような充足感が体を迸ったがその時は気にしている時間もなかった。

 

 

 ……その後駆け付けた黒服さんとマエストロさんに泣き腫らしながらミメシス誕生と逝去の経緯をお話した。

 お2人は興味深げに顎を摩り、微笑んで──マエストロさんに至っては表情の機微が極めて読み取りにくいが──努めて冷静に私へ語った。

 いわく、ミメシスが生まれる条件は果たされているため、同じように核を用意してやればまた同様にミメシスが生まれるだろうと。

 また、マエストロさんが言うには私のミメシスは彼の知っているミメシスとはほんの少し誕生の経緯が異なるらしい。

 

 

 という訳で急いでまた120個の石に神秘を詰め直し、2人目のミメシスを生成したのだった。

 

 腕を広げて近付いたら咄嗟に後退りされた。記憶と経験はある程度受け継がれるらしい。

 

 

 そんなこんなで生み出した私のミメシスの仕事振りを覗き見る。私が居ない間に『神秘タンク』の生成と抽出した神秘の封入をお願いしていたのだけど……

 

 

「お、今回のもちゃんとできてるね。ありがと私」

 

 

 ……うん。『神秘タンク』は問題無く生成できている。神秘も漏れなく詰められている。

 生成材料が目減りしているので、そちらを補充しておく。

 

 ついでに褒めるように頭を軽く撫でてみるが無反応。そのまま作業に没頭しているばかりである。

 うーん、私ってこんなに無愛想なのだろうか。

 それとも生成の際に用いられた感情がよろしくなかったのか。

 

 ともあれ、私の神秘に満たされたミメシスであれば、『神秘タンク』の生成のような神秘の介在が不可欠な状況において代用できることがこうして判明した。

 

 

 ミメシスは食事と睡眠が必要無いらしい。

 栄養を一切摂らずとも活動に影響はなく、睡眠を一切摂らずとも淀み無く動き続ける。

 かといって体を構成する神秘をエネルギー源としているのかと思えば、別段そうでもない。

 少なくとも、今まで神秘の総量は減っていない。

 外部的介入によるダメージが一定以上蓄積された時、活動を停止し、霧散する。

 

 ……耐久度の実験に関しては、実際にミメシスを新たに生成して確認した。

 3人目、4人目、5人目の私。このデータはありがたく役立てるからね。

 そう伝えるように感謝の念を篭めておく。

 青色の石とピンクの石がより多く手に入るようになったとはいえ、貴重なリソースを贅沢に使った実験だったし……

 

 

 さて、ミメシスとは。

 私の複製ではあるが、私という人ではない。

 あくまで私の姿形がそっくりなだけの神秘の塊。

 

 人にとって必須なものを必要としない、単体で完結した存在。

 クローンというより、人の形を持った、命令に忠実な機械と見れる。

 それも思った以上に便利な。

 

 まず、複雑で煩雑なプログラムコードを入力せずとも、ある程度複雑な命令をこなせるのだ。

 今だって、私の口頭説明と手順書のみで、面倒で複雑な工程を何度も挟む作業を不足なく行ってくれている。

 大盛りスパゲティコードを組む必要もなくこの作業をこなせる人員が増えて負担も軽減、嬉しい限りだ! 

 

 何よりメンテナンス不要である。

 食費やら何やらも要らず、命令を黙々とこなしてくれる。

 神秘を補充する必要だってないのだ。

「疲れたら休んでも良いよ」と声をかけてみたら、一瞥された後に作業へ戻っていったし……恐らく疲労の概念も無いのだろう。

 

 これは……労働に革命が起きるな? 

 無口で忠実、従順な働き者。

 数を揃えてしまえば、週休七日の日々が実現できなくはないかもしれない。

 

 

 ……。

 

 

 ……何故だかレッドウィンターで出会った工務部の方が頭に過ぎった……。

 

 安守ミノリさん。労働者の人権諸々を求めてデモとデモと革命に日々尽力していたな……。

 

 

 ……。

 

 

 ミメシスの私を働かせっぱなしにしたら、反乱とか起こされるのだろうか。

 紛いなりにも私というもので構成されてはいるし、意志らしきものは感じ取れるし。

 

 

 ……。

 

 

 

「ねぇ私。休みたい時には休みな?」

 

 

 私とそっくり同じ背丈、同じ神秘の青白い背中へ声をかける。

 

 ……ゆっくりとこちらを振り向いてから、にベもなく体を作業場所へと戻し、再び作業の手を進めていった。

 

 

 ……まぁいいか。

 ただ愚鈍に言われた事を行うのではなく、機能的にできないことはしない知性を有している、という解釈とする。

 

 とりあえず、私が不在の間は引き続き、付きっきりで手間のかかる『神秘タンク』を作ってもらう事としよう。浮いた時間を他の事に使えるようになるので、ますます研究と開発に力が入るというものだし。

 

 

 じゃあ何から作ろうか。アイデアが交錯中だ、あれにもこれにも手を付けてみたくてたまらない。

 

 

 ひとまず、現状向かうべき到達点を打ち立てておこう。

 

 

 現在の目標は、『テクスチャ』の破壊。及び、『テクスト』の書き換え。

 あるいは、両方の達成を。

 

 それに向けて、いざ邁進だ。

 

 

 

『テクスチャ』、『テクスト』について、これらを乗り越えるにはどうしたら良いか。

 

 私が今の視点を得るに至った実験の際、黒服さんが零していた言葉であるが、今思うと随分とストレートなヒントだ。わざわざ私の前で堂々と言うなんて、余程その光景が見たいのか、それとも私がそれをどう達成するのか眺めたいのか。

 

 

『テクスチャを剥がすには至らない』

『テクストを書き換えるにはまだ足らない』

『しかし兆候は見える』

 

 

 あの時に聞き取れた言葉。

 あの時、私の神秘に膨大な負荷を継続的に掛けることによって、私を一部『破損』させた。

 その影響で私という存在に微かな罅割れを生じさせ、その余波としてヘイローや神秘を識別できる視点を手に入れた。

 

『テクスチャ』、『テクスト』の意味は……理論ぶった物言いをする黒服さんが言うのなら、変に比喩や暗喩を含めたものではなさそうではある。

 そのまま、『表層に被せられたもの』、『表面に書き込まれたもの』として解釈して良さそうだ。

 

 さて、私が行うべきは何か。

 私の神秘を強制的に膨れ上がらせ続けたことで、『テクスチャ』や『テクスト』に小さな亀裂が現れた。

 あの後、同様の実験を行ってみたものの、ただ私の神秘が増幅されただけで変化はなし。

 更に強い負荷を掛け続けなくてはならないのか。それとも私の神秘では手詰まりなのか。

 

 

 それならば他のアプローチだ。

 自分の神秘で駄目ならば、他の子の神秘を使って試してみよう。

 そのためには集め続けてきた神秘の石を使ってみる他ないだろう! 

 

 装置に収納していた、生徒の神秘を閉じ込めたピンクの石を洗いざらい取り出す。

 

 じゃらじゃらと、宝石のように煌めくそれ等が目の前で軽い山を作り上げる。

 こうして改めて見ると壮観だ。それをデスクの上へと並べ直し、仕分けを行っていく。

 大体がミレニアムの生徒の物であるが、他の自治区から観光やら遊びに来たりした生徒や、先日のアビドスの方々のも混ざってるので、分別するように大まかに並べていく。

 

 

 

 ……さて、これで良し。

 均一に並べられた神秘の石が、デスクの上で列を成して鎮座している。

 1つとして同じ輝きはなく、篭められた神秘の群れは万華鏡のごとく色付き、網膜に灼き付けられるようだ。

 あぁもうすっごいなコレ。

 

 総数は78個。

 ただ一生徒につき取れたのが1個のが大半だ。複数個取れたのもあるけど、心もとない数であることには変わりない。

 実験で使うにしろ、一つ一つが異なる神秘であるため、得られるデータが一定のものではないことは明白。

 せめてもう少し数を用意出来れば……

 

 

「○○さん、入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 うんうんと唸っていると部屋の扉が叩かれ、声がかけられる。黒服さんだ。

 どうぞ、と声を返せば資料らしき紙束を手にした黒服さんが入室してくる。

 が、机の上に並べてある神秘の石を前にした途端目の色を変えたように足早に駆け寄り、1つの石を恭しく手に取った。

 

 生徒の神秘を閉じ込めた石の中でも、一等星のような輝きを宿した、別格の神秘。

 先日のアビドスで頂いてきた、ホシノさんの神秘の欠片だ。

 

 黒服さんは其れを眼前に持ち上げながら、特徴的な笑いを一頻り漏らした後、こちらへ向き直った。

 

 

「……失礼。こちらを、どのように入手したので?」

 

「そちらはですね、アビドスの方へ赴いた際に出会った小鳥遊ホシノさんから拝借させて頂きました。こう、こっそり。本人には気付かれずにですけれど」

 

「……あの暁のホルスから、こっそりと、ですか」

 

 

 それを聞くと、またクックックと含み笑いの大合唱。相変わらず良い声。

 黒服さんもホシノさんの神秘を前にして、それに含まれた濃密な神秘を感じ取ってうきうきが止まらないのだろう。分かる。私だってそうなのだし。

 

 というか暁のホルスと呼んでるんだ。……面識もあるみたいな言い方でもあるし……

 ふむ、つまりは前々から欲しかった神秘が、小さいとはいえ目の前に転がっていたのだから相当に愉快なのだろうか。

 

 

「……いやはや、重ね重ね失礼を。つい興奮が抑え切れず。して、○○さん。こちらの神秘の欠片をどのように扱うのでしょう」

 

 

 改めてこちらを見つめては期待を篭めるような視線を寄越してくる黒服さん。

 

 ……先程までは悩んでいたが、今し方ふと思い付いた事があるので、それを伝えてみようか。

 

 

「そうですね……実験に使おうにも数がありませんので、量産、培養を行ってみようかと思います」

 

「──ククッ、それはそれは……」

 

 

 またご機嫌そうに口角らしき白い顔のパーツを吊り上げ、しきりに笑い続ける黒服さん。

 そうしてたっぷりと笑い終えた後、そっとホシノさんの神秘の石を元に戻した。

 

 

「こちらはお返し致します。……それでは、○○さん。成果が実ることを心より応援しております」

 

「えぇ、ありがとうございます、黒服さん。ここの所やる気がみなぎってますので、張り切ってしまいますね!」

 

「それはそれは……頼もしい限りです」

 

 

 

 

 私の『テクスチャ』が剥がれた時、そこに覗くものは一体何だろう。

 私の『テクスト』が書き換えられた時、そこに現れるものは一体何だろう。

 

 その正体は正しく未知、未見、不可思議な何か。

 それを追い求めるロマンが、神秘には詰まっている。

 

 

 

 あぁ、本当に楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、先生。わざわざ足を運ばせてすまないね」

 

 "ううん、気にしないでウタハ。私は先生だからね、相談があったら何時でも呼んで"

 

「……ありがとう、先生。では早速本題に移ろう。……○○についてなんだ。以前は、色々と思い詰めていた所があっただろう?」

 

 "……そうだね。手を尽くしても研究の成果が出ないって。私も手伝ってみたけど、あまり力になれなかったな。だけど……"

 

「あぁ。最近になって、『ようやく神秘の研究が進みました!』と報告をしてくれてね。その甲斐もあって元気を取り戻した。……かのように思えた」

 

 "……ウタハ、それってどういう……"

 

「……○○は、そう振舞っているだけに過ぎないのかもしれない、って事さ」

 

「……いけないとは思ったのだけどね。エンジニア部で彼女が一時離席をした時に、彼女のデスクに手帳が開いた状態で置かれていたんだ。私は○○の成果が見れるかもと、興味のままに覗いてみたんだ」

 

 "……何が書いてあったの? "

 

「……ヘイローのスケッチさ。そのページだけでも、埋め尽くさんばかりに描き連ねられていて、なおかつ注釈も添えられていた」

 

 "ヘイローを……? "

 

「あぁ、私達の頭上に浮かんでいるソレだ。妙なのは、その注釈の内容。……ヘイローの細かな形状やその持ち主の事を記してあった。まるで個人個人で差異があって、見分けが付くように、ね」

 

 "……!! "

 

「そんな事はない。ヘイローはあくまで白い円輪であり、それ以上でも以下でもない。私達はそれを区別する事はできない……はずなんだ」

 

 "……そうだね"

 

「……だが、○○のその手帳の記述によれば……私は六角形のヘイローを持っていて、コトリはリサイクルマークのような三角形で、ヒビキは禁止マークの意匠が真ん中に入った円……だそうだ。私にはどれも同じ白い円にしか見えないのだけどね……」

 

「……。……要は、○○は相当参ってしまっているのかもしれない、ということなんだ」

 

 "……確かに、最後に会った時も、少し違和感があったかな……何となく、だけど……"

 

「……先生。私にとって○○は同じエンジニア部の部員で、同じ学園の同級生で……可愛い後輩だ。できることはしてやりたいし、助けにもなってあげたい」

 

「だが、私1人でできることは限られている。先生の力を貸して欲しいんだ」

 

 "もちろん、引き受けるよ。私にできることならなんだってするから……そんな顔をしないで、ウタハ"

 

 "私だってできることはあまりないけど……だからこそ、お互いに支え合って、助け合おう"

 

「……ありがとう、先生。……○○には、あまり深く踏み込んではやらないで、見かけた時にでも気にかけてやってくれないか」

 

 "分かった。……無理はしないでね、ウタハ"

 

「ふふ、そっくりお返しするよ、先生」

 

 

 

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