神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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メイドインアビスに関しては「ウォ゛ォ゛ォォォォォォォォォォォ!!!!上昇負荷(G)ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーッ!!!!!」くらいミリしらです。






ディープ・ドロップ・デンジャー

 

 

 アビドス高校、廃校対策委員会の部屋にて。

 

 

 

「───本当に申し訳ございません!!」

 

「ん。……ごめんなさい」

 

 

 黒髪に眼鏡をかけた耳先の尖った子……アヤネさんとシロコさんが揃って頭を下げる。

 頭の動きに釣られてふわり、とヘイローも追従して、ゆったりと高度を下げていく。

 アヤネさんのヘイローも可愛いな。

 赤い二重の丸の中、小さな四つの楕円が四方に規則正しく並んでいる。

 何処と無くきちりとした印象を感じさせる。

 

 ……とと、いけない。謝罪を受け取ったままでは居心地が悪い。

 

 

「いえ、大丈夫ですよ。ほら、怪我もないですしね」

 

 

 そうやって腕を広げ、その場で1ターンしてどこにも怪我を負っていない事をアピールする……が、初撃を受けて焦げてしまった袖辺りを見られてまた謝罪が飛んできた。

 

 本当に気にしていないのだけども……

 

 まずアビドス高校の校舎に着いた時点で、アビドス廃校対策委員会……実質上のアビドス高校の生徒会の方々に謝罪された後、またこの場で改めて謝罪をされて……と、相手が謝り切りなのでこちらも申し訳無さが湧いてくる。

 

 だってこっちは得しかしてないもんだから。S.Fアーマーの実戦データは取れたし、獣耳の子……砂狼シロコさんの神秘も入手できたし。おまけにこの後オーパーツまで頂けるのだから良い事尽くし。

 いやぁ美味しい思いばっかりしちゃってすみませんねへへぇ、位の気持ちである。

 

 

 

「それに思わぬ形ではありますが、S.Fアーマー……パワードスーツの実戦データを取る事ができたので……こちらとしては結果オーライでむしろありがたかったですよ、ですから頭を上げてください」

 

 

 罪悪感を煽らぬようにそう伝えてみれば、渋々といったように謝り倒すのを止めてくれた。申し訳なさそうな顔は変わらず晴れない。

 

 よし、議題変更。さっさと次の話に移って空気を切り替えていこう。

 ぱん、と軽く手を叩いてから切り出す。

 本命……いやヘイロー見るのも本命だけど、今はオーパーツの方だ。

 

 

「はい。ではこの件はここまでという事に。本題に入りましょう! それで、集めて頂いた物品はどちらに?」

 

 

「あ、はいっ。ただいまこちらに運んできている最中で……」

 

「は〜いっ、持ってきましたよ〜☆」

 

「お、重い……!」

 

 

 教室の扉が開き、そこからノノミさんとセリカさんが大きめの台車で平積みにされた箱をごとごとと運んできた。

 ひぃふぅみぃ……両手で抱える程のサイズの箱が全部で18。しかも運んできた音からしてかなりの満載量とみた。これは凄いぞ! 

 ちなみにノノミさんが12箱、セリカさんが6箱運んできた。……中々の力持ちだな、ノノミさん。ほわほわとした雰囲気とは裏腹にミニガンというゴツめの武器を扱っているそうだし……

 

 

 ……ヘイローも中々に良い輝きである。ノノミさんは緑の二重の円輪。外円の三方にはぴょこんと線が伸びている。その内の一本、下に向けて伸びるものは、まるでネクタイのような形となっていてまた可愛らしい。

 猫耳の生えたセリカさんは、濃いピンクの二重円。外側の円を跨ぐようにして、四本の線が入っている。

 シロコさんでも思ったのだが、獣耳などの身体的特徴などは、ヘイローには現れないらしい。神秘とヘイローというのは精神的な力の現れでもあるために、外見的特徴をそのまま宿す訳ではないのだろう。

 

 我らがエンジニア部においても、犬耳尻尾を生やしたヒビキさんのヘイローは薄く黄色がかった円の中に小さな禁止マークじみた意匠が浮かんでいるものである。

 

 ヘイローに個人差が出る。その形状の差異を決めているのは、果たして何なのだろうか。興味は尽きぬばかり。

 

 

 さて、今はオーパーツについてだ。

 早速台車の一番上に置かれた、『レンズ』と書いた紙の貼られた箱を開けて中身を窺う。

 

 

「おぉ!」

 

 

 何と、ニムルドレンズが綺麗に整頓され、ぎっしりと詰まっている! 

 別の箱には……マンドラゴラの種だ! タッパーに詰められ包装もされている! 丁寧! 

 こっちには……

 

 

「箱ごとに種類別に分けて、ラベル貼りを行いました。傷も付かないように、最低限の包装も行ったのですが……よろしかったでしょうか」

 

「大助かりですとも! いやぁ、まさかこんなに集めてくださるなんて……では、早速査定に移らさせて頂きますね。詳細な金額はその後提示してお支払い致しますので!」

 

「はいっ、よろしくお願いしますっ!」

 

 

「にしてもさ〜、そんなのたくさん集めてどうするの? あんまり使い道とか無さそうなのだけど……」

 

 

 ここで腕を枕に机に突っ伏していたホシノさんがこちらを覗き見てくる。瞼を半ばまで開き……いや、細められた双眸が見定めるように見つめてきている。

 

 まぁ、集める物品に統一感はないし、なんならぼろぼろの状態の物でも構わず集めてくれと記載しているために、一見使い道のない道具の残骸を集める奇特が目に付くだろう。

 しかし、私にとってはこの箱は紛れもなく宝箱なのである。

 それにしてもアビドス砂漠にこれほどの物資が眠っていたとは……今度自分でも探してみるべきか。

 

 

「実はですね、これらの物品には神秘が少量ですが宿っていることが判明しまして! 物品から抽出した神秘、それを使って何ができるか、それを応用して何か新しい物を作れないか……といった具合の研究を現在行っております」

 

 

 ぴくり、とホシノさんが小さく反応を示す。けれどそれ以上のアクションはなかったので、そのまま言葉を続ける。

 

 

「研究するからにはサンプルが多い事に越した事はありません。ですがキヴォトス中に散らばっているこれらを私一人でつぶさに集めるには時間と手間がかかり過ぎて……ですので、こうして皆様に集めて頂いている次第です」

 

 

 専門用語はなるべく使わず簡潔に伝えてみたところ、とりあえずは納得してくれたらしく、けれどじっくりとこちらを見据えてくる瞳は逸らされずにいた。

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□

 

 

 

 

「査定が完了致しました。では本日納品していただいた物品の引き取り額ですが……はい、こちらとなります。問題ないようでしたら、指定の口座へお振込みしますね」

 

 

 しばらく時間を頂いた後、無事査定を終える。いやぁ、丁寧に仕分けされていたから思ったより早く済んだ。

 

 端末に打ち込んだオーパーツの数量と形状の状態によって算出された合計金額を弾き出し、対策委員会の皆様に差し出した。

 

 

 ……端末を見た途端、アヤネさんを中心にぴしりと固まってしまった。どうしたんだろ。

 

 

「……おや、如何されました?」

 

「いっ、いえ、その……こ、この金額でよろしいのですか!?」

 

 

 むぅ、聞き返されてしまった。

 私も端末を見るが、やはり映る金額に違いはない。真摯に誠意を持って査定して見積もらせて頂いた数値である。

 

 うん。これで間違いは無い、と念押しすると慌てられてしまう。

 

 

「えっ、いや……ぜ、0が7個並んでるわよ!?」

 

「えぇ、問題ありません。破損の有無も含めてきっちり査定させて頂きました。……内訳もお見せしましょうか?」

 

 

 合わせて内訳内容をお出しする。

 完璧な状態や形状が損なわれていないオーパーツが多かった為に、査定額は高額なものとなっている。

 それに傷も無ければ無いほど良く、その分高額で引き取る。

 

 という事を合わせて伝えれば納得をしてくれたらしい。戦々恐々といった具合だったけど。

 

 そうして指定の口座へ一括で振込み、今回の取引は無事終了した。

 いやぁ、実に良い日だったな今日は。

 

 

「……確かに誤りなく振り込まれた事を確認しました。……まさかここまでの額になるなんて……」

 

「ん。セリカがまた怪しいバイト持ってきたと思って止めなくてよかった」

 

「あははっ、大丈夫ですよ。マネーロンダリングもされていない、私がエンジニア部にて稼いだポケットマネーからお支払いしましたので!」

 

「わぁ、健全も健全な透き通ったお金ですね!」

 

 

 

 

「……あの、ところで物品はどのようにお持ち帰りに? 見た所乗り物はないようですが……」

 

「あぁ、そちらなら問題ありません」

 

 

 アヤネさんが聞いてくる。

 ……何故そんな恐る恐ると? ……いやシロコさんが襲った際に足を破壊したのではなくてですね。普通に徒歩です。はい。砂漠を横断。……いえ気遣っている訳でなく。シロコさんも言ってあげてくださ……信用ないから弁明も無理? そう……

 

 

 いやまぁ、アヤネさんの懸念の通り、手ぶらだし徒歩であるので当然の心配だろう。しかし何の問題も無い。

 

 積み上げられたオーパーツの箱の前に立ち、そっと中身に触れる。……このオーパーツの量だと素の私の神秘だけで全部仕舞うのは流石に無理か。神秘を増幅しておこう。

 装置を弄り、神秘を増幅。それから粒子化収納を行い、オーパーツのみを仕舞い込んでいく。

 オーパーツが端から端まで粒子に解け、みるみるうちに空になっていく箱を見て、アビドスの皆さんが驚いたように息を飲む。

 

 

「選んだ物体を粒子化して収納する装置。その名も『しまえる君Z』です!」

 

「ダッサ!? 機能はすごいのに!?」

 

「確かに凄いですね〜☆これなら手ぶらでお出かけできちゃいますね!」

 

「……戦ってる時に色々出てたりしまったりしてたのも、これ?」

 

「えぇ、えぇ、そうですとも! いつでもどこでも収納可能、出し入れ自在! まぁ使用する人の神秘の量に応じて収納量は変わってしまいますが、そこは追々改良をば」

 

 

 うふふ、反応は上々。

 神秘の研究の一環として開発したもの故に、どうしても収納量に関しては均一化されないけれど……

 

 

「うへ、それも神秘ってやつから作ったりしたの?」

 

「えぇ、元は電気で動く設計だったのですが色々と問題が出まして……動力源を神秘に変えたところ、見事に稼働できまして!」

 

「へ〜ぇ……」

 

 

 おや。

 何やらホシノさんからの視線が一層鋭くなってきたぞ。

 うふふ、興味を引いてくれたのだろうか。

 ならもっとお披露目しちゃおう。

 

 

「他にも、こんなものを開発しまして────」

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アビドスの皆さん、本日はありがとうございました!」

 

「はいっ、○○さんこそありがとうございました。気を付けてお帰り下さいね!」

 

 

 

 こうして本日のオーパーツ納品については、つつがなく……いや、色々とあったが大幅なプラスをもたらしつつ無事終了した。

 

 

 対策委員会の方からわざわざ校門まで見送って頂きながら、帰路へ就く。

 

 

 いやぁ、改めて収穫の多い日であった。

 

 

 私の開発製品についての談義に移り、一通り製品を見せたり。もちろんS.Fアーマーもお見せした。

 その後、シロコさんが私に対してリベンジしたいと発起し始めた事をきっかけに、ならば今度はアビドスの皆さんと一緒に戦いましょう、と提案。

 なし崩しにS.Fアーマーの稼働実験にも付き合って頂いた。別途費用をお支払いし、弾薬費も私が受け持つ形で。

 

 アビドスのグラウンドをお借りして演習形式で行ったそれは、10分間という短い時間ながらも、得難い実践データをたっぷりと積ませて頂いた。

 

 ちなみにホシノさんはその稼働実験には不参加であった。

 曰く『もう眠たくって……全然動けなくてぇ……』とそのままお昼寝していった。

 少しばかり残念ではある。

 ともあれ、2が1に減ることを嘆くより、0を1にした事の方が重要なのだし、あまりとやかく言うことはないか。

 

 

 また、他の方の神秘に関しては……稼働実験後にお互いの健闘を称え、色々とお礼を伝える握手を交わした際にこっそりと拝借した。

 握手をする瞬間に粒子化しておいたピンクの石を掌に呼び出し、素早く収納を繰り返した。

 これまた美味しい収穫である。とてもとてもありがたい。

 

 アビドスに来た今日だけで、新しい神秘を16個も手に入れることができた! やったね! 研究も捗るぞ! 

 

 

 

 そんなホクホク気分で帰り道に着いた折、こちらに近付いてくる足音が1つ。アビドス高校の方角からだ。

 

 

 何か忘れ物でもしたかな、と振り返ってみれば、ホシノさんの姿が見えた。

 

 

「おや? ホシノさん、どうしたので?」

 

「うへ、そろそろ見回りの時間なんだ。ちょくちょく変な子が彷徨いてたりするからね、定期的におじさんが見に行ってるの」

 

 

 この広大な土地の中、自警活動とは……なるほど、飄々としているような態度の中には相当な責任感を背負っているようだ。

 ……以前の私はこの活動中のホシノさんに助けられたのだろう。あの日以降も、あの日以前も、こうして定期的に行われているであろう彼女の行い。その実績を知っている身として、尊敬の念は尽きない。

 

 

 

「今日は市街地の方に行くから……そっちは駅まで行くんでしょ? 途中まで送ってってあげるよ」

 

「それはありがたいです。ではよろしくお願いしますね、ホシノさん」

 

 

 僭越ながら彼女を手伝うとしよう。

 ガーディアングラスくんの索敵センサーを最大稼働だ。

 

 

 

 

 

 

 

 さくさくと乾いた砂を踏みしめながら、2人分の足跡を残していく。

 

 幸いと言うべきか、道中は何の問題もなく、トラブルも起きず、キヴォトスとしては珍しく静かな時間を過ごす事ができた。

 

 とはいえ、何の会話も無かった訳では無い。

 意外な事にホシノさんから話しかけてくれた。

 最初は、普段ミレニアムで何をしてるの、とか、普段部活で何作ってるの、といった取り留めのない、普通の質問。

 それに答えて、逆に私が聞いてみたり、話題を広げたり、些細な会話。

 

 普段関わりのない自治区の方とするそれは思いの外新鮮で、大きく盛り上がらずともささやかに続くそれに没頭してしまった。

 

 

 そんな中、ふとしたタイミングでホシノさんは緩んだ目元を細めながら尋ねてきた。

 

 

「ねぇ、○○ちゃん」

 

「今やってる研究って、何のためにしてるの?」

 

 

 少し興味を引かれたのか、そうでないのか。踏み込んで探り掛けるような声色を感じ取った私は、努めて真摯に答えた。

 

 

「それはですね、ホシノさん」

 

「───ロマンのため、ですよ!」

 

 

 訝しげに目元を細めたままのホシノさんへ、心の内を開け放つ。

 

 

「それを突き詰めた先、果たしてそこには何があるのか……私は、いえ、我々エンジニア部は、そうしたロマンを追い求めて、日々日々開発をするのです」

 

「なんたって面白いですから!」

 

 

 ここまで言い切ると、虚を突かれたかのように口を開いて、しばらくしてからふぅん、と息を吐いていた。

 それきり剣呑な雰囲気は潜めて、緩やかな態度へ戻っていった。

 

 

「それにですね、もの作りには遊び心は欠かせません。銃の改造となれば、Bluetoothに決済機能、自爆機能の搭載も辞さない覚悟です」

 

「すんごい要らない物が入ってるよねぇ〜?」

 

「遊び心! 遊び心!」

 

「ゴリ押してもおじさんごまかされないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ。それじゃおじさんはこっち行くね。駅ならこの道を進めば良いから」

 

 

 それからしばらく歩いて、分かれ道に差し掛かる。どうやらここから巡回ルートを外れてしまうらしい。道案内ついでの談笑はここまでのようだ。

 

 

 

「はい、道案内ありがとうございました、ホシノさん。どうかお気を付けて」

 

 

 

 ふりふりと手を振りながら背を向けて歩いていくホシノさんに会釈して、駅へと足を向ける。

 

 

 アビドスの方には大変良くしてもらった。

 ご贔屓にしてくれれば嬉しいな。エンジニア部に依頼をくれればなお嬉しい。

 

 こうして他の自地区の子達と交流をするというのも、繋がりを得るというのも得難い経験だ。

 これからもこういう事を積極的に行っていきたいもので……

 

 

 

 

 

 ……あ。

 待った。

 大事な事を忘れるところだった。

 

 手を振って去ろうとする小さな背中へホシノさん、と声をかける。

 

 

「んぇ、どしたの」

 

 

 急ぐ声色に驚いて、ぼんやりとこちらを振り返るホシノさんに近付き、手を振り終えて脱力したままの手を両手で取った。

 

 

「あの時、砂漠で倒れていた私を助けて頂き、ありがとうございました」

 

「おかげで、私は今も生きています。こうして好きな研究を、開発を続ける事ができています」

 

「この度は、本当にありがとうございました。この恩は決して忘れません」

 

 

 アビドスに出向いて、そのまま砂漠で倒れて死を待つばかりだった私を助け起こしてくれた、小さくとも頼もしい手を力強く包んで、感謝と共に握手を送る。

 

 ホシノさんが助けてくれたおかげで、今の私が居る。命を繋いでくれたおかげで、私はこうしてロマンを追い求める事ができている。たまらなく嬉しくて、楽しい。

 

 それはホシノさんが居なくては、決して叶う事がなかったのだ。ホシノさんが居たからこそ、神秘に触れる事が叶ったのだ。

 

 だから、ありがとう。

 純粋に感謝を伝える為に、頭を下げた。

 

 

 

「……。……たまたま居合わせただけだよ。あ、次に遭難しちゃっても助けられるかは分かんないから、あんまりあてにしないでね?」

 

「はいっ、肝に銘じておきますとも。……では、私はこれで。重ね重ね、ありがとうございました」

 

「んもぉ〜、そんなに言われても何にも出ないよ? ……それじゃ、気を付けてね」

 

 

 お互いに軽く手を振り合い、そこで切り上げてお別れとする。

 

 素晴らしい方と出会えて本当に良かった。

 私は幸せ者だ。できるならば、この縁は大切に、途切れさせずに居たいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘は、少なくとも吐いてはない、かな」

 

「……隠してる事は少なくともありそうだったけど」

 

「ホントにただのミレニアムの生徒……でいいのかな」

 

「……うへ〜……。ま、こっちを変なことに巻き込まないなら……別にいいかな……?」

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホシノさんと別れてからしばらく、駅まで辿り着き、帰りの電車へと乗り込む。

 

 

 無人に等しい車内の中、がたりがたりと揺れる音と私の息遣いだけが聴こえる。

 夕焼けの赤色が窓から差し込んで、床を鮮烈に照らしている。

 

 

 

 あぁ、今日は、本当に良い日だった。

 

 

 

 ホシノさんと握手を交わした掌の中。

 そこをそっと覗き見る。

 

 

「……あぁ」

 

 

 別れる前に交わした握手の瞬間。

 手を包む掌の中にそっと忍ばせた、神秘を閉じ込めるピンク色の石。

 

 

 それがホシノさんの神秘に染まって、綺麗な綺麗な輝きを宿している。

 おもむろに掲げてみれば、差し込まれる夕陽が石の中をきらきらと乱反射して、より力強く輝きを増していく。

 

 私の行く道を示してくれるように。

 

 

「素敵」

 

 

 思わず言葉を漏らして、頬を擦り寄せた。

 

 

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