神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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サプライズ・ホルス

 

 

 

「────い、───んぱい!」

 

「──先輩、ホシノ先輩っ、起きて下さいっ!」

 

「んぇ〜……も〜なぁにアヤネちゃん。おじさんせっかく寝付けた所だったのにぃ……」

 

「寝てる場合じゃありませんよホシノ先輩!」

 

「ぅわわ、そんなに慌てて……どしたの? さっきの〜……なんとかサングラス団がまた来たの?」

 

「もうっ、呑気にしてないでよ!? 早くシロコ先輩を止めに行かないと!」

 

「うへ、セリカちゃんまで凄い剣幕……シロコちゃんが出張ってるならおじさんの出る幕ないでしょ〜。よっぽど緊急事態? ……もしかして、返り討ちにあったの? どんなやつに襲われたのさ?」

 

「シロコ先輩が襲われてるんじゃなくて、シロコ先輩が襲っているんです! 本日来ると言っていたミレニアムの方を!」

 

「……うへ?」

 

「そうなの! このままじゃ、このままじゃ……!」

 

 

 

 

 

 

「せっかく苦労したのに、バイト代が貰えなくなっちゃうの!」

 

 

 

 

 

 

 

「………………うへぇ〜?」

 

「セ、リ、カ、ちゃん!? そうじゃないでしょ!?」

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

「ん、すばしっこい……!」

 

「このパワードスーツは硬いだけじゃありませんからね!」

 

 

 背後から撃たれる、転がって避ける。

 

 偏差射撃で撃たれる。切り返して逃げるも何発か当てられる。

 

 バイザーに警告アラート、視界の死角からドローンの小型ミサイルが飛んでくる。

 ……思い切って跳ね上がる! 

 

 

「うわわっ、と!?」

 

 

 思ったよりも高く跳び上がってしまった。

 あ、戦闘状態の興奮だと活性化するヘイロー……! その影響で身体能力が向上してるからか! 

 

 

 ……足の下をミサイルが通過! 空中で投げ出されたように少々不格好になってしまった態勢はアーマーの姿勢制御機能のおかげで無事着地に成功。

 ……着地隙を狙われて集中砲火された。手厳しい。というかこの人凄い頭狙ってくるな! 

 

 

 

 さてもさてもいきなり襲われてしまった訳だけども。

 むぅ、さっきのギラギラサングラス団のガラの悪さといい、やはりアビドス砂漠は無法地帯か。ゲヘナよりも世紀末かもしれない。

 生き残るには言葉ではなく暴力がものをいう……なるほどキヴォトスを体現している。

 あの時助けてくれた優しさは正しくオアシスの如く砂漠が一時見せるひと握りの恵みだったとでも言うのか。

 それともお礼参りが遅いぜっていうやつ? これから身包み剥いでお前の身柄を手土産にしてやるぜってやつ? 

 くっそう、アビドスは地獄だぜ。

 

 

「うわっ、とと」

 

 

 いけないいけない。考え込む癖どうにかしないと……

 いつの間にかまた死角に回っていたドローンからミサイルが吐き出されて、背中に被弾してしまう。同時に正面からも銃撃が飛んできて、前後から攻撃に挟み込まれる。

 それなりの衝撃と爆風が見舞われるが、アーマーの神秘防護膜に阻まれ、またも私自身は無傷で済んだ。削れた防護膜の神秘も、すぐさま私から充填され、万全の状態を保つ。

 やはり防御性能はピカイチだ。

 

 

 これならば激しい戦場でよそ見をしていたってスマホを弄って突然のメッセージにも返信ができるぞ。

 

 

 …………ついでに今やってみようか。思い立ったその時が吉日だやり時だ。

 アビドス高校の方に連絡を入れておこう。

 装置からスマホを取り出してと……『付近まで到着。トラブルに遭遇したのでもうしばらくかかります』……と。よし送信完了。

 ──ってあぁっ! スマホ狙って撃ってこないで! 

 

 

「大人しくして。増援は呼ばせない」

 

 

 あっぶない。慌てて腕で守ったから無事だった……持っている道具も神秘で守れるようにするべきか。盲点。

 

 

 

 ……どうにも誤解があるような気がするなぁ。

 もしかしなくてもギラギラサングラス団の手合いと思われてるのかも。あの子達アビドス高校にコテンパンにされたとか言ってたし……そういえば服が軽く焦げてたり煤けてたりしてたな。戦闘直後だったんだ。ヘイローに注目し過ぎて気付くの遅れた。

 

 

 多分だけどギラギラサングラス団が私が来る前にアビドス高校に襲撃をかけて……軽くあしらわれて。その後に紛らわしくサングラスをかけた私がアビドス高校に近付いて……『また来やがったなこのやろう! しかも1人だけとか舐めてるのか!』といった感じか……

 ううん、なんてこった。私がサングラス型デバイスをかけていたばっかりに悲しいすれ違い。

 

 

 というか獣耳のあの子、自己紹介とかはしてなかったけど前に顔自体は合わせたんだけどな……私さっきまでサングラスしてて目元隠れてたわ。

 何なら今もバイザーで隠れてる上にアーマーのせいでミレニアムの制服も着てないから分かりようがないな! わはは! 

 

 

 しかしあの子の様子じゃ言葉を尽くしてもどうにも止まらなそうだしなぁ……どうするべきか……

 

 

 

 ……いや、まぁ。うん。

 止めなくてもいっか! 

 

 

 

 こんな良いヘイローと神秘を持った子が活性化している様子が直で見られる上に、その子相手に実戦データを取る事ができるのだ。

 千載一遇のまたとない機会、これを逃す手はないよね! ヨシ! 

 という訳で戦闘再開、よし行くぞ! 

 

 

「増援など必要ありません、貴女の相手は私一人です!」

 

「ん、いい度胸。真っ向から潰す」

 

 

 言いながら瓦礫の影から飛び出した私を即座に銃弾が襲いかかってくる。狙いは目元、というかバイザー、一切容赦がない! 

 けれどこの威力なら問題も無し、神秘で受けながら撃ち返す。

 

 一発、二発、三発……ダメだ素早い。難なく避けられてる。

 なら走る方向を予測して、偏差撃ち……うおぉ日頃の射撃演習を思い出せ! 

 相手の動きに合わせて弾を置くように、神秘を篭めつつ撃つべし! 

 

 

「……っ!」

 

 

 肩口に掠った程度! 

 けれど、うん、よし。神秘の余波で直撃せずとも怯ませることはできるらしい。

 

 ……けどすぐさま撃ち返してくる! やっぱりそこらの不良の方とは訳が違うか。喧嘩、というよりかは戦闘慣れをしているというか……

 

 今度こそ当てるつもりで、残りの弾を撃ち出す。

 ……ううん、ダメだ。見切られてる。それにハンドガンの連射性じゃ厳しいか……帰ったら他の武器を検討してみよう。ハンドガンを改造してみるのもあり……いやどっちも試してみたいな。

 

 

 

 さて、耐久性や機動力を測るためにしばらく中距離の撃ち合いに耽っていたがそろそろ接近を試みてみよう。

 あの子の神秘も手に入れたいし。

 

 

 しかしただ単に近付いても素直に許してくれる相手ではなし。戦闘巧者の、砂漠での立ち回りに慣れている相手に対して果たしてどうすべきか。

 

 神秘で強化された身体能力を活かしてゴリ押し……うーん、あっちは逃げ方も上手いからただ突っ走って行ってもダメそう。

 なら神秘を篭めた銃弾をバラまいて撹乱……普通に避けられそうだし当たってヘイローが消えてしまうのは避けたい。こっちは間近であの子の神秘を、ヘイローを見たいのだ。

 

 さてどうしよう……なんか無いかな……こうなったら周りにあるものも利用して……うん、よし。

 

 

 

 …………やるべきは初見だけ通じるような不意打ち、これだ! 

 

 

 となれば早速動こう。

 装填し直したハンドガンを、相手ではなく、傍にある盛り上がった砂山に向けて、銃弾に神秘を篭めれるだけ篭めて撃ち抜く。

 

 神秘によって青白い残光を描きながら着弾した銃弾は砂山をゴッソリと削り取り、着弾時の衝撃で大量の砂埃を撒き散らした。

 

 

「目眩し……その程度で……!」

 

 

 相手が砂で潰されないようにと腕で目元を覆った瞬間に、装置から空いている手に手榴弾を1つ呼び出す。

 

 これ自体はそこらの自動販売機やコンビニで売っている何の変哲もない日用品。威力だってそこそこだ。

 これに増幅された私の神秘を詰め込んで……足元へ転がすように、投げる! 

 

 

「くぅっ……!」

 

 

 私と相手の中間辺りで手榴弾が炸裂。

 神秘によって増強されたそれは戦車砲撃も上回るほどの威力と爆風を巻き起こして、超局所的な砂嵐を引き起こす程に砂を巻き上げる。

 

 

 もう1個、手榴弾を装置から手元に呼び出す。

 

 トリニティ製の閃光手榴弾、『ホーリースタングレネード』。

 

 こっちも自販機で買える自己防衛用品。

 眩い聖なる光でたちまち悪魔も去るだろう、がモットーで効果はピカイチ、その分他の手榴弾よりちょっとお高めなこれにも神秘を篭めてから……今度は相手に向かってまっすぐ、ぶん投げる! 

 

 相手の子は獣耳を生やしている。ならば聴覚は普通の人型の生徒よりも良い方と見た。このスタングレネードも、より高い効力を発揮するだろう。

 

 ……S.Fアーマー、視覚、聴覚防護機能ON! 

 

 

「ぅぐっ!?」

 

 

 起爆、瞬間的に凄まじい爆音と太陽が側に落ちてきたかのような段違いの光量が砂漠に降り注ぐと同時に駆け出す。

 ……よし、あの子は、あの子のヘイローがその場から動いていない。短時間であってもスタンを取れたなら、迷わずヘイローの元に向かって走り抜ける。

 

 普段からの神秘の摂取とS.Fアーマーによる増強が加わったお陰で向上した身体能力。

 例え足の取られる砂漠が足場でも、まっすぐ駆ける程度ならば造作もなく、景色を置き去りに高速で突っ込める! 

 

 

 白く染まる視界の中、けれど見える神秘の輝きに向かって、粉塵を振り切って、砂嵐を駆け抜けて、一息に相手の元に辿り着く。

 

 ……読み通り、爆音が効いたのだろう。苦しげに頭を覆って腕で人と獣の耳を塞いでいて、前後不覚になっているのか足元も覚束無い様子。

 

 その隙に、無防備に空いた胴体へ向かって腕を広げて、速度はそのままに飛び付くように組み付いて押し倒す。

 

 

「っ、ん……!?」

 

 

 抵抗なく倒せた体、そのお腹に腰を下ろして体重を乗せてマウント。アーマーも相まって、簡単には跳ね除けられまい。

 

 

「はな、れて……っ!」

 

 

 押し倒されて、身動きを封じられるのだと直感したのかもしれない。

 まだ視界も聴覚も元通りになっていない筈なのに、手放していなかった銃を乱射してきたり、弾倉内を撃ち尽くしたかと思えばストック部分を使って殴り付けてきたり、背中を膝で叩いてきたりと暴れて抵抗してくる。

 バイタリティ凄いなこの子……! しかし今は少しばかり抑えて欲しい。痛くするつもりはないから。ただ少しばかり貴女の神秘を見たいのだ。

 

 

 銃を持っている手を掌底で横合いから叩いて、弾き飛ばす。

 

 

「さぁ、貴女の神秘をください!」

 

 

 無手となった両手に、私の両手を覆い被せて、指を絡めて握り締めながら組み伏せ、地面に押し付ける。

 腕を頭の上に押さえ付けて、のしかかる。それでもなお身を捩らせて抵抗を続ける相手を他所に、装置からピンク色の石を呼び出す。

 私と相手の重なっている両手の間に石が現れれば、それを深く押し当てるように更に体重をかけていく。

 

 歯を食いしばり、必死に私を押し返そうとしながら睨み付ける瞳と視線がかち合う。

 ……あ、よく見ると左右で瞳の色が違う。黒と白の対照的な色が、青く綺麗な虹彩に包まれている。

 

 

 たっぷり10秒ほど使って、観察を終えた後……両の手のひらを小さく浮かせて、石の中身を覗き見る。

 

 

「……わぁ」

 

 

 成功だ。私の神秘が紛れてしまわないか心配だったけれど……成功している。

 この子の神秘が、両方とも中身に詰まっている。

 組み敷いた両手を離して、石を眼前に持っていく。

 さっきの子達とはまた違った輝き、違った神秘、違った密度、違った煌めき。

 何と魅力的か、何と神々しい、何と愛らしい。

 神秘とは、やはり素晴らしい。

 

 

「っ……!」

 

「あっ」

 

 

 どん、と肩を思い切り押し上げられて背中の方へ仰け反ってしまう。

 バランスを崩してしまった拍子を突かれ、また身動ぎと腕による抵抗であえなく背中から倒れ込んだ。

 

 しまった。つい見惚れて拘束が疎かになっちゃった。まだ神秘を取ってみたかったのに……

 

 

 こてんと転がされ、上半身を起こすまでに相手に脱出をされてしまう。

 

 おっと、いけないいけない。せっかく頂いた神秘が篭められた石はしっかりと装置の中に収めておかないと。

 

 そうこうしながら立ち上がろうとした矢先、眼前に再び銃口が突き付けられる。

 息を荒げつつもすっかり復帰を果たした相手が、銃に神秘を注ぎ込みながら私を睨み付ける。

 

 む、攻撃力を上げて硬い装甲を破ろうという試みか。よし、その攻撃も受けてデータを取ってみよ───

 

 

 ……また新たな反応をバイザーが拾った。

 接近……というか、左から何か飛んできて……

 

 

 ドォン、とお腹に響くような音と共に、私達の合間に何かが飛来する。

 

 

 これは…………折り畳み式の盾? 

 私達を遮るように、力強く突き立てられている。

 

 

 もうもうと立ち込める砂埃の中で、気怠そうな声がゆったりと近付いてきた。

 

 

「うへ〜……すっごいうるさい音がしたから来てみたらビンゴだったね〜……二人とも、その辺で止めとこっか?」

 

 

 小柄な体躯。桃色の髪。眠たげに細められた瞼からは黄色と青色の瞳が覗いている。

 ショットガンを提げながら、歩みを進めてくる。

 

 

「……うわぁ」

 

 

 そして、その神秘。そのヘイロー。

 何かを見通すようにくっきりと開かれた、大きな瞳のようなヘイロー。

 それを見れる視界を得て、数々の神秘に触れてきた私には分かる。

 

 

 この子は、別格だ。

 

 

 満ち満ちる神秘の質、量、格……どれも共に、他の神秘とは一線を画している。

 

 あぁ、いや、違う、もっと適した言葉がある筈だ。最も適した表し方が……いや、どう言葉を尽くしても表現のしようがない程、それほどに素晴らしい神秘なのだ。

 

 

 すごい、すごい、すごい。

 

 

 私は今、猛烈に感動している。

 こんなにも素敵で素晴らしい神秘に出逢えるなんて。

 こんなにも私の感情を揺さぶるものと邂逅させてくれるなんて。

 

 

 来て良かった、アビドス! 

 

 

 

 

 

「ん……ホシノ先輩、良い所に。ちょっと手こずっちゃってるから、手を貸して」

 

「手を貸して、じゃないよシロコちゃんってばぁ。その子、今日来るとか言ってたミレニアムの子じゃないの〜?」

 

「…………なんとかサングラス団、とかじゃなくて?」

 

 

 あ、やっぱりそう誤解されてたみたい。

 よし。事態が落ち着きそうになったし身元を証明する時間だ。獣耳の子……シロコさんの神秘も頂いた事だし。

 

 S.Fアーマーの展開を解いて、装置に収納。増幅した神秘を元通りに、ミレニアムの制服を着直してはお二人の元へ駆け寄っていく。

 

 

「どうも、紹介が遅れてしまいましたね。ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部所属の○○です。……本日はアビドス高校の方々の物品納入の件でお伺いさせて頂きましたっ」

 

 

 ガーディアングラスくんを外して、学生証を差し出して顔証明をしつつ改めて自己紹介。

 偽造でもない純度100%正規の安心安全ミレニアム判付きの学生証だよ。

 

 

「ほらね〜? ……っていうか、前にも会ったよね? ほら、少し前に砂漠で遭難してた時にさ」

 

「あぁ、覚えていて下さったんですね! あの時は大変助かりましたっ!」

 

「……違っ、た……?」

 

 

 ……シロコさんがすっごい愕然としてる。

 あ、耳がぺたんと倒れてる。可愛いね。

 

 

 

「ん〜、まずはごめんね、うちの子が襲いかかっちゃって。謝罪も含めて色々と積もる話はあるけど……とりあえず学校まで案内するから、着いてきて」

 

 

 はぁ〜やれやれ、なんて零しながら小柄な背中を向けて歩き出すホシノさん。

 シロコさんと共に、その後に着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ……あぁ。

 

 

 この人の神秘も、欲しいな。

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